コラム2 東アジアの都市における家事・育児の風景

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コラム2

東アジアの都市における家事・育児の風景


(公益財団法人 笹川平和財団)

男性の家事・育児参加が求められているのは,日本だけではない。公益財団法人笹川平和財団では,2019年7月に「新しい男性の役割に関する調査報告書 ―男女共同参画(ジェンダー平等)社会に向けて―」(以下,「報告書」という。)を公表している。担当者へのヒアリングをもとに報告書のポイントを紹介する。

報告書における調査研究の概要 ・現地調査(聴き取り調査) 対象: 東アジア4都市(台北,上海,香港,ソウル)の現地専門家・有識者等 時期: 台北は2018年1月,上海は2018年3月,香港は2018年8月,ソウルは2019年1月 ・Webアンケート調査 対象: 男性,年齢20歳~69歳,東京・東北・北陸・九州・沖縄・台北・上海・香港・ソウル在住者(各地域1,000名,計9,000名) 時期: 日本国内5地域は2018年3月,東アジア4都市は2018年6月

(東アジアの男女の家事等の状況)

総論としては,東アジアの国や地域1にも家事等への参加には男女差が見られ,日本と同様に,女性の方が男性よりも多くの家事等を担当する傾向にある。一方,都市別に見ると,女性の就業状況や食事のスタイル,家事支援サービスの普及度合いなど,各都市の事情は異なっており,そうした事情の相違が男性の家事等の参加状況にも影響を与えている。

例えば,台北では屋台をはじめとした外食文化が発達していて,日常生活で外食や中食2を利用する人が多い。もちろん自炊をすることもあるが,頻度は日本より大幅に少ないと感じた。こうした外食中心の食生活は,炊事という家事の外部化であるといえ,結果として家事負担の軽減にもつながっているものと考えられる。

上海では,男性の家事参加が多い。もともと中国は共働きが多く,料理は早く家に帰った方がするのが一般的であるが,上海の男性の家事頻度はその中でも特に高い。さらに,家事労働者を雇うことが珍しくないほか,夫婦の親が積極的に家事・育児に協力する傾向もある。

香港では,少なくとも所得水準が平均以上の家庭において,フィリピンやインドネシア等からの外国人の家事労働者を雇うことが多い。

(東アジアの都市における家事等の外部化の進行)

東アジアの都市では,家事等の担い手を自分やそのパートナーに限定せず,非同居の家族や親族,公的サービスや民間サービスも含めて,家事等が分担されている。男性の家事等への参加だけが,女性に偏っている負担を軽減させる唯一の方策ではない。東アジアの都市を参考にすると,担い手を多様化させる視点を持ち,家事等の外部化を含めた様々な選択肢を検討していくことも重要である。

(東アジアの都市と日本(東京)との比較)

東京と東アジア4都市の男性を対象としたアンケート調査結果を比較すると,東京の男性は,「意識面」では最もジェンダー平等を志向している反面,家事頻度3や育児頻度,介護頻度などの「行動面」では相対的に最も低い結果となった。

また,夫の年収を100%とした場合の配偶者の年収の割合を見ると,数値が高い順に,台北(92.8%),香港(74.6%),上海(65.8%),ソウル(61.3%),東京(40.0%)となり,東京が最も配偶者間年収格差が大きい結果となった。

配偶者間年収格差が大きい東京では,共働きであっても男性が実質的な「稼ぎ主」となっていることが多く,このことが男性の家事等への参加の少なさにつながっていると考えられる。男性の家事等への参加を促すためには,女性の出産後の就業継続を促し,再就職の機会の拡大を進め,男女賃金格差の解消と女性の経済的自立を促していくことが重要である。

図表1 都市別「職場における女性観」,都市別「育児頻度」別ウインドウで開きます
図表1 都市別「職場における女性観」,都市別「育児頻度」

図表1[CSV形式:1KB]CSVファイル

(ジェンダー平等に向けての示唆)

男性の家事等の参加に関する規定要因は多様であり,都市によっても様々である。

東京の男性が「行動面」で最も低かった理由には,女性が家事等の家庭責任を一手に引き受ける代わりに,男性は転勤や残業を前提とした「稼ぎ主」となることが求められる従来の労働慣行が挙げられる。このような働き方をベースとした業績主義的な競争環境では,いくら採用や昇進における機会を平等にしても,「家事等の家庭責任を担わなければならない者」は自ずと不利な扱いを受けてしまうので,女性の活躍を推進していくためにも,男性の家事等への参加を促していくためにも,この「男性稼ぎ主社会」は問い直していく必要がある。

このように,家事等の家庭責任について,男性の関与を進め,今よりも役割を果たすようにしていくことは,「男性稼ぎ主社会」を問い直していくことと同時進行的に進められるものである。規定要因の多様性に留意しながら,女性のみならず,男性にも焦点を当てた取組を充実させていくことが必要である。

1世界経済フォーラムが公表した「Global Gender Gap Report 2020」における男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index)においても,153か国中,中国(106位)・韓国(108位)・日本(121位)となっている。

2中食とは,惣菜店やお弁当屋・コンビニエンスストア・スーパーなどでお弁当や惣菜などを購入したり,外食店のデリバリー(宅配・出前)などを利用して,家庭外で商業的に調理・加工されたものを購入して食べる形態の食事を指す。(出典:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト)

3国際社会調査プログラムが公表した「ISSP 2012 Family and Gender Roles IV」におけるデータにおいても,日本の男性の家事時間は諸外国と比較して相対的に低い結果となっている。