平成23年版男女共同参画白書

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第8章 女性に対するあらゆる暴力の根絶

第1節 女性に対する暴力の予防と根絶のための基盤づくり

1 女性に対する暴力への社会的認識の徹底

男女共同参画推進本部は,毎年11月12日から11月25日(国連が定めた「女性に対する暴力撤廃国際日」)までの2週間,「女性に対する暴力をなくす運動」を実施している。期間中,地方公共団体,女性団体その他の関係団体との連携・協力の下,意識啓発等,女性に対する暴力に関する取組を一層強化している。

また,法務省の人権擁護機関では,女性に対する暴力の根絶を含む女性の人権擁護のため,「人権教育・啓発に関する基本計画」に基づき,「人権週間」等あらゆる機会を通じて,講演会や座談会の開催,新聞・雑誌等による広報,ポスター等の作成・配布など広報・啓発活動を推進し,人権尊重思想の普及高揚を図っている。

2 体制整備

(1) 相談・カウンセリング対策等の充実

内閣府では,「女性に対する暴力をなくす運動」の最終日である「女性に対する暴力撤廃国際日」の11月25日に,女性に対する暴力根絶運動のシンボルであるパープルリボンにちなんで,東京タワー等をパープルにライトアップするなど,広く国民に対して暴力根絶を呼びかけた。

また,平成23年2月8日から3月27日までの約2か月間,配偶者からの暴力や性暴力の被害者を対象とした電話相談「パープルダイヤル-性暴力・DV相談電話-」を開設し,緊急かつ集中的に電話相談を行った。パープルダイヤルでは,配偶者からの暴力に加えて,政府としては初めて性暴力による被害や男性からの相談に対応するとともに,外国人の相談者向けに6か国語による対応を行った。原則24時間(男性相談は平日の午前11時から午後11時,土日祝日の正午から午後11時まで,外国語対応は毎日午前9時から午後9時まで)相談を受け付けることにより,潜在化している被害者に相談を促し,期間中,約2万3,000件の相談対応を行った(参考)。

パープルダイヤル広報カード


相談状況を見ると,配偶者からの暴力に関する相談では,10歳代から70歳代まで幅広い年代から相談が寄せられたが,そのうち約3割が10年以上暴力を受け続けているという深刻な状況であった。一方で,10歳代等若年層から,交際相手からの暴力(いわゆる「デートDV」)の深刻な相談も寄せられた。急性期の性暴力,特に強姦や強制わいせつの被害に関する相談では,相談者の半数以上が10歳代から30歳代であり,相談の約7割が,家族,職場関係者などの知っている人からの被害であった。また,男性からの相談では,DVに関する相談が約2割,その他の相談が約8割と,DVや性暴力にかかわらず様々な相談が寄せられた。外国人からの相談では,言葉の問題から,相談機関や警察で対応できず帰されるという事例があった(相談状況は,2月8日から3月7日までの相談を分析したもの)。

警察では,被害女性の二次的被害の防止や精神的被害の回復を図るため,性犯罪,ストーカー事案,配偶者からの暴力事案等の被害女性から事情聴取を行うことのできる女性警察官や心理学等に関する知識を有しカウンセリング等を行うことのできる職員等の確保や,民間のカウンセラー等との連携に努めている。また,被害者等の精神的被害が著しく,その回復,軽減を図る必要がある場合には,被害直後から臨床心理士等を派遣し,被害者等の精神的ケアを行っている。

さらに,「警察総合相談室」,「警察安全相談窓口」等の各種相談窓口の整備・充実を推進するとともに,女性相談交番の指定や鉄道警察隊における女性被害者相談所の設置を行っている。

法務省の人権擁護機関では,全国の法務局・地方法務局に設置されている「女性の人権ホットライン」を全国共通電話番号化し,また,インターネット人権相談受付窓口を開設して24時間365日相談の受付登録を可能とするなどして,夫・パートナーからの暴力やセクシュアル・ハラスメント等女性の人権問題に関する相談体制のより一層の充実を図っている。なお,平成22年度においては,「女性に対する暴力をなくす運動」期間中に,法務省と全国人権擁護委員連合会共催の取組として,全国一斉「女性の人権ホットライン強化週間」を設け相談を実施した。

日本司法支援センター(法テラス)は,その業務の一つとして,犯罪被害者支援業務を行っている。同業務は,法テラスが,国,地方公共団体,弁護士会,犯罪被害者支援団体等の種々の専門機関・団体との連携・協力の下,全国各地の相談窓口等の情報を収集し,犯罪被害者等に対して,その相談内容に応じた最適な相談窓口や法制度に関する情報を速やかに提供するほか,犯罪被害者支援の経験や理解のある弁護士を紹介するものである。また,法テラスでは,経済的に余裕のない方が民事裁判等手続を利用する際の弁護士費用等の立替えを行う民事法律扶助や,日本弁護士連合会から委託を受けて行っている弁護士を通じた各種援助を行っている。このように,法テラスでは速やかに適切な相談窓口等に関する情報を提供し,弁護士を紹介するほか,弁護士費用等に関する援助制度を案内することにより,配偶者から暴力を受けた者に対する支援を行っている。

さらに,被害者参加制度及び被害者参加人のための国選弁護制度において,法テラスは国選被害者参加弁護士の候補となる弁護士の確保や裁判所への指名通知等の業務を担っている。

厚生労働省では,婦人相談所において休日夜間も含めた相談体制の強化を図るなど,婦人相談所職員,婦人相談員等による被害女性からの相談体制の充実を図っている。


(2) 研修・人材確保

内閣府では,全国の配偶者暴力相談支援センター等の相談員や相談員を管理する立場にある職員を対象に,相談等の質の向上等を目的としたセミナーを平成22年度に6回開催した。

また,全国の配偶者暴力相談支援センター等に,配偶者からの暴力に関する専門的な知識や経験を有する者を派遣して指導や助言を行い,相談業務の充実を支援する「配偶者からの暴力被害者支援アドバイザー派遣事業」を全国の45都道府県・11政令指定都市で実施した。

さらに,地域における性犯罪被害者支援の取組の促進を図るため,男女共同参画センター等の相談員を対象とした研修を平成22年度に全国3か所で開催した。

警察では,警察職員に対し,女性の人権擁護の視点に立った適切な対応等について教育を実施するとともに,女性に対するストーカー事案や配偶者からの暴力事案,性犯罪等の捜査要領等に関する教育を実施している。

法務省では,検察職員に対して,その経験年数等に応じた各種研修において,被害者の保護・支援,女性に対する配慮等に関する講義を実施している。

また,矯正官署職員に対して,矯正研修所及び支所における各種研修の中で,配偶者からの暴力の防止等,女性の人権問題に関する講義を実施している。更生保護官署職員については,新任の保護観察官を対象とした研修等において,配偶者からの暴力の防止及び女性に対する配慮等を含めた犯罪被害者等の保護・支援に関する講義を実施している。

さらに,各地方入国管理官署の業務の中核となる職員を対象とした人権研修において,人身取引被害者,配偶者暴力防止等の人権問題に関する講義を実施しているほか,人身取引対策及び配偶者からの暴力事案に関係する業務に従事する職員を対象として,人身取引及び配偶者暴力防止法に特化した専門的な研修を実施している。

人権擁護事務担当者に対する研修においては,配偶者暴力防止法についての講義をカリキュラムに盛り込むなど,更なる内容の充実を図っている。人権擁護委員に対する研修としては,男女共同参画社会の形成を阻害する要因によって人権が侵害された被害者の相談などに適切に対処するために必要な知識の習得を目的とする「人権擁護委員男女共同参画問題研修」を実施しており,同研修に配偶者暴力防止法の周知等のカリキュラムを組み込むなど,この問題の対応に努めている。

厚生労働省では,全国の婦人相談所職員,婦人相談員等を対象に,配偶者からの暴力被害者や人身取引被害者等に対する支援に関する研究協議会を開催した。また,各都道府県に対し,婦人相談所,婦人保護施設,母子生活支援施設,福祉事務所,民間団体等において直接被害女性を支援する職員や,婦人相談員等を対象とした専門研修を実施するよう支援している。


(3) 厳正かつ適切な対処の推進

警察では,刑罰法令に抵触する場合には,被害女性の意思を踏まえ,検挙その他の適切な措置を講じ,刑罰法令に抵触しない場合においても,事案に応じて,防犯指導や関係機関への紹介等の適切な自衛・対応策を教示するとともに,必要があると認められる場合には相手方に指導・警告するなどして,被害女性への支援を推進している。

また,配偶者暴力防止法に基づき,裁判所から保護命令を発した旨の通知を受けたときは,配偶者暴力相談支援センターと連携し被害者の安全の確保を図るとともに,被害者に防犯上の留意事項を教示するなど,事案に応じた必要な措置を講じている。保護命令違反を認めたときには,検挙措置を講ずるなど厳正かつ適切に対処している。

法務省の人権擁護機関では,夫・パートナーからの暴力,セクシュアル・ハラスメント,ストーカー行為等についても,より一層積極的に取り組み,被害者からの申告等を端緒に人権侵犯事件として調査の上,適切な措置を講じている。


(4) 関係機関の連携の促進

男女共同参画推進本部の下に設置された「女性に対する暴力に関する関係省庁課長会議」等を通じて,関係行政機関相互の連携を深め,女性に対する暴力の根絶に向けた施策を総合的に推進している。

警察では,各都道府県の「被害者支援連絡協議会」の下に設置されている性犯罪被害者支援分科会やDV・ストーカー被害者支援分科会,警察署レベルでの被害者支援地域ネットワーク等を通じて,関係機関相互の連携を強化している。また,各都道府県において民間の被害者支援団体が,電話又は面接による相談,裁判所への付添い等を行っており,警察は,これらの団体の運営を支援している。

3 女性に対する暴力の発生を防ぐ環境づくり

警察では,平成12年2月に制定した「安全・安心まちづくり推進要綱」(平成18年4月一部改正)に基づき,街頭防犯カメラの整備を促進するなど,犯罪被害に遭いにくいまちづくりを積極的に推進している。

また,パトロールの効果的推進,地域住民等の行う自主防犯活動の支援を行うとともに,防犯ボランティア団体,地方公共団体等と連携しつつ,防犯教育(学習)の実施,防犯マニュアル等の作成,地域安全情報の提供,防犯指導,助言等を積極的に行うほか,女性に対する暴力等の被害者からの要望に基づき,地域警察官による訪問・連絡活動を推進している。

さらに,様々なメディアやインターネットを通じて性に関する情報が氾濫しており,少年の犯罪被害も深刻な状況にあることから,警察では,性を売り物とする営業に対する指導や福祉犯の取締りを積極的に行っている。また,サイバー空間における犯罪被害から児童を守るため,犯罪被害の実態やインターネットの危険性等に関する広報啓発活動等を推進しており,特に,平成22年11月以降,関係府省等と連携し,児童が使用する携帯電話に係るフィルタリングの100%普及を目指して,関係事業者に対する要請活動,保護者に対する啓発活動等を強力に推進している。

4 女性に対する暴力に関する調査研究等

内閣府では,女性に対する暴力の加害者及び被害者となることを防止する観点から,若年層を対象とした予防啓発教材を作成し,全国の関係機関及び教育機関に配布した。また,同教材を用いた効果的な指導を行うため,指導者研修を開催した。