平成20年版男女共同参画白書

本編 > 第2部 > 第12章 > 第2節 地球社会の「平等・開発・平和」への貢献

第2節 地球社会の「平等・開発・平和」への貢献

1 「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」に基づく取組の推進

(1)基本的な考え方

世界の人口の約半分は女性であるとされているが,世界の貧困層のうち約7割は女性である等,様々な面で女性はいまだ脆弱な立場に置かれている。

開発における男女の平等な参加と公平な受益に向けて努力することは,一義的にはその国自身の課題であるが,先進国が開発における女性の参加と公平な受益に配慮した開発援助を実施することにより,途上国の自助努力を支援することは可能であり,同支援の実施に際しては当該国における社会的・文化的性別(ジェンダー)の現状を的確に把握することが重要である。

(2)推進のための取組

我が国は,これまで,北京宣言・行動綱領,国連ミレニアム宣言等,女性のエンパワーメントと「ジェンダー平等」の達成を目指す国際的な誓約を支持してきた。政府開発援助(ODA)政策に関しては,平成15年8月に改定されたODA大綱において基本方針の一つに公平性の確保を定め,また,17年2月に改定されたODA中期政策においても社会的性別の視点を含めた公平性の確保を明記するなど,政策・実施・評価とODA全般にわたって社会的性別の視点を重視している。それを受け,17年3月に,開発における「ジェンダー平等」推進に対して一層効果的に取り組むために,「途上国の女性支援(WID)イニシアティブ」を抜本的に見直し,新たに「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」を策定した。これにより,従来の女性を対象として教育・保健・経済社会活動への参加の3分野を中心に実施してきた支援にとどまらず,開発途上国のオーナーシップを尊重しつつ,当該国におけるジェンダー平等と女性の地位向上を目的とする取組に対しても支援を強化している。

上記GADイニシアティブをODA実施の際に着実に実行するためには,ODAに携わる職員全員がジェンダーの視点をまず理解し,ODAのあらゆる業務に取り組むことが重要である。そうした取組を更に促進するため,同イニシアティブに対する理解向上と取組意識の一層の向上を図る取組として,援助対象91国公館に配置している「ODAジェンダー担当官」を活用し,平成17年度より社会的性別の視点に配慮した好事例及び配慮が十分でなかったことによる教訓等を集め,その情報を共有するなど「ジェンダー主流化」に向けた活動を実施し,19年度には「ジェンダー主流化手引」を作成した。

ODA実施機関の取組として,JICA(独立行政法人国際協力機構)では開発援助事業において社会的性別の視点を組み込んで効果を挙げた成功例や,各開発セクター・課題と社会的性別との関係を説明する具体例を収集し,職員その他援助関係者に対する研修の実質的充実を図った。また各部署に配置しているジェンダー担当者,特に在外事務所に配置しているジェンダー担当者への働きかけを強化し,開発途上国におけるジェンダー平等や女性の地位向上に貢献する協力事業の実施を促進するとともに,社会的・文化的性別(ジェンダー)の視点,具体的には援助対象グループの中で男女それぞれが抱える問題やニーズの違いなどを把握し,その分析結果をJICA事業の計画・実施・評価サイクルに適切に反映する取組を進めている。

また,JBIC(国際協力銀行)では,平成17年度から20年度上半期を対象とした海外経済協力業務実施方針にて業務運営における男女共同参画の視点の重視を掲げ,好事例の収集や他の援助機関との積極的な連携・意見交換を通じ,インフラ案件における社会的性別の視点の強化のための事例研究・手法研究を行うとともに,個別の円借款事業における社会的性別の視点の導入・強化を図っている。

(3)様々な枠組みを活用した援助の実施

我が国は人間の安全保障を推進する国として,二国間及び多国間協力を通じ,開発途上国におけるジェンダー平等と女性の地位向上に向けた取組を支援している。具体的には,無償資金協力事業(草の根・人間の安全保障無償資金協力及び日本NGO連携無償資金協力を含む。),NGO事業補助金,有償資金協力事業,専門家等の派遣等の技術協力事業,国連人間の安全保障基金やUNDP・日本WID基金(2003年に日・UNDPパートナーシップ基金に統合)等,様々な援助枠組みを活用し,より効果的な事業の実施を図っている(第2-12-1表)。

また,我が国は,「保健と開発に関するイニシアティブ」(2005~2009年度実施中)の下,開発途上国におけるジェンダー平等に配慮した保健分野の取組を支援している。本イニシアティブの下,性と生殖の健康,男女の保健医療サービスへのアクセス格差の解消,女性の能力開発等のための支援を実施してきた。特に,インドネシアやパレスチナ等で実施している母子健康手帳の普及を目的とした支援は,当該国の女性のエンパワーメントに貢献してきている。

第2-12-1表 様々な枠組みを活用した援助の実施 別ウインドウで開きます

第2-12-1表 様々な枠組みを活用した援助の実施

2 国連の諸活動への協力

(1)会議・委員会等への協力

2007(平成19)年秋に開催された第62回国連総会において,「女性の地位向上」に関する議論が行われた。我が国から,NGO代表の黒崎伸子氏(日本政府代表代理)等が出席した。

(2)国連機関・基金等への協力

平成19年度には,国連婦人開発基金(UNIFEM)に対して,67.1万ドルの拠出を行った。

また,我が国は,平成15年より国連開発計画(UNDP)の下にジェンダー関連案件を対象分野の一つとする「UNDP・日本パートナーシップ基金」を設置し,平成19年度は220万ドルの拠出を行った(我が国は,開発途上国の女性のエンパワーメントの支援を目的として1995年にUNDP・日本WID基金をUNDPに設置。2003年10月にUNDPと効果的かつ効率的なパートナーシップを構築することを目的として,本基金と同様にUNDP内に設置されていた人づくり基金及びICT基金と併せて,新たに設置された日・UNDPパートナーシップ基金に整理統合された。これまで,62か国,80件のプロジェクトに対し総額1,904万ドルの支援を行っている(2008年4月時点)。)。さらに,我が国は,国連教育科学文化機関(UNESCO)に信託基金を設置し,アジア,アフリカを中心に世界各地において教師教育や識字教育など途上国における人材育成事業に協力しているほか,財団法人ユネスコ・アジア文化センター及び社団法人日本ユネスコ協会連盟においても,成人非識字者の約3分の2を占めるアジア太平洋地域の女性に対する教育の普及に積極的に協力している。

3 女性の平和への貢献

我が国は,平和を推進する国際機関の役割の重要性を認識し,また,紛争時において最も支援を必要とする人々は女性や子どもであることを考慮し,これら女性や子どもを含む人間一人一人の保護・能力を強化することにより人づくり・社会づくりを通じて国づくりを進める「人間の安全保障」の考え方を推進している。この観点より,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR),国連児童基金(UNICEF)等の人道支援国際機関に対し積極的な協力を行っているほか,我が国が国連に設置した人間の安全保障基金を通じて国連女性開発基金(UNIFEM)がアフガニスタンにおいて実施する国内避難民及び難民女性の社会参加を推進するプロジェクト等を支援している。

4 国際分野における政策・方針決定過程への女性の参画の促進

我が国では,近年,国際会議への政府代表団への女性メンバーの参加が漸次増加しており,2007(平成19)年秋の第62回国連総会においても,民間女性を政府代表団の一員として派遣した。我が国が締結している女子差別撤廃条約に基づき設置された女性差別撤廃委員会では,我が国出身者が委員を務めている。

また,日本人女性の国際機関への参画も進んでおり,国連を含む国際機関における日本人の女性職員数(専門職以上)は,1975(昭和50)年の19人から2007(平成19)年には428人と大幅に増加している。

5 あらゆるレベルにおける国際交流・協力の推進

(1)あらゆるレベルにおける国際交流・協力の推進

外務省では,平成7年度より日本・ヨルダン・エジプト・パレスチナ自治区女性交流プログラムを実施しており,19年度より「日本・アラブ女性交流」と改称された。19年度は,「女性と社会教育」をテーマとして,ヨルダン,エジプト,パレスチナ自治区より地域活動を通じた社会教育分野で活躍する女性を我が国に招へいするとともに,我が国からも社会教育活動に取り組んできた女性からなる代表団がパレスチナ自治区,ヨルダン,エジプトを訪問し,関係者と意見交換を行った。

また,国連婦人の地位委員会(2007(平成19)年2~3月)などの国際会議において社会的性別(ジェンダー)と開発にかかわる討議に積極的に参加し,国際社会の知見を共有するとともに,我が国がODAにおいて社会的性別の視点を重視して取り組む姿勢をアピールした。

内閣府では,国際的協調をより深めるべく,東京で「日本・ニュージーランド男女共同参画ジョイントシンポジウム:男女共同参画の推進をめざして―ニュージーランドと日本の対話―」(2007(平成19)年9月),東京及び大阪で「日本・スウェーデン男女共同参画ジョイントシンポジウム:ワーク・ライフ・バランスの推進にむけて―スウェーデンと日本の対話―」(2007(平成19)年10月)を開催した。

また,2007(平成19)年12月6~7日,インド・ニューデリーにおいて開催された「第2回東アジア男女共同参画担当大臣会合」に出席した。会合においては,政策・方針決定過程への女性の参画や女性に対する暴力等について議論が行われ,日本における課題や取組等について説明を行った。議論の結果も踏まえ,東アジアの共同参画に関する課題についての認識と各国がとるべき行動等を内容とする「ニューデリー閣僚共同コミュニケ」が採択された。また,男女共同参画に向けて特に早くから取組が行われている欧州諸国での男女共同参画の動きや変化について情報を得るとともに,政策担当者との意見・情報交換ネットワークづくり等を目的として,欧州評議会第37回男女平等運営委員会(2007(平成19)年11月)に,オブザーバーとして参加した。

(2)女性の教育分野における国際交流・協力の支援

独立行政法人国立女性教育会館では,アジア太平洋地域における男女共同参画を推進する女性教育の人材育成を目指してアジア太平洋地域の女性リーダーエンパワーメントセミナーを実施するなど,途上国における女性教育の推進の支援等を実施している。また,海外の関係機関との連携協力関係のために,協定を結んでいる韓国両性平等教育振興院,韓国女性政策研究院との交流を深めており,平成19年5月から両院より研究員を受け入れている。同年11月,開館30周年記念事業としての国際シンポジウムでは,韓国女性政策研究院院長及び中華全国婦女連合会常務委員がパネリストとして参加した。

(3)経済分野における国際協力

APEC(アジア太平洋経済協力)においては,2002(平成14)年に行われた第2回APEC女性問題担当大臣会合での合意に基づき設置されたAPEC女性問題担当組織ネットワーク(GFPN)の第5回会合が2007(平成19)年6月にオーストラリア(ケアンズ)で開催された。この会合では,ジェンダー分析の活用促進のためのワークショップが実施された。