北京行動綱領の更なる実施に向けての勧告

ESCAPハイレベル政府間会議

(1999年10月26日~29日 於バンコク)

はじめに

女性を開発過程の主流に組み込むこと、そして女性の経済的・政治的エンパワーメントを高めることはいづれも「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略(1985)」及び「アジア・太平洋における女性の地位向上のためのジャカルタ宣言(1994)」並びに「北京行動綱領(1995)」に目標として掲げられている。

1995年9月の第4回世界女性会議における「北京宣言」及び「北京行動綱領」の採択は、平等・開発・平和の達成に向けての国際公約を新たにし、女性の権利を人権としたという意味で、女性の地位向上への取組みの流れに一つの分岐点を画するものであった。

国連総会は、決議52/100で、「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」及び「北京行動綱領」の実施状況を評価すると共に、更なる行動及びイニシアティブを検討するためのハイレベルのレビュー会合を開催することを決定した。また国連総会決議52/231は、ハイレベル・レビューを2000年6月5日~9日に特別総会として開催することを決定した。

ESCAP第54回会期は、1999年にハイレベル政府間会議を開催し、「ジャカルタ宣言及び行動計画」の実施状況と共に、第4回世界女性会議で採択された「北京行動綱領」の地域としての実施状況について評価することを決定した。このハイレベル政府間会議はタイのバンコクにて、1999年10月26日~29日に開催された。

ハイレベル政府間会議には47ヶ国から450名を超える参加があった。この会議では、「北京行動綱領」で確認された重大問題領域の地域としての実施状況、主立ったよい慣行、達成された成果、直面した障害及び今後の行動について、地域や世界の趨勢・変化を踏まえつつ、再検討した。また(i)女性の経済的エンパワーメント、(ii)女性の政治的エンパワーメント、(iii)人権の視点からの女性のエンパワーメント、(iv)女性のエンパワーメントのための戦略の各議題に沿って掘り下げた討議が行われた。

同会議では「北京行動綱領」の更なる実施のための勧告が採択された。この勧告は、2000年6月にニューヨークで開催される国連特別総会「女性2000年会議:21世紀に向けての男女平等・開発・平和」に向けてのアジア太平洋地域からのインプット(勧告)という位置づけとなる。

序文及び勧告

A.序言

  1. 1995年の第4回世界女性会議は男女平等、開発、平和に基礎を置く公正な社会へ向けての新時代の幕開けを先取りするものであった。この会議は男女平等に人権のアプローチを採用した。行動綱領は女性のエンパワーメントという共通の目標を提示することにより、様々な関係者を同じ方向に向かわせるためのアジェンダ(予定表)である。家庭や職場、さらにはより広い地域社会において、権力(power)と責任を共有しようという考え方が行動綱領には込められている。女性の生涯にわたり、その人権を擁護し、そのニーズを満たすために、官民を問わずあらゆる適当な行動が総合的に取られるべきである。
  2. 1995年以来、地域内の諸国は、社会、経済、政治の各分野において、女性のエンパワーメントのための国内行動や地域内・国際間での協力活動の指針として行動綱領を活用してきた。(エンパワーメントの)進捗状況を評価し、(理想と現実の)格差を確認し、男女平等と男女間のパートナーシップの共有を達成するための国内、地域内、国際間における行動を活性化させる上で、行動綱領は有用な手段として役立ってきた。行動綱領に定められた指標、目標に沿って評価すれば、生活のあらゆる側面における女性の人権の実現、経済的・政治的な意味での女性のエンパワーメントについては、地域内である程度の進歩が達成されてきている。
  3. しかし、新たな障害、課題も現れている。域内には金融・経済危機により悪影響を被っている国がある。また、(民族)自決の欠如により悪影響を被っている国もある。新千年紀を迎えたアジア太平洋地域においては、グローバル化、統合化の流れが強まっている。その結果、女性の機会が拡大するという肯定的な影響も見られるが、その一方で、地域内のアジアや島嶼部の開発途上国に住む女性がますます被害を受けやすくなったり、男女間の不平等が加速したりという悪影響も生じている。新しい科学技術、特に情報技術が、良かれ悪しかれ女性の生活に強い影響を与えつつ、経済の構造を形作るようになっているのにあわせ、仕事の意味あいは変化しつつある。従って、人権に基礎をおいたアプローチと具体的な諸戦略、そして女性の政治的・経済的エンパワーメントは女性の地位のさらなる向上の基礎をなすものである。
  4. このような前例のない急激な変化の中で、北京行動綱領の実施は新たにその緊急性を増している。我々、ハイレベル政府間会議の参加者は女性の地位向上とエンパワーメントを促進する上での障害を認識し、国内・国際レベルでそれらの障害を乗り越えるための戦略を共有し、開発するためにここに参集したものである。我々は行動綱領の実施に力を傾注することを再確認する。連帯して努力すれば、我々が描いた21世紀の男女平等、開発、平和のビジョンを達成できると我々は確信している。

B.勧告

  1. 議論の過程で各国政府及びその他の当該者は、北京行動綱領の実施をさらに進めるため、必要な場合にはアファーマティブアクションを含む、なかんずく以下の戦略や勧告をまとめた。
  2. 域内の多くの国が経済成長率の失速、特に女性の労働参加の悪化を経験していることから、雇用の創出・収入確保の道を確保する等の取り組みに協調行動をとるべきである。これには零細企業育成、女性の生産性や雇用機会の向上につながる新技術の研修、融資へのアクセス等が含まれる。
  3. 域内の女性が直面している構造的・政治的障害の除去のため総合的アプローチが求められる。ミクロレベルでの改革や各部門におけるプロジェクトや事業に加えて、女性を含む社会全体の生産性を向上させ維持するようなマクロレベルでの措置や試みを支援する必要がある。
  4. 域内の移住女性に対し、同一労働同一賃金の保障、不当な解雇からの保護、安全で良好な労働環境等の措置が緊急にとられるべきである。地域の金融危機は、本国送還を迫られたり、収入の道を絶たれた女性移住労働者の立場を一層弱いものにしている。
  5. 金融危機の影響を被っている、女性が世帯主となっている貧しい家庭の経済的困難を軽減する措置がとられるべきである。これら措置には、特別に組まれた研修プログラムやこれら世帯の女性の雇用促進や、これら女性による中小企業の支援等が含まれる。
  6. 定期的な時間調査等を含む、男女の有償・無償経済活動のジェンダー分析を行い、家庭責任が調和ある位置付けを確保できるよう、公的な計算に無償労働が適切に評価されるべきである。
  7. 正規・非正規の両分野での都市農村女性の生活・労働条件の改善のため、現行の諸措置の強化を行うとともに、新規の措置が講じられるべきである。在宅就労女性の労働に公正な報酬を確保するような措置がとられるべきである。特に女性労働者が圧倒的に多い産業分野での、低賃金労働者の状況改善のため、輸出産業依存地域への国内労働法の適用を含む適切な戦略が開発されるべきである。低賃金労働者の生産性向上や報酬アップには訓練・再訓練事業等も有効な手段となりうる。農林水産業に従事する農村女性の役割を明確化することにより、これら女性に対し、その労働対価に見合う報酬を確保する措置を促進すべきである。
  8. 特に、1997年に地域を襲った金融危機等により家族が突然職を失ったり、不況により食料や基礎的ニーズが十分満たされなくなった家庭の女性に、十分な基礎的ニーズや食料の提供が行われるべきである。財政機関や融資会社等が担保物件等を持っていない女性に必要な場合には、零細融資を行えるような措置が講じられるべきである。難民、避難民、国内避難民の女性や紛争下の女性等の特別な状況にある女性に対し、特段の配慮を行うべきである。
  9. 相続権、土地の所有譲渡権・資金・技術・天然資源等を含む、生産資源や固有の知識への女性の完全かつ平等なアクセスを促進する。
  10. 各国政府は、同一労働同一価値同一賃金の保障、労働市場での性差別禁止を内容とするILO条約の批准を検討すべきである。
  11. 政策、法律、慣行慣習における人権という側面から特別な状況にある女性、即ち、高齢女性、障害を持つ女性、先住民女性、その他周辺化した女性―難民女性、紛争下の女性、その他の避難民女性、国内避難民女性、占領下の女性、植民地、外国政府統治下の女性、移住女性等を含む-への配慮が行われるべきである。
  12. 男女、少年少女を含む全ての人々に対するあらゆる人権―市民的・文化的・経済的・政治的・社会的権利、及び開発への権利―、及び女性・児童(女児を含む)の基本的自由について、ジェンダーの視点に立った包括的人権教育や法識字プログラムを通じて周知徹底が図られなければならない。
  13. 女性の健康に対する人権の視点からのアプローチにはあらゆる健康政策・事業が含まれるべきこと、また現在のリプロダクティブヘルスの焦点化から、文化的多様性や道徳的心情に配慮し、周辺化したグループを含むあらゆる年齢層の女性が享受出来るような、総合的サービスの提供に広げることが基本である。
  14. 男女平等を実現し、性差別を除去するために欠かせない要件として、男女平等や必要な場合にはアファーマティブアクション政策の導入をうたった憲法規定の検討が行われるべきである。
  15. 女子差別撤廃条約に関し
    • 2000年までに全ての国による同条約批准が実現するよう、各国政府に批准を促す。
    • 留保を行っている国は、その取り下げもしくは留保内容の緩和の検討を行うよう。
    • 同条約その他の人権諸条約の条項に沿って、必要な場合は国内法の見直し・改正を行う。
    • 国内のニーズ、優先度、その他の要件を考慮しつつ選択議定書の批准を検討する。
    • 各国は、カントリーレポートに対する女子差別撤廃委員会の審査結果を適切に政策に反映させることを検討するよう。
    • 同条約その他の人権諸条約の有効な実施のために、関係する人権担当当局や機関は、法識字教育やジェンダーの視点からの人権教育を実施すべきである。女子差別撤廃委員会のような人権機関への報告手続きにNGOの参加が奨励されるべきである。
    • 加盟国の条約履行のための事業実施を助けるUNIFEM及び国連女性の地位向上部の活動を支援強化する。
  16. 特に移民の送り出し国、通過国、受入れ国は、移住労働者とその家族の権利に関する条約の批准の検討を行うべきである。
  17. 紛争下の女性、先住民女性、高齢女性、移住女性、難民女性、移民労働女性、その他保護を必要とする、故国を追われた女性や弱い立場の女性を含む全ての女性少女を、レイプや性的虐待、家庭内暴力、性的奴隷、強制売春を含む暴力から守るため、市民社会全てにわたるパートナーシップのもとに、適切な政策や事業が速やかに取られるべきである。
  18. 女性に対する暴力対策の政策や事業は、総合的全体的また防止に重点を置いたアプローチとすべきであり、暴力の被害者のサポートに留意すべきである。これには公共教育、総合的法的枠組み、十分な社会的心理的医学的法的なサービス・基盤、職場その他の場における暴力やセクハラ防止措置、暴力事犯はそのタイプについてのデータ収集、被害者のニーズの全ての側面を扱う関係者を対象としたジェンダー教育等が含まれる。
  19. 国連機関、特にUNIFEM及び女性に対する暴力撤廃信託基金に対し、各国に参考となるように、女性に対する暴力撤廃に有効な戦略についての知識的裏付けを強化することを奨励する。
  20. 非正規な移民や人身売買が被る危険や痛手についての情報や教育キャンペーンが検討されるべきである。
  21. 特に奴隷あるいは奴隷同然の慣行、強制労働・サービスを目的とした女性児童の人身売買に対処するため、防止、人身売買された人の保護・矯正、人身売買を行った者の起訴及び法の執行を行使し、人権の視点からの総合的戦略の開発実施を行う。
  22. 女性や女児に対するあらゆる形態の人身売買に対処する二国間、亜地域、地域、国際協定条約に関する現在の取組みを含む努力が推進されるべきである。暴力や人身売買の被害者への総合的支援措置が推進されるべきである。
  23. 平和の文化の醸成の一環として、地域協力・平和的共存の気運を高めるべきである。各国政府に対し、厳格で有効な国際監視のもと、総合的かつ完全な軍備撤廃に向けて精力的に取組むことを奨励する。
  24. ウィーン宣言及び行動綱領にうたわれている全ての人々の自決権は考慮されるべきであり、必要な場合には加速されるべきである。
  25. 適当な場合には生物多様性条約の批准を検討する。
  26. 女児を将来の女性という扱いだけでなく、児童としてその権利を十分に認識することが確保されるべきであり、重要な意味をもつ早い時期の子供時代から青年期を含む人生の各段階での少女の発達を確かなものとする諸施策が推進されるべきである。
  27. 教育の恩恵に持続的に浴するよう、出来る限り早い段階で少女に対する基礎教育を行うべきである。
  28. 高いレベルの教育への女性への参加が不平等で機会が限られていることから、必要な場合には、高いレベルでの教育への男女均等の一層の促進が行われるべきである。
  29. 国会及びその他の選挙による議会、政党、公共セクターを含む意思決定過程への女性の平等な参加機会を確保するため、適当な場合はアファーマティブアクションをサポートする。
  30. 全てのレベルの意思決定への女性への差別の除去、参加の奨励及び促進を図るためジェンダーの視点から任命・指名の過程を検証し、見直す。
  31. 学校教育のあらゆるレベル及び生涯学習においてジェンダー教育を強調し、推進する。政策形成・企画立案・事業実施関係者に対するジェンダー教育を実施する。
  32. 指導的地位への女性の参加促進につながるような環境作りに資するため、社会のあらゆるレベルの女性に対しリーダーシップ研修を行うべきである。
  33. 政治への女性の完全参加と選出の機会を増やすような選挙システムの検討を行い、推進を図る。
  34. 女性のエンパワーメントに向けて意思決定への女性の参加及びその影響についての研究を支援し、関連の性別統計を収集する。
  35. 平和・予防外交、紛争解決、武力紛争後の国外避難事態、環境問題等あらゆる分野への女性のリーダーシップ及び参加を奨励する。国連総会が定めた市民対話年にあたる2001年を記念して、対話や平和、異なる文明からの異なる人々の間の対話及び平和や寛容の気運を育てるために女性が果たす役割を推進する。
  36. 上級ポストへの女性の就任を阻む直接間接の差別に終止符を打つため、政策や手続きの見直しを検討する。
  37. 女性の指導的ポストへの就任を可能とするという観点から、民間セクター、労働組合、市民社会のモニタリング、アカウンタビリティ(説明責任)を拡充し、現在存在する、訓練・技術・信用供与・資源・マーケット・情報へのアクセスの障害に取り組むことにより、女性の経済への寄与を促進するための方策を採用する。
  38. 政治への女性の完全かつ平等な参加を目指したフォーマル・インフォーマルな指導スキーム作りへの取り組みをサポートする。
  39. 統合的ジェンダー管理システムと啓発活動が、地方・国レベルでの政策・企画立案・事業計画予算に組み込まれるよう開発されるべきであり、適当な改革に着手し、国際機関からの資源供与を手当てする。
  40. ジェンダーの視点の主流化と、女性の主流化の違いに注意を払う必要がある。ジェンダーの視点の主流化では、計画・政策・事業・能力開発におけるジェンダー分析に力点が置かれるが、女性の主流化は女性のエンパワーメントの達成を意味し、あらゆる分野のあらゆるレベルにおける男女の割合の均衡を保つことが目標のひとつとなる。女性の地位向上のためのナショナルマシナリーのあらゆる分野、あらゆるレベルにおける能力開発では、このそれぞれの特質を含むべきである。ナショナルマシナリーの強化は南々協力、二国間協力により達成することが可能である。
  41. 特に公的セクター、高等教育機関のカリキュラム、ジェンダー分析についての男性研修、男女不平等に関する認識を促すことを目指したメディアキャンペーン等の人材訓練の充実を図る必要がある。
  42. 政府の市民社会、民間セクター、労働組合、国連、他国間二国間機関に対するアカウンタビリティ(説明責任)を超えたモニタリングや評価が推進されるべきである。
  43. 条約や北京行動綱領の加盟国の実施状況をNGOも関与してモニターする有効なメカニズムが検討・確立・奨励されるべきである。
  44. 女性の地位向上を質的量的に示すジェンダーセンシティブ指標、例えば作成可能指標、達成指標、進捗指標、測定フォームとしての心理指標等を特定すべきである。
  45. 国内国際の舞台での代表やミッションを含む、国、州、地方政府、また国際機関、特に国連の意思決定や積極的役割への女性の参加が奨励されるべきである。
  46. 福祉サービス、所得創出、貸し付け事業以外に、重大問題領域における女性のエンパワーメント活動に携わる革新的なNGOや個人への資金や支援の道を探るべきである。
  47. 北京会議以降築かれてきた、政府とNGO、国際機関・地域機関とアジア太平洋地域のNGOとのパートナーシップや協力はさらに推進されるべきである。
  48. 北京会議以来、国・地域・国際レベルで築かれてきた政府とNGO、とのパートナーシップや協力関係、特にESCAP及びアジア太平洋地域のNGOと亜地域グループとのそれはさらに促進されるべきである。
  49. 女性2000年会議準備委員会に対し、2000年の北京+5の過程へ、社会開発サミットへのNGOの参加承認手続き等の国連の規則慣行に準じて、NGOの幅広い参加を促すよう要請する。
  50. 国連に対し、北京+5への加盟国の幅拾い参加、特に途上国の参加を促進するために必要な措置を講じるよう勧告する。
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