男性にとっての男女共同参画コラム「男女共同参画の男性にとってのメリット」

日本では、女性の経済分野での活躍がなかなか進まない。管理職比率は先進国最低レベルにあるし、既婚女性、とりわけ高学歴女性の有業率も低い。また、多くの女性は、パートや派遣など不安定な仕事についている。そこで、女性が経済的に活躍できる環境をつくることが、日本の男女共同参画推進の大きな課題となっている。

ただ、女性の経済界における活躍推進は、当該の女性のためだけにあるという誤解がある。もちろん、女性がその能力を発揮する機会が男性と同じように得られることは、女性にとって絶対必要なことである。しかし、効果はそれだけではない。経済分野で活躍する女性が増えることは、当の女性だけでなく、日本経済・社会に対してプラスであるというだけでなく、個々の男性にとっても大いにメリットがあるのだ。

私は、女性が経済社会で活躍するようになると、こんなにいいことがあると、男女共同参画会議で発言し続けてきた。例えば、今、日本をはじめ、韓国や南欧諸国で少子化が進んでいる。これらの国々は、女性の無職率が高い。若年男性の収入が増えない中、結婚生活や子育ての費用は上昇している。日本も含め、これらの国々では、結婚後の生活は主に男性の稼ぎに依存していることが、結婚や出産をためらわせている。アメリカやフランス北西ヨーロッパ諸国では、男女がともに経済的に家庭を支え合うというシステムへの転換が進み、「経済的に自信がない男性」でも女性と共に子どもを生み育てる環境が整っているから、少子化への歯止めがかかっている。

男女共同参画会議でいちばん関心を持たれたのは、「小遣い」の話である。日本のサラリーマン男性の小遣い額は、この20年間低下の一途を辿っている。1991年に平均月額76000円であったものが、バブル経済の崩壊、そして、失われた20年と言われる間に低下を続け、2010年には40600円となる。そして、震災直後の2011年には36500円、2012年には多少回復したものの、39600円と4万円を割り込んだままである(新生銀行調べ)。その間物価はあまり上昇しなかったにしても、サラリーマンの小遣いは半減し、バブル前の額よりも少なくなったのだ。これは、現役男性の収入が減少する中、教育費など生活費が削れないため、夫の小遣いを優先的に削った結果なのである。そのため、国際比較調査の結果をみても、日本の夫の小遣い額は先進国の中でも最低水準にある(クロスマーケッティング社2010年調査による)。

しかし、データを詳しく分析してみると、妻の働き方で、小遣い額に大きな差があることが分かった。総務省全国消費実態調査の再集計を行ったところ、各自の小遣いが含まれる「その他支出」の費目が、夫婦とも正社員(公務員も含む)で共働きしている場合、突出して多くなる。2009年のデータで、夫婦とも正社員94403円、夫が正社員妻が非正規社員の場合は72834円、妻が専業主婦の場合は、62294円である(夫婦とも60歳未満の核家族世帯)。先の国際比較調査でも、フルタイム同士の共働きの場合の小遣い額は、欧米と比較して遜色ない。女性の経済的活躍は、回り回って、夫の小遣い大幅増という形で男性に返ってくるのだ。

つまり、妻が正社員として働いていれば、夫の小遣いは相当増えるのである。逆に言えば、欧米で夫の小遣いが多いのはフルタイム共働きが多く、日本でサラリーマンの小遣いがここまで低下したのは、正社員で働く妻があまり増えなかったからである(全国消費実態調査では夫婦の15%)。これからは、自分の小遣いを減らされないために、妻に頭を下げて正社員として働き続けてくれと願う夫が増えていくに違いない。

  • 中央大学 文学部 教授
  • 山田 昌弘