ポジティブ・アクション研究会(第7回)議事要旨

  • 日時: 平成16年11月30日(火) 10:00~12:00
  • 場所: 内閣府5階特別会議室

(議事次第)

  1. 開会
  2. 雇用分野におけるポジティブ・アクションについて(山川委員より報告)
  3. 自由討議
  4. 閉会

(配布資料)

資料1
雇用におけるポジティブ・アクション(山川委員資料)
資料2
平成15年度女性雇用管理基本調査(概要)(〃)
資料3
男女雇用機会均等政策研究会報告書(抜粋)(〃)
資料4
男女雇用機会均等法・指針・解釈通達(抜粋)(事務局資料)
資料5
ベンチマーク事業について(〃)

(概要)

  1. 山川委員より雇用分野におけるポジティブ・アクションについて報告が行われた。
    • ○雇用の分野におけるポジティブ・アクションは、「雇用の場における男女平等の実現にあたり支障になっている事情の改善のための、女性の能力発揮を促進してその活用を図る積極的取り組み」である。ポジティブ・アクションが導入された背景には、男女雇用平等の実現にあたって支障となる様々な事実上の支障の存在がある。
    • ○現行法上、ポジティブ・アクションは、男女雇用機会均等法9条が女性のみに対する措置の禁止につき例外を許容し、同法20条で国は事業主の取組みへの援助を行うことができるものとして位置づけられている。
    • ○行政の取組には、均等推進企業の表彰、女性の活躍推進協議会による普及の促進などがある。技術的な側面では、ベンチマーク事業を行っており、女性の活躍の推進状況を関連財団が診断をして、中小企業等にノウハウを提供している。
    • ○女性雇用管理基本調査によると、平成15年度において既にポジティブ・アクションに取り組んでいる企業は29.5%であり、企業規模によってかなり差がある。
    • ○諸外国における取組状況を概観すると、イギリスでは、自主的な取組を尊重しており、アメリカでは連邦政府契約の締結条件として、アファーマティブ・アクションの実施が要求されている。その他フランスでは、雇用状況の報告書の提出が義務づけられており、スウェーデンでは男女平等計画の策定ということが直接的に義務づけられているようである。
    • ○アメリカにおいては、教育面、雇用面、政府調達などでアファーマティブ・アクションが実施されており、その一環として雇用があるという位置づけとなっている。対象は分野によっても若干違いがあるが、特に問題になっているのが人種的マイノリティーであり、その次に女性があり、更に障害者、ベトナム退役軍人といったカテゴリーについてもアファーマティブ・アクションが実施されている。
    • ○企業の任意的措置は、内容はさまざまであるが、場合によっては公民権法違反の違法な雇用差別であるとして争われるときがある。そこでは判例法が要件を形成しており、人種や性別構成の明白な不均衡、非マイノリティーの利益への配慮、経過的暫定的な措置、というものである。
    • ○裁判所の措置は、差別の認定が前提になっているので、他の分野よりも強力な是正措置が認められている。クオーター制のようなものも認められるという判決も出ている。
    • ○公共部門に関しては2通りあり、連邦政府の職員については、公民権法上直接、積極的雇用計画を作ることが義務づけられている。もう一つの領域が州その他の地方公共団体が行うものである。どちらも憲法との関係の問題があるが、最近は非常に厳しい判例が出ており、やむにやまれぬ必要性があること、目的達成のために必要最小限の手法であるという要件が、特に人種的マイノリティーに関する判決で出ている。
    • ○連邦政府契約の締結の条件とされているものは大統領命令によって根拠づけられている。契約額と事業所規模により、機会均等条項を契約に盛り込むという比較的簡単なものと、より詳細なアファーマティブ・アクション計画の作成まで必要となるものに分けられる。
    • ○アファーマティブ・アクション計画は、方針の表明、体制の整備・労働力活用状況の分析、改善措置の策定・実施、点検というプロセスで行われる。改善措置は、職務グループごとの現状と、内部人材と外部人材の活用可能性との、両者の比較により未活用状況を判定し、目標設定を行うことに基づいて策定される。なお、政府規則において、強制的割当制(quota)が明確に否定されている。OFCCPという労働省の内部部局が監督機関として審査しており、違反した場合は、行政審判官による審査を経て、場合によっては労働長官が行政命令を下す。その中の一番厳しいものが連邦政府との契約締結資格の剥奪である。
    • ○アファーマティブ・アクションは、企業にとってかなりコストがかかるという問題があるが、労働力を活用できないコストはそれよりもはるかに大きいので、廃止を考える企業はあまりないようである。
    • ○最近では任意的な措置が重視されており、EEOC等でもベスト・プラクティスを紹介して普及を促進するという政策を取っている。また、組織に含まれるさまざまな問題を洗い出す作業としてのアファーマティブ・アクションということも重視されている。
    • ○内容はより多様化してきており、特に家庭と職業の両立ということがかなり重視されるようになってきている。また、紛争解決手続の整備や、能力主義による評価制度の透明化なども重視されるようになってきている。かなりの専門家集団をそろえたNPOも企業に対するコンサルティングなどを行って活躍している。
    • ○各国共通している雇用上のボジティブ・アクションの構成要素は、方針を立てるということ、問題を発見するということ、それから問題を改善するための計画をつくって実施すること、更に実施状況を点検することである。
    • ○アメリカで、コストがかかるという批判を受けながらも、企業の中では容認されているのは、それなりのインセンティブないし効用が存在するからではないかと思われる。ボジティブ・アクションというものの効用があるということと、それを社会的に認知してもらうしくみを考えるということと、更にその手法も非常に多様であるというようなことはポイントになるのではないかと思われる。
  2. 報告等について自由討議が行われた。その概要は以下のとおり。
    辻村委員
    ポジティブ・アクションの定義自体に「女性のための」ものということが入っているのかどうかは必ずしも定かではないが、そのあたりの整理をどう考えるか。また、男女雇用機会均等法において片面性が改められた場合、ポジティブ・アクションの定義がどのように変わるか。
    山川委員
    男女雇用機会均等法の現状の性格としては、9条において女性労働者に関して行う措置と書いてあり、行政上の調停等の申し立ても女性に限られているので双方的な意味でのポジティブ・アクションは予定されていないと理解している。厚生労働省の研究会では、双方化した場合、男性に関するポジティブ・アクションも理論上考えられるという議論が多かったものの、実際上必要な領域については、余りないのではないかという程度であった。
    高橋座長
    均等法の9条の場合は、女性を優遇し、逆差別になりかねないような問題を含んだものであるけれども、20条はもっと広い、一般的に積極的にやっていくものを含んでいるという理解でよいか。
    山川委員
    9条によって正当化されるというものではないけれども、評価基準の明確化といったような、中立的なものも含まれるのではないか。ポジティブ・アクションの概念には、双方向的な中立的なものも入れた方がよいと思う。
    高橋座長
    ただし、逆差別になるようなものと、そうでないものは報告書を書く際などは、きっちり区別した方がよい。
    伊藤委員
    ヨーロッパの場合、平等との抵触が問題になるような手法は公共部門の方で大体行われている。民間の場合には、経営者、事業者の人事権、あるいは経営についての責任というのがあり、余りきついものをやるのはそもそも難しい。人材の有効活用の問題ということであれば受け入れられやすい気がする。その辺りの企業の認識はどうか。
    山川委員
    アファーマティブ・アクションが企業にとって有効性があるということはかなり認識されている。義務づけの点については、アメリカでもアファーマティブ・アクションそれ自体は一切義務づけていない。ただ、政府から契約をもらうためには、企業にとってはかなり面倒なことを実質上やらざるを得ないということに対する不満は、アファーマティブ・アクションの効用は認めつつも、聞かれるところではある。
    伊藤委員
    アメリカでは、連邦政府契約の締結について、日本の経済性原則のような会計法上の議論はないのか。
    山川委員
    連邦政府契約による仕組みについて、大統領権限の問題として憲法上争われたことがあるが、財政上最も効率的なものかどうかなどは、少なくとも主たる争点には上がってきていないようである。
    安西委員
    仮に政策としてのアファーマティブ・アクションをなくせば社会における自発的なアファーマティブ・アクションというのは残るか。また、審査に時間がかかるのはなぜか。
    山川委員
    アファーマティブ・アクションは、訴訟の防止策としての面もあることから、自発的なものは残ると思われる。また、審査に時間がかかるのは、現地調査、専門家への分析委託など、かなり手間のかかることをしているからだと思われる。
    伊藤委員
    労働組合と経営側との労働協約の中で差別の問題に取り組むといったことは、アメリカでは考えられないのか。
    山川委員
    ヨーロッパに比べると、一般には組合としての取組は遅れている。むしろアメリカでは組合が人種差別で訴えられることもある。
    名取局長
    ノルウェーでは、大手企業の取締役の4割を女性にするという法律ができた。
    辻村委員
    男女雇用機会均等政策研究会の報告書では、間接差別とポジティブ・アクションの関係について、間接差別は違法なもので、ポジティブ・アクションは合法なものだとしているが、違法か合法かをどうやって区別するのかということが問題であると思うが、どう考えたらよいか。
    山川委員
    ポジティブ・アクションは違法という評価を受けないものをも対象とするという観点で考えていた。その結果、ポジティブ・アクションが違法と評価されないということは、また次の段階の話になる。間接差別を規制することとポジティブ・アクションを実施することで共通するのは、不合理な障壁を除去する方策であるということである。
    伊藤委員
    間接差別は最初に出てくる基準は性別ではないが、ポジティブ・アクションの場合は、最初に性別によって区別されるわけであるから性質が違うのではないか。
    山川委員
    間接差別に当たるというものについてポジティブ・アクションを実施するということもあるし、間接差別までは当たらないけれども問題があるというものについて、ポジティブ・アクションを実施することもあるということで、論理的には両立し得るのではないかと思われる。
  3. 次回の研究会では、EU諸国におけるポジティブ・アクションについて検討することとなった。