影響調査専門調査会(第16回)議事要旨

  • 日時: 平成14年10月1日(火) 13:30~16:00
  • 場所: 内閣府第5特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    委員
    大沢 真知子 日本女子大学教授
    木村 陽子 地方財政審議会委員
    福原 義春 (株)資生堂名誉会長
    橘木 俊昭 京都大学研究所教授
    高尾 まゆみ 専業主婦
    永瀬 伸子 お茶の水女子大学教授
    林 誠子 日本労働組合総連合会副事務局長
  2. 議題次第
    • 1 医療保険について厚生労働省ヒアリング
       <報告者> 厚生労働省保険局総務課
    • 2 取りまとめに向けた議論
    • 3 その他
    • (配布資料)
      資料1
      第13回影響調査専門調査会議事録
  3. 概要

    ○中間報告書のとりまとめの際に、今後議論すべきという意見があった医療保険について厚生労働省からヒアリングを行い、次に、前回に引き続き年末の報告とりまとめに向けた 議論が行われた。

    ○はじめに、厚生労働省から医療保険の個人単位化の現状や、特に、中間報告への意見にもあった「一人一保険証」の現状について説明があり、次のような議論が行われた。

    永瀬委員
    年金同様、健康保険も、夫婦で加入する制度が違えば保険料率が異なってくることについてどう考えるか。
    厚生労働省
    国民健康保険制度は、所得捕捉がサラリーマンと異なるので、異なる負担になるという考え方があるが、給付と負担をできるだけ同じにし、公平化を図ることは望ま しいと考える。
    橘木委員
    公平性を確保するためにはどのような人も共通の1つの医療保険制度に加入することが望ましいのではないか。
    厚生労働省
    いわゆる制度の一元化について、全国民が1つの制度に加入する場合と、制度が分立したままで負担と給付が公平な状況と2通り考えられるが、年金と違い、財政 的な規模のメリットというより、個別の地域のニーズに答えるという観点も踏まえながら、議論を進めていかなければならない。
    大澤会長
    夫が雇用者で、妻がパートタイム労働をする場合、妻の労働時間や収入が増えた時に、保険証まで変わってしまうのは都合が悪いことから、夫の扶養家族にとどまる 人もいるのではないか。どのような状況にあっても同じ制度に同じ資格で加入できる限りで、制度はライフスタイルの選択に中立的なのではないかという議論もあったが、年金と異 なり、すでに国保で所得や資産から負担能力を把握している医療保険では、一元化の可能性がより大きいのではないか。
    厚生労働省
    保険料の賦課方法が税と同様であっても、基本的に年金と一緒に検討するという点で、年金の次期改正の方向も踏まえる必要がある。また、医療保険については、 子供や高齢者の扶養の問題をどう考えるのかという点が年金と異なり、独自の問題として考慮しなければならない。
    大澤会長
    被用者健保で、共働きや単身の人にとって、他の人の家族療養費として保険料の3割程度使われているとすれば、応益的な観点から問題にはならないか。
    厚生労働省
    全く収入のない被用者への保険料徴収の問題は年金と同様にある。年収のない者に保険料を賦課した場合に、誰が負担するのか、事業主負担をどう考えるか、一 定の配慮をしている低所得者との公平性の問題などの観点から検討を進めた上で、国民的な合意を得なければならない。
    坂東局長
    一人一保険証について、平成14年の省令改正で保険者の判断で発行できることになっているがまだ、実際に実現しているところは多くないのではないかという厚生労 働省の説明があったが、ICカード化との関連はあるか。
    厚生労働省
    カード自体には、データを入れない方向で検討が進んでおり、そういう観点からの一人一保険証に対する反対はないのではないか。
    高尾委員
    健康保険の被保険者本人しか給付されない出産手当金について給付は伸びているのか。
    厚生労働省
    働く女性が増えてきている中で、手当金の給付は増えていると思う。

    ○次に、前回に引き続き、公的年金を中心にとりまとめにむけた議論が行われた。

    大澤会長
    若年配偶者への遺族年金について、ライフスタイルの選択への中立性以前に、明文上の男女の取り扱いの差があり、経過期間を置きながら解消していくべきというこ とではないか。
    また、社会サービスのあり方も、税の直間比率等も各国ですべて違うので、当調査会では、実在の制度の中立性を検証することではなく、モデルで検討することがよいのではな いか。中立性の観点からは、スウェーデン型の他にもう2つ上げられるだろう。1つめは、3号を一律1号にして定額負担をするということ、2つめは、基礎年金部分は全額税方式に することで、1、2、3号という区別自体がなくなり、選択肢そのものもなくなるケースである。
    橘木委員
    基礎年金全額税方式は、財源を消費税か所得税にするかなどについて合意はないが、3号被保険者の中立性の問題を解決するためには、1つの選択肢ではないか。
    大澤会長
    スウェーデンやドイツは世帯類型・所得水準に関わらず、年金給付の所得代替率は一律で、制度内再分配はない。日本やアメリカは、片稼ぎに厚いいっぽうで、低賃 金である女性が単身者の場合の所得代替率も高い。アメリカはベンドポイントと配偶者年金により所得代替率に差がでるが、日本は基礎年金制度により差が生じる。日本でス ウェーデンのように所得代替率が同じ制度にして、年金の制度内での再分配をやめると、女性単身者の所得代替率が現状より低くなる。従って、男女の賃金格差を縮めないと女性単身者が今までより不利になってしまうという問題がある。
    福原委員
    完全な中立性が確保できる制度はないとしても、賃金格差の問題以外に公平性に近づけるためのプライオリティを決めることも必要ではないか。
    大澤会長
    スウェーデン型をかなりシンプルにモデル化した場合の、中立性の観点から見たメリットや女性の単身者の所得代替率が低くなるといった問題点、基礎年金を税方式 にする場合のメリットと問題点など、3つくらいに分類して並べて、制度の中立性を検討することではないか。
    永瀬委員
    就業年数の違いを検討した方がいいのではないか。また、中立性と所得再分配の両方への目配りをどう考えるのか。全くの所得比例にすれば、中立性は確保できて も、低所得者は困窮する。
    福原委員
    中立性が目的ではなく、所得再分配をする時に中立性をもつようにすべきだということではないか。
    橘木委員
    中立性の問題ばかり追及するのではなく、いわゆる再分配的な要素も無視できないということではないか。
    大澤会長
    無視できないというか、所得再分配を通じて女性に一定程度有利になっていた部分が失われるがそれについてどう考えるかということではないか。
    大沢委員
    現行では、就業形態に対して中立的な採用になっていない。事業主が、年金負担を逃れる行動が増え、保険料負担をしないですむ就業形態しか提供しないとすれば、 使用者側の中立性の問題も非常に重要ではないか。
    木村委員
    日本では厚生年金が所得再分配をしているということではないのか。
    大澤会長
    女性の労働力率と合計特殊出生率の関係について、事務局にデータをとってもらったが、意見はないか。
    福原委員
    アメリカは多民族国家であるということも影響しているのではないか。
    大澤会長
    イタリア、スペイン、フランス、オランダなどカトリックの影響力の強い国では、中絶や産児制限が公認されていなかった時期をどうとるか注意する必要がある。
    大沢委員
    かつて、家族従業と雇用者と非就業の3つのグループで見たときに、家族従業と専業主婦世帯は子供の数は変わらなかったが、雇用就業世帯の出生率は低かった。 育児環境の違いが出生率に影響しているのではないか。また、沖縄は地域コミュニティができているということもあるのではないか。
    福原委員
    長野県は、高齢化も進み、女性労働力も進み、医療費が少ないという点で研究すべき地域とも言われているが。
    大沢委員
    3世代同居の影響もあるのではないか。
    高尾委員
    フランスは労働時間を減らしたのを増やそうとする動きもある。労働時間が減っていて、両性が家にいる時間が長くなれば、少子化をとどめるのに一番いいのではない か。
    大澤会長
    その他、平成13年度パートタイム労働者総合実態調査の結果が出たが、何か意見はあるか。
    永瀬委員
    パートについて、正社員との賃金差を納得できないというパート等労働者数割合が意外に少ないというが、配偶関係も知りたい。
    大沢委員
    パートについて、今後の就業継続希望を見ると、正社員になりたい人が余りないというが、正社員の働き方の捉えられ方によるのではないか。他の調査ではチャレンジ をしたいという女性の意識はかなり増えている。ここでは正社員の働き方が日本の場合は非常に労働時間が長かったり、拘束性が強いと捉えられて、女性には無理ということが反 映されているのではないか。
    大澤会長
    パートとしての働き方を選んだ理由について、自分の都合のよい時間(日)に働きたいからというパート等労働者の割合が比較的多く、正社員として働ける会社がない からというパート等労働者の割合が多くない。ただし、5年おきの調査ごとに、前者の割合は減って、後者の割合は増えており、しかも今回は大幅に増えている。非自発的パートの 傾向が強まっているといえるのではないか。
    永瀬委員
    年収等の調整の必要がないというパート等労働者数割合が増えたが、週20時間労働を提供する企業が増えたのではないか。ここ10年くらい、パートの平均労働時間 は減少してきている。
    林委員
    年収等の調整をしているパート等労働者数割合が22.6%というのは、少なく感じるが、調整の必要がないというパート等労働者数割合が35%であることは、すでに最初 から労働時間が短く設定されているのか、年収等の調整しているということと同じ意味合いをもっているのではないか。
    また、正社員との賃金差について、低いと意識したことがあり納得できないパート等労働者数割合が15.8%、納得しているというのが21%しかないが、比べられる正社員がいない ということは、必ずしも正社員との賃金差について納得しているとはとれないのではないか。

(以上)