本編 > 第1部 > 序説 > 第1節 暮らしと働き方の変化
序説 科学技術の進展と男女共同参画
第1節 暮らしと働き方の変化
1 家電製品及びその他の技術成果の普及と家事負担の軽減
主に家事を行ってきた女性の家事時間は昭和35年以後減少傾向にある(第1図)。その要因としては,この時期,電気冷蔵庫,電気洗濯機,電気掃除機などの普及率が非常に高くなり(第2図),それまで専ら人手によって賄われてきた家事を機械が代行するようになったことがあると考えられる。昭和45年以後の減少傾向についても新たに普及した電子レンジや冷凍冷蔵庫なども含めた家電製品の普及の他,外食産業の発達や,インスタント食品,冷凍食品の普及などの影響が考えられる。
これらの製品やサービスの開発には,科学技術の発展が大きく寄与しており,これらの技術の発展が,女性の家事時間を減少させ,女性の社会進出に貢献したと考えられる。
一方,男性の平日の家事時間には余り大きな増加の傾向は見られない。これまでの科学技術の発展は,固定的性別役割分担を維持した社会構造の中で,家事・育児を行う女性の負担を軽減することには貢献したといえる。
2 交通・建築技術の発達と住まい等の変化
交通・建築技術の発展も家庭生活に大きな影響を与えた。昭和30年代に開発された団地の多くは大都市郊外に立地され,多くの核家族世帯を生み,職住分離の生活は,父親は職場,母親は家庭という性別役割分担を,より定着させるものとなった。
昭和60年代以降,建築物の高層化技術の利用が更に進み,バブル崩壊後は,超高層化がマンションの供給戸数を増加させ,住まいの都心回帰の流れが進んでいる。マンションを購入して都心に移動する層もファミリー世帯や夫婦,リタイヤ後の高齢者に広がっている(第3図)。結果として職住近接の実現をもたらし新たなライフスタイルを創出している。
第3図 東京都8区の分譲マンション購入者における世帯主の年齢別・転居前居住地別世帯数の状況
また,「あらゆる年齢,身体,能力の人が,ごく普通に利用できるように,都市や住宅,設備,家具等の対応範囲を可能な限り拡張する」というユニバーサルデザインの考え方に従った住宅商品の技術開発が見られる。中でも,特に,高齢化が急速に進展する中で,危険防止や使い易さを備え,高齢者等の自立や介護に配慮したバリアフリー住宅のニーズはかなり高まると予想される。
3 職場の機械化・情報化と女性の職域拡大
オフィスでの事務作業については,定型的な作業については情報通信機器の導入などにより自動的に処理できる範囲が増加し,省力化が進んだ。これらは女性の様々な分野への進出に影響を与え,女性の職域拡大や労働力率の上昇にも貢献している。
近年では,情報通信技術(ICT)化でパソコン,携帯電話,インターネット,ユビキタス技術などが急速に普及し,ライフスタイルに大きな影響を与えている。テレワーク,SOHO(スモール・オフィス,ホーム・オフィス)が普及しつつあり,携帯電話端末などの画面を通じて育児や介護状況を職場,外出先等から確認できるなど,情報通信機器は仕事と生活の両立支援のツールとしても活用され始めている。その一方で,ストレス,VDT(視覚表示装置)作業時における眼を中心とした悪影響など,健康面での問題も生じている。また,情報通信機器に対応できない個人や企業の情報力格差(デジタル・デバイド)をもたらす可能性がある。
4 知的財産の活用,知識集約型産業
近年の科学技術の発展は,情報通信産業やハイテク産業など知識集約的な産業の創出・拡大に重要な役割を果たしている。加えて企業経営の基盤として,工場といった有形資産のみならず,特許等知的財産権,人材,組織プロセス,顧客とのつながりなど多様な知的資産の活用が課題となることや,情報通信技術の活用には人的資本が重要な要素であり,高度な知識を持つ労働者が必要となることも指摘されている。
しかし,知識集約型産業を支えるべき研究者には女性の進出が後れており,理工系科目への関心にも男女差が見られる。
知識集約型産業は製造業に比べ重筋労働を必要とせず,知的資産の獲得活用には男女間での体力的な制約差が更に少ないと考えられる。能力のある女性人材が企業経営の基盤である知的資産の一つとして位置づけられ,ひいては日本経済活性化の重要な担い手となると期待できる。
5 農業技術
(1)農業技術の進展と女性の労働
耕耘機,コンバイン,田植機の普及などの機械化の進展,農薬の開発等農業技術の進展により,農作業の省力化が実現し,稲作における10アール当たりの労働時間は,昭和30年の約225時間から,55年には65時間に減少し,今日では40時間を切るに至っている(第4図)。
農業の機械化等の進展は,全体として見ると労働負担を大幅に軽減したが,現在に至るまで,機械操作は主に男性が担っていることがうかがわれ,農業の省力化は主に男性側の負担を軽減したといえる。機械の導入後も,機械で田植えができない部分の補植など女性は機械化が困難な労働集約的な作業を担うことが多かったため,女性の労働は男性ほど軽減されなかったが,農業技術の進展により女性の労働環境にも一定の変化が見られた。
(2)女性農業者の過重労働
現在,農業就業人口の約6割を女性が占めるが,女性農業者は,その配偶者に比べて,労働時間が長く過重労働が指摘されている。有業者全体では女性の労働時間は男性とほぼ等しいのに対して,農林漁業作業者では,女性は男性より1時間26分長くなっている(第5図)。
6 医療・公衆衛生
(1)感染症対策
我が国の死亡率については,明治政府による近代化以降,長期にわたる低下が始まる。死亡率の低下は,主に感染症による死亡の減少によるものであり,医療の発達,栄養水準の改善,衛生観念の普及等が作用した結果であるという指摘もある。
これらの死亡の減少は,出産抑制の動機の一つとなった。
(2)生殖補助医療
近年における生殖補助医療技術の進歩は著しく,不妊症の人々が子を持てる可能性が増加しており,人工授精,体外受精・胚移植等の生殖補助医療は着実に広まっている。
平成14年までに体外受精等を用いた治療による出生児数は,10万人を超えるとされる。一方,生殖補助医療の実施は,健康上・倫理上の問題を生む結果も招いている。
第6図 乳児死亡率(出生1,000対)及び合計特殊出生率の推移
(3)性差医療
米国において1980年代以降研究が進んでいるいわゆる性差医療は,様々な疾患の原因,治療法等が男女で異なることがわかってきたことから始まったものである。
我が国においては,性差医療を実践する場であるとして女性専門外来等が設置されている。