本編 > 1 > 特集 仕事と健康の両立~全ての人が希望に応じて活躍できる社会の実現に向けて~
社会全体で女性活躍の機運を醸成し、多様性を確保していくことは、男女ともに自らの個性と能力を最大限に発揮できる社会の実現のために不可欠である。昨今の男女を取り巻く状況の変化を的確に捉え、女性活躍・男女共同参画の実現に向けた取組を一層推進していく必要がある。
我が国では、令和4(2022)年時点で、平均寿命は女性87.09歳、男性81.05歳、死亡最頻値は女性93歳、男性88歳1と、まさに人生100年時代を迎えている。健康寿命2も年々延伸し、令和元(2019)年時点で、女性75.38歳、男性72.68歳となっているが、平均寿命との差でみると、健康ではない期間が、女性は約12年、男性は約9年存在する3。
他方、団塊の世代4が現役で、家庭のことは妻に任せ、夫は長時間働いていた、いわゆる「昭和モデル」の社会と比べ、現在は、生産年齢人口が減少し、高齢化が進展するとともに、家族の姿も変化し、人生は多様化するなど、社会が大きく変化している。昭和60(1985)年には全世帯の4割を占めていた「夫婦と子供の世帯」は、令和2(2020)年時点では25%となり、「単独(単身)世帯」と「ひとり親と子供の世帯」が約半数を占めるようになった。また、令和5(2023)年時点で、共働き世帯数は専業主婦世帯数の3倍となっている。未婚女性の理想も、未婚男性の将来のパートナーに対する期待も、家庭と仕事の両立を望む人の割合が上昇するなど、若い世代の理想とする生き方、働き方は変わってきている5。
令和5年版男女共同参画白書では、このように職業観・家庭観が変化する中において、「男性は仕事」「女性は家庭」の「昭和モデル」から、全ての人が希望に応じて、家庭でも仕事でも活躍できる社会、「令和モデル」に切り替えるときであると指摘した。男女ともに、一人一人が希望に応じて、自らの個性と能力を最大限に発揮し、持続的に活躍していくためには、まずは健康であること、健康課題と上手に付き合っていくことが必要であろう。言い換えれば、「健康」は、この「令和モデル」の実現に向けた基盤となる。
平均寿命が延伸した今日、生涯を健康に過ごすことは理想であるが、男女が直面する健康上の課題は異なっている。特に女性の場合、生涯を通じて、月ごと、年齢ごと、ライフステージごとに、女性ホルモンの急激な変化などにより、その心身に男性に比べて大きな変化が起きており、変化に伴う不調を抱えながら、日常生活を送っていることが多い。
働く女性は、キャリア形成において重要な時期である20代から40代前半にかけては妊娠・出産・子育て等の時期を迎え、仕事で責任を負う立場になる40代後半から50代にかけて更年期を迎える。しかし、女性の就業者数が増加し、女性の登用拡大を目指しているにもかかわらず、労働環境及び職場における健康支援について、依然として労働者が男性中心であった時代のままとなっている場合、女性のキャリア継続の障壁の1つとなっている可能性がある。
また、自身の健康のみならず、家族等周囲の身近な人々の健康にも目を向ける必要がある。前述のとおり、平均寿命は、男性と比べ女性の方が長いが、70代以上の認知症の患者数も女性の方が多い。今後、更なる高齢化の進展により、家族の介護をする者の増加が予測されるが、平均寿命の延伸により、要介護の期間も長期化する可能性がある。働きながら介護をしているワーキングケアラーが増加している中、介護は個人のみで抱えるべき課題ではなく、社会全体で支えることが必要である。
女性がキャリアを中断しないことは、男女間賃金格差の是正及び女性の経済的自立にもつながる。女性が不本意に離職することなく、キャリアを形成していくためには、仕事と家事・育児等の両立支援に加えて、女性特有の症状を踏まえた健康への理解・支援等の「健康との両立」も求められる。一方、男性についても、生活習慣病のリスクが高いことや、女性に比べて認知度は低いものの更年期障害がみられるほか、長時間労働による健康への影響や根強い固定的な性別役割分担意識等から孤立のリスクを抱えるおそれもある。男女ともに、双方の健康課題に対する理解及びそれぞれの特性に応じた支援体制が求められている。
そして、男女ともに職業生活における「健康」の維持・増進は、従業員の「ウェルビーイング」を高め、企業における生産性を向上させることが期待できる。社会全体で健康課題に取り組むことで、人々の労働参画や地域活動などへの参画が拡大し、日本経済の成長や地域を含めた社会全体の活力向上につながるであろう。
第1節では、社会構造の変化と男女で異なる健康課題について、政府統計を中心とした各種データ等で確認した上で、第2節では、内閣府で実施した意識調査等を用い、健康課題の仕事、家事・育児等への影響やこれからの働き方等について深掘りし、第3節では、今後の両立支援の在り方について考察する。
1 厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」
2 健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」をいう(厚生労働省「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」令和5(2023)年5月改正)。
3 令和元(2019)年時点での我が国の平均寿命は女性87.45歳、男性81.41歳(厚生労働省「令和元年簡易生命表の概況」)。
4 団塊の世代とは、昭和22(1947)年から昭和24(1949)年生まれの世代のことをいう(内閣府「平成27年版少子化社会対策白書」)。
5 若い世代における意識の変化については、「令和5年版男女共同参画白書特集-新たな生活様式・働き方を全ての人の活躍につなげるために~職業観・家庭観が大きく変化する中、「令和モデル」の実現に向けて~」で分析している。
特集のポイント
第1節 社会構造の変化と男女で異なる健康課題
- 現在の社会保障制度・日本型雇用慣行が形作られた昭和時代と現在とでは、社会の人口構造及び就業者の構成が大きく変化している。
- 近年は出産・育児によるとみられる女性の正規雇用比率の低下幅は小さくなっており、今後も女性の正規雇用比率の高まりが期待される。
- 働きながら介護するというワーキングケアラーの時代が到来し、未就学児の育児と家族の介護というダブルケアを担う者もいる中、依然として女性への育児・介護等の偏りが存在している。
- 女性と男性では、健康課題の内容も課題を抱えやすい時期も異なる。男女共同参画の一層の推進のためには、男女ともに自分自身及び互いの身体の特性・健康課題に対する正しい理解とそれぞれの特性に応じた健康支援が必要となる。
第2節 仕事、家事・育児等と健康課題の両立
- 男女ともに、健康課題を抱えていても、「仕事」の生産性は何とか維持し、「家事・育児・介護」で調整していることがうかがえる。ただし、小学生以下の子供と同居している有業の女性は、「仕事」にも「家事・育児・介護」にも同程度の影響が出ているものと推測される。
- 体調が悪いときの「仕事」のプレゼンティーイズム損失割合については、男女であまり差がないが、女性は、毎月の月経に伴う不調や更年期の症状などの健康課題により、体調が悪い日の頻度が男性よりも高いため、体調不良による仕事のプレゼンティーイズム年間損失日数は、女性の方が多い。
- 企業規模にかかわらず、勤務先が健康経営®に取り組んでいるとする者は、取り組んでいないとする者に比べ、体調不良による仕事のプレゼンティーイズム年間損失日数が4~7日程度少なく、その差は女性の方が大きい。
- 勤め先の企業が健康経営に取り組んでいると考える者の割合は、女性の方が低く、今後はより多くの企業において、女性の視点を踏まえた健康経営の推進が望まれる。
第3節 両立支援は新たなステージへ
- 団塊の世代が後期高齢者に差し掛かりつつある現在、仕事と育児の両立支援に加え、仕事と介護の両立支援も重要な課題。また、介護を個人のみで抱えるべき課題とするのではなく、社会全体で支えていくことが必要。
- 女性が健康課題を抱えながらも働きやすい社会は、男性も含めた全ての人々にとっても働きやすい社会になることが期待される。柔軟な働き方など、両立を実現できるような働き方への変革が重要。
- 仕事か家庭かなどの二者択一を迫られることなく、自らの理想とする生き方と仕事を両立することが可能となれば、キャリア継続、キャリアアップのモチベーションとなる。
- 仕事と健康の両立のために、職場では、女性と男性それぞれの健康課題に関する研修・啓発等の実施、健康診断等の受診に対する支援、健康に関する相談先の確保などが重要。
- 両立支援制度は整いつつある今、いかに制度を有効に活用するかが問われている。
※「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。