第2節 配偶者等からの暴力の防止及び被害者の保護等の推進

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第2節 配偶者等からの暴力の防止及び被害者の保護等の推進

1 関係機関の取組及び連携に関する基本的事項

関係府省では,配偶者暴力防止法及び同法に基づく「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等のための施策に関する基本的な方針」(平成25年内閣府,国家公安委員会,法務省,厚生労働省告示第1号)に沿って,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策を積極的に推進している。

全国の都道府県等には,配偶者暴力防止法に基づいて,287か所(令和元(2019)年12月現在)の配偶者暴力相談支援センターが設置されており,配偶者からの暴力に係る相談,カウンセリング,一時保護(婦人相談所のみ),自立支援等の業務を実施している。また,このうち市町村における配偶者暴力相談支援センターの数は114か所(令和元(2019)年12月現在)となっている。

内閣府では,配偶者からの暴力の被害者支援に役立つ法令,制度及び関係機関についての情報等を収集し,内閣府のホームページを通じ,外国語版も含め提供している。

また,配偶者暴力相談支援センターにおける相談対応の質を向上させるとともに,被害者支援を充実させるために,都道府県と市町村,行政と民間の更なる連携の促進を図ることを目的として,官民の配偶者暴力支援の関係者(配偶者暴力相談支援センター長,事業の企画等を担当する職員,相談員等)を対象としたワークショップ等を行う「女性に対する暴力被害者支援のための官官・官民連携促進事業」を実施し,地域における関係者の連携事例や先進的な取組の共有・意見交換等を行っている。このうち,相談員を対象としたワークショップにおいては,DVと児童虐待の関係性が高いことも踏まえ,配偶者暴力相談支援センターと児童相談所との連携強化を図るため,新たに児童相談所職員を研修の対象として追加した。

そして,地域社会内における加害者更生プログラムを含む加害者対応と連動させた包括的な被害者支援体制の構築に向け,プログラムの実施基準等に関する海外文献調査,国内におけるプログラム実施機関に対するヒアリング等を踏まえ,自治体においてプログラムを実施する場合の基本的な考え方について調査研究を実施した。

さらに,DV等の被害者の支援等を行う民間シェルター等が置かれている厳しい状況に鑑み,民間シェルター等に対する支援の在り方についての検討会を開催し,令和元(2019)年5月に,民間シェルター等の現状・課題及び支援拡充の方向性について報告書を取りまとめるとともに,民間シェルター等が行う先進的な取組を促進する新たな事業について検討を行った。

また,DVと児童虐待が密接に関連するものであることを踏まえ,平成31(2019)年3月に,児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議において,DV対応と児童虐待対応との連携強化に係る施策が盛り込まれた,「児童虐待防止対策の抜本的強化について」が決定されるとともに,DV被害者の適切な保護が行われるよう,相互に連携・協力すべき機関として児童相談所を法律上明確化すること等を内容とした,配偶者暴力防止法の一部改正を含む「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」が令和元(2019)年6月に成立した。

さらに,令和元(2019)年度の女性に対する暴力をなくす運動(11月12~25日)においては,DVと児童虐待の特性や関連性等を周知するため,DV対応の象徴であるパープルリボンと児童虐待対応の象徴であるオレンジリボンを組み合わせたWリボンバッジを作成し,閣僚,関係国会議員のほか,在外公館大使,各都道府県知事に配布するなどの広報啓発活動を実施した。

警察では,配偶者暴力防止法に基づき,裁判所から保護命令を発した旨の通知を受けたときは,配偶者暴力相談支援センターと連携し被害者の安全の確保を図るとともに,被害者に防犯上の留意事項を教示するなど,事案に応じた必要な措置を講じている。保護命令違反を認めたときには,検挙措置を講ずるなど厳正かつ適切に対処している。

また,各都道府県の被害者支援連絡協議会の下に設置されている性犯罪被害者支援分科会やDV・ストーカー被害者支援分科会,警察署等を単位とした連絡協議会(被害者支援地域ネットワーク)等を通じて,関係機関相互の連携を強化している。

法務省の人権擁護機関は,関係機関との情報交換等を通じて,被害女性の救済に向けた連携の強化を図っている。

出入国在留管理庁では,地方出入国在留管理局等の総務課に関係機関等との窓口となるDV(配偶者からの暴力)対策事務局を設置するなどの体制を構築し,関係機関等との連携強化を図るとともに,外国人被害者の保護に努めている。

厚生労働省では,配偶者からの暴力被害者の保護及び自立支援について,婦人相談所と関係機関等との連携の強化を図っている。具体的には,各都道府県による,婦人相談所と福祉事務所,民間シェルター等関係機関との定期的な連絡会議・事例検討会議の開催や関係機関の情報を掲載したパンフレット等の作成を促進している。

2 相談体制の充実

内閣府では,配偶者暴力相談支援センターにおいて,被害者に配慮した相談対応が行われるようにするため,相談員等に研修を実施している。

警察では,各都道府県警察の相談窓口の利便性を向上させ,被害者からの事情聴取に当たっては,プライバシーの保護に配意されたソフトな雰囲気の相談室等で行うなどして,被害者が相談・申告しやすい環境の整備を図っている。

法務省の人権擁護機関では,法務局等における人権相談所や,「女性の人権ホットライン」及びインターネットによる人権相談受付窓口において,配偶者からの暴力を含めた相談に応じているほか,被害者の申告等により,配偶者からの暴力事案を認知した場合は,速やかに所要の調査を行い,必要に応じて,配偶者暴力相談支援センター,警察等と連携を図りながら,被害者への必要な助言,一時保護施設への紹介等の援助をし,加害者に対しては,事案に応じて,改善を求める説示等の措置を講じている。

厚生労働省では,婦人相談所におけるDV等に関する相談・援助等において,弁護士等による法的な調整や援助を得る「法的対応機能強化事業」を実施している。また,平成30(2018)年3月に「婦人相談所ガイドライン」(平成26年3月雇用均等・児童家庭局家庭福祉課長通知)を一部改訂し,相談体制等の充実を図っている。

3 被害者の保護及び自立支援

内閣府では,地方公共団体及び民間団体等の配偶者暴力被害者支援の関係者を対象としたワークショップにおいて,被害者の自立支援に関する情報提供を行っている。

警察では,女性に対する暴力の被害者に対して,加害者の検挙の有無にかかわらず,事案に応じた必要な自衛措置等暴力による被害の発生を防止するための措置について指導及び助言を行っている。

また,ストーカー事案や配偶者からの暴力事案等の被害者等が相談に訪れた際,事案の危険性や被害の届出及び警察の執り得る措置を図示しながら分かりやすく説明する「被害者の意思決定支援手続」等を実施しているほか,危険性・切迫性の高い被害者等の安全を確保するため,緊急・一時的に被害者等を避難させる必要がある場合にホテル等の宿泊施設への一時避難にかかる費用について,公費負担を行う措置を講じている。

婦人相談所では,被害者及び同伴する家族の一時保護を実施するとともに,厚生労働大臣が定める基準を満たす民間シェルター等に一時保護を委託している。また,厚生労働省では,婦人相談所一時保護所及び婦人保護施設において配偶者からの暴力被害者等の心のケア対策を行う心理療法担当職員や同伴児童へのケアを行う指導員の配置を促進しているほか,自立のための就労支援の充実を図るため,婦人保護施設入所者の就職活動のための旅費を支給している。なお,平成30(2018)年度より,同伴児童に対する支援体制を強化するため,配置できる指導員の人数を最大3人から最大5人まで配置可能とした。

国土交通省では,被害者の居住の安定確保のため,地域の実情を踏まえた地方公共団体の判断による公営住宅への優先入居や目的外使用を行うことができるよう措置している。

出入国在留管理庁では,配偶者からの暴力の被害者である外国人を認知した場合,関係機関と連携して被害者の身体の保護を確実なものとする一方,被害者からの在留期間更新許可申請又は在留資格変更許可申請や,配偶者からの暴力に起因して不法残留等の出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)違反状態となっている被害者について,個々の事情に十分配慮の上,事案に応じ,人道上適切に対応している。

4 関連する問題への対応

(1) 児童虐待への適切な対応

児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)において,児童虐待は「身体的虐待」,「性的虐待」,「ネグレクト」,「心理的虐待」の4種類に分類されており,子供が同居する家庭における配偶者等に対する暴力は,「心理的虐待」とされている。児童相談所の児童虐待の相談対応件数(平成30(2018)年度)は,児童虐待防止法施行前(平成11(1999)年度)の約14倍に増加(159,838件)しており,内容別に見ると,「心理的虐待」の割合が最も多く(55.3%),この要因の一つとして,子供が同居する家庭における配偶者等に対する暴力がある事案(面前DV)について警察からの通告が増加していることが考えられる。

上記のように,児童虐待相談対応件数の増加や,東京都目黒区で発生した児童虐待事案を受けて,平成30(2018)年6月15日に「児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議」を開催し,安倍総理から,子供の命を守ることを何より第一に据え,全ての行政機関が,あらゆる手段を尽くすよう,緊急に対策を講じることについて指示があった。

この指示を受け,対応策を検討し,同年7月20日に同関係閣僚会議において,「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」を決定した。同対策においては,転居した場合の児童相談所間における引継ぎルールを見直し・徹底すること,「児童相談所強化プラン」を前倒して見直すこと等としているほか,相談窓口の周知,より効果的・効率的な役割分担・情報共有,適切な一時保護,保護された子供の受け皿確保などを講じることとしている。

さらに,同対策に基づき,同年12月18日に,児童虐待防止対策体制総合強化プラン(新プラン)を決定し,児童相談所及び市町村の体制強化に向けて,令和4(2022)年度までに,児童福祉司を約2,000人増加させることや市区町村子ども家庭総合支援拠点を全市町村に設置すること等としている。

また,平成31(2019)年2月には,千葉県野田市で発生した事案を受けて,関係閣僚会議を開催し,通告元の秘匿や関係機関の連携等に関する新ルールを設置することを内容とする「「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」の更なる徹底・強化について」を決定した。

同年3月には,関係閣僚会議において,児童虐待の発生予防・早期発見や児童虐待発生時の迅速・的確な対応等を強化することを内容とする「児童虐待防止対策の抜本的強化について」を決定し,併せて「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律案」を国会に提出した。同法案は,国会での審議を経て,同年6月に可決・成立された。この改正法では,主に以下の内容が定められている。

  • 児童の権利擁護として,親権者は児童のしつけに際して体罰を加えてはならないこと。
  • 児童相談所の体制強化として,都道府県は一時保護等の介入的対応を行う職員と保護者支援を行う職員を分ける等の措置を講ずること。
  • 児童相談所の設置促進として,児童相談所の設置に関する参酌基準を定めること,中核市及び特別区が児童相談所を設置できるよう施設整備,人材確保・育成の支援等の措置を講ずること。
  • 関係機関間の連携強化として,DV対策との連携強化のため,配偶者暴力相談支援センター等の職員は児童虐待の早期発見に努めること。

このほか,児童相談所職員の処遇改善や一時保護所等の量的拡充・質的向上,民法上の懲戒権の在り方についての検討規定が設けられた。

そのほか,虐待を受けたと思われる子供を見つけた時などに,ためらわずに児童相談所に通告・相談できるよう,児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」を運用している。児童相談所につながるまでの時間短縮を進めるため,平成28(2016)年4月に音声ガイダンスの短縮や,平成30(2018)年2月に携帯電話からの着信についてコールセンター方式を導入するなどの改善を進めてきたが,令和元(2019)年12月より「児童相談所全国共通ダイヤル」を「児童相談所虐待対応ダイヤル」と名称を変更し,相談については「児童相談所相談専用ダイヤル」を開設した。「児童相談所虐待対応ダイヤル」については,通話料の無料化を行い,利便性の向上を図った。

平成16(2004)年から,毎年11月を「児童虐待防止推進月間」と位置付け,児童虐待問題に対する社会的関心の喚起を図っている。厚生労働省では,当該月間中,関係府省庁や地方公共団体,関係団体等と連携した集中的な広報・啓発活動を実施している。令和元(2019)年度は,「189(いちはやく) ちいさな命に 待ったなし」を月間標語として決定し,広報用ポスター,リーフレット等に掲載して配布したほか,内閣府で実施している政府広報の活用等により,児童相談所全国共通ダイヤル(189)(11月当時)の周知とともに,児童虐待は社会全体で解決すべき問題であることの周知・啓発を実施した。また,児童虐待防止の啓発を図ることを目的に民間団体(認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク)が中心となって実施している「オレンジリボン運動」を後援している。

文部科学省では,児童虐待防止法の規定による早期発見努力義務及び通告義務等について機会を捉えて周知徹底を図っているほか,関係機関との連携強化のための情報共有や児童虐待防止に係る研修の実施などの積極的な対応等についても周知している。また,平成31(2019)年2月の関係閣僚会議決定を受け,令和元(2019)年5月に学校・教育委員会等が児童虐待の対応に留意すべき事項をまとめた「学校・教育委員会等向け虐待対応の手引き」を作成し,公表した。

さらに,児童生徒が適切な相談を受けることができるよう,スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーの活用等,教育相談体制の整備を支援している。

(2) 交際相手からの暴力への対応

配偶者暴力相談支援センターでは,交際相手からの暴力被害を受けた者からの相談に対応している。

警察では,交際相手からの暴力について,被害者等の生命・身体の安全の確保を最優先に,刑罰法令に抵触する事案については,検挙その他の措置を講じ,刑罰法令に抵触しない事案についても,被害者に対する防犯指導,加害者への指導警告等事案に応じた措置を講じている。

婦人相談所では,恋人からの暴力の被害女性についても,一時保護を含め,支援の対象としている。