第5節 子供に対する性的な暴力の根絶に向けた対策の推進

本編 > II > 第1部 > 第8章 > 第5節 子供に対する性的な暴力の根絶に向けた対策の推進

第5節 子供に対する性的な暴力の根絶に向けた対策の推進

1 子供に対する性的な暴力被害の防止,相談・支援等

警察では,従来の検挙活動や防犯活動に加え,性犯罪等の前兆とみられる声掛け,つきまとい等の段階で行為者を特定し,検挙・警告等の措置を講じる活動(先制・予防的活動)を積極的に推進することにより,子供や女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

また,各種活動を通じて児童虐待の早期把握に努めるとともに,児童相談所,学校,医療機関等の関係機関との緊密な連携を保ちながら,児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講じているほか,犯罪の被害を受けた少年の再被害防止や立ち直りの支援のため,少年の特性・心理に関する知識やカウンセリングに関する技能等を有する職員が,精神科医等の専門家の助言を受けながら,カウンセリング等の継続的な支援を行っている。

また,「安全・安心まちづくり推進要綱」に基づき,防犯カメラの整備を促進するなど,児童が犯罪被害に遭いにくいまちづくりを積極的に推進している。

厚生労働省では,市町村において,要保護児童対策地域協議会を活用して,児童相談所等関係機関と十分な連携及び情報共有を図り,身近な場所において,性的虐待を含む児童虐待を受けた児童に関する相談に応じ,必要な支援を実施するよう,また,児童相談所において,性的虐待の被害等により心身に有害な影響を受けた児童に関する相談を受けた場合に,安全確保を必要とする場合の一時保護,専門的な医療的ケアのための医療機関の受診に関する援助,児童心理司によるカウンセリング,自宅に帰ることが困難な児童等に対する児童福祉施設への入所措置等を行うよう,運用に係る検討や予算の確保等を実施し,市町村及び児童相談所における性的虐待を含む児童虐待の相談体制等の充実を支援している(本章第2節4参照)。

法務省の人権擁護機関では,子供の人権問題に関する専用相談電話「子どもの人権110番」を設置し,全国一斉「子どもの人権110番」強化週間(平成30(2018)年度は,8月29日から9月4日まで)を実施したほか,相談用の便箋兼封筒「子どもの人権SOSミニレター」を小中学生に配布したり,子供向けのインターネット人権相談受付窓口(子どもの人権SOS-eメール)を開設したりするなどして相談体制の充実を図っている。また,全国各地で講演会等の開催,啓発冊子の配布等,各種啓発活動を積極的に推進するとともに,人権相談,人権侵犯事件の調査処理を通じて,児童虐待の問題に取り組んでいる。

また,子供たちがインターネットを通じて性的被害などの人権侵害に遭わないようにするため,平成30(2018)年度においては,インターネットリテラシーの向上を目的とした人権啓発冊子を全国の中学3年生に配布したほか,法務局・地方法務局に据え置き,各種人権啓発活動等においても配布した。

少年鑑別所では,「法務少年支援センター」として,少年や保護者などの個人からの心理相談等に応じており,同センターにおいて,関係機関と連携し,児童虐待事案等の発見を含め,相談体制の充実に努めている。

文部科学省では,児童虐待の被害者となった児童生徒の相談等に適切に対応できるよう,学校における相談体制の充実を支援している。

法務省,警察庁及び厚生労働省においては,被害児童が繰り返し事情を聞かれることによる二次被害を防止して心理的負担を軽減するとともに,記憶の汚染を防止して信用性の高い供述を確保するため,検察庁,警察及び児童相談所が連携し,被害児童の事情聴取に先立って協議を行い,関係機関の代表者が聴取を行う取組を実施しており,被害児童の事情聴取の場所・回数・方法等に配慮するなどしている。

2 児童ポルノ対策の推進

我が国は,児童の権利に関する条約及び児童の売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書を,それぞれ平成6(1994)年及び平成17(2005)年に締結しており,関係省庁が連携しつつその履行に努めている。

平成26(2014)年6月に改正された,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」という。)においては,自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノ又はその電磁的記録を所持,保管する行為や,ひそかに児童の姿態を描写することにより児童ポルノを製造する行為を処罰する罰則が新設された。

また,平成29(2017)年4月,犯罪対策閣僚会議において決定された「子供の性被害防止プラン」(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)に基づき,児童ポルノ等の子供の性被害の撲滅に向けた国民意識の向上及び国民運動の展開並びに国際社会との連携強化等の取組を政府全体で推進している。

警察では,「子供の性被害防止プラン」に基づき,関係機関・団体と緊密な連携を図りながら,低年齢児童を狙ったグループによる悪質な事犯等に対する取締りを強化するほか,国内サイト管理者等に対する児童ポルノ画像等の削除依頼,被害児童に対する支援等を推進している。

また,SNSに起因する被害を抑止するため,スマートフォン等インターネット接続機器へのフィルタリングの普及促進を図るとともに,関係団体及び関係事業者に対してサービスの態様等に応じた自主的な対策の強化を働きかけている。

総務省及び経済産業省では,関係省庁と連携の下,青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするため,フィルタリングの普及促進やインターネットの適切な利用等に関する啓発活動等を行っている。

このほか,総務省及び経済産業省では,児童ポルノアドレスリストの作成・管理を行う民間団体の活動への支援を行い,警察庁では,民間事業者によるブロッキングの自主的実施がより実効性のあるものとなるよう同団体に対して関連する情報を提供するなど,民間事業者の自主的取組としてのインターネット上の児童ポルノの流通・閲覧防止対策を促進している。

3 児童買春対策の推進

警察では,児童買春・児童ポルノ禁止法や「子供の性被害防止プラン」に基づき,児童買春の取締り及び被害児童に対する支援のほか,インターネット上の援助交際を求めるなどの不適切な書き込みを行った児童に対し指導を行うなどの取組を推進している。また,インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(平成15年法律第83号。以下「出会い系サイト規制法」という。)を効果的に運用し,出会い系サイトに起因する児童買春その他の犯罪からの児童の保護を図っている。

さらに,児童を組織的に支配し,SNS等を利用して児童買春の周旋を行う事犯や,児童の性に着目した形態の営業に従事させる事犯等悪質性の高い事犯の実態把握と情報の分析,積極的な取締りや,有害業務に従事する児童の補導と被害児童に対する適切な支援等を推進している。

厚生労働省では,児童買春の被害者となった児童に対し,相談,一時保護,児童養護施設等への入所等の対応を行い,必要に応じて心理的治療を行うなど,その心身の状況に応じた適切な支援が行われるよう,児童相談所等における相談体制等の充実を支援している。

文部科学省では,被害者を含めて児童生徒等の相談等に適切に対応できるよう,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の配置を推進するなど,学校における相談体制の充実を支援している。

4 広報啓発の推進

内閣府では,「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画(第3次)」(平成27年7月子ども・若者育成支援推進本部決定)及び新たに策定された「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画(第4次)」(平成30年7月子ども・若者育成支援推進本部決定。以下「青少年インターネット環境整備基本計画(第4次)」という。)に基づき,青少年のインターネット利用におけるフィルタリングの普及や適切な利用を推進するため,関係省庁や民間団体等と連携して,リーフレットの公表・配布などにより青少年及び保護者等に対する広報啓発活動を実施している。

総務省では,インターネット,携帯電話等のメディアの特性に応じたメディア・リテラシーに関する教材等の普及を図っている。

文部科学省では,インターネット上のマナーや家庭でのルール作りの重要性を保護者等に対して周知するための学習・参加型のシンポジウムの開催や児童生徒向けの啓発資料の作成・配布等を行っている。

警察では,児童ポルノや児童買春に関する情勢の深刻さや被害の未然防止の必要性等について,パンフレットの作成,警察庁等のホームページへの掲載等による広報啓発活動を推進しているほか,サイバー空間における犯罪被害から児童を守るため,出会い系サイト及びSNSに起因する児童の犯罪被害の実態やインターネットの危険性等に関しても広報啓発活動を推進している。

経済産業省では,関係団体,関係事業者と連携し,フィルタリング等に関する情報提供・普及啓発活動を実施して,フィルタリングの普及を行っている。また,教育委員会の研修等への講師派遣も実施した。