男性にとっての男女共同参画シンポジウム横浜 「これからの組織・地域の経営に必要なこと」(2)

  • 第二部
  • パネルディスカッション
  • ワークライフバランス社会の実現に向けて
    ~誰もが仕事でも家庭でも地域でも活躍するために~

第二部では前・内閣府男女共同参画局 政策企画調査官 船木成記氏をコーディネーターに、河口真理子氏×土谷和之氏×向田映子氏×土堤内昭雄氏による、さまざまな視点からのパネルディスカッションが行われました。パネリストの方々のプロフィールと発言要旨をご紹介します。

  • 画像:男性にとっての男女共同参画シンポジウム in 横浜01
  • 画像:男性にとっての男女共同参画シンポジウム in 横浜02

各氏の自己紹介

  • 河口真理子氏(大和総研 環境・CSR調査部長)
    • 所属する大和証券グループでは、社員の19時前退社励行や、もともと“男社会”のイメージが強かった証券業界において、いちはやく女性が働きやすい環境を整えるなど、ワークライフバランスに早くから取り組んできた。そのグループ内のシンクタンクで環境・CSR調査部長を務めている。
  • 土谷和之氏(三菱総合研究所 主任研究員)
    • 三菱総研の研究員として働く傍ら、環境NGOやまちづくりNPO、さらには途上国の社会起業家に投資するファンドを運営する団体『ARUN合同会社』にもディレクターとして参加。プロボノ(※)として活動中。
  • 向田映子氏(女性・市民コミュニティバンク代表)
    • 女性が金融機関からお金を借りることがなかなかできない現実を踏まえ、自分たちで小さな信用組合をつくり、市民がお金を出し合って地域の市民事業に融資することにより、目に見えるお金の流れをつくりたいという思いから1996年から活動中。
  • 土堤内昭雄氏(ニッセイ基礎研究所 主任研究員)

(※)本職を持ちつつ、専門知識や興味を活かし、自分の時間で社会貢献を行うことが、近年「プロボノ」と呼ばれている(コーディネーター)

「ワークライフバランス」についてどう考えるか

河口:
人類が70億人もいるこの狭い宇宙船地球号において、拡大成長路線からどうシフトして生きていくのかが今こそ問われている。 当社のアナリストが、厚生労働省による『ファミリー・フレンドリー企業表彰』を受けた企業の60ヶ月後の株価パフォーマンスを調べたところ、市場全体の伸びを35%以上うわ回ったという試算結果となった。一例だけで断定出来ないがワークライフバランスを大事にする企業の価値が高くなると解釈してもおかしくない結果だ。経済産業省の調べによると平成4~17年における50名以上・資本金3000万円以上の企業を調査した結果、男女の数がほぼ半々の企業が、結果的に利益率が高いこともわかった。 自分の時間を犠牲にして会社のために24時間拘束されるのは、生産性にマイナスでは?日本企業の価値を高めるためには、ダイバーシティが必要なのでは?と社会が気づきはじめている。
土谷:
プロボノとしての活動は、会社の外でさまざまな人と出会い、知識を吸収することで、本業にもプラスになる。
今、私のようにパラレルな活動をする人が増えてきている。『ARUN合同会社』は途上国の社会起業家に投資するファンドであるが、約60名の出資者一人一人が、本業を持ちながらも志高く活動している。環境NGO『A SEED JAPAN』では“環境と金融”というテーマで金融機関にCSRの取り組みを提言したり、預金者に環境や社会に配慮した金融機関を選ぶように呼びかけをしているが、本業とは全く畑の違う方もボランティアとして精力的に活動されている。
私の職場は、NPO・NGO活動に関しては比較的ハードルが低く、また仕事へのフィードバックもかなり可能なので特殊な例かもしれないが、自発的に自己を高め、自身の成長に活かしていくためにこうした活動をする人は、着実に増えている。企業は、個人のそうした活動をぜひつぶさないで活かしていただけるといいなと思う。
向田:
女性への融資がほとんどなため、現場で出会う人はほぼ女性だったが、ここ数年は男性も増えてきている。食事を届けるサービスや病院などへの送迎サービス、野宿生活者を支援するNPOや多重債務者を支援するNPOなどで働く男性をよく見るようになった。定年退職された方もいれば、仕事しながら土日だけ活動している方もいる。
ワークライフバランスの見事な実践者として、一人の男性をご紹介したい。もう4年ほど前に亡くなられたが、女性・市民コミュニティバンクの出資者の一人でもある私共の事務局員で、彼は海軍経理学校出身の軍人だった。戦後は都市銀行に勤め、ニューヨークやシンガポールにも赴任し、日本では支店長も務めた。退職後は香港の日本人社会を支援するNPOの事務局長として活動していたが、70歳になり帰国、自分にふさわしい仕事を探しているうち私たちのところに来られた。彼のすばらしさは、金融業界での経験がなく、20歳以上年下だった女性である私を、常にボスとして扱ってくれたこと。あくまでも対等な仕事の同僚として、共に歩んでくれた。彼と知り合って、男性を見直したほど。
これまで「こういう社会だったらいいのに」という思いでやってこれたのには、邪魔をせず認めてくれた夫の存在もあったから。対等でお互いを尊重する、ぶつかりあえる関係がつくれることが大切。
土堤内:
20年前はワークライフバランスなどという言葉もなく、働き方も固定的でフレックスタイムも存在しなかった。そんな中で20年やってきた自分の暮らしから得た、自分なりのワークライフバランス観についてお話ししたい。
まず1つめの論点として、ワークライフバランスの効用・意義は、少子化対策、ダイバーシティによる生産性の向上、ライフスタイルの多様化などが挙げられるが、効用以上に大切なのは、基調対談で佐々木さんがご指摘のように、私たち一人一人が幸せを実現すること。その結果として社会的効用や企業的効用がある、その優先順位を間違えてはいけないと思う。
2つめの論点は、“ワーク”“ライフ”、つまり仕事と生活に単純に二分できるものではなく、人生は非常に多様だということ。例えば専業主婦で子育て中の人は、ワークがなくても子育て以外の自分自身のライフのバランスは大切だし、定年退職した人も、趣味だけでなく地域でのライフも必要と考えられる。
私はいつも、ワークライフバランスより、『グッドライフバランス』という言葉を使ってお話ししているが、『人生を好い加減に生きる』つまり、好い具合の加減に生きる、ということが大切だと考える。
3つめはワーク、働くという言葉の意味。ワーク=賃金労働と考えられがちだが、『働く』という言葉には“傍”を“楽”にするという意味を含んでいる。賃金労働だけでなく、家事や育児、介護、地域活動全部を含めて『働く』ということ。大きな問題として、これまでは労働における性別分業が当たり前だったが、もうそれではやっていけない時代が来ている。先ほど述べた2通りの『働く』を、男性も女性もそれぞれの中でバランスしていくことが必要だ。
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職場外での活動は「ワーク」も充実させる!?

船木:
例えば土谷さんのように、仕事ももちろんしっかりやりながら、自分のやりたいことを充実して実現していっている時、職場の周りの人たちはどんな風に見ているのか?
土谷:
7年くらいNPO活動などに参加しているので、すでにそういうタイプの人間だと認識されていると思う。仕事のフィードバックもあるので、よい相互作用があると感じている。
河口:
自分もNPOと掛け持ちなので、ふたつの顔を使い分けて仕事をしている。NPOのほうがやりやすい調査やセミナーもあるし、会社としてもそのほうが結果としてパフォーマンスがよくなるのではないか。部員を高い研修費を払って研修機関で勉強させるかわりに、NPOなどに自主的にプロボノで参加したいのであれば、お金もかからないし、本人も楽しいしその経験やネットワークはビジネスに活用でき、結果として会社にもプラスになると思う。
子育てに関しては、経済産業省の勉強会でも提案したのだが、上司が部下から妊娠・出産の報告を受けたら、その部下が女性ならもちろんのこと、男性でも、育児休暇は取るか尋ねてはどうかと。そうすれば男性も育休をとりやすくなる。育休を男女共通の人件費としてあらかじめコストとして織り込もう、そのような意識啓発が必要だと考えている。
土堤内:
私自身、子育てにたずさわってみて、子育てって何が起こるかわからない。だから、リスクマネジメント能力が身につく。主体的に子育てに関わると、自分の能力が磨かれ、結果的に非常に仕事に役立つということがある。
ワークライフバランスは、イコール時短とは違う。むしろ、タイムマネジメントの自由度を高めることといえる。同じ時間働いても、効率性を高くでき、これがワークライフバランスの重要なポイントだ。
船木:
人材育成ということについては、プログラムされた研修システムやメソッドがつくられているが、そういうものよりも人が成長するという意味においては、子育てや地域活動のほうが有効だということもあるかもしれない。福岡の「ふくや」の例もある。
河口:
ふくやさんは、研修費という名目で、社員が平日にPTA活動をしたり野球の監督をやるのを研修と位置づけ、研修費まで出して奨励している。以前に社長から直接話をうかがったが、その結果、社員が地域と交わることで得るものが多い。彼や彼女にとっても勉強になることだし、企業としてもわざわざ研修会をセットして高い研修費を出さなくてもすむし、社員のやる気は出るし、周囲からはいい会社だと思われるという効果もある。「一石三鳥の人磨き、地域が人を磨いてくれる」と話されていたのが印象的。
船木:
人を育てることが大事、それぞれの幸せが大事。この先の人生にどんな状況が訪れるかを考える必要もある。
土堤内:
私の母親は、介護というほどのレベルではないが、それなりのサポートが必要になってきている。子育ての体験がそのまま転用でき、今、役に立っている。私のような中高年男性にとっても、これからの大介護時代には「介護と仕事の両立」が大きな課題となる。
船木:
ファーストキャリアを終えて、セカンドキャリアをやりたいという男性を見ていてどうか?
向田:
実は男性たちの起業も支援したいとかねがね思っているが、なかなかそういう事例には出会えない。やはり地域に根ざしているのはもともと女性が多い。男性もぜひ、ストレスはあるかもしれないが、地域に出ていき、さまざまな人と付き合っていただければと思う。新たな社会状況に出会うのも楽しいことではないか。

「会社人間から社会人間へ」という言葉もある中、男性と女性がお互いを尊重しあい、自立した市民として、一人一人の幸せを築くために、ワークライフバランスについてじっくりと考える契機となるシンポジウムとなりました。