第1節 男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し

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第10章 男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備

第1節 男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し

1 働きたい人が働きやすい中立的な税制・社会保障制度・慣行,家族に関する法制等の検討

税制に関しては,平成29年度税制改正において,女性を含め,働きたい人が就業調整を意識せずに働くことができる仕組みを構築する観点から,配偶者控除等について,配偶者の収入制限を103万円から150万円に引き上げるなどの見直しを行うこととし,29年3月に所得税法等が改正された(30年1月施行)。

社会保障制度については,被用者保険の適用拡大を進めることとしており,平成28年10月から,大企業において,週に20時間以上働く等の一定の要件を満たす短時間労働者を対象に被用者保険の適用拡大が実施された。また,中小企業等で働く短時間労働者についても,労使合意を前提に企業単位で適用拡大の途を開くこと等を内容とする年金改革法が第192回臨時国会において成立した(29年4月施行)。

国家公務員の配偶者に係る扶養手当については,平成28年11月に一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号)が改正され,段階的に配偶者に係る手当額を他の扶養親族と同額まで減額するなどの見直しを行うこととされた(29年4月施行)。

民間企業における配偶者手当については,厚生労働省において「配偶者手当の在り方の検討に関し考慮すべき事項」を取りまとめ,都道府県労働局等を通じて広く周知を図り,労使に対しその在り方の検討を促した(第2章第5節参照)。

法務省では,平成8年2月の法制審議会の答申(「民法の一部を改正する法律案要綱」)を踏まえた選択的夫婦別氏制度の導入等を内容とする民法改正については,引き続き慎重な検討が必要であるとの認識の下,ウェブサイトを通じた国民への情報提供等に努めている。

また,女性にのみ6か月の再婚禁止期間を定める民法の規定については,最高裁判所が平成27年12月に再婚禁止期間のうち100日を超える部分は憲法に違反するとの判断を示したことを受け,28年6月,再婚禁止期間を100日に短縮するなどの措置を講ずることを内容とする民法の一部を改正する法律(平成28年法律第71号)が成立した。

なお,法務省では,改正法の施行日と同日付けで,100日の再婚禁止期間を経過していない女性を当事者とする婚姻の届出について,改正後の民法第733条第2項に該当するとした医師の証明書を提出した場合には,その他の実質的要件を満たしていれば,これを受理する取扱いとする文書を法務局に発出し,併せて市区町村に周知した。

また,内閣府では,旧姓使用の現状と課題に関する調査を実施した。

2 男女の多様な選択を可能とする育児・介護の支援基盤の整備

政府は,「少子化社会対策大綱」(平成27年3月閣議決定)に基づき,子育て支援策を一層充実させている。

内閣府は,地域少子化対策重点推進交付金を活用し,地方公共団体が行う地域の実情に応じた先駆的な少子化対策の取組や,これまでの取組から発掘された優良事例の横展開を支援した。

また,新たな次世代育成支援のための包括的・一元的な制度として平成27年4月から本格施行された子ども・子育て支援新制度(以下「新制度」という。)では,「保護者が子育てについての第一義的責任を有する」という基本的な認識の下に,(ア)認定こども園,幼稚園,保育所を通じた共通の給付(「施設型給付」)及び小規模保育等への給付(「地域型保育給付」)の創設,(イ)認定こども園制度の改善及び(ウ)地域の実情に応じた子供・子育て支援の充実を図ることとしている。実施主体は基礎自治体である市町村であり,地域の実情等に応じて幼児期の学校教育・保育及び地域の子供・子育て支援に必要な給付・事業を計画的に実施していくこととしている。

その後,消費税率の引上げが延期される中にあって,「量的拡充」はもちろん,消費税率10%への引上げを前提とした「質の向上」を全て実施するために必要な予算を確保した上で,平成27年4月から新制度が本格施行された。施行後は各地方公共団体において直面している運営上の課題等に関する情報交換・意見交換等を行い,状況の把握に努めるとともに,パンフレットやQ&Aの作成,説明会の開催等を通じて,保護者や事業者,地方公共団体等の関係者に新制度の周知を図り,制度の円滑な運用に努めている。

また,新制度の施行にあわせて,内閣府に「子ども・子育て本部」を設置し,認定こども園,幼稚園,保育所に対する共通の給付や小規模保育等への給付等の財政支援を内閣府に一本化するとともに,一方で,学校教育法体系及び児童福祉法体系との整合性を確保する観点から,文部科学省及び厚生労働省と引き続き密接な連携を図りながら事務を実施していくこととしている。

さらに,子ども・子育て支援の提供体制の充実を図るため,事業所内保育業務を目的とする施設の設置者に対する助成及び援助を行う事業(以下「企業主導型保育事業」という。)等を創設するとともに,一般事業主から徴収する拠出金の率の上限を引き上げる等の措置を講ずるため,平成28年3月,子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)の一部が改正された。

加えて,地方公共団体は,次世代法に基づき,地域における子育て支援や母性,乳幼児の健康の確保・増進のほか,子供の心身の健やかな成長に資する教育環境の整備等を内容とする市町村行動計画等を策定することができることとされており,子ども・子育て支援事業計画と併せて,これに基づく取組が進められている。

平成28年4月1日時点の待機児童数は,23,553人で前年度と比較して増加しており,保育の受け皿拡大は喫緊の課題となっている。政府においては,待機児童の解消を目指し,「待機児童解消加速化プラン」に基づき取組を進めており,25年度から27年度の3か年で合計約31.4万人分の保育の受け皿拡大を行った。また,29年度までの5か年の整備量は約48.3万人分を見込んでおり,28年度から実施している企業主導型保育事業による5万人分と合わせて50万人を超える保育の受け皿拡大を進めることとしている。

共働き家庭等の「小1の壁」を打破するとともに,次代を担う人材を育成するため,平成26年7月に厚生労働省と文部科学省が共同で策定した「放課後子ども総合プラン」では,一体型を中心とした放課後児童クラブ及び放課後子供教室の計画的な整備等を進めることとしている。

平成28年度においては,文部科学省の「放課後子供教室」は全国1万6,027か所(28年10月現在)で,厚生労働省の「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)」は全国2万3,619か所(28年5月現在)でそれぞれ実施している。

厚生労働省では,「放課後子ども総合プラン」の目標達成に向けた「量的拡充」のための支援策の強化を図るため,施設整備費の補助率嵩上げや放課後児童クラブを設置する際の既存施設の改修,設備の整備・修繕及び備品の購入を行う事業の補助基準額の引上げを行った。待機児童が存在する地域等において,学校敷地外の民家・アパート等から,より広い場所に放課後児童クラブを移転して受入児童数を増やすことができるよう,その移転に係る経費の補助や,学校敷地外の土地を活用して放課後児童クラブを設置する際に必要な土地借料の補助を行うなど放課後児童クラブの量的拡充を図った。

また,身近な場所に子育て中の親子が気軽に集まって,相談や交流を行う「地域子育て支援拠点」の設置や,子育て家庭や妊産婦が,教育・保育施設や地域子ども・子育て支援事業,保健・医療・福祉等の関係機関を円滑に利用できるよう,身近な場所での相談や情報提供,助言等必要な支援をするとともに,関係機関との連絡調整,連携・協働の体制づくり等を行う「利用者支援事業」の推進,保護者の通院や社会参加活動,又は育児に伴う心理的・身体的負担の軽減のために児童を一時的に預かる「一時預かり事業」を推進している。

さらに,乳幼児や小学生等の児童を有する子育て中の労働者や主婦等を会員として,子供の送迎や預かり等の相互援助活動を行うファミリー・サポート・センターの設置を促進している。

厚生労働省では,高齢者が介護サービスを適切に選択し,利用できるよう,介護サービス事業者の運営基準の適切な運用を図るとともに,平成18年4月から「介護サービス情報の公表」制度により,都道府県が行う事業所調査,情報の公表等の総合的な支援を行っている。また,介護サービス事業者の参入促進,福祉用具の開発・普及等の施策を推進している。

また,介護福祉士,介護支援専門員及び訪問介護職員について,養成研修や資質の向上のための研修等を推進するとともに,その内容の充実等を図っている。さらに,全国の主要なハローワークに設置された「福祉人材コーナー」等において,福祉分野のきめ細かな職業相談・職業紹介,求人者への助言,指導等を実施している。

介護労働者の雇用管理改善のため,平成27年5月,「介護雇用管理改善等計画」(平成27年厚生労働省告示第267号)を改正したほか,労働環境の改善に資する介護福祉機器や雇用管理制度等を導入する事業主への助成,介護労働安定センターによる雇用管理改善のための相談援助や実践力を備えた介護人材の育成を図るための介護労働講習を行っている。また,「魅力ある職場づくり」の必要性やメリットの啓発を行い,更には具体的な取組を促す事業を行った。

また介護保険制度については,高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう,医療,介護,介護予防,住まい,生活支援サービスを切れ目なく提供する「地域包括ケアシステム」を構築するため,地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第83号)が平成26年6月から施行されている。

公的年金制度においては,次世代育成支援の観点から,国民年金第一号被保険者の産前産後期間(出産予定月の前月からその翌々月までの4ヶ月間)の保険料負担を免除するとともに,免除期間は満額の基礎年金を保障すること,また,この費用に充てるため,国民年金の保険料を月額100円程度引き上げること等を内容とする年金改革法が第192回臨時国会において成立した。

文部科学省では,「幼稚園教育要領」に基づき,幼稚園の標準の教育時間(4時間)の前後や長期休業期間中等に行われる,いわゆる「預かり保育」や,子育て相談や子育てに関する情報提供,保護者同士の交流の機会の提供等,幼稚園における子育て支援活動を推進している。

預かり保育や子育て支援活動については,私立幼稚園については私学助成により支援するとともに,公立幼稚園については,地方財政措置が講じられている。また,子ども・子育て支援新制度においてもこれらの取組について支援の充実を図っている。

また,幼児教育の振興を図る観点から,保護者の所得状況や子供の数に応じた経済的負担の軽減等を図る「幼稚園就園奨励事業」を実施している地方公共団体に対して,その所要経費の一部を幼稚園就園奨励費補助金により補助している。平成28年度は,低所得の多子世帯について,第1子の年齢に関わらず,第2子半額,第3子無償となるよう保護者負担の軽減を図った。また,低所得のひとり親世帯等について,保護者負担軽減の特例措置を創設した。

就学前の教育・保育への多様なニーズに対応するため,平成18年10月から開始した認定こども園制度については,新制度で認可・指導監督権限や財政支援を一本化するなどにより,更なる普及促進を図っている。

文部科学省では,身近な地域において,全ての親が家庭教育に関する学習や相談ができる体制が整うよう,家庭教育支援チームの組織化等による相談対応,保護者への学習機会や親子参加行事の企画・提供等の家庭教育を支援する活動を推進している。

また,「家庭教育支援の推進方策に関する検討委員会」において,全ての保護者が充実した家庭教育を行うことができるようにするための具体的な推進方策について検討し,報告書を取りまとめたほか,平成28年度から新たに「地域人材の活用や学校等との連携による訪問型家庭教育支援事業」を地方公共団体に委託して実施し,家庭教育支援チーム等による訪問型の家庭教育支援体制の構築を図った。

このほか,地域住民,学校,行政,NPO,企業等の協働による社会全体での家庭教育支援の活性化を図るため,効果的な取組事例等を活用した全国的な研究協議を行っている。

さらに,家庭教育の基盤となる,食事や睡眠等をはじめとする子供の基本的な生活習慣の定着を図るため,「早寝早起き朝ごはん」国民運動を推進するとともに,中高生を中心とした子供の自立的な生活習慣づくりを推進するため,家庭と学校,地域の連携による生活習慣改善のための実証研究(中高生を中心とした生活習慣マネジメント・サポート事業)を全国の8つの地方公共団体で実施した。

加えて,幼児期から高等教育まで切れ目のない教育費負担の軽減のための取組を行っている。

女性が活躍できるようにするためには,安心な家事支援サービスを利活用できる環境整備を図ることも重要である。経済産業省では,平成27年1月に品質確保に向けた家事支援サービス事業者の取組指針となる「家事支援サービス事業者ガイドライン」を策定した。28年2月には,事業者が当ガイドラインにおける担保すべき項目を満たしていることを確認できる「家事支援サービス事業者自己診断ツール」を作成し,28年度は家事支援サービス認証制度を構築した。

国土交通省では,子育てに適したゆとりある住宅・居住環境を確保するため,良質なファミリー向け賃貸住宅の供給を促進するとともに,住宅金融支援機構の証券化支援事業の枠組みを利用した融資等により,良質な持家の取得を支援している。

また,公的賃貸住宅における保育所等の子育て支援施設の一体的整備や,子育て世帯の居住の安定確保を図る民間事業者等による先導的な取組を支援したほか,地方公共団体においても,地域の実情を踏まえ,子育て世帯に対し当選倍率を優遇するなどの対応を行っている。さらに,職住近接で子育てしやすい都心居住,街なか居住を実現するため,良質な住宅供給や良好な住宅市街地等の環境整備を行っている。

加えて,安全で安心な道路交通環境の整備として,歩道,自転車道等の設置,歩行者等を優先する道路構造の整備,無電柱化,交通安全施設等の整備を実施しているほか,安全で安心して利用ができる幼児送迎サービスを提供するための個別輸送サービス(STS)の普及を推進している。また,高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)に基づく取組のほか,公共交通機関や公共施設等におけるベビーカー利用がしやすい環境づくりに向けた検討を行い,ベビーカー利用に関する統一的なマーク(ベビーカーマーク)の掲出を行い,ベビーカー利用に当たっての「お願い」の周知や,普及・啓発を図るキャンペーン等を実施した。さらに,平成27年6月に設置した「女性が輝く社会づくりにつながるトイレ等の環境整備・利用のあり方に関する協議会」において,女性用トイレの行列解消や,授乳・調乳スペースの設置の促進,男女トイレのおむつ替えスペースの確保などの諸課題について,その解決に向けて望ましい取組の方向性を取りまとめた。

このほか,文部科学省,国土交通省及び警察庁では,通学路における交通安全の確保に向け,学校,教育委員会,道路管理者,警察等の関係機関が連携して交通安全対策を実施するとともに,地域における定期的な合同点検の実施や対策の改善・充実等による継続的な取組を支援している。

また,消費者庁では,「不慮の事故」が子供の死因の上位を占めている現状を踏まえ,「子どもを事故から守る!プロジェクト」を実施している。具体的には,毎週木曜日に事故予防の豆知識などを含めたメールマガジン「子ども安全メールfrom消費者庁」を配信しているほか,シンボルキャラクター「アブナイカモ」が各地の子供関連イベントに積極的に参加するなど,子供の不慮の事故予防に関する啓発活動を行っている。

このほか,平成28年6月に設置した,関係府省庁の担当課長により構成される「子供の事故防止に関する関係府省庁連絡会議」において,子供の事故の実態及び子供の事故防止に向けた各種取組等について情報交換し,関係府省庁が連携した効果的な啓発活動の実施等についての検討を進めている。