男性にとっての男女共同参画シンポジウム滋賀「イクメンってどんな存在?女子会トーク」(3)

  • 第三部
  • 「イクメンスクールに通っている」と独身男性がアピールしたら?
  • 画像:男性にとっての男女共同参画シンポジウム in 滋賀01
渥美:
独身時代、社会調査の一環で、花婿学校を見学したことがある。真剣な中高年男性達がデートプランをプレゼンするものの、女性インストラクターの方から、あっさりとダメ出しされたりしていた。それを妻に話すと「ノウハウ的なことを学ぶのはちょっと違うと思う。もっと内側から湧き出てくるものに、女性は惹かれるんだから」と言われた。
小室:
昔の誤ったロールモデルを参考にするぐらいだったら、今のイクメンスクールに通って、時代に合った男性像を目指す方が、ずっと良いと思う。ファザーリングジャパンスチューデンツに来る子達に聞くと、身の回りには、自分の親世代のアドバイスをもらっても、今の社会では通用しないから、自分はこの環境の中で通用するようなロールモデルを見たいという若い人もいる。特に、もう自分1人の収入で全部を賄っていくのは無理だと考え、自分も妻も稼ぎながら、どうやって家計を運営しているのか、現実的なノウハウを知りたい子は今とても多い。
稲村:
昔はロールモデルというものがあったが、今は多様になった。今日話をしていても、例えば、それぞれの夫婦の家に帰ってくる時間も違う、仕事の仕方も違う、仕事の中身も違う。それに応じて、スムーズに行く役割分担のあり方とか、お互い納得のいく分担のあり方があるはず。昔のように、多くの人が同じように働き、同じようなライフスタイルを持つこと自体が、今は前提じゃなくなっている。そういう意味では、私達が学ぶべきは、お互いの状況を理解し合って、想像力を働かせて、自分達なりのモデルはどういうのがいいのかちゃんと見る、そういう基本は必要だと思う。
浜田:
イクメンになろう、なりたいと思っている人は、仕事と育児・家事の両立と言葉では言うのはやさしいが、いろんな葛藤を抱えて悩むという時期が必ずあるということを覚えておいてほしい。

夫婦ゲンカすることはありますか?

稲村:
夫婦のタイプによると思うが、うちはケンカにならないタイプ。どちらかというと、私が手のひらで転がされている方。私も、途中で、これは転がされてる方が楽なんだということに気が付いて、割り切って、転がされている(笑)。
小室:
大ゲンカではないが、子どもが小さい頃、熱を出した日の朝は緊張感が走ったものだった。『どっちの仕事が大事か競争』が起きたり。
廣瀬:
私も働いているが、病気のときとか、例えばインフルエンザで学校が休みになったときとかは、私が見るのが基本。でも、そのときに、関心もなく、何も言わずに出ていってしまうと腹が立つけど、「え、仕事大丈夫?」とひと言言ってくれるだけで、救われる部分があるので、そういう声掛けはすごく大事だと思う。なんとか仕事を切り盛りしようというときも、一言言われたか言われていないかで全然違う。
浜田:
今は夫のほうが時間の調整がつきやすい部署にいるので、圧倒的に忙しい私のほうに仕事優先にさせてくれと言っている。それでも数ヶ月に1回はケンカになる。
稲村:
唯一やった大ゲンカは、私が職場に復帰するときに、保育園を選ばなきゃいけなかったりしたときくらい。今は、夫と娘がタッグ組んで、「私達ラブラブー、お母さんは話に入れてあげへん」みたいな感じで、たまにムカっとするけど、いいやって思うことにしている。うちは娘なので、思春期には私の出番が来るかなと思いつつ、これは私にとっても、しめしめっていう状態なのよ、と。この開き直りを、もっと徹底しちゃうっていうのは、どうですかねえ。
浜田:
稲村さんは市長というお立場で、市民全体のことを考えながら、家庭のことまで考えるの、ものすごく難しくないですか。
稲村:
ええ。ただ、あの大きな震災もあり、いざというときには、家庭を横において仕事に専念しなければならない。そういう思いがあるから、可能なときは家に時間を使うようにしている。それも、ひとつの割り切り。いざというときに憂いなくやるためにこそ、今は仕事より家庭を選ぶんだ、と。そう思うと、私、結構、開き直っているということが今日わかりました。
小室:
私も、起業したてのころは、社長の代わりはいないとがんばっていたが、体調を崩したときに部下が大きな商談をまとめてきたことがある。ショックだったが、私にしかできない仕事なんてない、と考え方を切り換えることができた。自分がどうなったとしても大丈夫という職場をつくることのほうが、むしろ大事かもしれない。「自分じゃないと」のところは、市長、副編集長というような職でも絶対あるけれど、意識の切り換えは大事だと思う。
稲村:
全然違う話に思うかもしれないが、子どもが小さい頃転んで泣いたときに、私がおろおろと、「大丈夫?痛いの?」とやっていた。そしたら夫が、それを見て「あんた、また下手やなあ。」と。母親がおろおろして「大丈夫?」と言うから、娘はびっくりして余計泣くんやないか、と。たいしたケガでもないなら、親が「こんなの平気よね」とからから笑ってやったら、子どもも安心するんや、と夫に知恵を付けられた。それ以来、娘が転んでも、「あっはっは、転んじゃった、大丈夫?」と言っていたら、ほんとに泣かない子になった。今何故この話をしたかというと、子どもというのは、自分の立場とか、自分の今置かれてる状況を、他者や大人を通じて受け止める。お父さんが「あ、お母さんがいなくて娘が寂しがってる、かわいそう、妻に言わなあかん」となってると、それが娘さんに多分伝わるのでは。
浜田:
ここは議事録に残しておいてくださいね。(笑)。
稲村:
だから逆に、お母さんは今これだけ責任を持って仕事をやろうとしている。それは娘のことをどうでもいいと思ってるんじゃなくて、逆に、子ども達にもっといい社会をバトンタッチしたいと思って、ジャーナリズムの世界でがんばってる。「また、お母さん時間があるときに一緒に話聞こうな。」っていうふうになったら、娘は別に、自分がかわいそうだとか、私は寂しいんだって思わなくなる。だから、夫婦お互いが、そういうフォローをする立場で子供と接することで、子どもを「かわいそう」にさせないようにしなきゃいけないと思う。
浜田:
私自身が反省しなければいけないのは、さっき小室さんが仰ったように、自分がいなくても回る職場にしなきゃいけないということ。けれど、特に子どもを産んで、わりと大きな企業にいると、早く帰ることでマイナスを付けられるという恐れをみんな持っている。それは、そういう意識を持たせる上司だったり、企業が悪いんだと思う。現実的に「あいつ、いつも早く帰りやがって、使えない」とか、「やっぱり子どものいるやつは…」などぽろっと言う人もいる。そういうのを耳にすると、子どものいる部下は早く帰しながら、そのカバーを自分ですることになる。本当は、みんなが分かち合うべきだけれど、全員の意識がそこまで変わる間は、仕方ないのかな、という思いがある。
小室:
だからこそ、本当に会社全部の労働時間が短くならないと。育児中のように時間制約がある人は、たとえ時間あたりの生産性は絶対高いという自負があっても、夜の10時11時まで会社にいる人達と競争させられたら、仕事の分量の比較では絶対勝てない。でも、それはおかしい。時間はコストなのだから、時間あたりの生産性で勝負しないと、と思う。この点で、評価を変えていかなければいけない。

働いてるママが元気になれるイクメンの行動は?

廣瀬:
育児の合間に、ちょっと片付けておいてくれるとか、食器を洗うなど、言わなくても「これ、ママ、やったら喜ぶかな」とやってくれると、私はすごく元気をもらえるし、いいなと思う。
小室:
私は年間300回ぐらい講演をする。夫は人前で話すことはあまりなかったが採用の仕事で学生向けのセミナーを始めた時は、思ったような反応が得られず悩んでいた。そこで、初めて私のアドバイスを聞く気になってくれて、一生懸命アドバイスしたら、「こんなに成果が出たよ」と。働いている者同士、お互いの仕事の話をしっかり聞いてくれて、リスペクトしてくれたら、働いていること自体を認めてもらったという気がして、うれしいと思う。

イクメンの同僚は尊敬できる?

浜田:
会社の中にも、妻が働いていて育児で苦労している男性も増えている。やっぱり、その人達とは話が通じる。子どもが病気で早く帰らなきゃいけないとか、「ちょっとこの仕事やっておいて」とお願いしやすいのは、育児をせず24時間会社に捧げているような人ではなく、家事育児を分担している男性。そういう人が増えると、子どもがいる女性社員も帰りやすくなる。彼女達が一番望んでいるのは、言わなくてもわかってくれること。「早く帰らなくちゃいけないんです」と毎日毎日言うのはすごく辛いこと。申し訳ないと思うけど、周りの人が「あ、俺やっとくから、いいよ。もうそろそろお迎えの時間でしょ」と言ってくれるようになればいいなと思う。うちは夜の会議もあるけれど「会議を夜やるのやめようよ」とさらっと言ってくれる男性の同僚がいれば、すごくいいなと思う。

イクメンに、これからどう進化していってほしい?

稲村:
結婚したときには、到底、自分が母親のようにできるようになると想像できなかったが、一応晩ご飯を適当に残り物を使って作るという技を身に付けることができた。女性ならば自動的に母性が発揮されて、最初から完璧な子育てができるかといえば、まったくそんなことはなく、夫の方が上手なぐらいだった。母親予備軍もイクメン予備軍も、実はお互い似たようなスタートラインにいるのだと思う。イクメンを増やすためには「女性のようにできるようになれ」とは言わないことが必要かも。私達が仕事し始めたときに、男性のように働けと言われたせいで、男性と同じように、女性にも専業主婦が必要な働き方を求められてしまった。そこからの反省が必要ではないか。働き方も変える必要があるが、育児だって、別に女性だからパーフェクトというわけじゃない、というところからスタートしていくのが、イクメンに限らず、全体的な進化系かなという感じがする。

まとめ-これからのイクメンに望むこと

小室:
自分が仕事を切り上げて帰れるのがイクメンのファーストステップとするなら、次はチーム全員が帰れる職場をつくる、そんなイクメンに進化してほしい。自分だけ帰ると、だんだん自分の立場が弱くなったり、「イクメンって仕事を放り出していくんだ」みたいなイメージを作ってはもったいないので、自分はまず帰れる、しかし、しがらみがなく時間のある20代の若者にも今のうちから時間あたりの生産性を高くしなさいという指導をして、チームの生産性を上げ、できるビジネスパーソンがイクメンだ、というふうになってもらいたい。ありがちなのが、「妻が恐いので帰ります」と恐妻家的ポジションをとるイクメン。妻と子どもを愛しているので帰ります、というポジションに変更してくれればうれしい。
浜田:
女性も最初から母親になれるわけではないと、子どもを産んで本当にわかった。イクメンはぜひ、子どもが2~3歳になってからではなく、出産直後から一緒にやってほしい。女性が一番辛いのは、出産直後に育児休業をとっている期間。身体も疲れているし、精神的にも不安定。そのときのママへのフォローもぜひやっていただきたいと切実に思う。
廣瀬:
イクメンに定義はない。イクメンが普通になって、あの人はイクメン度がすごい、というのが逆になくなればいいなと思う。
稲村:
子育て中は、ワーキングウーマンだけでなく、専業主婦も同じ悩みを抱えているのかもしれない。立場の違いを超えて、お互いに想像力を働かせて一緒に協力し、進化していきたい。
小室:
よく、最近の日本社会は、経済が悪くなったことにより悪くなったと言われるが、私達働く女性の立場から見たら、昔よりもずっとまともな国になったと思う。男性がまったく育児に携われず、仕事ばかりしているか、バブルの時代はどこかで飲んでいるという時代よりも、今の時代の方がずっとまとも。パパが子どもに接しようとする時代になった、イクメンが増えて今の時代の方が、経済的には失うものも多かったかもしれないけれども、幸福度はずっと高い。イクメンの増えた今の社会は、かつての経済が最高潮だった日本よりもすばらしい社会だと私は思っている。
浜田:
うちの夫のことを、かなりネタとして使わせていただきましたが、実際はイクメン度の高い人なので、どこかで今度イクメン代表として、彼の言い分も聞いてあげてください(笑)。