ポジティブ・アクション研究会(第5回)議事要旨

  • 日時: 平成16年7月27日(金) 16:00~18:00
  • 場所: 内閣府3階特別会議室

(議事次第)

  1. 開会
  2. アメリカ合衆国の高等教育分野におけるアファーマティブ・アクション(安西教授より報告)
  3. 自由討議
  4. 閉会

(配布資料)

資料1
アメリカ合衆国の高等教育分野におけるアファーマティブ・アクション
資料2
大学の関係学科別学生数・大学院の選考分野別学生数
資料3
教育分野における男女共同参画の現状について(事務局資料)

(概要)

  1. 安西教授によりアメリカ合衆国の高等教育分野におけるアファーマティブ・アクションについて報告が行われた。
    • ○アファーマティブ・アクションを目的別に分類すると、フォワード・ルッキングとバックワード・ルッキングに分けられる。前者は、これからの社会をどうするのかといった前向きな目的を持ち、後者は過去の差別に対する救済という目的を持つ。さらにバックワード・ルッキングには、社会的差別、すなわち一般に社会で差別があり、それに対する救済という広く考えるものと、特定の具体的な差別に対する救済というかなり絞る考え方の2つの考え方がある。
    • ○手段からは、弱いアファーマティブ・アクションと強いアファーマティブ・アクションに分類される。弱い方には、積極的な学生のリクルートや、同点に並んだときにマイノリティや女性を優遇するというものがある。強い方は一般に逆差別という文脈で論じられているもので、マイノリティをマジョリティよりも優遇するものである。強い方はマイノリティであることをプラスの一要素とするプラスの方式と、マイノリティの人に対して一定の割当枠を設けるクォーターの2つの方式がある。また、プラス方式にはかなり弱いものから強いものがある。
    • ○アファーマティブ・アクションを教育分野ではやや広く認め、雇用の分野でやや狭く認めるというような混合的方策もあり、現在のアメリカ最高裁の論理はこの混合政策であると考えられるかもしれない。
    • ○審査基準には、厳格審査、中間審査、合理性の基準の3段階がある。人種を考慮したアファーマティブ・アクションについては人種差別と同じく厳格審査、性差別については中間審査が採られている。
    • ○医学校で100名の定員のうちの16名分を現実にはマイノリティに割り当てたというバッキーケース(1978年)は厳格審査に付された。このうちパウエル裁判官の意見では、学生集団の多様性に由来する教育上の利益をコンペリング・インタレストと認め、人種や民族を多くのファクターのうちの一つのプラスの要素として扱うプラス方式は限定的手段として許容されるが、マイノリティに枠を設けるクォーターは認められないとされた。その後、各大学のアファーマティブ・アクションはこのパウエル裁判官の意見に従うようになり、現実的な効果は非常に大きかった。
    • ○その後、公共事業分野のクロソンケース(1989)など、アファーマティブ・アクションはバックワード・ルッキングに限るような判例の流れが出たが、グラッターケース(2003)の法廷意見では学生集団の多様性ということをコンペリング・インタレストとして認め、手段としてクォーターはだめだけれども、人種をプラスの要素として考えるのはよいとした。アファーマティブ・アクションは分野ごとに考えるようである。また、グラッツケース(2003)では、プラス方式でも余りに強いプラスであれば実質的にクォーターと同じであるからだめだということが示された感じがする。
    • ○性別関係のアファーマティブ・アクションを憲法問題として扱った最高裁判決はないが、看護学部で女性しか入学を認めないというものを差別の救済というよりも、むしろステレオタイプの強化にあたるとして違憲であると論じたものがある。
    • ○現実の動きは、アファーマティブ・アクションの手法でもストロングは避ける方向にあり、ウィークでいく方向、すなわち人種を考慮した手法ではなくて、人種中立的な手法でなるべく行うといった流れがある。
    • ○2003年のグラッターケースが出る直前の調査によると、調査した大学の74%が多様性を追求すると言っているが、入学者選抜において人種を考慮すると言った大学は調査したうちの33%である。むしろリクルートの方法に力を入れており、調査した大学の74%がやっていると言っている。また、奨学金の対象者決定において人種を考慮することは結構行われており、公立大学の約半数、私立大学では35%が行っている。
    • ○奨学金の問題については、1994年に合衆国教育省がポリシーガイダンスを出しており、入学と奨学金ではアファーマティブ・アクションの負担を負わされる人へのインパクトが違うので、ほかの手段では学生集団の多様性を実現できない場合にマイノリティをターゲットにした奨学金が可能だと論じている。
    • ○日本では、学科別の男女比は相当ばらつきが大きく、学生の多様性の確保ということでアファーマティブ・アクションを考え得る。入学におけるアファーマティブ・アクションについては、一般入試では難しいと思われるが、別立ての入試のときに、特にジェンダー・バランスが崩れている学科で考慮するということは考えていいという感じがする。
  2. 報告等について自由討議が行われた。その概要は以下のとおり。
    安西委員
    日本では、点数信仰が強いので一般入試では難しいが、別立ての入試のときにアファーマティブ・アクションをやるのが有効ではないか。
    高橋座長
    日本では公正さというのを極端に強調するから、点数以外の要素を考慮するとなると客観的にできるのかという非常に難しい問題が出てくる可能性がある。
    伊藤委員
    さまざまな要素の中の一つとしてどのくらいダイバーシティをポイントとして考えるかという点が制度設計の難しい点になるのではないか。
    高橋座長
    判決で個別的審査をやらなければだめだということを強調しているが、個性を捨象し、このグループは何点とか、何人というやり方はだめだということだろう。
    伊藤委員
    日本の一般の競争試験の場合には完全に点数で全部出てくるのが普通だと思われる。そのような競争試験の場合に、得点をプラスするといったときには、別の要素が他にたくさんあって中和されるような格好であれば異議は比較的少ないかもしれないが、性別だけがぽんと1つ入るというのは受け入れられ難いのではないかと思われる。
    高橋座長
    男女別学というのは、今では過去の差別の救済という観点では正当化できないのではないか。正当化するとすれば、いろいろな高校があっていい、女性ばかり、男性ばかりの方が教育の効果が上がるということもあり得るんだという議論だろう。
    辻村委員
    アメリカでは、学生の多様性を確保するためにアファーマティブ・アクションを用いているが、男女別学では、多様性が確保できない。もっとも、女子高校でも、たとえば、理科系教育を重視するような女子校だったら、アファーマティブ・アクションの違憲審査基準を少し緩めて合憲に持っていくことになる、と考えるのだろうか。
    高橋座長
    報告では教育の分野と雇用とはコンテキストが違うということであったが、政治はどういう位置付けになるのか。
    安西委員
    政治分野では比較的強い平等操作が可能ではないか。政治は、有権者に対応する意見の表明ということが必要であることからすると、有権者層の状況に応じて代表者を対応させるというのはあっていいのではないかという感じがする。
    高橋座長
    教育と雇用についての考え方は日本でも取り入れていけるか。
    安西委員
    日本の場合、女性の総合職が3%しかいないというショッキングな数が出ており、雇用は自由競争だと言いえるのか、アメリカの論理をそのまま日本に持ってくることはできず、変えなくてはいけないという感じがする。
    辻村委員
    国立大学における男女共同参画を実現するために、国大協が2010年までに女性教員比率を20%までに引き上げるという一応の数値目標を挙げている。能力主義が非常に強い学術分野において、この目標を実現するために何らかのポジティブ・アクションを採用するといった場合の方法についてはどのように考えたらいいか。
    安西委員
    ウィークをなるべくやっておいて、それからストロングでも、これはプラス方式でいろいろなファクターの一つということであれば可能ではないか。ただ、ジェンダー・バランスのためにということが一つぼんと出たり、重すぎるプラスというのはまずい。
    伊藤委員
    ヨーロッパ型の発想でも、何か一つだけが決定打で決まってしまうスタイルのものは認められないと思われる。幾つかあるたくさんの要素の中の一つとして総合的に判断するのでなければ難しい。
    高橋座長
    ジェンダーをいろいろな場面で強調して、皆の意識をそちらに向けていくことが必要。あとは、個々の大学あるいは学部の構成の中で女性がどのくらいいるかということを大学の評価項目のまさに一要素として入れるべきだということを主張して入れさせていくということが考えられる。ほかのサンクションというのはなかなか難しいだろう。
    辻村委員
    今、国立大学は法人化されて中期目標・中期計画を作成しているが、そこにどれくらいジェンダー・バランスのことなどを入れることができるか、特に偏りがちな人事の問題だけではなくて、その他、環境の問題も全部、評価項目に入れるようにすれば、効果が大きいと思う。
    辻村委員
    平成13年版の科学技術基本計画では、女性研究者が継続的に研究に従事できるようなポジティブ・アクションとして、期限を限ってポストや研究費を手当てすることなどを指摘している。出産後、職場に復帰するまでの期間の研究能力の維持を図るためとあるが、出産時の環境整備だけでは不十分で、実際には研究者養成の段階でのジェンダー・バイアスが問題となる。
    高橋座長
    ダイバーシティを実現するというのは本当にコンペリングな利益か。
    安西委員
    何らかの形でアファーマティブ・アクションをやらなくてはいけないだろうというような結論の方からコンペリングだと言ったというような感じがする。厳格審査にある程度幅があるようだ。
    高橋座長
    日本では、性差別の場合、中間審査で考えていけばいいだろう。
    安西委員
    アメリカでは、女性差別を中間審査と言いながら厳格審査に近くなっている。
    高橋座長
    日本で性差別を考える場合、アファーマティブ・アクションとそうでない場合で区別するかが問題。区別の根拠があれば一貫性が崩れるわけではない。
  3. 次回の研究会での検討項目については、公契約におけるポジティブ・アクションについて検討することとなった。