ポジティブ・アクション研究会(第6回)議事要旨

  • 日時: 平成16年10月15日(金) 10:00~12:00
  • 場所: 内閣府3階特別会議室

(議事次第)

  1. 開会
  2. 公契約分野における男女共同参画のポジティブ・アクションについて(碓井教授より報告)
  3. 宮城県におけるポジティブ・アクション推進事業について(宮城県男女共同参画推進課長より報告)
  4. 自由討議
  5. 閉会

(配布資料)

資料1
公契約分野における男女共同参画のポジティブ・アクション(碓井先生資料)
資料2
女性のチャレンジ支援策について(事務局資料)
資料3
地方自治体における取組例(事務局資料)
資料4
「予算決算及び会計令」及び「地方自治法施行令」(事務局資料)

(概要)

  1. 碓井教授より公契約分野における男女共同参画のポジティブ・アクションについて報告が行われた。
    • ○公共契約の基本原則として、経済性原則と公正性原則がある。この経済性原則を示すものとして一般競争入札優先主義があり、我が国では明治会計法以来、公契約においては一般競争を原則とすべきだという考え方に一貫して依ってきている。
    • ○現実には法律の建て前と運用の実態との間には大きな開きがあり、公共工事の発注などでは、一般競争に付すと不良な業者も入ってくるという理由から、指名競争入札を運用上の基本にするという考え方が支配してきた。ようやく最近になって、公契約をめぐる不祥事や、WTOの政府調達協定の発効など外圧の影響を受け、一般競争入札が推進されるようになってきた。
    • ○国の場合は、公契約の分野で、ある政策を各省各庁の長限りで採用することには障害がある。地方公共団体の場合は、長が契約締結権者であるので、政策の決定とリンクさせやすい。地方公共団体の契約については、自治法等の経済性原則をどこまで強いものとみるかが論点になってくる。
    • ○契約の実行を通じて一定の行政目的を達しようとするような内容を含むことは契約制度の本旨にもとる、また、行政目的を達するための内容を契約制度に含めると、契約制度上公正性の原則を失い、経済性の原則を確保することができなくなる、というのが財務省の一貫した立場である。このような認識については、第1に個別具体の契約について他の政策を考慮に入れることが本当に経済性、公正性を阻害するのか、第2に当該契約のうえでは、対価の額が不利になるように見えても、当該政策の実現のために要するコストを加算した場合のトータルなコストは節減できるのではないかということ、第3に会計法令といえども、法秩序全体の中に置かれているのであるから、法秩序全体に照らして許容性を検討する必要があるのではないかという問題がある。
    • ○公共契約における付帯的政策遂行の動向については、まず法律による公共契約利用の義務付け・許容があり、グリーン購入法による環境物品の調達などがある。次に日本においては、中小企業基本法や障害者の雇用促進法など、多数の政策宣言法律があるが、公共契約を利用するには会計法令との整合性をいかに図るかが課題となってくる。これについては、地方公共団では独自の政策判断から、さまざまな試みが行われている。
    • ○付帯的政策遂行の問題を解く鍵は、狭い意味の財・サービスを契約目的の対象に限定して経済性を追求していた伝統的契約観から、財・サービスのほか社会貢献等をも契約の対象とする新たな包括的契約観への転換にあるのではないか。
    • ○公共契約活用の方法として、個別的競争参加資格の要素として政策目的を入れることは、会計法令の文言に必ずしも適合しないが、当該契約の目的により例外的に競争参加資格に一定の縛りをかける必要性が生ずる場合がないとは言えず、例えば男女共同参画社会を実現するためのキャンペーンの一環として行事を企画し、その企画案をつくるような場合があげられる。一般的競争参加資格については、社会的に要請されている責任を応分に果たしているということは良好な経営の状況を示す指標であるという考え方が可能ではないか。その1つの方法として、男女共同参画に関する達成度を独立の資格要件とするのではなくて、他の社会的責任を示す指標と合わせて、総合評点算定の一要素に含めることとするという考え方があり得る。
    • ○指名基準に入れる方法については、既に宮城県で実施されている障害者雇用促進推進企業優先と、男女共同参画を同様に考えることは、可能性としてはある。
    • ○総合評価方式の中の落札者決定基準の中に入れることについては、法令の定める有利性の中に男女共同参画を読み込むのはやや困難である。公共工事を発注する省庁の申合せによるガイドラインでは、有利性の中に環境の維持、リサイクル対策などが掲げられているが、その延長上で組み込むことができるかどうかが検討課題になる。
    • ○随意契約については、少額の契約の場合に許されているが、その際、一定の政策に寄与している企業を優遇するということは考えられる。なお、随意契約の許容場面を増やすと、逆にそこに掲げられないものは許されないとする反対解釈が通用しやすくなるという懸念がある。
    • ○契約の中で相手方に政策適合的な行為等を契約条項に盛り込み、義務づける方法もある。
    • ○個別の方法をそれぞれ吟味していく場合に大事なことは、一貫した政策を決めてそれを実施すること、それをあらかじめ公表して透明なものにしておくことである。
  2. 宮城県男女共同参画推進課長より宮城県におけるポジティブ・アクション推進事業について報告が行われた。
    • ○宮城県では、県の建設工事等の入札参加登録をしている約8,000社の全事業者に調査票(ポジティブ・アクション・シート)の記入を要請し、シート中対象4項目のうち2項目以上に該当すれば、確認証を交付の上、入札参加登録の際に評点(10点)を付与している。さらに、特に優れた取組をしている事業者については、訪問調査の上、知事表彰を行っている。知事表彰を受けた事業所については、同じく入札参加登録の際に評点(10点)をさらに付与している。
  3. 報告等について自由討議が行われた。その概要は以下のとおり。
    高橋座長
    契約の中で相手方に政策適合的な行為等を義務付ける方法についてであるが、これは契約の目的に関係しないとだめなのか、それとも、もっと広く総合的な観点から、男女共同参画の方をもっとやりなさいよという条項を入れていいのか。
    碓井教授
    全く無関係なことを義務づけることは難しいだろう。少しの公契約を結ぶことによって過大な負担を契約で負わせることには問題がある。
    高橋座長
    経済性をトータルコストで考える場合、現実にコストをどのように考えるのか。もし公契約を活用した場合、効率的に男女共同参画の推進が図れると言えるならば、議論がしやすくなる。
    碓井教授
    算定の仕方があるのかどうかわからないが、計算しづらく、積上げ計算のトータルコストという今までの延長上のそれとは少し異質になるだろう。
    辻村委員
    男女共同参画社会基本法が制定されたのだから、公契約の活用は、企業の社会的責任論と男女共同参画というものを結び付けた議論をしていくことによって正当化されるのではないか。
    安西委員
    包括的契約観をとるにしても、例えば男女共同参画社会に理解がある企業という場合と、それから女性を何%採用している企業という場合は少し違うのではないか。女性を何%というふうになると、ベネフィットがあると同時に、性差別を行っているというコストもやはり出てくる。
    高橋座長
    財務省の考え方については、男女共同参画というのは、政府の重要政策であり、それを具現した法律が現に存在しているとすれば、財政関係の法律とそれとの整合的な解釈ということをもっと考えてもいいような気がする。
    伊藤委員
    恐らく、財務省とすればそれを言い出したら切りがないということだろう。客観的審査も難しい。
    辻村委員
    不利益になるということに対してはやはり反発が大きいと思われるが、補助金交付など、利益供与だと政策としてはやりやすいのではないか。分野が違うが、政党助成の場合も減額にすると抵抗があるとしても、女性候補者の比率を上げた政党に対して,プラスにするのならばいいのではないか。
    碓井教授
    固定資産税の公益による不均一課税は税金軽減であるが、高める方は今の総務省の解釈でできないことになっていることからすると、日本でも区別されているようである。
    高橋座長
    公契約の場合はきちんと法律上の目的があってそれに従ってやらなければいけないが、補助金の場合はもう少し柔軟に考えることができるか。
    碓井教授
    補助金を規律する規範は、現在日本にはほとんどなく、補助金適正化法も手続きを定めているだけで中身のことは言っていない。補助金の直接的な目的でなくとも、ほかの政策も全体が公益上必要ということになれば組み込んでいけるだろう。
    伊藤委員
    イタリアで、ポジティブ・アクションとして女性起業の振興のために補助金を使うという法律について、傍論ではあるが憲法裁判所で認めたものがある。ただし、平等との関係で、個別の規定の制定を各地方団体に完全に委任してしまうことは問題であって、国レベルで一定の枠をちゃんとつくった上でやるべきだということを言っている。学説などでは目的についての十分な説明と一定の時間的な限定性が必要だと言っている。補助金の場合、限定性や全国レベルでの平等な扱いなどの配慮が重要になってくるだろう。
  4. 次回の研究会では、雇用分野におけるポジティブ・アクションについて検討することとなった。