影響調査専門調査会(第23回)議事要旨

  • 日時: 平成15年11月19日(水) 14:00~16:00
  • 場所: 内閣府第3特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    会長代理
    岡澤 憲夫 早稲田大学教授
    委員
    浅地 正一 日本ビルサービス株式会社代表取締役社長
    君和田 正夫 株式会社朝日新聞社代表取締役専務編集担当
    高尾 まゆみ 専業主婦
    橘木 俊詔 京都大学教授
    林 誠子 日本労働組合総連合会副事務局長
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○武蔵大学 高橋 徳行氏より、女性起業家・自営業者について説明があり、これに基づいて次のような議論があった。

    橘木委員
    10年、20年前であれば、女性社長の多くは社長だった配偶者の死後に後を継いだ例が多かったのではないか。
    高橋教授
    就業構造基本調査で、死別、離別かのデータは出るが、特に増えている傾向は見出せない。国民生活金融公庫の調査では、死別、離別を一つにくくっている。
    橘木委員
    自分で企業を起こして社長になった人と、配偶者が社長で、死んで奥さんが後を継いだというケースでは、全く人生経路が違うと思う。
    高橋教授
    国民公庫の調査は、離別、死別のサンプルだが、この中で配偶者の後を継いだものと、離別・死別した後自分で始めたという区別は入っていない。ただ、この調査では自分で始めた人がほとんどではないか。
    高尾委員
    離別、キャリア型等を4つにタイプを分けられたが、アメリカではどのような結果がでているのか。
    高橋教授
    米国の労働省のやっている調査で似た分類があったと記憶しているが、手元にデータがないので、ここでは申し上げられない。
    高尾委員
    結論として、培ったキャリアを活かすキャリア型で起業すれば男性も女性も基本的には変わらないということでは、裏返せば、一度結婚して子どもがいたりすると、何もできないということになる。その辺で日本とアメリカの違いはどうか。
    高橋教授
    問題となるのは、離別や死別ではく、起業する準備期間やマインドの問題。 キャリア型の人は、起業する可能性を考慮してキャリアも人脈も蓄積されているが、死別、離別をした後に引き継がれる方というのは、やはり準備不足だ。
    橘木委員
    名前だけは女性の社長で、実態は番頭が経営するというケースが、離別でなくても大いにあると思う。でも統計上は、その人は女性の社長として表れる。
    林委員
    夫が死んでそれを引き継いだ女性社長は、起業家だとはイメージしていない。
    高橋教授
    これはほとんど、自分で始めた人だけのデータである。女性の場合で、平均で10年弱の業歴の起業で、自分で始めた起業のデータと読んでいただきたい。
    浅地委員
    米国の融資機会均等法について詳しく説明してほしい。また、負債を抱える立場では個人保証が問題になっているが、女性の経営者の方に夫が個人保証している運用を、国民生活金融公庫ではしているのか。
    高橋教授
    この法律は、女性であるために差別してはいけないという精神で、例えば融資の申込書で女性か男性か書く欄もなくした。一方で、そうすると女性の統計が取れなくなったため、また復活させてくれという要望もある。個人保証の問題は統計で取っていないが、女性が融資を申し込んだ際に夫の保証、担保を求めるケースが実務上は多い。身近な人で生計が別であれば、保証として最適なので、そういう理由で求めるケースは少なからずある。
    君和田委員
    国民公庫調査では、組織形態は男性では株式会社と有限会社と個人経営と大体3分の1ずつで、女性は3分の2が個人経営だが、組織形態は雇用に影響するか。女性経営者は男性経営者より男性社員を雇う数が少ないが、それは女性経営者が女性を優遇するのでなく、個人経営だと男の社員を採れないということか。
    高橋教授
    個人経営は法人経営に比べて規模が小さいものが多く、人を雇っている割合は低い。女性が女性を雇い、男性は男性を雇うということはないのではないか。例えば飲食店、美容院、婦人服の小売には男性社員よりも女性社員の方が適していることもあって、業種特性の方が強い。
    浅地委員
    女性の経営のきっかけは、夫が死んでしまった旅館の跡継ぎで妻が続けるというような例が多かったが、最近になって独立してやっていくスタイルが出てきた。そこら辺が分かると自分のプロフェッショナルを生かして仲間でやる人を、もう少し応援できると思う
    高橋教授
    女性自営業主や起業家の話をするときは、非常に裾野が広い部分が中心で、日の当たる、本当に企業らしい企業とは同一に議論できない。米国は、開業数が多いといっても、1人か2人でやっているビジネスばかりで、日本の場合も、例えば帝国データバンクがやっているような調査で比較的大きな女性の経営者が出てきて、そこは二代目や夫の後を継ぐ人が多いが、この調査に含まれているものには裾野の下の方が含まれている。例えば米国でも2年前にマサチューセッツの女性経営者で売上高の非常に高い企業100 社を調べた場合は、全体の統計と違う姿が出てきた。
     女性の場合は男性よりも更に多様で、裾野がずっと広がっている。
    大澤会長
    調査の母集団である、国民生活金融公庫の融資先企業の特徴はどうか。
    高橋教授
    法人と自営業主だが、政府系とはいっても金融機関からお金を借りるので内職形態は入らないと思う。当然、サンプル特性、バイアスがかかってくる。
    大澤会長
    裾野が広いとはいいつつも、事業としてちゃんと成り立っているものが対象で、死別と言えども夫の残した会社を継いだというよりは、死別してから自分で起業したというケースが、かなりあると理解してよいか。
    高橋教授
    後で事務局に関連データを送っておく。
    大澤会長
    私の関心は、主要先進国ではこの20年間、女性自営業主が増えているのに、日本は全く逆のトレンドをたどっている原因にある。米国に関しては幾つかの原因、背景が資料に挙げてあるが、離婚率の上昇は80年で止まって、今は下がっており、離婚率の上昇は背景とは言えないのではないか。他の国でも離婚率が上がっている国は多いが、それらの国で女性起業がすごく増えたとも思えない。
     また、主要先進国における自営業者の近年における増加については、いわゆる脱工業化でサービス経済、知識経済に移行した結果、従来のように既存の資産を元手に起業するのではなく、知識、情報やネットワークを元手に起業するという人が増えているということが、ドイツや北欧諸国、あるいはカナダなどについても指摘されている。 この指摘が正しいなら、日本で女性の事業主が減っていることは、後期工業化段階から知識経済段階への移行がうまくいっていないと言えるのか。
    高橋教授
    離婚率の話は、きっかけになったのかというぐらい。産業構造には詳しくないが、社会的分業の在り方の違いが自営業主の数に影響すると考える。私の友達が、ニューヨークで3、4人で雑誌をつくっていたが、今はネット上で分業している。一つの会社がなくなった一方で、5人の自営業者がそこで生まれている。また、理数系に強い人間だけをヘッドハンティングする女性もいるが、こういうのは日本では余りない。また、日本だと雇用形態だが、米国では独立自営業者のような形で雇って、化粧品の訪問販売をさせている。
    林委員
    女性支援団体のネットワーク化の支援内容が日米でかなり違うのではないか。 米国では女性が起業する場合、融資手続き、事業計画から、融資が入って事業が展開されるまで実務的に支援をするグループがある。日本では、女性センターの起業家セミナー等で一定の指導がなされているが、米国ほどきめ細かいかは分からない。そういう違いのようなものがどう影響しているのか。
    高橋教授
    私も同感で、日本の女性センターは非常に重要な機関だが、経営だけのケアではなく、DVとかもっと深刻な問題があれば、そっちに時間と費用が割かれる。米国の場合は、79年に中小企業庁の中にOWBO(Office of Women′s Business Ownership)ができ、そこが全国各地のNPOを募って、いわゆるウーマン・ビジネス・センターという、女性の経営だけを専門にサポートするNPOをどんどん組織化し、経営だけのサポートで最初から最後までケアしている。日本の女性センターの形態ですと、あれもこれもやらなければならず、セミナーを開くのが限界だ。
    橘木委員
    なぜ女性経営者だけが支援対象なのか。男性にとっても大事なことだ。
    高橋教授
    経営者になるためには、それなりのキャリア形成や人的ネットワーク、資金が必要だが、女性にその機会が男性と同様に保証されているかという問題だ。
    林委員
    同時に、雇用されても、女性が十分に能力発揮ができにくいと感じている人、勉強して大学も卒業して、知恵も知識も持っているが、雇用もされないままに、チャンスを持てなかった人たちが起業する。男性とは違った状況に置かれている。
    橘木委員
    男性は、若い時からそういう機会が多いからほうっておいてもいいと。
    林委員
    というより、支援を求める割合が低いと思う。会社の中で頑張れば、それなりに何とかなるし、女性よりチャンスが多い。社長になる男は少なく、ほとんど課長どまりだが、女性はそこまでもいかず、やはり起業と考える人も多い。
    高尾委員
    日本の場合、女性が多少就業して、その後辞めて、その後はどうしようもないというのが現状だ。正規雇用では難しく、パートでは低収入だ。日本こそますます女性が自営業者として立って良く、ニーズは強い。しかし、数的には日本だけこんなに減っている。先生の「起業学入門」でも、雇用されていた人間が起業するメリットがかなり書いてあるが、現状についてのように考えるか。
    高橋教授
    私も田町の未来館で、女性の起業相談を月1回やっていたことがあるが、一番切実なのは夫と離婚して、子どももいるので勤めるわけにもいかず、起業しかない、また、ある玩具メーカーに30代まで勤めていて、40代のキャリアが全然見えず会社にいずらいので起業するしかないと。起業以外の道が狭められた中で選択している人が結構多いというのは、切実な問題だ。リスクがあるので、むやみに起業は薦められないが、必要なサポート体制は、ある程度最低限取っていく必要がある。
    名取局長
    地方に行って聞きますと、小売業が空洞化して、コンビニでフランチャイズものが出てくると、お店を閉めてしまうと聞く。昔は一家の主人が企業に勤めに出て、奥さんが小売店をやっていたが、グローバルスタンダードの店が進出すると、店をたたむ状況がある。そういうことが女性自営業主の減少に反映しているのではないか。OECDの自営業者の統計で、最近は女性の起業が増えていないか。
    高橋教授
    差し引きの絶対数の推移しか分からないが、2002年の統計でも絶対数では減少傾向が止まらない。産業構造で競争力がなくなってきた分野に、女性比率が高いかまでは調べてないが、美容院でも昔ながらでは立ち行かないし、飲食店も客と一緒に経営者が年を取って廃業するいうパターンは頻繁に見られると思います。
    大澤会長
    女性に特化していない起業・創業支援は、政府でも行っていて、自治体、県レベルでも施策がある。それとは別建てに女性センターで女性に特化した起業・創業支援というような事業もあり、県などの男女共同参画基本計画作成の過程で、両者の相互乗り入れが必要と進言した経験もある。女性に特化せず、男性のキャリアを標準として想定しているような起業・創業支援はあるが、そこに女性をいきなり組み込もうとしても、経歴とかキャリアが違う。そこで女性センターが女性に特化したものをやっているということではないか。
    高橋教授
    4月まで政府系金融機関で、いろんな相談を受けたが、女性は何をするか決めないで、必要に迫られて相談に来る例が少なくなかった。米国の場合はそういう人たちに対しても丁寧に、自分の能力と社会が求めていることで、何か一致する部分がないかきめ細かく相談しているのが実態だ。そこまで日本でやるべきかは分からないが、男性とは相談の入り方が違うので、配慮が必要だ。

    ○続いて中央大学 広岡 守穂氏より、NPO等における女性の働き方について説明があり、これに基づいて次のような議論があった。

    橘木委員
    NPOの時給300円は最低賃金の半分に過ぎない。厚生労働省がこういう事実を知ったときは、どういう指導をやるんですか。
    定塚参事官
    働き方の中身を見て、指揮命令を受けている状態にあり雇用という形態だとみなされれば別だが、自営である以上は最低賃金法とは関係ない。
    広岡教授
    例えば在宅給食サービスなど、事業として採算ベースに乗せること自体が難しく、時給に計算するとなかなか300円を超えるのが難しい。配達とかパン屋さんとか食品加工等についても、経営的なベースに乗せるまでの助走で何年間か苦労する。
    橘木委員
    法律には触れず、配偶者の所得があるから、低賃金でも心の満足があるというが、独身の人なら食べていけない。結婚している女性しか担い手がいない。
    広岡教授
    そこはジェンダー問題が非常に強く表われてきている。経営を実際に始めていて、金融機関から融資を得られれば、それなりの収入を取ることも可能だろうが、大体無借金経営でゼロから開始するのだから、低賃金は経済秩序としては宿命的だ。 起業家に融資しても、女性の場合には焦付きがほとんどないと言われているが、大きい借入れをして失敗したら、もうすってんてんだという話ではなくて、自分の収入が本当につめに火をともすようでも、とにもかくにも返済だけは一生懸命やる。
    岡沢会長代理
    NGOとNPOという表現がある。NGOと表現していたときには、対応する組織が考えられるが、NGO・NPOと併記されて分からなくなった。
     国によってはボランティアに該当する言葉もない国も相当ある。そうすると、従来型の非政府組織、そして政府の組織、そして営利団体、その中の間隙を抜く、従来型組織では対応できない政策課題がある、それに対して問題解決の技法を提示できるんだというところから発生しながら、国によって、急にNPOという表現が全面に出てきているケースがある。
     NGOという表現を一般的につくっていた社会から、NGO・NPOという中黒でNPOを表現するようになったときの転機というのは一体何なのか。それによって、どういう社会的使命が変わっていったのか。北欧では雇用促進と連帯ネットワーク作りという目的が中心。ボランティアというコンセプトはない。あるのは任意組織という概念。ところが、英語に当てはまるコンセプトがなく、NGO、NPOという言葉が出てきたため、10か国比較すると、かなりの程度NGO・NPOの定義が違う。今の問題でも、NPOの組織で130 万以上給与を払って新しい雇用を生めばいいとも思うが、所得を抑えようという動きがあり北欧型の発想とも違う。
    広岡教授
    所得を抑えようという動きではないと思う。従来、アンペイドワークで給料が発生しない仕事だったのに、同じ仲間と一緒に仕事をしてきたのに、そんなに簡単に給料は取れないということで、これは過渡期の現象だと思う。
    橘木委員
    では、奉仕の精神で今でも続いているということですか。
    広岡教授
    あくまで福祉の分野に限った話だ。他の分野はかなり事情が違う。例えば、我々はNPO推進ネットをやっていて、いろんなところに行って頭を下げて仕事をもらうべく営業をやっている。しかし、自分は給料を取らず、無償でやっている。 私は理事長で、NPOの場合、理事の3分の1は報酬を取って良いが、あとは無償という定めになっている。私の分の所得は雇用している人のところへ、回っている。
     日本の場合、そもそも非営利団体を自由につくる発想そのものがなく、社団法人や財団法人を主務官庁のお墨付きを得て作る以外は任意団体でやってきた。それがNPO法で自分たちでつくれるんだと。結局、理事や正社員が株主に当たり、会社の取締役が理事に当たる。株主は、自分たちが投資をして、配当を得てくる。逆にNPOの理事の方は金もうけを目的にしては駄目で、ここが一番違う。あとは何も違わないので、最低賃金法だって当然適用されるべきだ。営利セクター、非営利セクター、民間セクターという、その分け方だけで、業種によって規制する仕切りはない。
     NPOはジェンダーの側面を非常に強いと言ったが、従来、そもそも金もうけの種にならないと思われている分野でNPOをつくっているのだから、目的は金もうけではない。
     しかし、それをきちんと仕事としていためには、専従のスタッフが必要だし、その専従のスタッフには金を払わなければいけない。岡沢先生が今おっしゃったような、NGO、国際関係、福祉の分野が圧倒的に多くて、現在、給料が低いのは、私はそれこそ日本の社会の性別役割分業を反映していると考えるが、これは過渡期の現象で、いずれ間違いなく収入は高くなるし、セクターの規模も大きくなってくる。
    林委員
    お金をもらうわけにはいかないと言っている人たちは、理事長ではなくて、実際に働いている人ではないのか。
    広岡教授
    実際に働いているスタッフも自分の給料が突然2倍になることには引け目を感じている。今までは、半分奉仕の精神で就職という気持ちでやっていない。働いている人たちにも、そういう気持ちの人は少なくない。
    橘木委員
    やや誇張して言えば、今まで専業主婦で賃金ゼロだった人に、夫が、働いているから賃金やるよと言ったときに、奥さんがびっくりするのと一緒の論理だ。
    林委員
    私は違うと思う。本当に事実か。私が知っているNPOの事務局長や事務局はこんなに貰えないとは思っていない。何でこんなに重要な役割を果たしているのに、利益も上がっているのに、何で給料は低いままなのかと思っている。
    広岡教授
    そういう分野もあるだろう。福祉は、都市部と地方では相当温度差がある。例えば入れ代わり立ち代わり送り迎えや、シーツの洗濯をするようなボランティアの人は100人いても全くの無償だ。その中に、例えば月給10万とか、15万とかというレベルで何人かの専従のスタッフがいる。お互い顔もよく知っていて、仲間同士の中に、突然介護保険法が適用されて、いっぱいお金が入ってくる。我々理事からは給料を高くしていい、高くしてもらわなければ困ると口をすっぱくして言っても、いや、それはしばらくの間勘弁してくださいと。人情からそうだと思う。
    名取局長
    資料1ページの真ん中辺に女性の多い分野と、男性が多い分野というのがあるが、男性の多い分野の方の給料は高いんですか。
    広岡教授
    例えばまちづくりの関係だと、NPOサポートセンターがこれに該当するが、そこの理事は、商工会議所の人とか、青年会議所の人たちが理事になっている形だ。 専従の人も収入が低く、年収300から400万弱か。
    橘木委員
    広岡さんのようなNPOもあるし、林さんの言っているようなNPOもあり、NPOによって賃金も経営の仕方もばらばらで、統一された規格はないと理解した。
    広岡教授
    福祉の分野は事業系のNPOが唯一確立している分野で、スタッフが10人程度雇える。これは介護保険法があるため。他のまちづくり等の分野は、実際に関わっている商店街店主が理事をしているが、彼らは給料をもらわず、スタッフで専従で雇っている人に給料を払っているが、決して高くない。 まちづくりは、圧倒的に男性が多く、女性理事は少ない。環境保全の類もそうで、去年、農林水産省関係で環境保全関係のNPO調査をしたが、女性の理事は10人中2人もいればいい方だ。保健医療福祉関係以外は、スタッフがそれで食べていくというのは難しいのではないか。
    高尾委員
    育児保険ができたりすると、子どもの分野も十分やっていけるようになるか。
    広岡教授
    つどいの広場という事業を厚生労働省が始めて、子育てサークルが私たちにやらせてくださいと名乗り出て、NPO法人として広場を運営しているケースがある。
     これだと、公的セクターからお金が出て給与も出る。民間のNPOの育成には、子育てや福祉の分野では、やはり制度の設計が非常に大きな影響を及ぼす。それこそアンペイドワークをペイドワークにしていくための非常に重要な手立てで、私は介護保険法だけではなくて、もう少しきめ細かいに地域の子育てサークルが、そこから仕事をつくっていくというチャンスを与える必要がある。ただし労働の評価は低い。そこが変わらなければNPOは発展しない。
    浅地委員
    事業全体として、NPOの方が非営利という基本的なスタンスがあるとすると、税金関係とか、保険関係とか、その辺はどう対処するのか。最低賃金法は守らなければいかぬとなると、時給300 円の給料は給料なのか、給料が一定以上になれば、今度は年金の問題になるし、事故があったとき、だれが保障するかとか。コンプライアンスが企業等に問われているなら、NPOとコンプライアンスの関係はどうか。
    広岡教授
    サービスのあり方といった面ではNPOだからといって優遇する必要はなく、むしろ企業と正々堂々と自由競争すればいい。ただ、差し当たって、しばらくの間は税制の優遇は必要ではないか。
    橘木委員
    NPOの中にも、福祉の目的ではなくて、税制優遇だけを得ようとする、背後にいわゆる黒い団体がいるものがある。区別がなかなか難しい。政府も十分把握できないのではないか。
    広岡教授
    法人格を取ったものは届け出るし、NPO法人は情報は明瞭に全部開示しておかなければいけない。ただ、財団法人、社団法人にも同じ問題があり、企業にも企業舎弟がある。NPOだけの問題ではない。不正は許さないという社会的な正義を貫いていくべき。
    大澤会長
    賃金を上げないので利益が出て法人税を払うとなると、全部の法人の中で法人税を払っているのは2割という状況で、事業系のNPO法人が法人税を払っている比率は、驚くべく高いということか。非営利と営利の違いは、どこにあるのか。
    広岡教授
    それは、法人の持ち主であるところの株主は配当を求めるが、NPO法上で言うと社員が配当を求めない点が違うだけだ。むしろ、同じ土俵の上で競争してもらわないといけない。実際に企画会社を立ち上げるときに、NPOか株式会社か考えると、立ち上げる人によっては株式会社が有利となる。福祉みたいな分野だと社会福祉法人にするよりもNPO法人にした方が小回りが利く。使い勝手のいい法人形態を選べば良く、株式会社とNPOが全然違うんだというふうには考えない方がいい。
     あくまでも今は過渡期で、税制等の支援がないとロールモデルがつくれない。きちんとしたモデルができるまで、しばらくは支援が必要。
    大澤会長
    なぜ、NPOセクター、非営利セクターが成長するが望ましいのかという点に関しては、1つは、公共利益に関わる活動をしていくセクターがそれで食べていける賃金の雇用を提供できれば、公共利益に尽力したいと思っている志の高い人たちに、職業という道を示す点で重要だ。月収10万円のレベルだと、その世界に本当に身を投じたいが、それ以外に生計を立てる方法がない人の機会を奪ってしまう。
     もう一つは、株式会社で上場すると、株価維持のため毎期毎期の決算でキャッシュフローを維持しようとし、リストラが加速されることにもなる。NPOではそういう心配がなく、質の高い雇用を安定的に提供できるセクターになり、金融グローバル化に翻弄されないセクターとして、一国の経済の中で占める比重が高くなれば、国民にとって非常に益するところが大きいと考え、NPOセクターに成長してほしい。
    広岡教授
    心から同感する。本当にそういう考えの方が日本の意思決定の中心にいていただきたい。実態ではNPOを、公共サービスの受け皿としていくとなれば、アメリカでもそうだが、ある時期にはたくさん仕事が来るが、政策が変わると途端にお金が何も下りてこなくなってくるというブレが存在する。これは今後NPOが伸びていったときの課題で、政策が変わると、これまでうんと大きくスタッフをたくさん抱えていたところに、委託金なり補助金なりが全然下りなくなって、リストラという話になる。それをどうやって上手にカバーするかは、今後必ず問題になると思う。NPOよりも企業の方にこそ、余りあざといリストラをせずに、きちんと雇用を守ってもらいたい。NPOは、安定した雇用の場所よりも、自分の夢を追いかける場所という意義も考えるべきで、なかなか難しい。
    高尾委員
    今の先生のお考えは、NPOがある時期はまた小さくなってもいいとか、そういうことではないですね。
    広岡教授
    そうではない。例えばDVに関して、わっとお金が出てくる時期がアメリカであって、それが急に出なくなったりとか、国の政策だけではなくて、助成団体も世の中の流れを見て、額がふくらんだり、縮んだりする。その都度、今度は申請する側が知恵を絞ると、こんな闘いになる。
    高尾委員
    これは、まだ本当に小さい分野で、これが大きくなってくることが、営利企業だけで暮らしにくい日本を変えていくと思うし、小回りの利くところでやっているところの視点は、やはり営利企業を変えていく部分もある。だから、何とか残ってほしい。私はワーカーズ、コネクティブについて少し知っているが、ここは一度つくればつぶれないということで有名だ。ベンチャーなんかが、大体5年経つと5分の1ぐらいに減っているなんていうのと比べて残っている。そういうところが、成長していくべきで、自分一人と、子一人を十分養っていけるだけの給料を取れるようにしなければいけない。
    大澤会長
    ここで予定の時間が来てしまったので、今後の予定についてお願いする。
     今回の調査会のとりまとめのタイムリミットは、当初は今年度中ということを目指していたが、審議事項が多岐にわたるので、今年度中に一旦論点整理を行った上で、来年6月を目途に最終報告をするというようなことではどうか。
     また、年金制度の改正については、厚生労働省の案が昨日、経済財政諮問会議で議論された。資料をお配りしている。
     個別の論点としては、第3号被保険者制度の見直しで、部会の意見では3案が併記されているが、その中の第1、夫婦間の年金分割ということで、厚生労働省の方では案を絞った。
     厚生年金のパート労働者への適用拡大については、年収基準と労働時間基準で議論してきたが、年収の方はさておき、週の労働時間、従来、30時間以上と言っていたのを20時間以上に適用を拡大してはどうかというのが、厚生労働省案になっている。
     これらの個別の論点は、我々の調査会、去年の12月に出した、その提言の一部を取り入れたものであり、評価できると思っている。
     ただし、夫婦間の年金分割は、3号と2号の間だけという一方、離婚のときの年金分割は2号と2号の間でも分割できるとなっており、厚労省案としての整合性という点で疑問な部分もある。
     それから、全体を通じて改正の基本的考え方は、年金部会の意見では、4つの基本的視点の中で「ライフコースに対する中立性と」いう言葉で表現していたが、今回はそれをまとめて、「多様な働き方、生き方に対応して、より多くの者が能力を発揮できる社会につながる制度という視点」としている。この「ライフコース」が、括弧書きで、「生き方、働き方の選択」と表現されていたが、今回、カタカナ語はどうかということで、「多様な生き方、働き方に対応し、より多くの者が能力を発揮できる」という表現に落ち着いたようだ。中身はライフスタイルの選択に対する中立性、ないしライフコースに対する中立性ということで、この原則も、この専門調査会でずっと審議してきて提言した大きな視点であり、改正の基本的考え方の2番目には、それが取り上げられている点を評価できるのではないかと思う。

(以上)