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第5章 生涯を通じた女性の健康
本章のポイント
- 乳児死亡率等の母子保健関係指標については低下傾向にある。
- 平成18年の新規HIV感染者数は過去最高。感染が報告された年齢をみると30歳代の割合が高い。
- 肥満者の割合は,男性は30~60歳代では約3割,女性も60歳以上で割合が高い。女性は若年層を中心に必要以上の減量を行う人も多い。
- 健康増進法の施行により受動喫煙機会の減少が期待される。
- 女性の医療施設従事医師,同歯科医師,薬局・医療施設従事薬剤師の割合は年々増加しているが,医師・歯科医師は薬剤師に比べかなり割合が低い。
(低下傾向にある母子保健関係指標)
女性は,妊娠や出産をする可能性があることもあり,生涯を通じて男性とは異なる健康上の問題に直面する。
母子保健関係の主要な指標の昭和50年から平成18年までの動向をみると,いずれの指標も総じて低下している(第1-5-1図)
(危険が伴う高齢出産)
母の年齢別周産期死亡率をみると,19歳以下の場合に平均より高いほか,年齢に比例して増加しており,高齢出産にはある程度の危険が伴うことが分かる(第1-5-2図)。
(総数では減少傾向にある人工妊娠中絶件数)
人工妊娠中絶件数・人工妊娠中絶実施率(15歳以上50歳未満女子人口千対)の昭和50年から平成18年までの動向をみると,総数では件数,実施率ともに総じて減少傾向にある。また,20歳未満の件数は昭和50年においては,全年齢に占める割合が1.8%だったのが,平成18年では9.9%となっており,若年層の全体に占める比重は以前より増加しているものの,件数としては14年から4割減を達成しており,着実に減少している(第1-5-3図)。
(若年での感染が多いHIV感染者)
HIV感染者とは,HIV(ヒト免疫不全ウィルス)に感染している者を指す。一方,AIDS患者とは,HIV感染によって免疫不全が生じ,カリニ肺炎等の日和見感染症や悪性腫瘍が発生した者を指す。
凝固因子製剤による感染例を除いて,平成18年末までに我が国において報告されたHIV感染者及びAIDS患者の累計数は,HIV感染者数8,344人,AIDS患者数4,050人となっている。
平成18年に新規で感染が報告されたHIV感染者は952人,AIDS患者は406人で,過去最高の報告数となった(第1-5-4図)。HIV感染者の推定感染地域をみると,全体の87.0%(828件)が国内感染となっている。
HIV感染者累計数について,感染が報告された時点の年齢をみると,20歳代が全体の37.1%を占めており,若年での感染が多い一方,平成18年に新規で感染が報告された感染者数を年代別にみると,20歳代が全体の27.7%を占めているのに対し,30歳代が41.0%を占めていることから,最近の傾向としては,必ずしも若年での感染が多いとはいえなくなってきている。
(女性の疾病)
女性に特有もしくは非常に多い疾病として子宮がん,乳がんなどがあり,これらの疾病の総患者数を厚生労働省「患者調査」(平成17年)でみると,子宮がんは5.6万人,乳がんは15.6万人となっている。
地域保健・老人保健事業報告(平成18年度)によると,保健所が実施するがん検診の受診率は,子宮がん18.6%,乳がん12.9%で,肺がん22.4%や大腸がん18.6%の受診率と同等になりつつある5。しかし,比較的低い状態にあり,がんは早期発見が重要であることから,より一層,がん検診等の健康診断等の受診の必要性について広く周知していく必要がある。
5 平成18年度「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」の改正に伴い,17年度から「子宮がん」及び「乳がん」の受診率の算出方法を変更している。
受診率=(前年度の受診者数+当該年度の受診者数-2年連続の受診者数)/(当該年度の対象者数)×100
(健康増進に必要な適切な自己管理)
健康増進や生活習慣病予防のためには,自ら健康管理を行うことが重要である。厚生労働省「平成17年国民健康・栄養調査報告」をみると,肥満者の割合は,男性はいずれの年齢層でも20年前に比べ増加しており,30~60歳代では約3割となっている。女性も60歳まで年齢とともに肥満の割合が高くなる傾向にあり,60歳代では3割に近い状態となっている。一方,低体重(やせ)の割合は,20,30歳代女性で約2割となっている。「平成14年国民栄養調査」では,現実の体型が「普通」もしくは「低体重(やせ)」であるにもかかわらず体重を減らそうとしている者の割合が若年層を中心に多いという結果もみられた。
健康に生活するための自己管理について,より一層適切な情報提供が求められる。
(20歳代女性で高い喫煙率)
平成4年から17年の喫煙率の推移を男女別にみると,男性は50.1%から39.3%に低下しているが,女性は9.0%から11.3%とほぼ横ばいで推移している。これを年代別でみると,ここ数年20歳代男性の喫煙率が低下傾向にある一方で,20歳代女性は4年の9.7%と比べ,17年では18.9%とほぼ倍増している(第1-5-5図)。
喫煙は,肺がんや循環器疾患等のリスクの上昇などにより喫煙者自身の健康に悪影響を及ぼすだけでなく,受動喫煙によって非喫煙者にも影響を及ぼすことが指摘されている。平成15年5月には健康増進法が施行され,病院や劇場,百貨店,事務所,官公庁施設,飲食店その他多数の者が利用する施設には,受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずる努力義務が課された。これにより,公共の場での受動喫煙の機会が減少することが期待されるが,家庭などでの受動喫煙によって,非喫煙妊婦の低出生体重児出産の発生率が上昇するという研究報告もあり,更に喫煙の健康への悪影響について広く周知していく必要がある。
(上昇を続ける女性医師の割合)
女性の高学歴化に伴い,医師等の専門職に進出する女性も増加している。
医療施設等で働いている医師,歯科医師,薬剤師における女性の割合はいずれも増加傾向にあるが,薬剤師に比べ医師,歯科医師における女性の割合はかなり低いものとなっている(第1-5-6図)。
女性医師の増加や女性専門外来の充実等により,女性が気兼ねなく医療が受けられる環境が整えられつつある。新健康フロンティア戦略賢人会議女性を応援する分科会においても,性差医療や暴力を受けた女性の健康支援等が検討されている。
また,医師等が仕事と出産・育児等を両立しやすい環境づくりも求められる。