平成22年版男女共同参画白書

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第2節 多様なライフスタイルに対応した子育て支援策の充実

1 多様なライフスタイルに対応した子育て支援策の充実

子どもと子育てを応援する社会の実現に向けて,平成22年度から平成26年度までの今後5年間で目指すべき施策内容と数値目標を盛り込んだ「子ども・子育てビジョン」を策定した(平成22年1月29日閣議決定)。「子ども・子育てビジョン」においては,これまでの「少子化対策」から「子ども・子育て支援」へと転換し,社会全体で子育てを支え,個人の希望を実現することを目指して,子ども手当の創設など経済面の支援と,保育サービス等の基盤整備とのバランスのとれた総合的な子育て支援を推進することとしている。

加えて,「明日の安心と成長のための緊急経済対策」(平成21年12月8日閣議決定)に基づき,幼保一体化を含む新たな次世代育成支援のための包括的・一元的なシステムの構築について検討を行うため,平成22年1月の少子化社会対策会議において「子ども・子育て新システム検討会議」を開催することが決定された。同会議は,22年6月を目途に基本的な方向を固めることとしている。

なお,社会保障審議会少子化対策特別部会では,こうした議論につながる検討を行ってきたところであり,平成21年2月には第1次報告,同年12月には議論の整理がなされている。

さらに,地方公共団体においては,次世代法に基づき,地域における子育て支援や母性,乳幼児の健康の確保・増進等を内容とする地域行動計画が策定され,これに基づく取組が進められている。

地域行動計画は,5年を1期としてすべての地方公共団体に策定が義務付けられており,平成17年度から21年度末を計画期間とする「前期行動計画」についてすべての都道府県及び市区町村が策定済みである。最終年次に当たる21年度においては,過去5年間の取組の評価を実施し,22年度から26年度末までを計画期間とする「後期行動計画」の策定が行われた。


(1) 保育サービス等の充実

厚生労働省では,平成20年度に,都道府県に創設した「安心こども基金」を,21年度第1次,第2次補正予算において増額し,保育所の整備等,認定こども園等の新たな保育需要への対応及び保育の質の向上のための研修などを実施し,子どもを安心して育てることができるような体制整備を進め,保育サービス等の充実・拡充を行っている。

また,上述の「国と自治体が一体的に取り組む待機児童『先取り』プロジェクト」により,待機児童解消に先進的に取り組む自治体を対象に,23年度からの実施を図ることとされた。


(2) 「放課後子どもプラン」の推進

文部科学省と厚生労働省が連携し,地域社会の中で,放課後等に子どもたちの安全で健やかな居場所づくりを推進するため,総合的な放課後対策として実施する「放課後子どもプラン」を平成19年度に創設し,原則として,すべての小学校区での実施を目指し推進を図るとともに,必要な経費の支援を行っている。

平成21年度において,文部科学省の「放課後子ども教室推進事業」については,8,719か所,厚生労働省の「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)」については,18,479か所が全国で実施されている。


(3) 幼稚園における子育て支援の推進

文部科学省では,幼稚園の通常の教育時間(4時間)の前後や長期休業期間中などに行われる「預かり保育」を実施する幼稚園に対して支援を行うなど,幼稚園における子育て支援を推進している。

平成19年6月の学校教育法改正では,幼稚園における家庭及び地域の幼児教育支援に関する規定を新設するとともに,「預かり保育」を適正に実施するための規定の整備等を行った。また,20年3月に公示した幼稚園教育要領において,預かり保育の具体的な留意事項を示すとともに,子育ての支援の具体的な活動を例示した。さらに,21年3月には,「幼稚園における子育て支援活動及び預かり保育の事例集」を作成・配布した。


(4) 認定こども園制度の普及促進

近年の急速な少子化の進行や家庭・地域を取り巻く環境の変化に伴い,多様化するニーズに柔軟かつ適切に対応するため,平成18年6月に,就学前の子どもに関する教育,保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)が成立し,同年10月から施行された。この法律では,幼稚園,保育所等のうち,(1)就学前の子どもに教育・保育を提供する機能(保育に欠ける子どもも欠けない子どもも受け入れて教育・保育を一体的に行う機能),(2)地域における子育て支援を行う機能(すべての子育て家庭を対象に,子育て不安に対応した相談や親子のつどいの場の提供などを行う機能)を備える施設について,都道府県が「認定こども園」として認定する仕組みとしており,21年4月1日現在,全国で358件の認定が行われている。

また,平成20年10月に内閣府特命担当大臣(少子化対策),文部科学大臣,厚生労働大臣の3大臣合意により立ち上げた「認定こども園制度の在り方に関する検討会」において,(1)財政支援の充実,(2)会計処理等における二重行政の解消,(3)教育と保育の総合的な提供の推進,(4)家庭や地域の子育て支援機能の強化,(5)質の維持・向上への対応などの認定こども園における課題について議論を進め,21年3月に報告を取りまとめた。21年度においては,報告書において指摘された課題について,対応可能なものから取り組み,その解消を図っている。


(5) 幼稚園就園奨励事業の促進

保護者の所得状況に応じて経済的負担を軽減するとともに,公・私立幼稚園間における保護者負担の格差の是正を図ることを目的として,保育料等を軽減する「就園奨励事業」を実施している地方公共団体に対して,文部科学省では,幼稚園就園奨励費補助金により所要経費の一部を補助している。

当該補助金は,これまで兄弟姉妹の同時就園を条件に,第1子に対して,第2子以降の園児の保護者負担を軽減する優遇措置を講じてきたところであるが,平成18年度から小学校1年生に兄・姉を有する園児について優遇措置の対象とする条件緩和を講じ,20年度は保護者負担の一層の軽減を図るため,小学校3年生までに兄・姉を有する園児を優遇措置の対象とした。

また,平成21年度は兄弟姉妹のいる家庭の経済的負担の軽減により,幼稚園への就園機会を促進するため,第3子以降の保育料を無償とするなど,第2子以降の保護者負担の軽減を図っている。


(6) 地域の子育て・介護支援体制整備

厚生労働省では,乳幼児や小学生等の児童を有する子育て中の労働者や主婦等を会員として,保育施設までの送迎や放課後の預かり,病児・病後児の預かり等の相互援助活動を行うファミリー・サポート・センターの設置を促進している。平成21年度は599か所で実施されている。

経済産業省では,商店街の空き店舗等を活用して,子育て支援施設を設置・運営する際の改装費や賃借料などの費用の一部を補助することにより,女性の社会進出といった少子化社会に対応する取組の推進を図っている。

また,高齢者福祉,共働き支援,村おこし,環境保護など,地域の様々な社会的課題をビジネスの手段を用いて解決するソーシャルビジネスを振興することで,高齢者や女性等の社会進出を促進し,地域における新たな産業や雇用の創出による地域活性化を図っている。加えて,ソーシャル事業者の資金調達ニーズに対しては,民間金融を補完しつつ,株式会社日本政策金融公庫を通じてソーシャルビジネス事業者に対する融資を実施することで,資金調達の円滑化に向けた環境整備を進め,事業活動の促進を目指している。


(7) 家庭教育支援

文部科学省では,家庭の教育力の向上を図るため,地域人材の養成や「家庭教育支援チーム」の設置等により,学校を始めとした多くの親が集まる様々な場を活用して学習機会を提供するなど,地域の主体的かつ持続可能な取組への支援を実施している。また,家庭教育に無関心な親や仕事で忙しい親など待ち受け型の講座等では支援が行き届きにくい親への支援として,家庭教育支援チームが家庭や企業を訪問して支援を行うなど効果的な手法の開発を実施した。

さらに,家庭教育に関するヒント集として,家庭における子育てやしつけの在り方などを紹介した「家庭教育手帳」を作成し,全国の教育委員会等に提供しているほか,平成18年度から,子どもの生活リズムを向上させ,望ましい基本的な生活習慣を育成するため,様々な民間団体と連携して「早寝早起き朝ごはん」国民運動を推進している。

独立行政法人国立女性教育会館では,家庭教育の重要性にかんがみ,現代の家庭教育・子育て支援の現状と課題の把握,さらに子育ての新たな支え合いと連帯を推進するため,「家庭教育・次世代育成のための指導者養成セミナー」を実施した。


(8) 児童虐待への取組の推進

児童虐待への対応については,平成12年11月,児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)が施行され,その後,16年及び19年に児童虐待防止法及び児童福祉法の改正が行われ,制度的な対応について充実が図られてきた。しかし,重大な児童虐待事件が後を絶たず,全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数も増加を続け,20年度には4万2,664件となるなど,依然として社会全体で取り組むべき重要な課題となっている。児童虐待は,子どもの心身の発達及び人格の形成に重大な影響を与えるため,児童虐待の防止に向け,(1)虐待の「発生予防」,(2)虐待の「早期発見・早期対応」,(3)虐待を受けた子どもの「保護・自立支援」に至るまでの切れ目のない総合的な支援体制を整備・充実していくことが必要である。

厚生労働省では,(1)発生予防に関しては,生後4か月までのすべての乳児のいる家庭を訪問し,子育て支援に関する情報提供や養育環境等の把握を行う「乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)」や,養育支援が特に必要であると判断される家庭に対して,保健師・助産師・保育士等が居宅を訪問し,養育に関する指導,助言等を行う「養育支援訪問事業」の推進,子育て中の親子が相談・交流できる「地域子育て支援拠点」の整備,(2)早期発見・早期対応に関しては,市町村における「子どもを守る地域ネットワーク(要保護児童対策地域協議会)」の機能強化,児童相談所の体制強化のための児童福祉司の確保等,家族再統合や家族の養育機能の再生・強化に向けた取組を行う親支援の推進,(3)保護・自立支援に関しては,家庭的環境での養護を促進するため里親制度の拡充,児童養護施設等の小規模ケアの推進,児童家庭支援センターの拡充,施設内虐待の防止等施設入所児童の権利擁護の推進などの取組を進めている。

平成21年4月,児童福祉法等の一部を改正する法律(平成20年法律第85号)が一部を除き施行された。児童虐待に関係する主な内容としては,(1)「乳児家庭全戸訪問事業」,「養育支援訪問事業」,「地域子育て支援拠点事業」等子育て支援サービスの法定化,(2)子どもを守る地域ネットワーク(要保護児童対策地域協議会)の機能強化,(3)里親制度の改正,施設内虐待の防止等の規定等が盛り込まれている。

厚生労働省では,平成16年から11月を「児童虐待防止推進月間」と位置付け,児童虐待問題に対する社会的関心の喚起を図るため,関係府省庁や地方公共団体,関係団体等と連携した広報・啓発活動を実施している。21年度においては,月間標語の公募,全国フォーラムの開催(新潟県妙高市),広報用ポスター等の作成・配布及び政府広報を活用したテレビ,新聞等による広報啓発等を実施した。また,民間団体が中心となって実施している「オレンジリボン・キャンペーン」について後援を行っている。

警察では,児童虐待防止法の趣旨を踏まえ,児童虐待事案の早期発見と迅速かつ確実な通告,児童相談所長等による児童の安全確認等に万全を期するための適切な援助,適切な事件化と児童の支援等に努めるなど,関係機関と緊密な連携をとりつつ,児童の安全の確認及び安全の確保を最優先とした対応を図っている。

法務省の人権擁護機関では,子どもの人権問題に関する専用の電話相談窓口である「子どもの人権110番」を設置し,全国一斉「子どもの人権110番」強化週間を実施するほか,相談用の便せん付き返信用封筒「子どもの人権SOSミニレター」を小中学生に配布し,さらに,子ども向けのインターネット人権相談受付窓口(子どもの人権SOS-eメール)を開設して24時間365日相談の受付登録を可能とするなどして相談体制の充実を図っている。また,人権擁護委員の中から指名された,子どもの人権にかかわる問題を専門に扱う「子どもの人権専門委員」を全国に設置し,「児童虐待防止推進月間(11月)」における法務省の取組の一つとして,子どもの人権専門委員全国会議を開催し,児童虐待防止に向けた活動の強化を図っている。さらに,全国各地で講演会・研修会等の実施などの啓発活動を積極的に推進するとともに,人権相談,人権侵犯事件の調査処理を通じて,児童虐待の問題に取り組んでいる。

文部科学省では,児童虐待への適切な対応等について,学校教育及び社会教育関係者に対し引き続き周知を図り,学校教育・社会教育関係者と児童相談所等の関係機関との緊密な連携の促進に努めている。また,各学校・教育委員会における児童虐待防止に向けた取組の充実を図るため,国内・海外の先進的取組等の収集・分析などを平成17年度より実施し,18年5月に報告書を取りまとめた。18年度においては,教職員向けの研修モデル・プログラムの検討を行い,20年度には,18年5月に取りまとめた「学校等における児童虐待防止に向けた取組に関する調査研究」の調査研究の成果を踏まえ,虐待を受けた子どもへの支援等について教職員の対応スキルの向上を図るよう,研修教材を作成した。21年度においては,20年度に作成した研修教材「児童虐待防止と学校」(CD-ROM)を,21年5月に都道府県等を通じて,学校教育関係者に配付し,学校等における児童虐待の早期発見・通告,関係機関との連携,虐待を受けた子どもへの対応等について,教職員の意識啓発とスキルの向上を図った。

文部科学省と厚生労働省では,平成22年3月に,学校等と児童相談所等の相互の連携を強化するため,学校等から児童相談所等への児童の出欠状況等の定期的な情報提供の実施方法等に関して,「学校及び保育所から市町村又は児童相談所への定期的な情報提供に関する指針」を策定し,都道府県・政令指定都市の教育委員会,福祉部門等あてに通知した。


(9)子育てを支援する良質な住宅,居住環境及び道路交通環境の整備

国土交通省では,子育てに適したゆとりある住宅・居住環境を確保するため,良質なファミリー向け賃貸住宅の供給を促進するとともに,住宅金融支援機構の証券化支援事業の枠組みを利用した融資等を活用することで,良質な持家の取得を支援している。また,公的賃貸住宅については,保育所等の子育て支援施設との合築や併設を推進しているほか,事業主体により,子育て世帯等に対し当選倍率を優遇するなどの対応を行っている。さらに,職住近接で子育てしやすい都心居住,街なか居住を実現するため,住宅の供給や良好な住宅市街地などの環境整備を行っている。さらに,安全で安心な道路交通環境の整備として,歩道,自転車道等の設置,歩行者等を優先する道路構造の整備等,交通安全施設等の整備を実施している。

警察では,子ども連れでも自宅周辺や通学路を安心して歩くことができるよう,生活道路等において,信号機等の交通安全施設等を重点的に整備し,通過交通の進入抑制や速度抑制,外周となっている幹線道路における交通流円滑化等の道路交通環境の整備に努めた。

また,交通安全の観点からの子育て支援策として,幼稚園・保育所等と連携したチャイルドシートの正しい取付け方に関する講習会や幼児二人同乗用自転車の安全利用に関する自転車教室を開催するほか,地方公共団体,民間団体等が実施している各種支援制度の活用を通じて,チャイルドシートや幼児二人同乗用自転車の普及促進に積極的に取り組んでいる。

さらに,平成21年4月に道路交通法の一部を改正する法律(平成21年法律第21号)が成立し,高齢運転者や妊娠中の運転者等による駐車を支援するための高齢運転者等駐車区間制度が22年4月に施行されることから,施行に向けた準備を推進した。


(10) 子育てバリアフリー等の推進

国土交通省では,平成18年12月に施行された高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)等に基づき,多くの方が利用する建築物,公共交通機関及び道路や都市公園等の公共施設について,妊産婦や乳幼児連れの方にも利用しやすいように,段差の改善等による個別のバリアフリー化を図るとともに,これら施設等の一体的なバリアフリー化を推進している。

また,ハード整備と併せて,高齢者等の介助体験・疑似体験等を内容とする「バリアフリー教室」の開催等により「心のバリアフリー」の促進を図るとともに,「らくらくおでかけネット」等によって,施設のバリアフリー化の状況に関する情報提供を行うなどソフト面の施策についても積極的に推進している。

さらに,安全で安心して利用ができる幼児送迎サービスを提供するための個別輸送サービス(STS:スペシャル・トランスポート・サービス)の普及を推進している。

2 ひとり親家庭等に対する支援の推進

厚生労働省では,母子家庭の母等について,平成15年の改正母子及び寡婦福祉法(昭和39年法律第129号)等に基づき,保育所の優先入所,日常生活支援事業等の子育て・生活支援策,母子家庭等就業・自立支援センター事業,母子家庭自立支援給付金等の就業支援策,養育費相談センターの設置等の養育費の確保策,児童扶養手当の支給,母子寡婦福祉貸付金の貸付けによる経済的支援策といった自立支援策を総合的に展開している。

平成21年度においては,20年度に都道府県に創設した安心こども基金の拡充等により,ひとり親が職業訓練を受ける際の託児サービスの提供やひとり親家庭等の在宅就業を積極的に推進する地方自治体への助成など支援の充実を図っている。

また,平成21年6月からは,看護師等の資格取得のために養成機関に修学する間の生活費の負担を軽減する高等技能訓練促進費において,支給額の引上げ及び23年度末までに修業を開始した者に関する支給期間の延長を実施するとともに,母子寡婦福祉貸付金においても,貸付利率の引下げ及び連帯保証人がなくとも貸付けを可能とするなど,母子家庭の自立支援策の拡充を図っている。

加えて,新たに,ひとり親家庭の自立支援策の拡充を図るため,父子家庭にも児童扶養手当を支給する措置を講ずるための,児童扶養手当法(昭和36年法律第238号)の一部改正法案を第174回国会に提出した。

さらに,平成21年4月から廃止された生活保護の母子加算については,子どもの貧困解消を図るため復活し,同年12月から支給(月額2万3,260円(子一人,居宅(1級地))することとなった。