影響調査専門調査会(第22回)議事要旨

  • 日時: 平成15年10月15日(水) 15:00~17:00
  • 場所: 内閣府第3特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    委員
    浅地 正一 日本ビルサービス株式会社代表取締役社長
    大沢 真知子 日本女子大学教授
    木村 陽子 地方財政審議会委員
    佐藤 博樹 東京大学教授
    永瀬 伸子 お茶の水女子大学助教授
    林 誠子 日本労働組合総連合会副事務局長
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○事務局から影響調査事例研究ワーキングチーム中間報告案について説明があり、これについて次のような議論が行 われた。

    佐藤委員
    影響調査は施策の担い手である国や自治体が行う必要性があるが、自己評価が難しい。特に副次的効果は 政策担当者は認識しづらく、これを評価してもらうには、行政を後押しする別の仕組みが必要だ。分析手法はまだ確立さ れておらず、行政が分析手法を勉強したり、見落としがちな副次的効果に気付くためには、研究者が施策について影響調 査の蓄積を行って、行政がそれを参照するという連携が必要だ。従って、研究者自身が影響評価を行い、分析手法を開 発する必要があり、そのためにも、データへのアクセスが必要だ。データに研究者がアクセスして分析すると、もっと議論 すべき点が出てくるかもしれない。研究者がアクセスできれば、別の政策評価の研究が出てくる。それを行政の担当者が 勉強して、生かしていくというような専門研究者との連携が必要だ。このようなニュアンスを報告書に盛り込んでいただきた い。男女共同参画会議やこの調査会が関わった調査について、研究者が利用でき、有益な結果が出そうなデータについ て、影響調査の研究という目的で研究者が使用すると制限して公開することが必要だ。
    木村委員
    報告書では23ページに「仮に、所得分割が導入され、それが広まり、遺族年金が自ら年金に置き換わるケー スが増えれば、そうした事態の発生は少なくなるのではないかと考えられる」としているが、所得分割が導入されれば遺族 年金制度はおのずと無くなるという趣旨か。
    大澤会長
    制度の存廃よりも、自分の年金になるので受給者は減るという趣旨。あらかじめ分割されれば、遺族年金が 半分以下になり、それは自分の年金になる。
    木村委員
    老齢年金の所得分割をすれば遺族年金が将来的にはなくなると考えているのか、所得分割しても遺族年金 をやっている国もあるが、その兼ね合いはどうか。
    大澤会長
    制度そのものが直ちに無くなるとはせず、移行期間を取っているが次第に自分の年金に移るケースの方が、 もう少し平準化するのではないかという趣旨。
    浅地委員
    今回の報告で、調査手法として挙げている項目が、政策の優先順位につながることを意味しないと理解して 良いか。
    定塚参事官
    この部分は、昨年末の報告書からそのままとったもので、政策の優先順位を示すものではない。
    大澤会長
    今まで幾つかやったことや地方公共団体の取り組みの中から抽出できる方法は、こうではないかという話だ。
    永瀬委員
    目次に、「調査項目1、調査項目2」と載っているが、内容が出た方が分かりやすい。もう少し分かりやすい ネーミングが必要。
    大澤会長
    また更に必要であれば御意見を伺うこととし、今日の御指摘を踏まえてワーキングチームの中間報告とする。

    ○続いて、明治学院大学 笹島芳雄氏より、男女間の賃金格差問題について説明があり、これに基づいて次のような議 論があった。

    木村委員
    資料2-1の表「男女間賃金格差の要因分析」で、様々な格差要因を同じにすれば、77%強まで説明できる とのことだが、残りの23%をクリアにするべき。例えば、全く同じ職種で比べた場合にも差が出て、同じ仕事であっても、女 だから賃金が低いと見出されるのか。また、手当で分類しているが、生活給と能力給という対比の中で、生活給全体をどう 考えるか。3番目に、格差要因としては職階が一番説明力が大きいとされ、職階の格差を縮めるには、女性が社会科学分 野に進むべきとしたが、現在、企業の管理職に就いている女性と出身学部との間の相関関係は疑問であり、はっきりした 実証的な因果関係を伺いたい。
    笹島教授
    職階と同時に勤続年数が縮小すれば更に6ポイント縮小するという意味で、職階に併せて勤続年数その他の 平均値で差が縮小するなら、格差は77.2以上に接近する。生活給は、労働対価に見合わない賃金で、本来はなくなるべ きと個人的には考える。ただ、日本の社会システムから直ちになくすことは疑問だ。 昇進と大学での専攻との関係につい ての趣旨は、職階だけを縮めることは現実には不可能で、様々な変化との合わせ技で職階も縮まるという例示に過ぎな い。
    木村委員
    職階で77%までそろえて、年齢とか企業規模をそろえても85%で15%残る。残差の中で一番の本質的な部 分である同一労働同一賃金が守られているか、はっきりした結果は出ているのか。
    笹島教授
    同一労働同一賃金に反していれば労基法違反となる。ただ、実態的には男女差別が存在すると思う。また、 現在の法律では同一価値労働同一賃金を実施しろとは読み難い。例えば、看護士の賃金が大変な仕事に比べて相対的 に低いという実態もあり、社会全体で見ればアンバランスがあるだろう。
    木村委員
    同じ能力であっても男だから昇進しやすいということがある場合には、それを差別と言うと、賃金格差には職 階が一番大きく働いていると見て良いか。
    笹島教授
    統計技術上の制約で職階からの分析になったに過ぎず、配置や能力開発といった問題を地道に解決するこ とが結局は最適な戦略だと思う。
    浅地委員
    調査の中で、地域差の結果が出たか。
    笹島教授
    研究会では、地域別には分析せず、あくまでも日本全体の合計値で判断した。
    大沢委員
    仕事を辞めた女性に聞くと、子どもを持ったときに多く辞めている。結婚で辞めた女性についても、結婚よりも 子どもを持った時の業務中断が退職の原因。雇用管理制度上は問題ないとしても、実態として子どもを持った女性たちの 離職が頻繁で、結婚している人での男女の賃金格差は大きいかも知れない。格差が90年代に正社員間で縮小していて も、実はそういう人たちがドロップアウトしているということが背後にあるのではないか。従って子どもを産んでも差別され ず、待機児童対策等の就業継続施策が重要になる。
    笹島教授
    女性が働きにくい職場環境が現実に存在する。女性が働きやすい環境整備が進めば、格差も縮小する。ご 指摘はその通りだが、厚生労働省ではパートタイマーの研究会が別にあり、議論が重複しないよう正社員に絞って分析し た。男女間の賃金格差の縮小の背後に、ご指摘のようなことが影響しているとする別のペーパーがある。
    浅地委員
    労基法では1年以上の有期契約は認められていない。それ以上だと定年までとイメージしても、高校や大学 を出て、そのまま定年までいるイメージは沸きにくい。競争とか生産性という問題がある中で、むしろこれだけ働きたいとい うところから差別ではなくチャンスを作るという考えもある。それで、1つのキャリアを積み、また次のジョブに移ってポータ ブルに能力がつく。
    笹島教授
    労働市場が流動化し、転職しやすい労働市場になれば、長期勤続や転職、結婚退職して子育て後に復帰と か様々なことが可能になる。それは、恐らく女性にとっても働きやすく、能力発揮につながる労働市場になるのではない か、それが男女間の賃金格差にもプラス効果があるのではないか。
    永瀬委員
    男女の勤続年数が延びると格差が縮小するというが、そこだけを重視すると、正社員に入りにくくなる。90年 代に正社員の中では賃金格差は縮小している一方、非正社員が拡大している。法制度の中で規制等を課さず労使間交 渉に委ねてばかりでいられないくらいに格差が拡大している部分がある。正社員の中での男女格差の縮小だけを考えて も、非正社員の部分に不均衡に女性が出ていくことになると問題があり、法規制についてどの様に考えるか。
    笹島教授
    正規社員と非正規社員の均等待遇問題で、どのような就業形態でも、同じ仕事、能力であれば同じ賃金を支 払うべきという点は、研究会の範囲外だ。個人的には、今の経済情勢からして、おのずと均等待遇化に向かうと考える。
    大澤会長
    関連して、国内法の中に男女同一労働同一賃金だけでなく、同一価値労働も含めたものが入っており、ILO 第100号条約は批准している。それから、基準法第4条の立法趣旨のときに同一価値の考え方が入っていたことからすれ ば、研究会のスタンスで同一価値労働は排除されたとまでは言えないのではないか。
    笹島教授
    私は研究会に参加するときに、最終的には同一価値労働同一賃金を主張する研究会になると思っていた。し かし、100号条約の趣旨は、要するに男女間の差別が賃金制度上なければ問題ないというもの。同一価値労働同一賃金 を定める法律があってもいいかとは思うが、研究会の目的自体は、むしろ男女間での差別のない賃金の達成にあり、同一 価値労働同一賃金の普及までは言及せず、現状の制度の下でも運用をきちんとやればいいという結論になった。
    永瀬委員
    間接差別は扱わなかったのか。
    笹島教授
    間接差別の概念等がはっきりしていない中、書き込むことが果たして妥当かどうかという議論があり、今後の 研究課題としている。先ほどの正規・非正規の違いへの対応は、政府がアクションを取らなくてもおのずと外国の事例に 接近していくのではないか。例えば、正規社員の定型的労働の部分の賃金が相対的に下がるか、アウトソーシングされ、 定型的労働には賃金の低い労働者が従事する傾向が見られるのではないか。法制度となれば、ヨーロッパ型のような考 えを実施していくのが1つの方向。
    佐藤委員
    フルタイムとパートの均等なり均衡はパートタイム研究会でやったが、フルタイム間の比較対象をなぜ正社員 に限定したのか。フルタイムで年契約の人もいる。実際上、従来の正社員一般職の部分が、パートだけでなくフルタイムの 年契約等に相当シフトしている。
    笹島教授
    報告書でも正社員とかフルタイムという言葉は特に何も出ていない。「一般労働者の所定内給与に関する男 女間の賃金格差」が対象で、一般労働者とは、一般的な所定労働時間が適用されている労働者で、パートタイム労働者 を含まない労働者を指し、フルタイム労働者であっても臨時・日雇い労働者は除かれる。これは、ベースとした統計が賃金 構造基本統計調査であるからである。
    佐藤委員
    そうすると、同じ雇用形態の中での賃金格差という議論はあり得、同じ雇用形態の中のコース別は問題にさ れるが、雇用形態を超えてしまえば、フルタイム同士というのは議論の対象にはならなくなる。そこはこれから議論すべき 課題で、パートタイム研究会はフルとパートで、フル・フルの間でも雇用形態を超えてしまうと、どこもカバーしない。
    名取局長
    男女間の賃金格差の要因分析について、この職階の11.2%とは、学歴とか勤続年数の影響を抜きにした職 階だけの縮小幅と考えるべきなのか。
    笹島教授
    そのように考えていただいて結構だ。
    木村委員
    8ページの第1図で、均等法以後、男女の所定内給与格差は15年掛かって5%縮まったとあるが、この格差 縮小の要因としては何が一番大きいのか。
    笹島教授
    7ページの上の<2>だと、長期的な縮小傾向の要因として年齢、勤続年数、学歴は小さいとある。
    永瀬委員
    他の論文からの理解では、男性と女性で全く属性が同じだった場合にどのくらい賃金差が縮小するかという 話と、男性と女性で学歴の評価、年齢の評価、勤続の評価が違うことがどのくらい賃金格差を生んでいるかという話が通 常の分解で、通常の分解では年齢の効果が男女で非常に違う。つまり、男性は年齢が上がると賃金がぐっと上がるけれ ども、女性は同じ年齢でも余り賃金が上がらないことが非常に大きな賃金格差の原因になっている。ここでは、それを 1990年と2000年の二時点で分解していて、その二時点に関して縮小があったのはどこの部分であったのかというのを見 ると、属性や評価の格差が縮小したということは余りないが、説明できない誤差 項部分の要因で縮小したとしている。こ れがどこかというのを解釈すれば、業務内容や職務遂行能力などの面で格差が縮小したのだろう。
    大澤会長
    この研究会が設置されたこと自体が大変意義深い。報告書7ページに統計的差別だけではなく、女性に対す る差別意識も影響していると言い切っている。従来は機会が均等であれば、結果として出ている格差というのは問題がな いというスタンスで、とりわけ均等法は機会の均等に関する法律だから、結果として出ている賃金格差については労基法 の問題としてきて、均等法行政の中で賃金格差を扱ってきたことはなかった。このたびそれを扱って、「男女間賃金格差は 女性の能力発揮を示すバロメーター」と示すことは大きな意義がある。
    浅地委員
    労働省と厚生省が一緒になったときに、地方事務官制度が無くなった。雇用の問題は地域の問題であるが、 都道府県労働局から国の一元行政になってしまった。、基準行政で男女共賃金格差解消という形ではいけない。結局は 地域の雇用者に意識をどう植えるかという一点に絞られる。トップにどうやって行政がアプローチできるか。
    笹島教授
    いろいろな企業で男女間賃金格差を計算し、その年次推移を見てもらって、それが縮小するようであれば、そ れだけ女性の活用が進んだとそれぞれの企業が判断する。これは簡単にできることですので、いろいろなところで計算し たらいい。
    大沢委員
    男女の賃金格差を縮小することの最終的な目標というのは、この研究会ではどこに置いたのか。6割しか女性の能力が発揮できていないことは、結局は経済合理性から見て、非効率的なので上げた方がいいという趣旨か。
    笹島教授
    諸制度の下で、企業は恐らく経済合理的に行動している。そのときに女性を採用するか、男性を採用するか。 男性の方が長時間働くじゃないか。それは差別かもしれないが、各企業が合理的に行動している結果として、女性の進出 が抑えられている面もある。だから、社会のシステム全体で男女同等に進出できる仕組みづくりが必要だ。この研究会自 体は単純に男女間の賃金格差の縮小だけだが、その先は結局、男女双方にとって働きやすい社会の形成になる。
    大沢委員
    経済産業省の研究会でも、女性の活用が進んでいる企業の業績が高いといっており、企業から女性の活用 で受け入れている学生もいる。ご指摘のように昔は思っていたが、その結果として自分たちが遅れていった。今のサービ ス産業化で、女性の家庭内での力が非常に強くなり、夫婦間の力関係の変化とか、市場の変化というものが女性の能力 活用というものを必要としているが、日本の企業は出遅れた。そこで今、業績を上げるためにどうしたらいいかと発想したと きに、男女間の賃金格差を解消して、女能力開発の機会を増やすことによって女性の力を能力を活用する機運が生まれ てきたのではないか。
    笹島教授
    女性を活用できるような働き方を目指せば、おのずと効率的な働きにつながっていく可能性がある。日本の企 業は結局、長時間労働をやっても、かえって効率が下がっている側面が結構ある。そこで女性が働きやすい職場、システ ムをどの企業でも追求していけば、生産性が高い職場になるのではないか。

    ○ 事務局から、社会保障審議会の年金部会について説明があった。

    大澤会長
    年金部会委員として、「年金改革の基本的な視点」というところで4点ぐらい挙げられているが、「多様な働き 方に対応し、より多くの者が能力を発揮できる社会につながる制度とする」、「個人のライフコース(生涯にわたる生き方、 働き方の選択)に対して中立的な制度とするという」、この2点がほかの持続可能性とか信頼と並んで基本的な視点として 挙げられており、これらは従来、女性と年金の問題として付随的に扱われてきたことが改革全体の基本的な視点とされた ということで、こちらの基本問題専門調査会が従来言ってきたこと、あるいは男女共同参画会議が主張してきたことという のが今回の年金改革の基本的な視点の中にも取り入れられているということは留意していいのではないかと思う。

(以上)