第三部 「北京行動綱領」の重大問題領域の実施

6 女性と経済

(1) 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保

1)男女雇用機会均等法等の改正

1986年に施行された男女雇用機会均等法の10年余にわたる法施行の状況とその間の社会・経済環境の変化、さらには少子・高齢化をはじめとする将来展望を踏まえ、政府は、雇用の分野における男女の均等取扱いをより実効あるものとするとともに、女性労働者の職業選択や能力発揮の場の拡大を図るため、男女雇用機会均等法の強化、労働基準法に残された女性労働者に対する時間外・休日労働及び深夜労働の規制の解消等を内容とする男女雇用機会均等法、労働基準法、育児・介護休業法等の改正を行った。同法は、1997年6月18日に公布された。

この改正法は、1999年4月1日から施行されているが、母性保護の充実に関する部分(妊産婦に対する健康管理措置の義務化、多胎妊娠の場合の産前休業の延長)については1998年4月1日から施行されている。主な改正点は、以下の通りである。

a)男女雇用機会均等法の強化

(i) 募集・採用、配置・昇進における女性に対する差別の禁止規定化

事業主に対し、女性を均等に取り扱うよう努力する義務を課していた募集・採用、配置・昇進の分野について、女性に対する差別を禁止することとした。併せて、これまで一部について女性差別を禁止していた教育訓練について、すべての教育訓練において女性差別を禁止することとした。これにより、募集・採用から定年・退職・解雇にいたる雇用の全ステージにおいて女性差別が禁止されることとなった。

また、これまで均等法上は関与しないこととされてきた「女性のみ」「女性優遇」の措置についても、実質的な男女の雇用機会均等が実現されていない状況を改善するために行う措置以外は「女性に対する差別」として禁止することとした。

(ii)法の実効性を確保するための措置の強化

  • 行政指導に従わない企業の企業名公表制度の導入
    女性労働者に対する差別を禁止する規定に違反している事業主に対して、労働大臣又は都道府県女性少年室長は助言、指導、勧告という形で是正を求める行政指導を行うが、労働大臣の勧告に従わない場合には、その旨を公表できることとした。
  • 調停制度の改善
    これまでは一方の当事者が調停申請を行った場合、他方の同意がなければ調停が開始できないこととなっていたが、これを当事者一方のみからの申請で調停を開始できることとした。

(iii) ポジティブ・アクション促進規定の創設

社会に根ざす性別役割分担概念に基づく慣行・通念や、過去からの経緯で女性が活躍しにくい企業内の状況・慣行などにより男女労働者の間に事実上生じている差を解消し、女性の能力発揮を促進するため、体制整備、現状分析、計画作成・実施など積極的な取組(ポジティブ・アクション)を行う事業主に対し、国は相談その他の援助を行うことによってこれを促進することとした。

(iv) セクシュアル・ハラスメント防止規定の創設

職場における対価型及び環境型双方のセクシュアル・ハラスメントを防止するために、事業主は雇用管理上必要な配慮をしなければならないこととした。

(v) 妊産婦に対する健康管理措置の義務化

これまでは事業主の努力義務となっていた、妊娠中及び出産後の女性労働者の健康管理に関する措置(保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保、指導事項を守るために勤務の軽減等必要な措置を講じること)を事業主の義務とした。

b)労働基準法の改正

(i)女性労働者に対する時間外・休日労働、深夜業の規制の解消

満18歳以上の女性労働者にかかる時間外及び休日労働並びに深夜業の規制を解消することとした。

(ii)多胎妊娠の場合の産前休業の延長

これまで通常の妊娠では産前6週間、産後8週間、多胎妊娠では産前10週間、産後8週間が保障されていた産前産後休業につき、多胎妊娠の場合の産前休業を、従来の10週間から14週間に延長にすることとした。

c)育児・介護を行う労働者に対する深夜業制限の制度の創設

(育児・介護休業法の改正)

労働基準法の女性の深夜業規制が解消されたことで、子を養育する両親がともに深夜業に従事するケースや、深夜に介護を要する家族の世話をする者がいなくなるケースも生じうることから、育児又は介護を行う一定の範囲の労働者が請求した場合、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて、深夜業を行わせてはならないこととした。

(2)ILO156号条約(家族的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関する条約)の批准

我が国は、1995年6月にILO156号条約を批准し、1996年6月に効力が発生した。

(3) 育児・介護を行う労働者の雇用の継続を図るための環境整備

1)育児休業・介護休業を取得しやすい環境整備

a)育児休業法の改正

介護休業制度の創設等を内容とする「育児休業等に関する法律の一部を改正する法律」が、1995年6月9日に公布された。この改正法により、育児休業法は、育児や家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立を支援することを目的とした総合的な内容の育児・介護休業法となった。改正法の概要は、以下のとおりである。

  • 介護休業の権利の創設
  • 勤務時間の短縮等の措置
  • 育児又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置
  • 施行期日

介護休業の権利の創設及び勤務時間の短縮のうち介護に関する部分については、1999年4月1日から、それ以外の部分については、1995年10月から施行されている。

b)育児休業給付及び介護休業給付の創設

1995年4月より、育児休業を取得した者が雇用保険法に定められた要件を満たしている場合には、育児休業取得前の賃金の20%の育児休業基本給付金が支給される。また、育児休業基本給付金の支給を受けることができる者が、育児休業終了後、引き続き同じ事業主に6ヵ月以上雇用された場合には、育児休業取得前の賃金の5%に休業月数を乗じた育児休業職場復帰給付金が支給される。

また1999年4月より、介護休業を取得した者が雇用保険法に定められた要件を満たしている場合には、介護休業取得前の賃金の原則25%の介護休業給付金が支給される。

(4) 多様なライフコースに対応した子育て支援対策の充実

1)保育サービスの充実

a)保育需要に対応した保育対策の充実

政府は1994年に「当面の緊急保育対策等を推進するための基本的考え方」(緊急保育対策等5か年事業)を策定し、これに基づき、1995年度から乳児保育(0歳児を保育すること)、延長保育(概ね午後6時以降の保育を行うこと)等を推進している。

1997年には児童と家庭を取り巻く環境の変化等を踏まえ、子育てしやすい環境の整備を図るとともに、次代を担う児童の健全な成長と自立を支援するため、児童保育施策等の見直し(低年齢児の保育、保育時間の延長や一時的保育などの多様な保育需要に即応して質の高い保育サービスが柔軟に提供されるような保育制度の確立)、児童の自立支援施策・母子家庭施策の充実を内容とした児童福祉法の改正を行った。

なお、保育料の負担方式については、従来の負担能力に応じた方式を、保育に要する費用(保育費用)及びこれを保護者から徴収した場合の家計に与える影響を考慮して徴収する方式に改めた。

(5) パートタイム労働対策の推進

パートタイム労働対策については、パートタイム労働法に基づき、パートタイム労働者の適正な労働条件及び雇用管理の確保に向けた施策を推進しているところであるが、1999年2月に、事業主がパートタイム労働者に関して講ずべき措置の一層の明確化等を図るため、同法に基づく指針を改正した。

(6) 農山漁村におけるパートナーシップ

1)女性の経済的地位の向上と就業条件・環境の整備

a)農山漁村における女性の経済的地位の向上

女性の労働が正当に評価され、経済的地位を向上させるためには、正当な報酬・給与の受領が望ましいと考えられていることから、我が国では、家族経営協定の締結を普及している。家族経営協定とは、農業経営に携わる家族員間で給与や休日等の就業条件、役割分担等を話し合い取り決めたものをいう。

また従来、農業者年金制度においては農地の権利名義をもつ農業者しか加入できなかったが、農業者年金基金法の改正により、1996年4月から、農地の権利名義をもたない女性でも「家族経営協定」を締結し、農業経営に参画していることなど一定の要件を満たせば加入できるようになった。

この改正により、女性も年金を受給出来るようになったことのみならず、農業に専従する女性を農業経営者の一員として認めるなど、女性の地位向上が図られた。

(7)女性起業家に対する支援

労働省では事業を起こすことを希望する女性のニーズや起業した女性が遭遇している問題点を把握するとともに、今後、起業を希望する女性のための支援事業を計画的に実施するため、1996年度に研究会を開催し、施策の検討を行った。この結果を踏まえ、1997年度において、女性起業マニュアルの作成等女性起業家の支援施策を展開した。

また、農林水産省においては、農村女性グループが安定的に経営を行えるように、農産物加工等の起業を支援する事業等を1994年度から1998年度まで実施するとともに、経営管理等の情報の提供を実施している。また、農業及び沿岸漁業の婦人・高齢者グループの活動を支援するため、無利子の農業改良資金及び沿岸漁業改善資金の貸付を行っている。

さらに政府は、ベンチャー企業を創業しようとする中高年齢者や女性の起業家を支援するため、政府系金融機関による新たな融資制度を1999年に設ける予定である。

(8)無償労働の数量的把握の促進等

政府は、女性の置かれている状況を客観的に把握することのできる統計情報の収集・整備・提供の一環として、女性がその大部分を担っている無償労働の数量的把握について調査・研究を行うこととした。これを受けて経済企画庁では、1981年から1996年までの5年毎4時点について、家事等の無償労働を貨幣評価した推計結果を1997年及び1998年に公表し、無償労働の女性への偏りを明らかにした。また、1998年には総務庁において無償労働統計に関する研究会を立ち上げ、調査研究をすすめている。

更に同年、経済企画庁は1998年版新国民生活指標において、「女性の働きやすさ」に関する指標をはじめて試算した。

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