影響調査専門調査会(第15回)議事要旨

  • 日時: 平成14年9月10日(火) 16:00~18:00
  • 場所: 内閣府第3特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    委員
    神野 直彦 東京大学教授
    福原 義春 (株)資生堂名誉会長
    橘木 俊詔 京都大学経済研究所教授
    高尾 まゆみ 専業主婦
    永瀬 伸子 お茶の水女子大学助教授
    林 誠子 日本労働組合総連合会副事務局長
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○年末の報告とりまとめに向けた議論を行うため、事務局から、<1>中間報告に対する国民や委員の意見を踏まえた対応例、<2>税制改革や社会保障制度改革等を巡る最近の動 きについて説明をした後、中間報告の項目毎に区切って議論を行った。

    大澤会長
    報告の全体的な枠組みについて、雇用システムは、来年以降時間をかけて検討することとして、12月のとりまとめまでに見直すべき点を絞ること、子育て支援策に関 し、中間報告では余り触れてなかったが、今後、適宜新たに項目を立てて記述していくことについて意見はあるか。また、中間報告の鑑・序説について意見はないか。
    林委員
    専業主婦の果たしている役割をもっと評価すべきという国民の意見があるが、これまで果たした役割を追加する際には、今後について唯一ととられかねないような書き 方は避けなければいけないのではないか。
    大澤会長
    夫が雇用者の専業主婦のみならず、共働きの雇用者も自営業の人々も、家庭の中の子育て、高齢者の介護、地域活動など、様々な意味で無償労働を担ってきてい る。しかし、人口構造のうえからもこれ以上無償労働に期待することは難しいため、制度の見直しが必要ということもあるのではないか。
    高尾委員
    無償労働は、地域でも学校でも期待できなくなっている。生協やPTAの役員報酬や有償ボランティアが、ワーカーズコレクティブなど女性の雇用にもつながっていくの かなど今後の見通しも必要なのではないか。
    また、我が国の子育て支援レベルの分析を付加する場合、民間のデータなどもあれば理解が深まるのではないか。
    永瀬委員
    専業主婦を優遇すると、フルタイム女性の賃金が上昇する結果となり、専業主婦の優遇は市場メカニズムが働くとすればでき得ないという見方があることを前回高山 委員がご披露されたが、何が代替生産要素、補完生産要素であるかによって見方は異なると思う。専業主婦を優遇するとパート賃金が下がる可能性、あるいは専業主婦を配偶 者とする男性の賃金があがり、専業主婦の配偶者がいないフルタイムの男性の賃金が下がる可能性もあり、一概には議論が難しいのではないか。
    大澤会長
    中間報告では、専業主婦が優遇されていると書いたわけではないので、一般にも誤解があるとすれば問題である。労働力率と合計特殊出生率の相関等については、 他の分析結果を組み合わせるという方法があるのではないか。また、育児支援策の厚さ薄さが指標化できれば経年の出生率の増減との相関がでてくるのではないか。他に中間 報告の「現状」部分について意見はないか。
    福原委員
    統計の取り扱いについて、擬似相関を一度仮定してしまうと、それに近い数字がでるように間違った政策をとるという心配があるのではないか。
    永瀬委員
    出生率と合計特殊出生率の関係で、自治体レベルでは保育所が充実しているほど出生率が上がるようである。一般的に出生率と保育所の充実、出生率と労働力率 に関しては少なくとも負の相関はない。日本では地方で女性の就業率が高くかつ出生率が高いというのは事実であるが、保育園や男性の働き方など様々な要因を考慮した確立さ れた結果というのはない。支援全体のあり方によるのではないか。
    福原委員
    就業率が上がると、有料託児所を使える可能性が高くなるということはあるのではないか。
    永瀬委員
    因果関係で見れば、保育料が高いと女性の就業率が落ちるという結果がでているが、就業率が上がると保育料の高い保育園の利用が増えるかどうかはデータが不 十分である。
    大澤会長
    重要なことは、男女共同参画の更なる推進が少子化を進めるというイメージは、事実によって裏付けられないということではないか。
    福原委員
    国民からの意見は、専門的な意見が多いのではないか。直感での感想も必要ではないか。
    事務局
    配偶者控除、配偶者特別控除をなくして増税にするという報道の直後は、国民からのおしかり、反対の意見が多かった。
    大澤会長
    当調査会は、かならず負担を調整するといっており、増税せよなどとは言っていない。
    神野委員
    税の公聴会などのアンケートでは、増税や益税についての理解は割とあるが、配偶者控除・配偶者特別控除の廃止については、全体としてのメリットが充分理解され ていないのではないか。
    高尾委員
    配偶者控除・配偶者特別控除の縮小問題に関しては、意見が拮抗しているが、反対意見は女性の自立を増税の逃げ道にするなと捉えているようである。男女共同 参画という立場の理解が充分ではないのではないか。
    永瀬委員
    妻の賃金は一般に低い。しかし配偶者控除や特別控除があり、健康保険、年金などにおいて、夫を通じた保険料負担なしの保護があるので、格差があっても仕方がな いと思ってしまう部分もあるのではないか。しかし小さい保護と大きい賃金格差の存続は目指されるべき方向ではないだろう。税制のみではなく、社会保障制度全体が男女共同参 画型に変わることは、賃金格差改善の一つの前提ではないか。非正規の仕事に就いて非課税限度を超えた場合、夫の所得が、配偶者手当がなくなる、ボーナスが下がるなどで 下がる構造があり、夫の方からも非課税限度までにおさめるようプレッシャーがかかるというのが現状ではないか。
    大澤会長
    中間報告の「II.政策等の方向」について、意見はないか。
    永瀬委員
    社会保障と税だけではなく、地方公共団体のサービスなどを総合的に考えなければならないのではないか。
    林委員
    配偶者控除廃止の意義は、社会全体の仕組みの問題であるので、個人にとっての意義とはわけて考えなければいけないのではないか。
    また、遺族年金について中間とりまとめの議論の際に、木村委員は所得の低い人に配慮しつつ除々に縮小・廃止という意見を出されたが、当調査会でのコンセンサスをどう捉える か。
    永瀬委員
    今のままで遺族年金をなくすと、女性の全体的な貧困は確実に上がってしまう。
    大澤会長
    私は、当面は適用除外を認めつつ年金分割すべきだと考える。そうすれば老齢時の遺族年金は不要になる。ライフスタイルは自己選択の結果と考えれば、若年で遺 族年金を受けとれないリスクについては、自己責任で備えるべきで、オプション化というのはありえるのではないかという議論はしたが、必ずしも全員一致していない。
    神野委員
    男女共同参画は、男性にとってもメリットがあり、専業主婦にとってもメリットがあるはずだが、そうした表現が必要ではないか。
    大澤会長
    今の制度は中立的ではないが、どういう制度が一番中立性を確保できるかは今後の検討課題である。例えば夫婦間で年金分割すれば、世帯としての保険料負担は 同じで、専業主婦も自分名義の報酬比例年金を持つことができるというメリットがあるなど、ケーススタディをすることがいいのではないか。
    永瀬委員
    年金分割は原則として良いとしても、現状の3号を残したまま(1階部分と2階部分の現行の比率のまま)、2階部分の年金分割を入れただけでは、と既婚女性の就業努 力と保険料納付があまり年金に反映されない構造は残る。検討すべきいろいろな問題があるのではないか。
    大澤会長
    年金給付の所得代替率が一番高いのは、片稼ぎ夫婦で、女性単身者が続く。
    スウェーデンはどの世帯類型でも所得代替率が同じという点で完全に中立的である。健康保険、介護保険、企業の家族手当等について意見はないか。
    特に企業の家族手当等について、中間報告では基本給に振り替えるというふうに書いたが、そうではなくて従業員本人の選択を拡大して、企業はメニューだけを提供するという考 え方にすることについて意見はないか。
    永瀬委員
    選択肢を広げるという方向はいいが、現状、何に振り替えるかによって、税金や年金給付が異なりうる制度となっていることに留意する必要がある。
    大澤会長
    中立性を確保するため、フリンジベネフィットの労働費用も含む、総労働費用に応じた社会保険料などをかけるということも考えなければならないのではないか。
    また、雇用システムの箇所について、「日本的均衡処遇ルール」という表現が適切でないとすれば、どういう表現がいいのであろうか。また、12月まで最小限検討しておくべきこと は何かなどについて、意見はないか。
    林委員
    単に「均衡処遇ルール」として国際労働基準にのっとり、共通なルールでやっていけばいいのではないか。
    橘木委員
    「日本型」では実体がわからないので、もっと具体的なことを書いて欲しいということではないか。
    林委員
    「日本型」というと、進んでいる国のしくみをつまみ食い的に取り入れるという傾向があるのではないかという趣旨である。
    大澤会長
    働きに見合った処遇という表現についてはどうか。
    林委員
    構わない。
    大澤会長
    雇用システムについての時間をかけた検討は次の議題としたい。税制・社会保障制度についても他の審議の進捗状況をみながら、当調査会で年内に報告をまとめる。 その後も引き続き審議はしていく。

(以上)