第2回男女共同参画会議影響調査専門調査会

  • 日時: 平成13年6月8日 (金) 15:00~17:00
  • 場所: 内閣府3階特別会議室
  1. 出席者
    • 大澤 会長
      岡澤 委員
      神野 委員
      木村 委員
      高尾 委員
      橘木 委員
      永瀬 委員
      師岡 委員
  2. 議事
    • (1) 開会
    • (2) ジェンダー影響調査について(報告者:大澤会長)
    • (3) 質疑
    • (4) 社会制度・雇用システムと女性労働について(報告者:永瀬委員)
    • (5) 質疑
    • (6) 閉会
  3. 議事内容
    大澤会長
    定刻になりますけれども、来ていない方もいらっしゃいますが、始めていきたいと存じます。男女共同参画会議影 響調査専門調査会の第2回会合を開催いたします。
     審議に先立ちまして、坂上大臣政務官からごあいさつをいただきます。お願いたします。
    坂上政務官
    どうも皆さんこんにちは。内閣府大臣政務官の坂上でございます。
     生まれは歌劇があります宝塚市でございます。本日は、公私にわたり御多忙のところ、影響調査専門調査会に御出席をいた だきまして、心から厚く感謝、御礼を申し上げます。
     本専門調査会は、各分野の専門家の皆様にお集まりをいただき、男女共同参画社会の形成に影響を及ぼす政府の施策につ いて検討を加えるという大変重要な役割を担っていただくものでございます。
     本日は、現在、衆議院で内閣委員会が開かれておりまして、至急委員会の方に戻らねばなりませんので、あいさつのみで失 礼をさせていただきますが、当専門調査会における皆様方の豊富な学識と経験に裏付けられた、活発な御論議に期待をさせて いただくところでございます。どうぞよろしくお願いをいたします。どうもありがとうございます。
    大澤会長
    それでは、今回第2回目でございますけれども、初回御欠席でありました橘木委員に簡単にごあいさつをいただき たいと思います。
     橘木委員は、男女共同参画会議の議員でいらっしゃいますが、当専門調査会には初めて御出席ということで、前回みんな やっておりますので、よろしくお願いいたします。
    坂橘木委員
    京都大学の橘木と申します。経済学を専攻しておりまして、必ずしも男女共同参画問題は私の専門ではございま せんが、広い見地からこういう問題を取り組みたいというふうに思っておりまして、鋭意努力しております。
     経済学というのは、効率性ばかりを言うきらいがございまして、男女問題を考えるときは公平性というのが非常に大事でござ いますので、効率性と公平性のトレードオフというのが私の永遠のテーマでございますので、そういう点も含めて勉強させてい ただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
    大澤会長
    ありがとうございます。
     それでは、お手元の議事次第に従いまして本日の審議を進めてまいりたいと思います。今回と次回にわたって自己評価シス テムですとか、女性のライフスタイルの選択に影響が大きい制度等について委員からレポートを行うということになっておりまし て、本日は、「ジェンダー影響調査」について私が報告をさせていただき、質疑を行いたいと存じます。続きまして、「社会制度・ 雇用システムと女性労働」について、これは永瀬委員から御報告をいただき、質疑という日程でまいりたいと思います。
     なお、事務局が作成してくださった参考資料もお手元にお配りしております。
     それでは、まず「ジェンダー影響調査」につきまして私から報告をさせていただきます。大体35分ぐらいをめどで報告をさせてい ただきます。お手元に資料1とナンバリングがありまして、横長でグレーの印刷になってしまいましたけれども、レジュメとそれか らもう一つホチキス止めで「21世紀の女性政策と男女共同参画社会基本法」という本の中のある部分のコピーがお手元に配ら れているかと存じます。
     私の今日の報告はレジュメに従いまして報告をさせていただきます。
     まず表紙をはぐっていただきますが、今日の報告の要旨は、ジェンダー影響調査、これは政策の及ぼす影響をジェンダー視点 から分析することというふうに1行定義をさせていただきました。これについてなぜ必要かということと、どう行うかということにつ いて、これまでのいろいろな議論の経緯は踏まえておりますけれども、私個人の考えとしてなぜ必要か、どう行うかについて、 比較社会政策論の近年の研究成果に学んで検討するということが本日の報告の要旨でございます。
     中身は、最初の部分が政策の過程に沿って、ジェンダーに関する政策の課題がどのように存在するかを識別する。2番目に、 ジェンダーとの関連で政策を分類し、「ジェンダーの主流化」と言われることの意味を敷衍する。そして最後に政策研究の要点を まとめるというような順番でお話をしたいと思います。ここでのキーワードはジェンダーはもちろんでございますけれども、ジェン ダーの主流化、社会政策、政策過程、実際的課題、戦略的課題といったことがキーワードとなってまいります。
     もう1枚はぐっていただきますと、ナンバリングがなくて恐縮でございますが、「政策の総過程とジェンダー」というページが出て まいります。これは、その次に図がついているかと思います。図1となりまして、次のページが「社会政策の総過程モデルのジェ ンダー化」というので、ちょっと複雑な図がついておりますが、これに基づいてお話をさせていただくことになります。
     この図は、比較社会政策論の中で比較的よく使われる政策プロセスのモデルをジェンダー観点から修正を加えて、自分のつ もりとしては緻密にしたものでございます。もう少し簡単には、政策のプロセスというのは、いわゆるプラン・ドゥ・シーというふう に立案し、そして実施し、その結果を見極めるというふうに言われるわけでございますけれども、それをもう少しブレークダウンし たもの、そこにジェンダーの観点からの注意事項、留意点を加えたものがこの図であるというふうに御理解いただきたいと思い ます。
     最初に、右上の楕円の中に社会的、経済的、物的環境というようなことで書いておりますけれども、社会政策というような、あ るいは経済政策でもそうなのですけれども、政策課題として例示するとすれば、貧困、不平等等々といった政策課題があって、 これが認知をされた上で政策が立案、決定され実施されるというようなサイクルに入ってまいります。
     ところで、ジェンダー課題というようなものは、あらゆる政策課題を横断して存在をする。それは往々にして政策課題の中に埋 め込まれていて見えなくなっていることが多いというふうに言えるかと思います。そして政策課題、あるいはニーズというふうに 言い換えてもいいのですが、これが政策主体によって認知をされることによって政策目標が掲げられ、それに適合的な政策手 段が選ばれる。課題に対するレスポンス、応答ということで政策決定、立案がなされるわけですが、こういう中にどのような政策 課題が認知されやすいか。主体、政策サイドにとってビジブルであるかということの中には、当然ながらジェンダー・バイアス が、例えば男性の世帯主の失業問題は比較的深刻であると認識されやすいが、女性でしかも有配偶の女性ともなると、その 失業問題、あるいは労働需要の不足といったことは認知されにくい。これはあくまでも例え話でございますけれども、そういった ビジビリティ、目に見えやすい、認知されやすいということの中に自ずとジェンダーによる差が入ってまいります。
     もちろん、政策主体がどのように構成されているか、その中にジェンダーに敏感なメンバーが政策主体の中にどれほど入って いるかというような、政策方針決定過程への男女共同参画といったことも大変重要なことでございますので、決定というところに もジェンダー・バイアスは入り得るというふうに書き込んでございます。政策課題が認知され、それを克服するというような政策 目標を掲げられまして、それにできるだけ適合的な政策手段が選ばれてくるわけですけれども、そうなりますと政策資源、これ は予算と人員が主な政策資源でございますが、それをコントロールする。これは簡単に言えば、人員、要員や予算の獲得合戦 ということになります。この政策資源が投入されるのが、インプットというところでございます。
     小さな字で下の真中辺に「生産」と書いてあるのは、政策手段が作動をする、実際動かされるというのをここでは狭い意味で 政策アウトプットの生産過程というふうなことでとらえております。手段が作動いたしますと、政策のアウトプットというのが出てく るわけですけれども、その時に非常にしばしば政策主体によって当初意図されない、あるいは予想されない副次的なアウトプッ トというのも生じてまいります。このようなアウトプットというのは、例えば貧困を削減するというような政策目標が掲げられて所 得移転、社会保障の給付が社会保険であるとか、公的扶助などの政策手段を通じて所得の移転が行われていった場合に、そ れは貧困であるというふうに認知をされた個人や世帯にどの程度その所得が移転されるか。つまり社会保障の給付としていく ら家計に入ってくるか、あるいは税金も払っていたり、社会保険も払っていたりしますから逆の所得移転というのもあるわけです けれども、これがアウトプットでございます。そういうときに副アウトプットというのが伴うことがある。それから、世帯に例えば現 金で何か給付が入ってきましても、それは世帯の中でしかるべく再分配をされます。児童手当というような形で世帯に所得が 入ってきても、必ずそれが全額子どものために使われるとは限らないわけですし、それからお年寄りが受けた年金給付というの が孫にお小遣いという形で移転をされるというような世帯内での再分配が起こりまして、最終成果、アウトカムズというのは個人 に対して資源がどのように最終的に分配されたかということです。
     この資源というときには、物やお金もそうですけれども、サービスというようなことを念頭に置いております。この最終成果をもと もと認知された政策課題。誰にとって所得が足りないとか、誰にとって保育サービスが足りないとか、あるいは介護サービスが 足りないとかという課題に照らして成果の出来栄え、どこまで到達したかというのが見極められることになる。プラン・ドゥ・シー の中のシーというときには、アウトプットだけではなくて最終成果まで見なければならないというようなことをここで意識をしている わけでございます。
     物とかサービスをひっくるめて資源というふうに呼ぶわけですけれども、資源の生産と分配の中には、これはマーケットメカニズ ムで商品として生産される財やサービスであっても、あるいは世帯の中で不払い労働、無償労働を通じて生産される財やサー ビスの生産過程、分配過程の中にジェンダーはそれぞれ非常に関与しております。
     これについてペーパーの中では、こんなふうに書かせていただきました。7ページをごらんいただくと、今の図が小さい格好で 載っている下に、<2>「資源の生産・分配とジェンダー」というところに書かせていただきましたけれども、「ところで、労働力をはじ めとして女性がもつ諸資源は安く買いたたかれることが多い」というふうに。このあたりはあくまで様式化された認識でございま すけれども、ほかの面で質の等しい資源、例えば労働力なら学歴・経験その他の質が等しくても、その供給者が女性だというだ けで価格(賃金)が低くなるというように、マーケット(市場)はジェンダーにかかわる偏り(バイアス)から自由ではございませ ん。他方、世帯内の生産や分配を見ましても、女性は家事、育児、介護の大部分を担当するということで世帯内資源生産の大 部分を担っております。現在では、商品化が進んでいますから世帯内で生産される資源の大部分はサービスでありますが、 サービスというのは財、物と違って貯蔵ができない。つまりサービスはその提供者が同時にサービスを享受することはできない という性質がありますので、世帯内サービスの主たる提供者である女性は、そのごく一部しかエンジョイすることができないと いった関係があります。要するに世帯内の資源の生産と分配には、市場にもましてジェンダー格差があるというのが、ここで「資 源の生産・分配とジェンダー」というところでは私が申し上げたいことです。財やサービスの生産と分配にかかわるいかなる政策 課題もジェンダーと無縁ではあり得ないというのはこのような認識に基づいています。そういう意味でジェンダーに関する政策課 題というのは諸々の政策課題を横断して存在をすると言えるかと思います。
     政策の目標と手段ですけれども、これは平面の図ですから平面になっていますが、上位の政策目標に対してその政策手段と いうのは、実はより下位のブレークダウンした具体化した政策目的をあらわしていて、さらにそれに手段が、つまり目標に対して 手段なのだけれども、それはもう少し具体的なレベルから見たら政策目的となっているように、目的、手段、また手段が目的で その下に政策手段がというふうに大きな政策体系をなしております。この図がもし立体的にかければそういうふうになるわけで ございます。インプット・アウトプットというのは先ほど申し上げたとおりでございます。
     次に、レジュメをはぐっていただきますと、「実際的ジェンダー課題と戦略的ジェンダー課題」というふうにタイトルを掲げていま す。実際的ジェンダー課題と申しますのは、例えば、女性労働者には保育ニーズがあるとか、母子世帯は貧困であるといったよ うに、女性または男性が実際問題として直面しているニーズが政策課題となってくるものでございます。戦略的ジェンダー課題 と言いますのは、これは男女の間の不均等、男女共同参画になっていないものを直接そこに政策的介入をするというようなの が戦略的ジェンダー課題でございまして、例えば家事労働が女性に集中していることをどうするかとか、雇用機会が不均等であ ることをどうするかといったことが問題になってきます。実際的なジェンダー課題というのは、普通の人々が日々感じているニー ズですから、政策主体としては、これに応答をするということが当然求められるわけですけれども、しかし、女性労働者の保育 ニーズがとりわけ厳しいからといって、女性の労働者というところにだけ焦点を絞った対応をしていきますと、それはむしろ男性 労働者が自分も保育にもっと主体的にかかわりたいと思ったときに使いにくい制度になってしまう。もっと極端に言えば育児休 業は女性にしか認めないとか、それから女性の多い企業の近くに保育所をつくればいいとか、こうなりますと、保育所に連れて いったり迎えに行ったりするのはもっぱら女性の仕事というような性別分業が固定化されるおそれもなきにしもあらずというの で、実際的ジェンダー課題に対応していくときには、その政策手段が戦略的課題に対応することへの導入点になるような、突破 口になるような制度設計をしていく必要があると考えます。
     この<1>の女性のみの育児休業とか、児童扶養手当というのは母子性世帯は貧困だから母子世帯に限って現金給付をしましょ うというのが児童扶養手当でございますけれども、これらの政策は実際的なニーズ、課題に対応しているのですけれども、受け 手を固定化させる恐れがなきにしもあらずなのでございます。
     他方、<2>として書いた保育サービスを充実して誰でもが使いやすいようにするとか、育児休業制度の中に「パパクォータ」のよ うな男性しかとれない1か月、2か月を設けるといったような手段をとれば、これは実際的ジェンダー課題に対応しつつ、なおか つ、その先を見通した戦略的な問題解決に結びついていくような手段になり得るというような意味で掲げさせていただきました。
     次に、はぐっていただきますと「ジェンダーに係る政策の分類」というふうになっています。これは女性政策というようなことで、 従来女性政策と言われてきたようなものは何だったかと振り返ってみますと、1つは、明らかに女性と子どもをターゲット・グルー プ対象としているようなものが女性政策と言われてきたわけです。と同時に、2番目に挙げられるような政策目標にジェンダー格 差、男女不平等、不均衡な状態に直接介入するようなことを目指す、それを明示的に含む施策が女性政策というふうに言われ てきたと思います。これはペーパーの方に大変見にくい小さい表が2枚目ですけれども、「国内行動計画の規定事項の変遷」と いうのがございます。これは男女共同参画室時代につくられた表ですから昨年12月に決定された男女共同参画基本計画はま だ入っておりませんが、左の方から右の方に古いものから新しいものへというふうに並んでいるのですけれども、最後の2000年 プランを除いて最初の古い方から1、2、3、4、この4つというのは見ていただきますと、男女平等の意識改革、これは男女を対 象としています。しかし、そのほかの施策というのは、見ていただきますと、大体女性とそれからなぜか子どもが対象になってい る施策の寄せ集めのようにも見えるわけでございます。
     ところが、男女共同参画2000年プランというのは、すべてが男女共同参画を政策目標として掲げ、施策の対象、ターゲット・グ ループというのも男女というふうになっております。例外としては新しい施策グループである女性に対する暴力の根絶やメディア における女性の人権の尊重、こういったところは女性というふうになっておりますが、基調としては、男女を対象とした男女共同 参画を目標とする政策の体系になっております。
     つまり、この政策の分類というものに則して言いますと、従来は(1) と(2) のグループだったのですけれども、それ以降90年代 の後半以降日本での施策というのも、(3) のような政策手段にジェンダーへのインプリケーション(含意)を持つ施策、あるいは4 番目に正副の政策アウトプットにジェンダーへの含意を持つ施策の影響があるということでございます。政策の最終成果にジェ ンダーへの含意を持つ施策と、(3)(4)(5) といったグループが視野に入ってきたというのが男女共同参画2000年プラン以降の状 況であるというふうに思います。
     お気づきのように、政策分類の(1)(2)(3)(4)(5) というのは、先ほどの図の1のそれぞれの個所にターゲット・グループが誰なの か、目標が何なのか、それから政策手段のレベル、それからアウトプットのレベルでのインプリケーション影響はどうなのか、そ れから最終成果でどうなのかというように、先ほどの図の1の過程に則して政策の分類をしてあります。
     今申し上げるようなことはレジュメをもう1枚はぐっていただきまして、「女性政策のパラダイム転換」というふうに呼ばしていた だきたいと思っています。つまり、90年代後半の日本の取組というのは、従来の女性問題解決あるいは女性の地位向上といっ た枠組みから男女共同参画、そして国際的に使われている言葉で言うならば「ジェンダーの主流化」へと枠組みが転換をした、 あるいは発展してきたというふうにまとめられるのではないかと思います。つまり、北京での第4回世界女性会議で採択された 北京行動綱領ですとか、以前の男女共同参画審議会の答申である男女共同参画ビジョンなどを契機としまして、日本政府の 取組というのは先ほどの分類で言うと、1群や2群の政策体系から3群、4群、5群を視野に入れた体系(広義の女性政策)へと 枠組みを発展させてきたというふうに私はとらえております。
     次のページにいっていただきますと、「ジェンダー主流化の課題」ということなのですけれども、これも今分類した5つのグルー プの政策群別に申しますと、1群の政策、これは女性を施策の対象、ターゲット・グループとしているわけですから、何かしら実 際的な政策ニーズを認知して行われている施策です。この場合には、先ほど申し上げた実際的ニーズを充足する施策が同時に 戦略的課題への対応の「導入点」となるように施策の目標と手段を設計するというところに眼目がございます。
     第2群の政策、これは政策目標に明示的に男女共同参画を掲げている政策グループですから、この場合には目標に対して整 合的な手段が選ばれているかどうか、それから十分な人員や予算が当てられているかどうか、インプットが確保されているか、 そしてマイナスの副アウトプットが意図されざるマイナスの影響がないように十分配慮するというのが2群のところでの課題に なってきます。
     3群から5群についての施策については、ここにはジェンダー・バイアスが埋め込まれている恐れがあるわけですから、その埋 め込まれている偏りやインプリケーション、影響を洗い出して、政策の最終成果が少なくともジェンダーに対して中立となるよう に、できれば男女共同参画を促進するように施策を修正していくということがここでの課題になってまいります。
     次のページにいきまして、そこで男女共同参画社会基本法をそのような観点から見直してみますと、ここでは御承知の5つの 基本理念が掲げられております。これらは御承知のとおりでございますから特に説明はいたしません。この基本法の中からジェ ンダーの主流化に係る条項というのを特に拾い出してくるならば、それはレジュメの次のページですが、まず第4条(社会制度・ 慣行における配慮)、それから第15条には国と自治体は、「男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策」を策 定・実施するにあたって「男女共同参画社会の形成に配慮しなければならない」と定めた第15条、それから第17条は、苦情の 処理と人権侵害の救済でございますけれども、特に前段の「政府が実施する男女共同参画社会の形成の促進に関する施策又 は男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策」について苦情を処理すると定めた第17条が関連をしており、最 後に第22条ですけれども、男女共同参画会議は「政府が実施する男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施状況 を監視し、及び政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響を調査し」、そして必要があると認めるときは首相や関係 大臣に「意見を述べる」と定めた、これらの条文が我が国の基本法の中でジェンダーの主流化にかかわっている条項であると 思います。
     「政策分析の要点」といたしましては、ちょっと話のつながりが悪いのですけれども、このようなジェンダーの主流化を念頭にお いた政策の分析をどういうふうにしていくかの要点ですけれども、1つは、担当部署の位置と権限。いろいろな省庁がいろいろな 施策をおやりになっているときに、その担当部署が比較的現場に近い、そして縦割りの任務や権限を持っている部署であるの か、それとも官房系と申しますか、比較的横断的な企画や調整権限を持っているところなのかということによって、どういう政策 が打てるのか、あるいはどういう政策を打ったらそれが効果的であるのかということが違ってまいります。
     それから、御承知の政策分析の要点としては、効率性・有効性・持続可能性といったことがございますけれども、効率性という のは、この施策のターゲット、対象の人たち、あるいはこういう状態を達成しようというふうに掲げた状態、貧困比率を10%から 5%に下げるとか、そのターゲット状態よりも外に政策インプットが漏れ出てしまうと、やらなくてもいいことをやっているというの がそうなのですけれども。有効性というのは、政策成果をターゲット状態と比べた場合の達成度でございます。持続可能性とい うのは、これは一旦達成された政策成果がどの程度長持ちするか。1回所得移転して貧困が緩和されたのはいいのですけれ ども、次の年になったらまたもとに戻ってしまったというのは、持続可能性がない。そうではなくて、一番困っているときに有効に 所得移転をして所得を保障してあげれば次の年からまた自立ができるというようなことであれば、それは持続可能性が高いとい うふうになるわけですが、これはターゲット・グループが力を付けた、いわゆるエンパワーメントの度合いと関連をしているかと考 えます。
     最後に、男女共同参画会議の任務と権限の中に「監視と影響調査」があるわけですけれども、監視と影響調査はどういうふう に重なり合って、どういうふうに任務分担をするのだろうかというのが最後の点でございますけれども、これはあくまでも私の理 解でございますが、監視というのは先ほど分類した1群と2群の施策の主流化に関係しているのではないか。すなわち基本計 画に掲げられているような施策について、戦略的課題を念頭におきながら、目標に対する手段とインプットの適合性を検討し、 効率性・有効性・持続可能性を見極めるのが監視なのかなと。これに対して、影響調査というのは3群から5群の施策も含めて 主流化に資する方向を見ていく。この場合には、施策の副アウトプットや最終成果を検証することが必要になってくるだろうとい うのが私の理解でございます。
     ちょっといただいた時間より早めにお話が一旦済みましたので、少し質疑の時間をとった方がよろしいかと思います。以上で報 告を終わらせていただきますので、御質問や御意見をたくさん頂戴したいと存じます。
    坂橘木委員
    例えば、男女間で賃金格差が幾らあるかという実態を調べるようなものがあって、全くもってクオリフィケーションを 同じにして、教育も年齢も勤続年数も全く一緒にして、それでも差があるなら、これは差別だというふうに認定するわけですよ ね。ところが、そのような条件を満たさないのが原因になっているのか、あるいはもう一つ言えば、例えば男女差別をなくすため に賃金は同等にしなければいかんという、もし政策が入ったときに、それを実行したときに、過剰に女性に有利に働くようなこと があるかもしれないというようなことまで含めて、ここで影響調査とかいうことをやろうというふうにお考えなのでしょうか。それと も、どこまで影響調査というのをやろうというふうに思われているのでしょうか。
    大澤会長
    及ぼす影響でございますから、もともと目標に掲げられていたことの達成度というのも排除されているわけではご ざいませんけれども、主として、どちらかと言えば、それは監視と苦情処理については別の専門調査会がございまして、今日、 苦情処理・監視専門調査会長の古橋先生がいらっしゃっていますけれども、むしろ私どもの影響調査というのは、意外なところ に影響が潜んでいたというようなものを洗い出していくのが主な任務なのかなと、これは私のイメージでございますけれども。
    坂橘木委員
    そうすると、普通、我々経済学が考える男女の賃金格差とかそういうはっきり目に見えるものでなくて、目に見え ない、どこに格差があるのだということを一生懸命探そうというのが、この研究会の目的になるのですか。
    大澤会長
    というよりも、政府の取組というのは、差別と認定されるような格差があれば、それは是正されるべきであるという のが政府の取組だと思うのですね。それが男女共同参画を促進するということはそういうことになると思うのですが、例えば、そ の格差を縮小しようと、格差は差別であると認定して、それを縮小するための施策をとったときに逆にマイナスの影響があるかも しれない。つまり、女性のクオリフィケーション以上に同等にしてしまいますと、女性は割高な労働力になるから、かえって雇用 機会が狭まるかもしれないといったときに、そうすると全体として見た女性の収入が下がるかもしれない。つまり単価は上がる けれども、雇用機会は狭まるから全体として女性の取り分が減るかもしれないという、そんなようなことを調べていくのは当専門 調査会の任務の一つになるかなというふうに思います。
    坂橘木委員
    今のお答えは私のイメージと近いと思います。
    坂東局長
    例えばお手元の去年の白書ですけれども、55ページに男女の賃金格差の要因を表していますけれども、これで 見ますと、学歴だとか年齢もさることながら一番大きいのが職階であり勤続年数であるとなっています。ということは女の人たち がなかなか上の職位につけない、なかなか子育てと両立できないとか、家事と両立できないとか、転勤ができないとかいろん な要因で勤続年数が短い。ここの部分を格差と言いますか、戦略目標になるということなのではないかなと思います。賃金格差 の場合はそうですけれども、そういったような分野がほかにも、そういった例がほかにもいろいろ見えてくるといいなと思います。
    大澤会長
    恐らく何が解消されるべき差別であって、それをどの程度強い政策手段で取り組むかということに関しては、これ は基本問題専門調査会などがおやりになった上で男女共同参画会議が基本的な方針を決め、そして決定については、内閣で あるところの男女共同参画推進本部が決定をなさるのかなというふうに思いますけれども。
     ただ、いろいろな施策をとった場合に、それから今の差別を解消するための施策ですけれども、それとは全然関係ない一般国 民を対象にするとか、中立的な施策だというふうにしてやられている施策が、実はマイナスの副アウトプットを男女共同参画に 対して及ぼしてはいないかというようなことがさらに大きな課題になってまいります。
    坂橘木委員
    それが、このレジュメの4番目のところに正副の政策アウトプットと言われる大澤先生の、正というのはあらかじめ それを目的にした、副はサイドに出てくる、そういう意味ですね。よくわかりました。
    大澤会長
    思われざる効果ということでございます。意図せざる結果というものでございます。
     今日は、会長としてというような自覚もなく、むしろ研究者として、ややアカデミックなレベルでの報告をいたしましたので、専門 用語等お聞き苦しい点もあったかと思いますが、 岡沢先生、何か御教授いただけますでしょうか。
    岡沢委員
    私、政治学なのですが社会学でやるとき、こういう分析を使うのですが、特に後ろから2枚目、その「政策分析の 要点」のところのエフィシェンシーの論理というのと、エフェクティブネスの論理というのは、恐らくこれがコアになっていくと思うの ですが、エフェクティブネスの論理というのは、基本的には手順、プロセスに対する論理がどれだけ正当性を持ち得るかどうかと いう論理だと思うのです。そして、エフィシェンシーの論理というのは、コストパフォーマンスの問題で一定のコストに対してより大 きなパフォーマンスが得られればそれがエフィシェンシーである。男女共同参画の場合の論点というのは、システム論的に言う と、エフィシェンシーの論理を追求してきたから現在のような社会ができあったので、それをエフェクティブネスに重点を置きなが らもう少し社会システムを見直すと違うパラダイムが見えてくるのではないかという分析になっていくんだろうと思うのです。その ときの具体的な問題が、どのような政策課題についてやっていくかを見ないと、今の段階だと研究者としての分析スケールの議 論になってしまって少し理解しにくいかなという気はします。政治学でも、政策のエバリュエーションをするときにはこの論理で ずっとやってはいるのですけれども。
    坂橘木委員
    エフィシェンシーは私は2つあるように思うのです。1つは、今言われたように、政策をやったときに、いかにコストミ ニマイズでやるかというのもエフィシェンシーだけれども、1つの例を挙げますと、アメリカでは大学の教官の男女比率をこれだけ にしなきゃいかんという法律をつくったときに、女性の研究者がものすごく増えて、こう言っては悪いですが、研究水準がやや落 ちたというような事情がございます。これはインエフィシェンシーですよね。そういう意味でのエフィシェンシーという観点もこことは ちょっと違うエフィシェンシーですよね。これはどのように理解したらいいのですか。あくまでもエフィシェンシーというのは、何か 政策をやったときにコストミニマイズでやったのがエフィシェンシーであるという考え方だけれども、何か政策をやったときにネガ ティブな効果が出てくるというのもあると思いますが。
    大澤会長
    はい、そのとおりです。ここには書きませんでしたが、つまりマイナスの副アウトプットが余り大きく出ますと、これ はアウトプットをもともと意図し目標とした結果というのが出てきても、マイナスのサイドエフェクトみたいなお互い相殺し合ってし まいますと、最終成果としてはほとんど何もないというようなことになりかねませんので、その問題も含めて考える必要があると は思っています。
    岡沢委員
    今の場合、サイドエフェクトの方が実は非常にポジティブな結果が出る場合というのはあるのですよね。ところが、 その目に見える部分で制度化はできないという場合、その辺をどう文章化していくかというのが物すごく難しいと思うのですよ ね。
     実はビジブルな視点で言うとマイナス効果が大きいですが、実はサイドエフェクトから言うと非常にプラスであって、そのために 生産性が上がっているといったときに、かといって、サイドエフェクトが大きいからと言って、それを制度化して明文化してしまうと 表のエフェクティブネスが低下してしまうという。その辺の社会システムの多くというのは、そういうジレンマの中で制度化されて いるものが多いという気がしますけれども、最終的にはそこの判断をどうしていくかということになるとは思うのです。
    大沢委員
    今の橘木先生の御意見で、多分アファーマティブ・アクションのことをおっしゃっているのだと思いますけれども、私 はアファーマティブ・アクションを非常にポジティブに評価しておりまして……。
    坂橘木委員
    私はネガティブじゃないですよ。
    大沢委員
    つまり女性側にとっても、有能な人でもアファーマティブ・アクションの影響で選ばれたというところで両方からの文 句は確かにありましたけれども、現在、アメリカの大学での研究者の数字を見ますと、男女にかかわりなく能力が評価されるよ うになっているという現状を見ると、大切なことはアファーマティブ・アクションを起こすことというよりも、むしろ、そういったその平 等の機会が開かれることによって、それまでは機会が与えられなかった女性たちの能力が上がって、最終的に平等でより研究 成果というのがあがるような形に社会が流れていったと思うので、ある一時期に不平等な状態から平等な状態に戻すことで短 期的にインエフィシェントになったとしても、それによってさらに、例えば大学の進学率が増えるとか、理系にもっと女性が行くよう になったとか、そういった最終的には教育投資のリターンを高めるような効果を持ったことによって、次世代の女性にとっては非 常にいい効果を持ったというふうに思うのです。
     ですから、そこら辺も含めて何か今の話を聞いていると現状がエフィシェントで女性を入れることがインエフィシェントな状況にな るのだけれども、我慢してそうすることが平等だというような前提は間違っているのではないか。むしろ現状がインエフィシェント な状況で、それを是正することが日本経済にとってエフィシェントな状態に戻るのだという、そのインエフィシェントな、すみませ ん、興奮すると日本語にイントネーションが入ってくるという批判を最近受けていまして……。ですから、そこで今の状況認識とし て、もう少し女性が参加することがエフィシェンシーを高めるということで、それほど狭義の意味での不平等な、短期的なインパク トだけを議論しなくてもいいのかなというふうに思いました。失礼いたしました。
    大澤会長
    私は、英文タイトルは「ジェンダー・インパクト・アセスメント」というふうに書きましたけれども、インパクト・アセスメン トというときには、わりと1年とか2年の短期の成果だけではなくて、もう少し持続的な影響、それこそ影響なのですね。インパク トというときにはタイムスパンは一定に長いと。それから非常にミクロな単位で考えないで、もう少し社会全体とかマクロな単位 で考えるということが影響調査インパクトアセスメントということの中には入っていると思います。
     だからといって、非常にクリティカルな決定的な短期の時期においての一定非効率が生じるかもしれないということについて目 をつぶっていいということにはならないと思います。それは、より長期のプラスのインパクトでもって正当化できるというようなこと を言っていかないといけないのかなと思いますけれども。
    師岡委員
    そういう評価をどのように洗い出すのかというのが非常に難しいのだと思います。終身雇用制が崩れつつあります けれども、今までは終身雇用制が基本でしたから、例えば女性の働くスパンを考えて見ますと、これは採用から定年退職まで というリズムの中に出産・育児期、介護も含めてある人ない人あるわけですけれども、そういう状況の中で私が経験していろん な見聞きをしていることから考えてみますと、どうしても出産と育児期、ここはマイナス側面が強く出るわけですね。しかしなが ら、そこをクリアすれば、その分も含めて次の力が発揮できる35歳以降ぐらいのところからは、仕事に対するエネルギー、情熱と 言いますか、それを燃やしていくというリズムになっているわけですね。ですから、退職までにどれだけ企業や会社に貢献する かという力の発揮の時期は人によって違うのだと思うのです。そういうことを洗い出していくのかというのは難しい側面があるか と思います。マイナスの側面として考えられるのは、出産にかかわって、これが企業にとっては非常に効率的でないと、例えば 育児休暇をとれば、欠格条項に引っかかったりして昇給延伸の対象になったりするということを社会的な資源という観点からど のように見ていくのか、分析としては必要だというふうに思います。余り整理して言っていませんが。
    大澤会長
    今言っていただいた御意見は、2つとも男女平等の達成とか男女格差の縮小というのを掲げているアファーマティ ブ・アクションなり、それから出産・育児期に対する両立支援的な支援政策的なものというのが短期的には、例えば企業経営に 負担をかけるとか、それから研究のレベルというのにストップをかけるというか、やや足を引っ張るとかそういうのがあるかもしれ ないけれども、今度長期的に見たらどうなのか、もっとサステイナブルな社会づくりに役立ってはいないかという観点からの影響 調査ということになると思います。
     逆に目標には全然男女共同参画と関係ないみたいな政策が、特に副次的な効果、副アウトプットにおいて女性の職場進出を 妨げたり、あるいは男性がもっと家庭にかかわることを妨げていたりする、そういう影響がありはしないかという逆の意味での影 響調査というのもあって、むしろ、ここで念頭に置かれているのは後者の方なのかなというふうに思います。でも、いずれの意味 での影響も入る、当調査会の影響調査の対象にはなろうかと思います。
    永瀬委員
    かなり具体的な話なのですけれども、私の大学には、主婦で再就職をしたいけれども、なかなか見つからないと いうことで大学に入ってくるような方も意外といらっしゃいます。そういう方々がまずはどういうところで再就職の訓練を受けられ るか、探してみると、実はなかなか見合ったものがないというようなことをおっしゃるのですね。そこで提供されているものがニー ズに合わないものであったり、時期がずれていたりすると。そして雇用保険の中で能力開発の仕組みはあるにしても、主婦です から雇用保険に対するアクセスの権利がまずない。だから、雇用保険に関して男女は全く平等でも、アクセスビリティではかな りの格差が生じている可能性があるといったこと、そういうことをきちんと洗い出す必要がある。行政側から見てどれだけお金が 使われているかというのではなくて、一人一人におりてどれだけアクセスがあるのかという点で見るとかなりの格差があり得 る。また官庁統計等もそういう視点では公表されていないということがあります。そういうことを少し考えてみるのもいいのかなと いう気もいたします。
    大澤会長
    つまり職業能力開発という、それ自体としては男女にニュートラルな政策目標のときに、その一部を雇用保険の会 計を使ったやり方、そういう政策手段をとってやったときに、最初から失業者、学生だけどどこにも就職できなかったという人と、 それから今まで専業主婦であったという人はこの政策手段にアクセスできないから、主として職業能力開発というようなことの ある部分が雇用保険という政策手段で行われていることによって、実はジェンダー・バイアスが出てきてしまうというような御指 摘と理解してよろしいですか。
    永瀬委員
    はい。実際に就職に結びついてないケースが非常に多いという。
    大澤会長
    ですから、それは職業能力開発政策という大きな目標に照らして政策手段が効率的に使われていないのではな いかという問題提起にもなり得るわけですね。
    木村委員
    それは事業者にとっても同じだと思うんです。あと、奈良でも労働基準局にヒアリングしたときに、こういうプログラ ムがあって、女性も参加していますと言っておられますけれども、育児の施設とかサービスはありますかと言ったら、そういうの はないと。それから就職をどれぐらいされたか実際の追跡されましたかというと、やっていないと。だから、そういうところの施策 評価というか、そこら辺もきちっとやってもらうことが必要になってくる。
    岡沢委員
    私も毎年自分の働いているところで、人事の季節になると必ずクレームをつけることが1点あるのです。それは何 かというと、プロモーションの速度が随分違う。そのときに必ず出てくるのが、能力開発チャンスを平等に与えていない。そして 新しいポストに、あの人は経験がないからと。じゃ経験がないとしたら、その組織内外の研修チャンスはどれだけ与えたのです かと言ったら、圧倒的に男性に与えているんですよね。そして女性にはなかなか組織内外の研修チャンスを与えないで、そして プロモーションの時期になると経験の有無でプロモーションを決めていけば、それはもう男性が非常に有利になるのは決まって いる。それはポストの問題とか賃金格差の問題も、そういう組織内部における能力開発の機会という、そのアクセスビリティが 必ず平等ではない。
     実は私もこういう視点は余り持っていなかったんですが、70年代の北欧ではこれが議論になったんです。アクセスできないよう なチャンスをやっておいて、人事のときには過去の経験というふうに問うというやり方、これだったらいつまでも埋まらないのじゃ ないかという話になったと思います。だから能力開発というのは、組織の中に入る前と中に入ってからと、中に入ってからプロ モートするとき、3層構造があるんだなという気はします。トータルなイメージで評価していかないと非常に難しいかなという気が します。
    坂橘木委員
    今の話は大賛成なのですけれども、そういうのをぜひやっていただきたいのですが、こういう問題はどうですか。例 えば男性は工学部に割合行くと。女性は文学部に行くと。それはフリーなチョイスでやったけど、結果として工学部を出たのは 就職が割合簡単に見つかりやすい。文学部、英文科、英文科はいいかもしれませんが、モンゴリア学を専攻したのは就職がな いと、これはどう考えたらいいのですか。
    岡沢委員
    これが1970年の北欧での最大のテーマだったのです。つまり男の仕事、女の仕事があるように、男の学問、女の 学問もしくは男の学部、女の学部があるのじゃないかと。そのために社会に入ってからのプロモーションに非常に大きな違いが あるという。非常に優秀なジェンダーの人が特定の学部に集中して、そしてそこにはすばらしい能力ある人がいっぱいいるので すが、例えば文学部だと、そこからジャーナリストになりたいといったときには、優秀な人たちが何百倍というコンペティションで 戦わなければならない。ところが、もう少しチャンスを広げていて、例えばその人が理工学部なら理工学部、工学なら工学をやっ ていけば、その人が将来ジャーナリストになるときにはチャンスは物すごく大きくなる。ところが、進路指導のときに、進路指導 のアドバイザーが男の学部、女の学部、そしてそのたまたまの偏差値かなんかで進路先を指導していくということにどうもなって いくのではないか、そういう問題を累積していくのではないかということを議論していたのが北欧で言うと70年代であった。
    坂橘木委員
    もう解決したのですか。
    岡沢委員
    今は随分解決しましたけれども、例えばストックホルム大学だと、政治学部で女子学生が大体55%、男子学生が 45%でかなり日本とはイメージが違うと思います。それでもトータルに見たら女性が集中するのは、教育学部、文学部、語学学 部そして薬学、歯学に集中するんですよ。多くのほかの国に比べれば相当様々なチャンスに恵まれているのですが、それでも なおかつ特定の学部に集中する傾向は否定できないという言がありますね。
     日本の場合はそれがもっと集中しておりまして、私の奉職している大学は日本で一番女子学生の多い大学なのですが、約1 万5,000 人いるんです。ところが、その1万5,000 人いる女子学生のほとんどが特定の学部に集中しまして、政経学部であると か法学部とか工学部に非常に少なくなるという現象はまだあります。
     組織内部で異動がもっと可能になるようなシステムをつくっていけば、つまり18歳のときに決めたけど、実際に大学に入ってか ら自由に選択ができるような仕組みをつくっていくか、もしくは入る前に進路指導をきちっとしていくか、職業教育をきちっとしてい くかということだと思うんですが、どうも日本の場合には、進学指導というレベルでは余り就職指導とコンバインしてやっていない ような気がするんですね。これが70年代の北欧の事情は、北欧の場合は進学指導を就職指導とコンバインしてアドバイスして いったのですね。日本はどうも進路指導のときには進路指導という視点でやられて、統一模試の点が何点だからこういうところ どうですかという議論をするけど、就職指導と一体化したアドバイスは余りないような気がします。その辺もどういう影響がある のかというのはぜひ調べてもらいたいなという気がするのですけれどもね。
    坂橘木委員
    このプロジェクトでそういうのもテーマになりますよね。
    永瀬委員
    ひとつ質問があるのですけれども、よろしいですか。
    大澤会長
    はい。
    永瀬委員
    戦略的ジェンダー課題というので、「家事労働の女性への集中、雇用機会の不均等」と書いてありますが、これは 女性に家事労働が集中する結果として雇用機会が不均等になるという面もあると思いますが。
    大澤会長
    それは単に並べてあるだけです。
    永瀬委員
    私は、家事労働が女性に集中しているというのは、雇用に対する女性自身のインセンティブを低める、自らがその 選択をやめるという一つの大きな原因のように思えるのですが、これに対してどう政策をとるということをここでおっしゃっている のかもう少し詳しく御説明いただけませんか。
    大澤会長
    これは単に例示でございますので、また後で時間が余れば申し上げたいと思うんですけれども、課題としてはこれ があります。それに取り組むにはというのは、例えば相関分析なんかしますと、男女賃金格差が低い国ほどいわゆる男性の家 事参加度が高いという相関はございますよね。これがどういう因果なのかはわからないんですけれども、家事を平等に分担して いるから男女はより平等に職場進出ができて、したがって賃金格差が小さいのか、それとも家事の機会費用の男女格差が低 いから両方わりと分担するようになっているのか、それから外部化の度合いはどうなのかといったことが考えなければいけない 問題としては出てきますけれども、その上でどうやって政策的介入ができるか。上から家事をやれと命令して義務付けるわけに はいきませんから、どういう政策手段をとったら、その因果関係のある決定的なところにくさびを打てるのかというのは検討事項 だとは思いますが。
     時間がまいりましたので、次に「社会制度・雇用システムと女性労働について」、永瀬さんの御報告をお願いします。
    永瀬委員
    「社会制度雇用システムと女性労働について」ということで報告をさせていただきます。
     お配りしましたのが資料2というのと、それから2つ簡単なペーパーを付けさせていただきました。福祉国家の類型化というの で有名なエスピン・アンデルソンの類型化があります。いわゆる資本主義の福祉国家の3類型。資本主義の中でもウェルフェ ア・ステイトというのはかなり性格が違っていることを指摘しました。これに対して、sainsbury が今度ジェンダーという視点で見 るとさらに別の類型化ができるということを言っていまして、私はとても納得して読んだのです。それのことをお配りしました「女性の雇用就業は少子化をもたらすか」というesp4月号の小論の3枚目の「社会保障とジェンダー」というところに説明してありま す。
    大澤会長
    資料2とは別刷りになっている、これです。
    永瀬委員
    そこに子どもの養育、介護といったケア活動、これは国がどう社会保障の中で位置付けるかをsainsbury は3つの 類型化で示しました。1つ目の類型は主な稼ぎ手に対する生活保障のみを国は中心に考えて、家庭内活動を行っている妻に 対しては、世帯主の所得を保障することを通じて妻も暗黙に生活保障がされるという、そういうタイプ。2つ目の類型は、それか ら、育児や介護といったケア活動に社会保障の給付権を受け得る活動としてその行為に給付権を与えるタイプ。そして3つ目の タイプとして、男女の雇用を前提とした上で受給権を与えるがそれが可能となるような、例えば保育や介護等の制度や働き方を 充実させる環境を整備するという、この3つのタイプの類型化をしています。
     それで、私、日本はこの1つめのタイプに非常に近いのかなというふうに思います。つまり主な稼ぎ手に対する保障が基本的 にあって、そして妻はその主な稼ぎ手を通じて保障されている。もちろん男女の機会均等、あるいは差別はありませんので、女性が明示的に差別されるということはないわけですけれども。こういう国は女性の高学歴などの結果どういう影響が出てくるかと いうと、私自身は二極化が進んでいくと思います。つまり女性自身が男性並みに男性と同じように働くか、あるいは一部が主婦 となって男性を通じて守られるという女性の二極化が起こりやすい。そして、結果として出産しない女性が増えやすいというよう な傾向最近になって出てきているのではないか、それはドイツや日本などではないかと。
     <2>のケア活動そのものに対して給付をするタイプというのは、育児や無償労働に対して年金給付権や所得給付がされる。こう いう国というのは男女のすみ分けというのは起こりやすいのではないか。
     <3>のタイプというのは、保育や介護等かなり社会化した上で、女性も男性も自分で働くことを通じていろんな社会保障がされる という、こういうタイプと書かれてあります。暗黙の制度はもともとの国の人々の暮らし方によってできるという側面はもちろんあ るわけですが、制度ができると、そうした暮らし方というのを強化するという側面があるのではないかなということを考えましたの で、最初にこのようなことを御紹介した次第です。
     要するに福祉国家というのは、老後や育児期といった弱い時期というのはある程度保障していくのですが、これをどういう形で やっていくかということで随分違う。世帯主とそこに守られる人という形でするのか、そうじゃないのかといった大きい分け方がで きるということをまずはじめにご紹介します。
     レジュメの1番にいきまして、日本の社会制度・雇用システムの特徴ですが、暗黙の前提として、男女の役割分担というのが あるのではないだろうか。税制上では配偶者控除や配偶者特別控除、それから、社会保険上では被用者の年金・健康・介護 保険、この3つの社会保険における被用者の被扶養の主婦の保険料免除。
     それから、今度子どもを持つということに関しては、子どもの養育費用というは私的に負担する、また、子どもの養育時間という のは母親が私的に負担するというのが暗黙の前提としてあるのではないだろうか。具体的には、低年齢児童の保育が大変不 足しております。日本には認可保育園という枠組みがあって、女性の就業というのに非常に大きな重要な影響を与えてきた重 要な政策だとは私は思っておりますが、しかし、弾力的には供給増減をしにくい仕組みがもともとできていると。というのは、そ の認可をするのが自治体でありまして、認可枠を広げると自治体赤字が増えるような構造になっております。そこで申請をした らすぐさま申請した児童に対して、国の補助が、公的な費用負担が出るというような仕組みにはなっていないということがある。 そして、認可保育所はそういう形である程度の枠がある上で、そこに入れなかった人に対しては全くの無助成である。そして認 可外保育所は、最近は規制を強化する動きがありますものの、これまでは事実上は放置されてきたと。明日にも保育園を私が 開きますといって家に看板をかけても誰も文句は言いに来ないような状況がある。その一方で認可保育所という方は、個人が 希望して入りたいと言ってもそう簡単には枠が増えないような構造がある。児童手当に関して言いますと、小額であって所得上 限付きである。そして、高等教育の学費の負担も私的負担が大きく奨学金が少ない。そういうことで、育児は私的負担という暗 黙の前提があったのではないだろうか。
     では、こういう暗黙の前提のもとでどうやって暮らしというのを成り立たせていくかというと、正社員に対する企業内福祉を充実 させるような形の政策もとられていたのではないだろうか。例えば、正社員については、手当が大変多い給与構造になっており ますし、世帯賃金ということではないかと思いますけれども、その世帯が生活していけるような賃金である。そのために男女格 差が比較的大きい。世帯主になる可能性が少ない女性に対しては比較的低賃金であると。それから、新卒採用と年功評価が 高い賃金であると。そして新卒採用と年功評価の高いような企業ほど中途採用の入り口が狭くなっている。それから、もちろん 景気循環がありますので、こういうもとでは景気循環で労働需要が増えたときには残業する。そして減ったときには残業が減 る。あるいは長期で雇いますので、いろいろ労働需要も変わってきますでしょうから、それに対応しては世帯主が転勤をする。 転勤はなかなか拒否しにくいようなこれまでの判例、反面でその正社員は解雇から守られやすいといったような判例等々、そ れから転職が難しい退職金の構造、こういったような3つがこれまでの日本の暗黙の社会における雇用システムの特徴だった のではないか。
     どこの国でも老後や子どもを持つということは重要な生活の一部であります。日本ではそれをどういう形で保持する仕組みをつ くってきたかというと、暗黙に女性が再生産ケア部分はとって、男性に関してはそれができるだけの所得と雇用保障と、そして 子どもに関しては私的にそれを扶養し、妻がケアするということがいろいろな面で暗黙にあったのではないだろうかというふうに 思います。
     こういった暗黙の制度の中で、では、現在の日本の女性労働はどういう特徴があるかといいますと、最初の雇用保障の強い 正社員部門に入った人と、その後そこから抜けて非正社員になった人たちとの間に非常に大きな賃金格差があるということが1 点目としてあります。これは諸外国に比べても非常に大きな賃金格差であるということが指摘できます。
     それから、2点目に1986年雇用機会均等法によって、女性も差別されないで正社員の部門に入りやすくするという法律が策 定されましたけれども、その正社員というのは基本的には世帯で食べていく前提で転勤ですとか、あるいは残業等の雇用慣行 がありますので、そうしますと、子どものケアを主に一手に担うであろうと予想される女性雇用者に対しては、結果的には正社 員の募集の入り口がより縮小した可能性が強く、特に女性の非正規雇用が拡大したのではないか。87年においては非正規雇 用が女性の雇用の37%ですけれども、97年の「就業形態の多様化に関する調査」では47%に拡大しております。
     そういった働き方である正社員に入った女性は、出産しながら正社員の働き方を続けるということは非常に難しい。一方でそこ から出ると非常に低賃金になってしまうということから、90年代に入りまして非婚・非出産が増加していった。その一方で、出産 して続けるということに対する制度整備はしたのですが、全体的なシステムの転換にまでは至っていないために、実は90年代 に入って、子どもが生まれたときに専業主婦になるという比率は上がっているということが国立社会保障人口問題研究所の「出 生動向基本調査」では示されております。これは私がした分析でございますけれども、大体平均では7割ぐらいが第1子が生ま れて第1子が1歳時点では無業になっておりますが、大都会ほどその比率は高く、大都会では大体85%ぐらいが第1子が生ま れて1年後の時点で無業になっております。その比率というのは、現在の30代、現在の40代、現在の20代というので見てみま すと、現在40代前半層あたりで一番就業継続が高いような形になっていまして、その後、正社員での就業継続も落ちています けれども、特に専業主婦比率が上がっているという形の変化が出ているということが国立社会保障人口問題研究所の再分析 によって示すことができます。
     女性の高学歴が進んだのに、どうしてそういうほかの国とは違うような専業主婦化が進んだのかということですけれども、高学 歴化の影響はもちろん出ております。どこに出ているかというと女性の非婚や非出産が増加するという形で出ております。そし て一旦離職した女性はどうなるかといいますと、これは日本特有の特徴と思われますけれども、高学歴女性ほど一旦離職する と仕事に戻らない特徴がある。これは正規労働市場と非正規労働市場で非常に賃金格差が大きく、また正規労働市場への入 り口というのは若年に比較的限られておりますので、なかなかそちらの入り口が難しいということが一つ。それだけではなくて格 差が大きい。短時間の良好な仕事の機会が少ないということが影響していると思いますけれども、高学歴の女性ほど戻らない という特徴があります。高学歴の女性ほど夫の所得が高いということももちろんありますけれども、それ以外にも労働市場の影 響がございます。それから、働く女性の労働時間の総計が長い。ここにいう労働時間というのは市場労働及び家事労働時間の 総計でございます。そして、男性は著しく家事時間が短くなっております。以前「社会生活基本調査」の再分析をさせていただ いたことがございますけれども、特別集計をしてみても、女性が働いてかつ賃金が高いと男性の家事時間が増えるかという点 でございますが、若干は増えますが、ちょっとしか増えないということがわかります。ですから、暗黙にこのような社会のあり方 がレジュメの1のようにあったのではないか。この辺では、そんなことはないという御議論もあるかもしれませんけれども、暗黙と してこういうことがあったのではないかと思います。
     そして2番のレジュメにあるような日本の女性労働の特徴ができているのではないかというふうに思われるということです。
     では、具体的にはどういう影響を与えているかということですが、3番の「税制と社会保障制度が就業行動に与える歪み」とい うのを取り上げて少しお話してみたいと思います。
     働く既婚女性の4割近くが就業調整を意識しています。その結果本人、企業双方にとって103 万という、あるいは130 万が 「暗黙の所得ターゲット」になっておるのではないか。そして結果として、就業調整がパート賃金のバラツキを抑制し、賃金上昇 を抑制するくさびになっているのではないかと思われるということです。
     添付資料の日本労働研究雑誌の「パート賃金に103 万の壁は重要か」というところをごらんください。60ページと書いてある1 枚目の最初の第2段落のところですが、具体例を考えてみましょう。時給800 円の労働者が年収103 万の壁まで働くとしましょ う。労働時間はボーナスがなければ103 万÷800 で1,288 時間。週で計算しますと週大体25時間です。大変働きぶりがよいの で、雇い主が賃金を1,000 円に上げるとしましょう。同じ労働時間働けば年商26万円増えて、そういった形で努力を評価されて 本人のやる気も大きく高まると通常であれば考えられます。ところが、103 万円に抑えようという年収ターゲット行動が強いとす ると、賃上げは賃上率と同じだけの労働時間の削減をもたらします。上の例では賃上げがやる気を引き出すどころか、むしろ優 秀な労働者が週当たり5時間の労働時間を自主的に減らしたいと言ってくる結果を生みます。
     こういうわけで、能力がある人に対して賃金評価をするということがなかなか雇い主の側としてはしにくい土壌がある。反対に 言えば、103 万までであれば比較的低いコストで人を雇うことができるような土壌がある。103 万というところに多くの既婚女性 をターゲットにしていることによって、パートの低賃金をかなり助長しているのではないだろうか。
     「パートの壁とは」というところで、皆さんもよく御存知だろうと思いますので、余り詳しい説明はいたしませんが、配偶者手当 のカットですとか、あるいは社会保険料免除等で、最近は介護保険も入りましたので、実はこの壁というのは非常に高くなって おりまして、右側の列にいきまして上から7行目あたりに、 103万、130 万の次は年収180 万ぐらいにならないとなかなか手取 りが増えた実感がないのではないかというふうに言われております。週25時間を超えるのだったら、週43時間働くとどっちにし ますかというのは非常に不連続な選択でありまして、結局短時間を選ぶと。就業調整をするとしても驚くに当たりません。
     なお、制約が緩和されれば女性の労働時間が増えるだろうという回答はサラリーマン世帯の妻の7割弱を占めております。
     そして、次のページをくっていただきまして、右の段落の注の3)というところを見ていただきたいんですが、実際、「パートタイム 労働者総合実態調査」平成7年によれば、賃金払いが月給制の女性パートタイム労働者の約3割が、実はさっき言いました年 収180 万というピークにありまして、もう一つのピークは先ほどお話ししました103 万周辺のピークだと。実際にそういうような行 動がパート女性によって見られている。
     さらに先ほどの就業調整、賃金が上がると労働時間が短くなるというのは、注6)のところを見ていただきたいんですけれども、 1990年当時は平均時給712 円であり、年収ターゲット100 万円の労働時間週27時間でございました。実態を見ると週29.5時 間でした。98年では平均時給が886 円と上がり、103 万をターゲットとして計算すると週労働時間は22.5時間でありました。実 際の週労働時間も24.5時間でありました。こういう形で今言ったようなメカニズムで女性が就業をしているということがパートの 低賃金の一つの要因になっている。そして、またそのような選択をすることが一番有利であるような税制上の、あるいは社会保 険上の構造ができているというふうに考えられるということです。
     ちなみに、今の点につきまして、レジュメの4ページを開けてください。レジュメの4ページは、夫の月収階級別に見た妻の勤 労収入を全国消費実態調査の目的外使用として再集計したものでありまして、右下のグラフが全体平均であります。そして、そ の上に並んでいる6つのグラフは夫の月収が25万以下の妻、夫の月収が35万以下の妻、夫の月収が45万以下の妻、夫の月 収が55万以下の妻、以下同様であります。
     そして、実際にどれくらいの月収に妻が調整をしているかというのを、夫の月収別に分布を見たものでありますが、内側の高い 線が非課税になるのではないかなと思われる8万円の線でございます。そして外側の線が、社会保険料が免除になるのでは ないかなと考える月収妻が10万8,000 円という線を2本入れてあります。月収8万もしくは月収10万8,000 円というところでどの くらい妻が調整しているかということですが、もしも調整がなければ賃金分布は低賃金に若干偏った山型になるということが知ら れておりますけれども、ごらんになりますように、夫の月収が大体35万以上あるいは45万以上、55万以上、65万以上このあた りで突出した大きな歪みが見られるような分布になっております。一方、夫の月収25万ではほぼ歪みがございません。夫の月 収25万の層というのは、もしかしたら夫が配偶者手当等がないような企業に勤めている方かもしれない。また、夫の配偶者特 別控除による夫の月収増というところが極めて少ない、あるいはほとんどないような層なのかもしれない。そして、夫の月収が 高くなるほど世帯としての選択として就業調整をするということがここで一つ明確に示されているのではないかというふうに思い ます。
     3番の次の○にいきまして、再就職の女性については、年金の第2号に加入する年金給付上のインセンティブが大変少ない 設計になっているのではないかと思います。基礎年金部分は夫が2号なら無条件で確保できますが、一方、再就職で厚生年 金加入をしたとしても、保険料・給付とも報酬比例、加入期間比例であって、低所得者に対する再配分部分がないために加入 するうまみが少ないのではないかと。
     2ページ目の方にいきまして、月収15万で10年間再就職した場合、年金保険料の被用者分として毎月1.3 万円妻は自分で 納めることになります。ところが給付が増える部分というのは、65歳に給付がそこまで上がったらですけれども、65歳以上から 給付が1.1 万円増える。遺族年金の場合、夫が死亡した場合は恐らく今8割方が夫の方の遺族年金を選択しておりますので、 夫が平均年齢で死亡するとすると大体9年ぐらい1.1 万円の給付増が受けられるということです。第3号だった人が130 万超え たけれども、厚生年金に加入できない場合は第1号自分で1万3,300 円払わなくてはならず給付増はゼロなのです。それに対 して厚生年金に入れればよりいいということなんですけれども、それでも増える部分が1.1 万円にすぎないということが一つある のではないかと思います。
     既婚女性に家計補助的的働き方を大きく奨励する制度。これが逆に低賃金を助長するのではないかと。それから、現在未婚 女性、離婚非正規女性が大変増えております。未婚女性についても年齢が上がると非正規労働化する傾向が大変見られまし て、こういった方々が社会保障から落ちこぼれがちになるのではないかと。
     5ページ目のところをごらんいただきまして、今、補助的に働く主婦というのが一番税制上もあるいは社会保険上も優遇され る。優遇とは言いませんけれども、個人にとっては一番得だという制度になっているということをお話ししましたけれども、1988年 から97年にかけて女性の保険加入がどのように変わったかというのを見たのが下図の4-2と上図の4-1の比較でございま す。
     下の図4-2では、m字型の労働力率でありまして、一番下の黒いところが第2号の方々、灰色のところが第1号の方々、上 の部分が第3号の方々と。入ってない人がいるのはこの頃、小規模事業所に対する厚生年金適用というのがないときだったか らでございます。それが図の4-1になりますと、どうかと言いますと、m字型労働の背中の部分というのは、中年期の盛り上が りというのはさらに上がってはいるのですが、2号加入が増えたかというと、88年よりは若干増えております。これは25から29歳 層から30から34歳層にガタンと落ちる。落ちた後中年期に労働力率が盛り上がるのに2号加入が増えていないという、そういう 基本的な形状は88年と何ら変わりません。しかし、2号加入の割合というのは若干高まっております。しかしながら、社会保険 料を負担している層というのは、2号プラス1号なのですが、2号プラス1号の比率はむしろ低下している。そして、どこが増えて いるかというと、3号だけれども労働力であるという先ほどの就業調整を主体とするような層、これは図で見ますとレンズ型の形 になっている部分ですけれども、労働力率のところと下の黒い灰色のところの間の凸レンズのような形になっている部分です が、これは88年と比較しますとかなり増えているというのがごらんになれると思います。
     今のような結論は、5ページのeとfというところに数字を挙げて書いてありますけれども、40から44歳層で見たものです。制度 がこれが一番有利というふうに意図せずに設計したところに、実は結果として10年間に大勢の人々がそこを目指して増えていっ たということが見ることができるのではないかと思います。
     6ページのところをごらんいただきまして、6ページの表に保険料に対する給付額というのが、これは私が計算したものであり ますが、多分間違っていないだろうと思いますけれども、例えば1か月分の保険料で月収20万のところをごらんください。第2号 で月収20万の方は自己負担で月々1万7,250 円払います。これは8.625 %で計算しました。これに対して、最低25年入ってな いと給付はこないんですけれども、25年の加入期間を満たした場合に単身であると、1か月の加入に対しては報酬比例部分 1,430 円と基礎年金部分1,625 円がきます。1,625 円というのは最近若干改定されまして1,675 円ぐらいじゃないかと思います が、ここがきます。
     専業主婦世帯であると、もう1人分1,625 円がつくわけです。単身世帯だと1,430 円プラス1,625 円しかつかないわけです。そ れに対して、今まで3号であった女性が2号になったとするとどこがつくかというと、1万7,250 円の支払いという点では同じです が、つく部分というのはこの1,430 円しか追加的な給付はされないようになっております。
     これはどうしてかというと、今まで3号で既に基礎年金部分が基本的にはカバーされておりましたので、追加的に1万7,250 円 この方が払うことによって得られる部分というのはこの1,430 円にしかすぎないわけです。これは10年加入した場合には幾らくる かというと、これは1万4,300 円この方の年金が増えると、こう見てください。倍の20年加入した場合は比例的に2万8,060 円増 えるというふうに読んでください。
     第3号の試みというのはどういうものであったかというのは、私が考えてみますと、要するに就業期間が大体女性は短い、しか も賃金が低下してしまう、そういうもとにあって、報酬比例の原則を通しますと女性はどうしても低年金になってしまう。そういうこ とで、ケアを担う女性に対して一定部分の基礎年金を付けようという一つの試みだったかと思うのですけれども、これは一律に 被用者の妻に限ってのみそれを付与しました。ケア活動しているか、していないか、そういうことに全くかかわらず妻に対して付 与されましたので、またその後再就職して頑張ったらそれが増えるかというと、そういう構造には基本的になっておりませんの で、家計補助的に働くということを結果的には非常に推進してしまったのではないかというふうに思います。
     次に4番の「企業の雇用慣行が女性の就業行動に与える歪み」でございますけれども、暗黙に家庭責任をとる者がいることが 前提の正社員雇用なのではないかと。世帯賃金を得るような仕事では転勤が拒否できない。もちろん勤務地限定という働き方 もありますけれども、賃金の上昇勾配が最も高いような働き方では基本的には転勤は拒否できないというのが実情ではない か、また残業も多いと。そして年功的な処遇、配偶者手当の半数は103 万円とリンク。その結果として次の点ですけれども、依 然として都会の女性の85%が第1子1歳時点では専業主婦になっていると。つまり子どもがいる、病人がいる、介護をすべき人 がいる、そういう人は退職するか非正社員になるかを前提とする雇用慣行なのではないか。
     育児休業をとる女性がどのくらいいるのかというのですが、社会保障人口問題研究所の先ほどのデータによりますと、妊娠す るまで正社員だった者についても2割です。産休あけで復帰する人が同じぐらいいますので、4割ぐらいが継続をするわけです けれども、6割ぐらいは実はお腹が大きくなるまでは就業継続していても、その先はまず無理だろうと、難しいだろうと考えて離 職しているというのが現状であります。育児休業制度そのものはそう悪くはないと思うのですけれども、女性がケア活動をすると いろいろな暗黙の前提が結局女性の多くの人がそれを利用しないという状況に今現在あるのではないか。
     それから、育児休業は専業主婦がいる場合、非正社員の場合とれないというような協定を結んでいる企業が多い。不況下で さらに正社員の労働密度は上昇している。転職が不利な退職金の制度、年功評価部分の大きい賃金制度。それからコミットメ ントの要求が高いこと、就職の困難から正社員の働き方を支持しない若い男女が増加している。聞いてみると余り正社員に魅 力を感じないという人もいる。その反面でなかなか就職できないということが大きいということももちろんあるわけですけれども、 同時に若い人にそれほど支持されていない。そういうことから正社員のモデルの該当者は縮小してくるのではないか。
     非正社員については、賃金水準が正社員に比べて低い、雇用が不安定である、ボーナス退職金等の諸報酬、福利厚生等が ない。それから、社会保障の安全ネット等からはずれることも多い。賃金上昇、昇進ルールが不明確。新規雇用女性の非正社 員化が90年代に入って大幅に進展しているということがあります。
     では、「新しい働き方・家族モデルとその支援」でございますけれども、従来の働き方、家族のあり方は高度成長期には合理 的なものであったとしても、現在では非婚や離婚が増加している。それから非正規労働者が増加している。それから、今は大体 4:1なのですけれども、ほんの20年後には成人:高齢者比率が2:1になるということを考えると、この古いモデルというのは何 といっても維持が難しいだろうと。そういうことから新しいモデルが模索され必要とされている。その新しいモデルとしては、男女 がともに無償労働をし、かつ就業が可能と。それは度合いは違うかもしれませんけれども、現在のような形ではないのではない かと。そのための必要な環境整備を進めるということではないか。
     具体的には、正社員と非正社員の格差を是正するような雇用管理の推進。それは非正社員の社会保障へのアクセスの拡大 や、非正社員と正社員の雇用の安定化と差異の縮小。それから、配偶者控除、配偶者特別控除等は、児童ケア控除として修 正するべきなのか、それとも児童ケア手当にかえるべきなのか、妻ということでその控除をする必要が果たしてあるのかどう か。失業率がすごく高い時期には別かもしれません。
     次に、男女とも育児、介護、家事等働きつつ行うことを可能にする施策。育児休業後の復帰形態が現在はかなり硬直的なの ですけれども、それを短時間就業を可能とするようなオプションを子どもが一定年齢まで賦与するとか、あるいは1歳前復帰者に ついては育児有給の増加、あるいは短期勤務の権利を賦与する、あるいは転勤を選択可能にすること、転職のコストを引き下 げるような企業年金・退職金の整備。
     次の○は、保育ケア利用者には保育に対する補助金と、家庭保育者に対しては子どもケアに対する手当が支給されるよう な、これは今の財政状況を考えると難しいのかなというふうには思いますけれども、保育園の充実というのは非常に重要なので はないだろうかと。そのためには、保育園に行くか自分がケアするかというのを比較的選択できて、片方でうんと公費負担がか かって片方は全然かからないという構造だと難しいのではないかというのがこの次の○です。
     そして、最後の○が就業調整を回避する仕組みの創出。制度改正についてこれはまだ余り練れてないのですが、私は3号を 廃止して、あるいは末子が一定年齢までに制限して、一方で育児後に復帰した人たちというのが、男性は40年加入を前提とし て報酬比例と代替率を考えられていると思うのですけれども、育児をした人の満期というのは40年と見るのは、どうしてもそう いったことをした人たちの年金部分を下げますので、そこをもう少し上げるような工夫が必要なのではないかというふうに考えて おります。
     時間も35分と言われたのが5分過ぎてしまいましたが、6ページの表1を御説明しませんでしたけれども、これは家計調査95 年11月の特別集計でございますが、税金と社会保険料の月額がどうかというのを見たもので、税金が例えば30から34歳層を 見ていただきますと、子どもが多いほど減っている。これは当然なことなのですけれども、社会保険料は減ってない。これも定義 からいって当然のことなのですが、多子世代に非常に厳しいような構造になっていて、しかも社会保険の方が倍ぐらいとられて いると。そして社会保険というよりは、再分配機能を専業主婦とそうじゃない世帯とか、非常に大きく担っている部分がいろんな 歪みを生じさせているのではないかというふうに考えるということです。
     まだ全部説明しきれていないところがありますが、御質問等ありましたら御説明したいと思います。
    大澤会長
    どうもありがとうございます。大変貴重な研究成果をびっしり詰め込んでいただきまして、皆さん議論をしたいという ことがたくさんあろうかと思います。どうぞ。
    岡沢委員
    1つは非常に感動したのは、sainsbury さんをまさか読んで、実は彼女は私の若いとき机を並べた人で、私の横に 座っていた人なのですよ。ずっと昔からのお友だちで非常にクレイバーな方でして、ちょうど坂東さんのようなイメージの、ストック ホルム大学の論客と言われている方です。よくこの話するのですけれども、彼女に向かって、恐らくこの本は読まれることない よ、きっと僕しか読まないよと言ってた本が、まさか日本で読んでいるお方がいるということにまず感動いたしたんです。ほんと に見事にまとまっているのですが、こういう話をするとちょっと失礼なんですが、どれが突破口でしょうか。
    永瀬委員
    どこがというのは、一緒に動かさなくてはいけないと思うのです。それは、正規と非正規の格差縮小とつまり短時 間での良好な雇用機会の創出と社会保険税制を変える。それから子どもを保育しようと思ったらば保育できるという、それを同 時にしないと、例えば3号廃止だけをすると、これはすごく少子化推進的ですね。実は3号というのは若い世帯が多いのです ね。子どもを持って離職した若い世帯が多いので、ただただ3号を廃止するというのは、これはすごく悪い政策だと思うのです。
     そうではなくて、もっと社会のあり方を大きく今変えなくてはいけないので、前提としてどこを見るかなんですけれども、私が今 の日本社会を見るところでは、男女平等に働くというところには至ってはいないような気がしますので、より女性がもう少し働け るような状況を、そして働いたことは報われる状況をつくっていく。ただし、子どもは持つし、その子どもを自分でケアすることを選 ぶ人は、それを選んだことによって、その人の生涯所得が落ちるとかそういうことは余りないと。その人は、例えば10年とか15 年ぐらいそういうことをしたかもしれないけれども、その後復帰することによって、その人自身がもう一度雇用市場に戻っていける という新しい家族のあり方の基本的な形というのを考え直した方がいいのじゃないかということです。
    岡沢委員
    ただ、トータルな社会改革案として出したって、実際問題としては、一番御存知の方がおられるのですが、例え ば、その政治改革のとき僕らがそうだったのですが、最終的にはトータルな社会改革とか政治改革の問題というのは出ないん ですよね。最終的には選挙制度をボンと突出して、それが終わるとすべてが終わったような形になってしまう。恐らくこの問題も その可能性というのはあって、全体がトータルに実現されれば一番いいのですがと言いつつも、実際にはどれか一つの非常に 影響力のあって、しかも国民の多くの人たちが関心を持っている一つのテーマに集中して法案を通していくという形になってしま う可能性というのは物すごく強いと思うんです。そのときにどれが影響力からいって一番重要な突破口なのですかと言われたと きに永瀬さんはどれを言われるでしょうか。
    永瀬委員
    短時間の雇用機会で良好な雇用機会をつくり、かつ、それをすることがその人の年金給付や社会権等を高めるよ うな、そういうものをつくるということでしょうか。
    師岡委員
    私もどのように女性の参画、そして平等なということを考えてみますと、日本の社会、生き方の多様性をお互いに 認め合うということからすれば、短時間勤務制度の均等待遇ですね。これは非常に大きな一つの柱だと思います。そして、どの ような形であれ、育児期、介護期、これを仕事と家庭の両立ということから考えてみると、両立支援という政策をどれだけきちん と政策的に打ち出していけるのかということが女性参画の一番大きな柱ではないか。極論して言いますと、両立支援と均等待 遇と言いますか、それは非常に大きい。
    永瀬委員
    そういうことですよね。どれか一つというのは難しいですよね。ほんとのことを言うと難しいような気がします。
    高尾委員
    今、永瀬先生の御報告を受けてそれではどうしようかという話にまで移っているのですけれども、私は非常に具体 的な御報告を受けて、私もある時期に一度仕事をやめたということは、私自身フルタイムで働いていたのをやめた経験があるん ですけれども、そのときは何もわかっていなくてやめたんですけれども、何年かしまして、一度やめたということは何て大変なこ となんだろうと。ほんとに損なことをしちゃったなというふうに気づいてはいたのですが、またこれを見せていただいて、一度正規 就労をやめてしまった場合、こんなにも多くの不利益をこうむるのかということを改めて見せられて愕然としたという感じです。な ぜもっとこういうことがきちっと女性及び男性にも知らされてこなかったのか。
    永瀬委員
    では、正規就業して子どもが持てるかという点ですけれども、育児休暇をとりながら続けている方々の調査等もし ておりますが、今の働き方というのは、家庭に正社員が2人いて子どもを持つことはすごく難しい働き方なのではないかと。それ がおやめになられた理由なんじゃないかと私は思うのですね。
    高尾委員
    具体的なことを言うと、私の大学時代の同僚というのは皆フルタイムで今でも働いている人がほとんどで、日本の 中でも例えば教師とかそういうふうにやれる分野もあると思いますが、大体はそうじゃないと、おっしゃったとおりだと思いますけ れども、私自身がやめた理由というのは海外に行くということで、いろいろ考えたけれども、5年間というのは長いので私はやめ たのです。
    永瀬委員
    転勤というのも一つの高学歴女性がやめる一つの大きな理由ですね。夫の転勤についていくというのが高学歴女性は比較的大きい理由の一つではないかというふうに思います。
    大澤会長
    資料2の5ページの大変興味深い図について伺いたいのですけれども、図の4-1と4-2の違いですよね。つま り労働力率と、それから1号プラス2号の間に挟まれるレンズ系の部分の厚みが増しているというのが、すごくそれがグラフィッ クに表されていて貴重な研究成果だと思うのですけれども、20歳-24歳のところと25歳-29歳のところが97年で平らになって いて、88年と比べると10ポイント近く2号というのが落ちている、これは大学進学率の上昇と学生が1号強制適用になったという ので、労働力率より上にプラス1が出ているという、こういうふうに読んでこれはよろしいんですよね。
    永瀬委員
    そうです。
    大澤会長
    レンズのところの厚みなんですが、これは要因分解みたいなことはなさったのかどうか。つまり労働力の需要構造 とか、産業構造がどういうふうに変わったから、当然2号であるべき人の数というのがこの年齢層においてはこうなったのだけれ ども、つまり3号被保険者という制度ができたがゆえに、このレンズが厚くなる方向に誘導されて起こっているのか。その制度の 影響とは別のところの影響でこのようなことが結果としてここに出てきているというような、その読み分けというのはどういうふう にしていったらいいのだろうか。つまり我々の任務というのは、この制度がなかりせば、このレンズはこんなに厚くなっていない よということが言えれば大変いいわけなんですけれども、そういうためにはほかの影響を除かなければいけないのでということな のですが。
    永瀬委員
    1号か2号か3号かというのは定義でしかないのですね。有業であって1号なのか2号なのかというのは、自営業 は別ですけれども、雇用者の場合には、例えば2号という制度を非正規のかなりの部分にも広げるという政策変更をすれば、自 動的にこの2号の部分というのは労働力率に近づくわけですね。だから、1号、2号、3号というのは定義であると。労働力率と いうのは、その人が働いているか働かないかであると。2号と3号の有業の差は何かというと、老後のどのくらいの給付につな がるかということと、1号、2号、3号というのは非常に大きくかかわってはいるのですけれども、あとどれだけ払わなくてはいけ ないかというのにかかわっているのですけれども、同時に選択できる部分でもあるのですね。例えば労働時間減らせば3号でい られるとか、労働時間を少し増やすと1号になってしまうとか、さらに増やすことを条件に2号で企業に雇ってもらうことができると か。パートでも35%ぐらいは今2号で雇われているんです。ですから、それが無理なことというふうにおっしゃる方もいますけれど も、つまり2号なんかさせてもらえないという人もいますけれども、全くそれが不可能なことではない。労働時間をかなり長くする ことを前提に非正規で2号になることは無理ではありません。できます。できるのではないかと私は思います。
     ただ、それを選ばない人が多いのはなぜかというと、2号になっても、さっきお話ししたように、長時間働くのに取られる部分が 多くて増える給付が少ないので、自ら2号にならないことを選ぶ人が比較的多いと。では2号になることを選ぶ人はどういう層か というと、夫の所得の比較的それほど高くない層に多い点は2号に、つまりフルタイムで中年でカムバックして労働時間は40時 間近く働いて、身分は非正規であるけれども、パートであっても社会保険に入れてもらえると、そういう働き方をする方々はいま すし、その道がないわけではないと私は思っています。いわゆる、きらびやかな正規というのはないですけれども、中年でも社 会保険には十分入れると思います。ただ、その場合には賃金がかなり落ちると、しかも加入期間が短いために報酬比例部分が 非常に少なくなるような設計になっているということです。昔の厚生年金は定額部分というのがあって、その上にのっていたので 賃金が低い人はかなり優遇されていたのですけれども、今その低額部分が基礎年金部分になりましたので、専業主婦から2号 になることのメリットというのが低収入者にはすごく低いんです。
    大澤会長
    1号になるのに比べたらずっと有利なんだけどという。
    永瀬委員
    1号になるよりはいいけれども、考えてみてこれは私だったら嫌だなという気がして。
    坂東局長
    極論すれば、基礎年金だけ強制加入にして、そちらの報酬比例の部分は私的にカバーする方向の方がより女性 にとっては中立的かもしれませんよね。
    大澤会長
    私はそう思ってはいないのです。それがこのsainsburyさんの本に書いてあることでして、サッチャーの年金改革と いうのがそれに近いことをやったんですけれども、つまり、国の年金から抜けられるぐらい有利な私的年金を買える人は抜けな さいということを設けた結果、20%ぐらい加入者が抜けたんですけれども、そのうち75%は男で、増えた私的年金の契約もほと んど男なんですけれども、だから有利でなくなった公的年金に取り残されたのはブルーカラー労働者と女性ということです。それ で、そこには税制上の優遇処置がついていますから国として負担がないわけではないという2層構造をつくってしまっているわ けなので、そこは何とも、それこそジェンダー・バイアスがない制度ではないのです。
    坂橘木委員
    それは基礎年金を幾らにするかによって違うと思うんですよね。今の基礎年金だったら額が少ないからそういうこと になるけれども、基礎年金をもう少し増やしたら、だめですか。
    永瀬委員
    国際的に見ると、今の基礎年金は高いですよ。
    大澤会長
    安くはないです。
    永瀬委員
    6万7,000 円というのはすごく高いです。
    坂橘木委員
    実際には統計を見るとほとんど4万円か5万円ですよ。加入期間が少ないからね。法律上は6万5,000 円だけれ ども、それは40年とかいうほとんど不可能ではないのか。
    永瀬委員
    それで25年を欠ける人は無年金になるという、物すごく厳しいです。
    坂橘木委員
    だから6万 5,000円というのはあくまでも仮想的な数字ですよ、あれは。
    永瀬委員
    今のこの図4-1でごらんになるように、例えば高尾さんの世代とか私たちの世代についてはかなり満額もらえる 人が増えると。そして、それはどういう人がもらえるかというと夫が失業することなく、非正規労働に移ることなく、ずっと労働を続 けてた人の妻は6万7,000 円もらえると。夫が失業するとか、あるいは自分が離婚して子どものケアをしながら働かなくてはなら ないために、なかなか1万3,300 円を納めきれなかったとか、そういう人は6万7,000 円から欠けますけれども、あるいは6万 5,000 円ぐらいから欠けますけれども、今の私たちの世代がこのままの制度でいきますと、優遇されるのは、そういう安定した、 しかも働かなくてよかった層というのは事実だろうと思います。一方で若い人たちで非正規になった人たちは自ら加入していな い人も多いですし、この層というのはまた6万幾らを欠けるということになると思います。
    大澤会長
    ちょっと議論は尽きないのですが、時間がきたようでございます。大変活発な御議論ありがとうございました。
     最後に、事務局からの連絡事項等をお願いいたします。
    浜田参事官
    次回でございますけれども、お手元に第3回会合の出欠についてというペーパーをお配りしておりますが、そこ にございますように次回は7月16日月曜日の15時から17時まででございます。場所はまた追って連絡いたします。すみません が、その出欠についてのペーパーに御氏名と御出欠を書いて出していただけますでしょうか。
     それからもう1点ですが、そこに第1回専門調査会の議事録案を、これは委員の方限りということでお配りしております。この 議事録の案でございますけれども、すみませんけれども、何か修正すべき点がございましたら1週間ほどでお返事をいただきた いと存じます。いただいたものを集約しまして、次回7月16日のときに、修正したものを諮りました上で、それで議事録を決定し てオープンというようにさせていただきたいと思います。次回以降につきましても、議事録につきましては、このようなことでやら せていただきたいと存じますので、よろしくお願いします。
     以上です。
    大澤会長
    ありがとうございました。それでは、これで影響調査専門調査会の第2回会合を終わりたいと思います。どうもあり がとうございました。

(以上)