影響調査専門調査会(第26回)議事要旨

  • 日時: 平成16年2月9日(月) 14:00~16:00
  • 場所: 内閣府5階特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    会長代理
    岡澤 憲夫 早稲田大学教授
    委員
    浅地 正一 日本ビルサービス株式会社代表取締役社長
    大沢 真知子 日本女子大学教授
    君和田 正夫 株式会社朝日新聞社代表取締役専務編集担当
    佐藤 博樹 東京大学教授
    高尾 まゆみ 専業主婦
    橘木 俊詔 京都大学教授
    林 誠子 日本労働組合総連合会副事務局長
    福原 義春 株式会社資生堂名誉会長
    八代 尚宏 社団法人日本経済研究センター
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○事務局から報告書イメージ(案)及びライフステージごとに見た就業に関する現状について説明があり、これに基づい て次のような議論があった。

    高尾委員
    資料1-2-1の1ページで、進学の実態について、4年生大学への進学率を見ると女性の進学率は現在で も男性を13.2ポイント下回り、大学院への進学率は女性は男性の半分だとあるが、これに対応して国際比較のデータがあ るか。
    事務局
    OECD等、諸外国に比べ、日本はかなり差があるという状況が出ている。
    名取局長
    図表6-1は昨年9月にOECDの公表した教育インディケータを加工したもので、専攻分野についても日本は 非常に遅れていることが個表にされている。工学、社会科学、商学、法学の分野に日本は女性の進出が少ない上、保健 健康や自然科学でも女性の占める割合はOECDで最下位だ。
    橘木委員
    最近は、男性で自分は理工系に絶対向かないので、就職がいいからと親に薦められても行かない例が目 立っている。自分の資質と就職の可能性、両方の見極めが必要だ。
    名取局長
    ただ、OECDの中でも、日本は工学の女性の進出度が非常に低い。OECD諸国で「大学型高等教育(修士) と上級プログラム」卒業者に占める女性の割合(2001年)を見ると「工学・製造・建築」の平均が22.2%で韓国と同じくらい だが、日本は10%でOECDで最下位だ。
    橘木委員
    私も過去はそういう認識だったが、男性でも資質がないとする者が結構いるというのも問題だ。男性でも文学 とか歴史に適性を認める者が多い。
    名取局長
    韓国では、ある時期まで日本と同様に、工学系に進む女性は10%程度だったが、今は22%で大体ほかの先 進国ぐらいになっている。日本は相変わらず10%ぐらいで低迷している。日本の場合は、女性の専攻分野が自然科学・社 会科学などになかなか広がらない。
    大沢委員
    日本の場合、専攻がミスマッチで向いていないのに理工に行く男性と、実は理工に向いているのに文系に行っ てしまう女性がいるのかもしれない。その選択の理由には、その後のライフスタイルにおいて女性の場合はインベストメン トにペイしないことがある。例えばエンジニアリングについたとしても結婚や育児もあって、資格を生かしていけないと思う と、思い切って人的資本を投入するような意欲が湧かないだろうし、逆に男性の場合は実力以上のプレミアムがかかって 理工系が多くなるというように考えると、人的資本の選択肢において男女差を生み出すような仕組みがあるのではない か。資質の問題ではなく、自分が一生仕事を続けたくても希望が満たされない人が多いので、理工系に自分の教育投資を していくようなインセンティブが湧かない仕組みがあるのではないか。
    橘木委員
    投資のペイということに関して言えば、理工系は日本では不遇だと思っている。
    岡沢会長代理
    進路の意思決定に進路指導の先生方のガイダンスが影響する。模試の点数の良い分野に適性がある という判断をすると、国語では女性がいい成績取るので、そのまま文学部や教育学部に行く。しかし、その人たちは就職で は厳しくなる。優秀な偏差値の高い人たちが特定の学部・学科に集まってしまって、そこが非常に就職が厳しい。だから、 進路指導のときのガイダンス基準をどう切り替えていくかということを真剣に考えていかないといけない。偏差値が非常に 高いから何学部だという強引な進路指導には工夫があっていい。
    八代委員
    進路指導の先生は、自分の高校から多く入れるのが目的で、例えば医学部に行けるのに行かないなんて もったいないことするなとか、個人の適性は二の次となりかねない。
    福原委員
    教育投資は父母が相談して行うが、自分の時間をどの教育に投資するかは自分が決めることだ。ところが、 父母の立場からすると、理工学系の技術者とか医者の場合は社会科学あるいは文学を虚学とみなす方々が多い。した がって、子どもに才能があろうとなかろうと、あるだけのお金はそちらにつぎ込みたいというのが事実だ。社長などの地位 に工学系の出身者が少ないという状況は、急速に変わりつつある。
    林委員
    図表9-1について、数学的リテラシー、科学的リテラシー、読解力と3つ並べてあるが、日本は読解力は男女 差が非常に大きく女性の方が読解力があると見るのか。
    事務局
    日本のところでは、読解力だけ女性の方が高いということが統計的に有意に言える。数学の部分と科学の部分 は、統計的に有意なデータとまでは言えず、ほとんどの国で統計的にそう差はない。
    大澤会長
    図表9-3を見ても、日本では国語、社会、算数、理科、英語でほとんど男女差がない。要するに国語は女の 方ができるけれども、理数系には男女差はないというのが日本の在り方だ。高尾委員の御指摘で、特に大学進学率のと ころではOECD諸国と比べて日本はどうなのかというのと同時に、一部の途上国と比べても日本は問題があるのではな いか。例えばフィリピンやタイと比べた場合に日本の方が問題があると聞く。OECD諸国だけでなく途上国もピックアップし て見るとよい。

    ○続いて、事務局から論点骨子(案)(総論、雇用部分)について説明があり、これに基づいて次のような議論があった。

    八代委員
    最近の動きとして、今度の国会に65歳までの雇用義務のような話が出ており、新聞等では労使の対立のよう な形で説明されているが、労働者対労働者の利害対立というように考えると、明らかに中高年は得をするけれども、その 分若年者の雇用機会が狭まるという問題もある。同時に今、高年齢層では極端に比率の少ない女性にとって、本当にプ ラスになるかどうかという視点は全く議論されてない。報告書自体は働き方の多様化ということを強く打ち出している中で、 言わば本人の能力に関わりなく定年延長のような形を強いる政策というのは、整合的にどうかということは議論する価値 はないか。
    大澤会長
    それは今までも議論していないが、前回の報告書をまとめるに際しては、年金制度との関連でフレキシブル・ リタイアメントのようなことに言及された場面はあった。
     資料1-3の2ページ目に「(4)?女性に指導の対象となる早期退職勧奨」とあるが、この指導は何法に基づく指導か。
    事務局
    均等法では、女性だけに退職勧奨をすれば違反となり指導対象となる。
    大澤会長
    地方公共団体で女性職員への退職勧奨年齢が男性よりも低いという話を聞く。
    事務局
    実際に聞いてみると、そんなことはしていないと言われる。
    佐藤委員
    今後の政策等の方向が、現状のいろいろな政策を推し進めようという形になっており、それは悪いわけではな いが、やはり各省庁の間でやれないところで大事な点をここで言うことが重要だと思っている。
     それとの関係で、例えばパートのところ、現行の短時間労働法というのは、通常の労働者と短時間労働者の間の処遇の 均衡、簡単に言うと正社員と短時間労働者の処遇の均衡ということを言っているが、これから大事なのはフルタイムの人 とパートタイムの人の処遇の均衡である。現行法で言うと、例えば有期契約のフルタイムの人と短時間の人が同じ仕事を していても、これはパート労働法の対象ではない。パートと比較できる仕事が有期契約のフルタイムに移っていっている が、そういうことも含めてフルとパートの処遇の均衡が大事だということを少し言うとか。
     コース別雇用管理について、これは正社員の中でのコースの分け方が適切かどうかということを議論しているだけであ るが、正社員以外のところも視野に入れておかないと、一般職が有期契約に移っていってしまって正社員が全部総合職に なったら意味がなくなってしまう。そういう意味で、このコース別雇用管理についても、多様な雇用区分間、正社員外の雇 用区分も含めて見ていくことが大事だということを言った方がいいのではないか。
     もう一点、総論のところで先ほど職業選択についての啓発という議論があった。それも大事だが、もっと私が大事だと 思っているのは、働くことに伴う労働者の権利意識がどんどん低下してきていること。例えば、育児休業取得というのは請 求権であるから、その会社の就業規則に育児休業の規定がなくても取れるが、そのことを知らないと就業規則に規定がな ければ取れないのではないかと思ってしまう。実際上、働いている人で育児休業が法律で定められた権利だと知っている 人がどれぐらいいるかというと、5割を少し超えている程度である。
     均等法についても、高校生や大学生が働くときにどれだけ知っているのかというと、やはり私は怪しいと思っている。例え ばNHKの放送文化研究所が5年ごとに行っている憲法で定められた権利の認知度についての調査によると、30年前は 団結権が労働者の権利だということを知っていたのが39%ぐらいだったが、今は20%である。調査ごとにすべて落ちてき ている。
     私は、やはり働くことを選ぶときに、こういう権利があるということを学校で教えることが非常に大事だという気がしてい る。厚生労働省は企業に一生懸命広報するが、これから出てくる新しい法律というのは、働く人自身が知ってないと、なか なか権利を行使できないのではないか。
    大沢委員
    今、起きている雇用形態の多様化について、ここでも触れられてはいるが、その重要度が、どちらかというと 正社員が中心になっている。正社員比率は92年が78%ぐらいだったが、2002年で68%に減っており、3割の人が非正規 で働いているという現状が非常に重要なインパクトを日本経済に及ぼしている。自営業と言っても、労働者性のある独立 請負のような人たちが非常に増えていて、そういう人たちの団体保険の加入や年金問題についてどのようなセーフティ ネットをつくっていかなければいけないか。そういった非正規の中に女性が多いという問題を、この研究会で指摘すべきで はないかと思う。
     また、八代委員の意見のように、65歳以上定年延長のような形で今起きている変化が、むしろ非正規を拡大するような 方向で動く可能性もなきにしもあらずだと思う。
     今のままの正社員制度が続く限りは、女性や若者がどんどん正社員以外の雇用市場に広がっていくので、政策の論点 というのはむしろ個人中心に、佐藤委員の意見のように個人に対して労働者の権利なりセーフティネットというのを、どう付 与していったらいいのかということを考えなければならないような気がする。
     この論点は、男女差がこんなに大きい、この男女差が現行の制度にどのように関わっているのかと読めてしまう。その 背後にもう一つ大きな経済の流れの中で、製造業中心産業からサービス産業化が進んでいき、戦力として女性を位置づ けることの重要度が、経済社会の中で非常に増してきたという位置づけがないと、何のために男女共同参画を形成しなけ ればいけないのかというインパクトを持たない。男女差が最終的には日本経済の成長率を下げているという形で、非常に マイナスの影響を持っていると思う。
     これは、熊本に講演に行き、そこの地方銀行で聞いた話だが、女性のコース別人事制度を敷いていたため、また女性に は向かないだろうということで貸出業務には就かせずに昇級・昇格を繰り返してきた。優秀な女性を一人支店長にしたが、 今、起業してお金を借りにくる女性の客に対応する行員がいないし、彼女自身がそういうことを経験していたら、支店長に なったときに今ほど苦労しなかったのではないか。銀行にとってもマイナスだし、せっかく選ばれた支店長の女性にとっても 非常に厳しい立場になっているという1つの例であるが、そういった実例を少し入れてほしい。
     そういった実情の中で確かに進学率の男女差も随分縮小した。20年前から比べると、格段に女性の高学歴化が進み、 ここまで女性が理工学部を選ぶようになったのかという感慨もある。やはり結婚退職の例は多いが、みんなが同じように 30歳ぐらいで結婚するわけではなく、晩婚化も大変進んでいる。また、子どもを産まない選択、子どもを希望よりも少なく 産むという選択もしている。
     男女共同参画の形成がうまくいかないと、そういったいろいろなマイナス要因が最終的には日本社会全体で負担しなけ ればならないコストになるということ、そういった方向性とは別にもう少し柔軟な働き方、いろいろな就業形態が選択できる ような社会を選ぼうというような方向に進むことが、今よりもいい現状になり、かつ制度的にも維持可能な仕組みになると いうような、そういった形での報告書の在り方というのもあるのではないか。
    林委員
    主に2点、まず1点は、「今後の政策等の方向」の3ページ目(1)アでは、希望に応じて就業形態を選択できる ような、多様で良質な就業機会を創出するということが一つ示されている。総論の1とも関係するが、やはり同一価値労働 同一賃金という考え方、あるいはその職務や成果に応じた賃金の在り方、そういうものを打ち出す方向の方がいいような 気がする。
     男性片稼ぎ型とか、年功賃金型ということの問題点は、今まではこうだった、それが合わなくなっているということは書か れているが、良質なというときの中身は何かと言えば、やはり同一価値労働同一賃金ということで、雇用形態の違いなどを 超えても、そういう考え方がきちっと具体化されればいいのではないか。
     そのためには、日本にこれまで余りなかった職務に対する考え方、職務評価そのものが余り行われていなかったという ことを1つ出すべきではないかということ。
     もう一つは、2ページ目の2.の?で「両立支援策は講じられているが、結婚、出産してもフルタイムで働き続けるための 環境整備には不十分」という表現がある。女性という立場から見たら結婚、出産ということが当てはまるが、ここで男性も 含めて両立支援策というものを考えていくとするならば、男の人の働き方を変えないままでのさまざまな両立支援策という のは、もう限界に来ている気がする。
     その意味では、その次のページの一番下の(6)の長時間労働の是正ということは、もっと大きく前面に出る方が、個別 の支援策以上に重要なのではないか。
    橘木委員
    3ページ目の(4)のコース別管理、いい運用をするというのは生易しいことではない。なぜ女性だけコース別 があるのか、私は差別だと思うので、これは廃止すべきぐらいのことを言えないかというのが第1点。
     第2点は、今、林委員が言われた、(6)の一番下の「長時間労働の是正」では、不払い賃金、いわゆるサービス残業の 是正の方がもっとこの問題を解決すると思うので、そこも言ってほしいというのが第2点。
    高尾委員
    6の2.の「長時間労働の是正」であるが、雇用者である限り個人としてはほとんど拒否できずに長時間働か されるとなると、やはりだれかが本気で何とか言っていかないと希望がない。特に30代の女性たちの話を聞くと、30代男性 の労働時間が非常に増えていて、お父さんというのは12時過ぎないと帰ってこないのが当たり前だという中では日本の男 女共同参画社会ということはあり得ないし、この部分が諸外国と比較して大きく違うところだと思う。ここの部分をもっと大き く取り上げていただきたい。
     また、大沢委員の意見のように、現在の日本の雇用状況の中で、女性がうまく生かされていないことが日本の国全体に 対してコスト的に非常にマイナスになっているというところで現状課題をとらえていくことが説得力があるのではないか。経 産省の研究報告もあるようなので、その辺をもっと取り上げていただきたい。この(1)(2)(3)(4)という以上に、もう少し 何かまとめ方がないか。
    浅地委員
    今、議論になっているコース別採用は、そういう女性にそういう道を開けるという意味でできてきたと思うが、 今にしてみると不便なところもある。
     しかし、権利と義務というふうに考えると、やはり一番大きな問題は、ライフタイムでは転勤、あるいは配置転換だと思う。 それと出世、昇格ということも絡んでくると思うので、正社員になってそういう道を歩むこと、生涯雇用を目指していくことが 幸せだという中で、配置や転勤が否定されるような格好だとなかなかうまくいかない。したがって、それを望む人にはそうい う道を開けると。それでは不公平な社会だというふうに考えていくと、これからの雇用は入社をするけれども、それが必ず しも安定につながるものではないかもしれない。どんどんモビリティーを促していくような世界になってくると、その中で改 めてジョブ志向、特にパートの問題については、私は転勤、配置転換がないということが前提で成り立っているジョブの契 約だろうと思う。それは必ずしも入社とかいうこととこだわらない、その辺りの道はしっかり開けておいて、それが男性でも 女性でも、それがむしろマッチを増やしていく方向で、ミスマッチを狭めるとは思わないということを申し上げておきたいと思 う。
    林委員
    今のところで2つあるが、1つは長時間労働の是正について、不払い残業の撤廃ということと、もう一つ大事なこ とは法定残業規制。年間の360 時間は、本来なら3年後に360 ~150 に近いものに変えていくという国会附帯決議まで出 ていたが、そのことが全くどちらからも論議の対象にすらなっていないので、この法規制の問題はここできちっと入れた方 がいいと思う。不払い残業と法規制の在り方を変えることがワークシェアリングの大事なところにつながってくると思うの で、ワークシェアリングということもここで1つ出てくるのではないか。
     もう一点は、先ほどのコース別雇用管理等、パート等に関連するが、配転、配置、転勤という問題が、総合職コースを選 んだならば当然付いて回るものだと考えられていたり、あるいはパート労働者はそれがないと考えられていたり、かなり乱 暴な区分になっていると思う。しかし、ILOの156 号の家族的責任条約、並びに165 号家族的責任条約の勧告では、たと え総合職というのを選んだとしても、その必要性がある期間において、転勤を配慮しなければいけないということは含まれ ている。
     ところが、それはコース別の総合職を選べば、どのような場合でも転勤をしなければならないという解釈が、間違って広 まってしまったところに大きな問題が1つはあると思う。
     パート労働者もかつては子育てを終わった人たちが多くそこにいたという事実から、転勤、配転はないということが多かっ たと思う。しかし、自らパートを選択する層があったり、正社員への転換制度、パート労働者に就く層に極めて20代が多く なってきていることなどを含めて考えた場合には、その人たちにも育児介護に対する配慮が必要になってくる。また同時 に、パート労働は働く時間が短いだけであって、転勤も責任もないなど、ほかの条件が付いてくるものではないと解釈し直 していく必要があるのではないか。パートと言っただけで、その働き方というものを限定していくということでは、本当の意味 でも豊かさだとか、働き方をお互いに見直していこうとか、仕事をわかちあっていこうという発想になりにくいのではないかと 思う。
     これは社会保障をそれぞれに保障していき、かつ社会保障の担い手になり得る労働者をつくっていくという観点からも、 その解釈ではまずいという感じがする。
    大澤会長
    賃金格差の解消のところであるが、労基法の第4条は立法過程の中では、同一価値労働同一賃金という点 が入っていた段階があるというのが、ほぼ研究で確かめられている。また日本政府はILOの100 号条約を批准しているた め、男女の賃金格差に関しては、同一価値労働同一賃金の方向が追求されるべきではないかと個人的に思っている。均 等法には賃金差別についての条文がなく、それは労基法第4条にあるが、第4条差別違反に対する労基署の取組が一体 どうなっているのか、改めて気になるところである。
     それから、いわゆる女子保護規定というのが、労基法からはもう解消されているので、第3条の差別の禁止に性別を改 めて入れることも考えられていい。同時に均等法にも賃金差別の条項というのがなくていいことにはならないのではないか という点とを考えると、これは立法の方に及んでくるので大きな問題ではあるが、留意しておきたい点である。
    佐藤委員
    先ほど橘木先生からコース別雇用管理をなくした方がいいという意見があったが、私も暗黙のうちに男女を 区別するコース別雇用管理はなくす必要があると思う。ただ、人事管理を研究している立場からすると、実態としては別の タイプのコース別雇用が増えている。例えば、今まで高卒、大卒というのは明らかにキャリアが違った。今は企業が考えて いるのは、大卒をどう分けるか。大卒の中でキャリアを分けて、例えば人的資源投資のやり方を変えるとかいうことがどん どん増えてきている。それも含めてなくすと言われてしまうと、これはどうか。
    橘木委員
    私は、女性を総合職と一般職で分けるコース別と理解して発言しただけ。

    ○続いて、事務局から論点骨子(案)(起業・自営業及びその他の働き方、公務員部分)について説明があり、これに基づ いて次のような議論があった。

    佐藤委員
    公務員制度のところ、定員法で職員は全てフルタイムであることを想定して定員管理を行っている。短時間勤 務職員も定員1とカウントされてしまうので、定員法を総時間管理法のようにしないと、短時間勤務はつくれないというのが 最大のネックだと思う。
     例えば部分休業も2時間カットになっているが、2時間分の人件費はくれない。その辺りを見直さないことには、公務員の 柔軟な働き方は実現できないので、是非そこは言っていただきたい。
    林委員
    この公務員の対象は国家公務員に限定して書くという前提なのか、地方公務員も視野に入りつつ、国家公務員 中心なのか、それによって違ってくる部分もある。
     今の定員法の問題は、地方の条例と国家公務員法の両方が入ってくる。非常に深い関係で壁になっているということな ので。
    事務局
    こちらでは国の制度・施策ということなので、国家公務員を主に念頭に置いて議論をお願いしたい。ただ、例えば 国家公務員について見た後で、地方公務員についても同様の検討が必要と思われるぐらいのことを書くことは可能かもし れない。
    橘木委員
    公務員の問題は、フルタイムに関しては男女差別はあまりないと理解し、女性に対する不当な差別があると すれば、それはいちずにアルバイトに表われているということをもう少し強調してもいいのではないか。逆に、フルタイムは むしろ民間に対する指針になるようなことも言ってもいいのではないか。
    八代委員
    今の意見には、かなり異議がある。公務員では形式的には平等だが、実態的には、はなはだ不平等だと思 う。例えば公務員の長時間労働というのは民間以上に激しいし、頻繁な転勤も民間より顕著な面もある。形式的には男女 平等でも、実質的には女性の就業継続にマイナスになっている面が大きい。
    林委員
    (2)で、「公務においては子育て後の者を積極的に採用するという環境が整っていない」とあるが、この趣旨が よくわからない。一旦退職したその人をということなのか、広く子育てをした後の人でも採用するという環境整備という意味 なのか。
    事務局
    広く子育て後の者をすべてということで書いている。
    林委員
    それであれば、採用年齢の制限を設けたことの問題の方が大きく、子育てに限定しない方がいい。「何歳未満」 というような募集のかけ方はまだ多くある。
    高尾委員
    基本問題専門調査会が女性のチャレンジ支援を検討したときに、再チャレンジの部分で、特にオフィシャルセ クターでアクティブポジションを取ってほしいと言ったことがある。子育て女性がその後再就職できないということが今、日 本で非常に大きな問題であるが、年齢制限撤廃ということだけでは、結局民間企業でずっと就業してきたいわゆるキャリ アのある人しか採用されず、子育てをしてきた人は採られない。オフィシャルなセクターで、有能でやる気もある人をモデ ル的にアクションプランとして採用してくれると、ある程度インパクトになるのではないかと思うので、この(2)はできればこ ういう形で残しておいてほしい。
    福原委員
    4月から論点整理の報告のディスカッションに入るが、そのときに留意しておきたいのは、実態における不平 等、あるいは差別のような問題と、片方は年金だとか、税法だとか、民法だとか、いろいろなものがそれにどの程度の影響 を与えているのかということがわかるように整理すべきではないか。そうしないと、ただ差別がありますよということだけに 終わってしまうのではないか。
    大澤会長
    橘木委員と永瀬委員のワーキングチームの検討結果も出ているので盛り込むことができるのではないかと 思うが、御意見として承っておく。
     起業・自営というところで、それぞれのセクションで社会保障、セーフティネットが十分であるかどうか。これは1ページ目 の非雇用者でも労働者性の強いグループのセーフティネットの構築というところで、総論的にカバーされている点だと思 う。しかし、非雇用者だけれども労働者性の強いグループが出てきて増えているから、その人たちだけのためにスペシ フィックなセーフティネットを構築するというふうに読まれてしまうと、やや違うのではないか。
     つまり新しい種類の働き方をする人々が登場したので、そのためのセーフティネットを建増し建増ししていくと、段差だら けのシステムになり、これはまたライフスタイル、ライフコースに対する中立性に反してしまう。神野委員がお辞めになって いなければ、セーフティネットユニバーサル化ということを強く主張したと思うので、そのことも踏まえて申し上げたい。
     先ほど大沢委員が言われたサービス経済化とも関わるが、より最近強く言われているのは知識経済化ということで、そ の知識経済なり知識社会にふさわしいセーフティネットの在り方というのは、やはりできるだけユニバーサルなシステムな のではないか。今の日本の税制でも社会保障制度でも雇用システムでも、縦割分立となっていて、その間に大きな段差 があるというようなシステムは、日本の経済社会全体として知識化していくことに対する大きな障害になっているのではな いか。そういう意味で日本の経済のリニューアルを妨げている面がありはしないかということを、少し言えないかと考えてい る。これは全体に関わること。
     もう一つは、公務員部門のところで、諸手当の見直し。形式的にはフルタイムで正規の職員であれば差別はないというこ とだと思うが、そこになお男女の賃金格差を起こしているのが世帯単位の考え方に基づく諸手当だということになると、や はりここのところをもう少し強く言いたいと思う。
     勿論、国家公務員法とか給与法とかで、生計費を配慮しなければいけないという規定があるから、その生計費を配慮す れば配偶者手当は当然だということになるのかもしれないが、しかし我々は税制について議論したときに、専業主婦がいる ということは帰属所得にもなり得る。あるいは、分業の利益ということでもあり得るので、単に被扶養者として専業主婦をと らえることはいかがなものかという議論もした。だから単に生計費を増している存在というふうにとらえるのか、やはりアン ペイドワークというもので貢献をして、帰属所得あるいは分業の利益をもたらしていると考えれば、生計費を配慮するとい う法上の規定を変えなくても配偶者手当のようなものは見直していけるのではないかと考えられるので、そこはもっと強く 言いたい。

(以上)