影響調査専門調査会(第9回)議事要旨

  • 日時: 平成14年3月18日(月) 14:00~16:00
  • 場所: 内閣府第3特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    委員
    大沢 真知子 日本女子大学教授
    木村 陽子 地方財政審議会委員
    神野 直彦 東京大学教授
    高尾 まゆみ 専業主婦
    橘木 俊詔 京都大学経済研究所教授
    林 誠子 日本労働組合総連合会副事務局長
    福原 義春 日本労働組合総連合会副事務局長
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○前回に引き続き、事務局から影響調査専門調査会中間報告について説明があり、これについて次のような議論が行われた。

    中間報告書については、20年から40年後の少子・高齢・人口減少社会に適合する制度改革の方向性を打ち出し、個人単位 化の方向性を明確にする必要がある。

    中立性を議論するには、社会保障、税制それぞれがどういう問題を持っているかという視点も必要である。年金については、 適用拡大と同時に、年金保険料の引き上げに限界もあるため、働く意欲を阻害しないように財政問題も考慮し、個人単位化に 向けた早急な対応が必要ではないか。所得税については、家族の取扱に対する見直しや、高齢社会にふさわしい負担となる よう、所得納税者の偏りも考慮することが必要ではないか。
    また、少子・高齢・人口減少社会では、非正規雇用者で働く女性が増える中で、労働力人口に対処するという問題意識ももつ 必要がある。
    さらに、中間報告書の文言は厚生労働省の女性と年金検討会の報告書の整理を土台とすることは避け、簡潔にかつ積極的 なものにするのが望ましいのではないか。なお、厚生労働省の女性と年金検討会の報告書は、個人単位化しないという方向性 であるので、本調査会の報告書に取り上げるのは疑問である。

    橘木委員
    厚生労働省の検討会が個人単位化に反対していると理解できるのか。
    木村委員
    個人単位化のメルクマールである第3被保険者の保険料拠出や遺族年金をなくすことについては、国民的議論を期待すると いう意味で否定的であると考える。
    福原委員
    年金保険料だけでなく、社会保険料すべてに引き上げに限界がある。一方、簡素でフラットな税制にすると、税収にも限界が あるので、ヨーロッパ並に間接税率を上げることが節税、脱税等の観点からも有効なのではないか。非課税所得を下げる場合、 その所得部分は捕捉しづらいということはないか。
    橘木委員
    所得税のシェアを減らし、消費税、付加価値税等でサービスに見合う負担を求めることが望ましいのではないか。
    大澤会長
    日本は主要国の中でもっとも個人所得税が軽い。社会保険料は、西ヨーロッパ並で非常に重くも軽くもない。これに対し、消 費税はやや軽いということを考えれば、個人所得税に負担を求めることが望ましいのではないか。
    神野委員
    所得税のウェイトが諸外国と比べて非常に小さいのに、消費税だけ上げることは難しいのではないか。社会保障を充実させる なら付加価値税を上げなければいけないが、所得税の抜け穴をふさいだ上で消費税をあげることが望ましい。低所得者層への 負担を求める税構造にするなら、低所得者層へ還元策とセットで行うことが望ましい。なお、消費税はインボイス方式ではない ので、徴税率が高いかどうかは議論の余地がある。
    木村委員
    所得税は、人的控除が非常に大きいために負担が偏りがあるため、負担配分の見直しは必要である。また、年金の個人単 位化という大枠の合意が重要であり、具体的な制度の内容は問題提起という形で並記していいのではないか。
    大澤会長
    個人単位化は、男女共同参画ビジョンや「骨太の方針」等の閣議決定で示されており、本調査会の中間報告の大筋であると いうことでよいと思う。
    神野委員
    税制について、配偶者特別控除があるために同じ所得の共稼ぎ世帯と専業主婦世帯の負担が逆転してしまうという個人単 位ではあり得ない減少が起きてしまうことが問題である。従って、個人単位だが、世帯への過大な配慮が含まれているという記 述にしてはどうか。
    橘木委員
    男女賃金格差はフルタイムとパートタイムの間で拡大しているのではないか。
    大沢委員
    正社員は拘束性があり、パートタイマーは拘束性がないということが、賃金差の原因であり、問題である。
    林委員
    フルタイムの男女賃金格差は縮まっているが、低賃金のパートタイマーの女性が増加することによって、全体として男女の賃 金格差が拡大しているのではないか。
    大沢委員
    女性は、育児や結婚に関わらず離職する傾向があるのではないか。また、就業継続するかしないかという2極分化しているの ではないか。
    福原委員
    自己実現のために転職するという時代になっているのではないか。
    大沢委員
    雇用システムの個人単位化に際しては、労働市場の整備も忘れてはいけない。雇用システムを個人単位化する時に、正社 員の賃金体系が仕事単位になり、家族の配慮がないものになるということを前提と考えるか。
    大澤会長
    雇用システムに関するアンケート調査の結果では、いわれるほどには個人単位化の方向に進んでいない。つまり待遇等の性 別格差を解消することはもとより、実情にそぐわない世帯単位を個人単位に改めるべきであるということか。
    大沢委員
    その通りである。また、良好で多様な労働形態の存在が労働者と企業の双方にとってメリットとなることが望ましい。
    神野委員
    税の場合は、個人単位化しても子どもは所得がないので納税しなくても、支出とリンクしないので問題がないが、社会保障を 性急に個人単位化する場合、子どもの扱いはどうするのか。
    大澤会長
    社会保障においては、たとえば子どもも含めて1人1保険証として、収入のない人は保険料免除すれば成人の低所得者も子 どもも同じではないか。社会保障の性急な個人単位化は避けるとして念頭においたのは、夫婦間の年金分割を採用するとすれ ば、それは夫婦単位になるからだ。
    神野委員
    社会保障の個人単位化に異論はないが、所得がないので保険料負担を免除する、家族配慮する等、いろいろな方法がある のではないか。
    木村委員
    年金分割は世帯単位ではなく、分割後の記録は個人に帰属するから個人単位という位置付けではないか。
    大澤会長
    木村委員は他の報告書の引用をしないという意見だが、全くしないというのもどうか。厚生労働省の女性と年金検討会報告書 は公的年金の問題点を整理したのは事実であるから、当調査会が参照するのは自然であろう。女性と年金検討会に対して当 調査会での検討には、男女共同参画の視点からの検討、社会保障に限られない他の諸制度との関連も視野に入れた検討が 必要、ということではないか。
    木村委員
    基礎年金における3号被保険者制度自体にも抜本的に触れるべきではないか。また、税率も引き上げ、空洞化もありうるとい うことも触れるべきではないか。
    林委員
    厚生年金の適用基準の収入要件について、引き下げると細切れで2ヶ所、3ヶ所と働いて、制度が適用されない危険性が懸 念される。従って支払い側が総賃金に対して事業主負担をする仕組みを考えてはどうか。
    大澤会長
    最近は、事業所ごと加入しないこともあり、そうした空洞化を防ぐことも必要ではないか。また、現行制度自体に魅力がないと いう意見があるので、どう魅力を増すかという点も議論の課題になる。配偶者が死亡すると、多くの場合、遺族年金を選択した 方が有利で、自らの保険料負担が給付に結びつかず「掛け捨て」になってしまう。遺族年金制度で原則併給ができないかぎり は、就業条件が男女同等になっても解決できない部分ではないか。
    木村委員
    男女同等の条件での就業が可能になっても、現行の制度が加入のしがいがないということか。
    大澤会長
    負担が給付に結びつかないという意味でそうである。遺族年金については、夫婦間で年金分割すれば必要ないということか。
    木村委員
    40年先を目指した改革の方向性としては、遺族年金は廃止してはどうか。
    大澤会長
    40年間の経過期間中は夫婦の年金分割がよいのではないか。
    木村委員
    反対しない。ただし、基礎年金と厚生年金を分離した上でないと問題点は残る。年金は生活設計に入りこむので制度改革は 医療保険より早くしなければいけない。
    神野委員
    個人年金に入っていない人もいるので遺族年金を突然廃止するのは困る。
    大澤会長
    遺族年金については、十分な移行期間と移行措置をとりつつ、廃止するということが制度の合理性を高めるということか。離別 の際の年金についてはどうか。
    林委員
    いずれにしても制度は離婚しない前提で作られているのではないか。
    大澤委員
    離別に際しては、給付での分割、拠出での分割、離婚時の財産分割の一部という形での分割と3通りあり、私は拠出での分 割が望ましいと考える。
    木村委員
    離婚への意思決定ではなく、むしろ働くことへの意思決定に中立な制度を考えるということではないか。
    大澤会長
    拠出段階で分割しつづければ、離婚しなくても将来の自分名義の年金になるということである。
    福原委員
    ワークシェアリングをめぐっては労使間の議論だけでなく、男女共同参画の観点からもどう結びつけていくかという課題があ る。
    林委員
    ワークシェアリングは労使間の議論だけでなく、男女共同参画の視点や女性の社会参画の問題、男性の家族的責任への参 画への問題、個人の生き方・働き方等、社会全体のあり方に関わる課題であると捉えたほうがよい。

(以上)