第1節 女性に対する暴力の予防と根絶のための基盤づくり

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第8章 女性に対するあらゆる暴力の根絶

第1節 女性に対する暴力の予防と根絶のための基盤づくり

1 女性に対する暴力を容認しない社会環境の整備

男女共同参画推進本部は,毎年11月12日から同月25日(国連が定めた「女性に対する暴力撤廃国際日」)までの2週間,「女性に対する暴力をなくす運動」を実施している。

内閣府では,期間中,地方公共団体,女性団体その他の関係団体との連携・協力の下,意識啓発等の女性に対する暴力に関する取組を一層強化している。

また,女性に対する暴力の加害者及び被害者になることを防止する観点から,若年層に対する暴力の効果的な予防啓発を行うため,若年層に対して教育・啓発の機会を持つ教育機関の教職員,地方公共団体において予防啓発事業を担当している行政職員,予防啓発事業を行っている民間団体等を対象として研修を実施している。

2 相談しやすい体制等の整備

(1) 相談・カウンセリング対策等の充実

新型コロナの感染拡大に伴い,外出自粛や休業などが行われ,生活不安・ストレスにより,配偶者からの暴力(DV)の増加や深刻化が懸念されることから,内閣府では,令和2(2020)年4月から新たな相談窓口として,「DV相談+(プラス)11」(以下「DV相談プラス」という。)を開始した。DV相談プラスでは,多様なニーズに対応できるよう,毎日24時間電話相談対応,SNS・メール相談,WEB面談対応,10の外国語での相談対応を行うとともに,各地域の民間支援団体とも連携し,必要な場合には,同行支援なども行うこととしている。

また,DVと児童虐待が密接に関連するものであることを踏まえ,DV対応と児童虐待対応との連携強化に向けた取組を推進している。加えて,令和2(2020)年10月から,最寄りの配偶者暴力相談支援センター等につながるDV相談ナビに,全国共通短縮番号「#8008(はれれば)」を導入し,相談窓口の更なる周知を図っている。また,性犯罪・性暴力被害者支援のため,令和2(2020)年10月から,性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの全国共通短縮番号「#8891(はやくワンストップ)」を導入し,周知を図るとともに,若年層の性暴力被害者が相談しやすいよう,SNS相談「Cure Time(キュアタイム)」を実施している。

警察では,被害者が相談しやすい環境を整備するとともに,刑罰法令の的確な運用や関係機関との連携の推進等女性に対する暴力に対処するための体制整備を進めている。

また,都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながる全国共通番号「#8103(ハートさん)」について国民への更なる周知を図るとともに,性犯罪被害者を含む犯罪被害者が自ら選んだ精神科医,臨床心理士等を受診した際の診療料又はカウンセリング料を公費で負担する制度を運用している。

法務省の人権擁護機関では,専用相談電話「女性の人権ホットライン」を設置するとともに,インターネット人権相談受付窓口を開設するなどして,夫・パートナーからの暴力やセクシュアルハラスメント等女性の人権問題に関する相談体制のより一層の充実を図っている。令和2(2020)年における「女性の人権ホットライン」にて相談に応じた件数は14,324件である。

日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)では,相談窓口や法制度に関する情報の提供,犯罪被害者支援の経験や理解のある弁護士の紹介及びDV・ストーカー・児童虐待の被害者に対する資力を問わない法律相談援助(平成30(2018)年1月24日から運用開始)等の犯罪被害者支援業務を行った。また,経済的に余裕のない者については,民事裁判等手続を利用する際の弁護士費用等の立替えを行う民事法律扶助等による支援を行った。そのほか,国選被害者参加弁護士の候補となる弁護士の確保や裁判所への指名通知等の業務,被害者参加旅費等の支給等の支援を行った。

11DV相談+(プラス) 0120-279-889(つなぐ はやく) https://soudanplus.jp/

(2) 研修・人材の確保

内閣府では,地方公共団体の職員,配偶者暴力相談支援センター,性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター等を対象とした研修事業を行っている。令和2(2020)年度においては,オンライン研修教材を開発し,提供した。

厚生労働省では,婦人相談員の専門性の向上を図る観点から,国,地方公共団体等が実施する各種研修を積極的に受講できるよう,婦人相談員の研修派遣のための旅費や派遣中の代替職員の配置に必要な経費への補助の創設,研修実施主体の拡大を図っている。さらに,婦人相談所一時保護所及び婦人保護施設において,学習指導員を配置するなどDV被害者等が同伴する子どもが適切に教育を受けられる体制整備や心理的ケアの体制強化を図るとともに,また,婦人相談所において,DV被害者等が同伴する子どもへの支援の充実を図るため,児童相談所等の関係機関と連携するコーディネーターを配置している。

警察では,警察職員に対し,女性の人権擁護の視点に立った適切な対応等について教育を実施するとともに,女性に対するストーカー事案や配偶者からの暴力事案,性犯罪等の捜査要領等に関する教育を実施している。

(3) 厳正かつ適切な対処の推進

法務省の人権擁護機関では,関係機関との連携を図りながら,迅速・適正な問題解決及びその予防に努めている。

出入国在留管理庁では,配偶者からの暴力が重大な人権侵害であるとの認識の下,被害者である外国人を認知した場合,関係機関と連携して身体の保護を確実なものとする一方,被害者の個々の事情を勘案の上,十分な配慮の下,事案に応じ,在留期間更新許可,在留資格変更許可又は在留特別許可に係る判断を行い,被害者の法的地位の安定を図るなど人道上適切に対応している。

警察では,被害者等の生命・身体の安全の確保を最優先に,刑罰法令に抵触する場合には,検挙その他の適切な措置を講じ,刑罰法令に抵触しない場合においても,事案に応じて,防犯指導や関係機関の紹介等の適切な自衛・対応策を教示するとともに,必要があると認められる場合には相手方に指導するなどして,被害女性への支援を推進している。

また,ストーカー事案や配偶者からの暴力事案等の人身の安全を早急に確保する必要性が認められる事案に一元的に対処するための体制を,平成26(2014)年4月までに全国の警察本部に確立し,組織による的確な対応を徹底している。

(4) 関係機関の連携の促進

内閣府では,配偶者等からの暴力の被害者に対する包括的な支援に向けて,自治体における民間団体との連携により,令和2(2020)年以降,加害者プログラムの試行実施を行い,プログラム実施の在り方と必要な取組を検討している。また,「女性に対するあらゆる暴力の根絶」について,女性に対する暴力に関する専門調査会において関係省庁からのヒアリング等を通じて取りまとめた「重点取組事項」を踏まえ,「すべての女性が輝く社会づくり本部」において,「重点方針2020」を策定し,関係省庁と連携しながら関係施策を総合的に推進している。

警察では,各都道府県の被害者支援連絡協議会や警察署等を単位とした連絡協議会(被害者支援地域ネットワーク)を設置し,関係機関相互に連携を図っている。令和2(2020)年4月現在,全ての都道府県警察において,被害者支援連絡協議会及び計1,173の被害者支援地域ネットワークが設置され,全ての地域を網羅している。

また,各都道府県において民間被害者支援団体が,電話又は面接による相談,裁判所への付添い等を行っており,警察においては,これらの団体の運営に関して,関係機関と連携しつつ,必要な指導や助言等を行っている。

厚生労働省では,児童福祉法等の一部を改正する法律(平成28年法律第63号)において新設された売春防止法(昭和31年法律第118号)第36条の2に基づき,婦人相談所長に対し,母子生活支援施設への入所が適当と認められる母子について,都道府県等への報告等を義務付け,関係機関との連携の強化を図っている。

3 女性に対する暴力の被害者に対する効果的な支援

内閣府では,DV被害者等の支援を行う民間シェルター等の先進的な取組が促進されるよう,官民連携の下で取組を進める都道府県等に交付金を交付した。また,「女性に対する暴力被害者支援のための官官・官民連携促進ワークショップ事業」において,女性に対する暴力に関する認識を深め,被害者の置かれた状況に十分配慮し,関係機関が連携して,適切な対応をとることができるよう,配偶者暴力相談支援センター,児童相談所,民間支援機関等を対象としたオンライン研修教材を開発し,提供した。

警察では,女性に対する暴力の被害者に対して,加害者の検挙の有無にかかわらず,事案に応じた必要な自衛措置等暴力による被害の発生を防止するための措置について指導及び助言を行っている。また,必要に応じて通信指令システムへの電話番号登録やビデオカメラの貸与等被害防止に資する支援を行っている。

厚生労働省では,「『婦人相談所が行う一時保護の委託について』の一部改正について」(平成28年3月31日雇用均等・児童家庭局長通知)を発出し,平成28(2016)年度から,性暴力・性犯罪被害の女性についても,より適切な支援が可能な民間シェルター等への一時保護委託を可能とし支援を行っている。

4 女性に対する暴力の発生を防ぐ環境づくり

内閣府では,被害者のニーズに応じた支援のノウハウの蓄積や効果検証,課題の把握等を行う調査研究を実施した。また,男女間の取り巻く環境の変化に応じた被害傾向の変化等に対応する施策の検討に必要な基礎資料を得ることを目的に平成11(1999)年度から実施している「男女間における暴力に関する調査」について,法令改正等を踏まえ,調査項目を見直した上で,令和2(2020)年度調査を実施するとともに,配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等について調査を実施し,男女間における暴力の実態及び被害者等からの相談状況の把握を行った。

警察では,「安全・安心まちづくり推進要綱」(令和2年3月一部改正)に基づき,防犯カメラの整備を促進するなど,犯罪被害に遭いにくいまちづくりを積極的に推進している。

また,パトロールを効果的に推進するとともに,防犯ボランティア団体,地方公共団体等と連携しつつ,防犯教育(学習)の実施,防犯マニュアル等の作成,地域安全情報の提供,防犯指導,助言等を積極的に行うほか,女性に対する暴力等の被害者からの要望に基づき,地域警察官による訪問・連絡活動を推進している。

さらに,近年,繁華街等において児童の性に着目した新たな形態の営業が出現していることから,これらの営業について各地域の実態把握に努めるとともに,各種法令を適用した取締りを実施するほか,稼働している女子高校生等に対する補導を推進している。加えて,SNSに起因する児童の犯罪被害が増加していることなどから,サイバー空間における犯罪被害から児童を守るため,SNS等に起因する児童の犯罪被害の実態やインターネットの危険性等に関する広報啓発活動等を推進している。特に,スマートフォン等の普及を踏まえ,関係府省等と連携し,携帯電話事業者等に対する保護者へのフィルタリング説明義務等が徹底されるよう周知するほか,入学説明会等の機会を捉えた保護者に対する啓発活動や児童に対する情報モラル教育等の取組を推進している。

さらに,相談受理等を通じて認知したストーカー事案及び配偶者からの暴力事案について所要の分析を行い,その結果を警察庁ホームページ等で公表するとともに,若年層のストーカー被害を防止するため,高校生,大学生等を対象に,イラスト等を用いてストーカー被害の態様を説明した教材の作成,ストーカー事案に関する情報を発信するためのポータルサイトの作成等の広報啓発を推進している。