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EUパートタイム労働指令と各国の制度
欧州連合(EU)の共同体立法の一つの形態として,「EU指令(Directives)」がある。指令が採択された場合,EU加盟国には,その目標を達成する義務が生じ,国内法や国内規定を制定又は改正しなければならない。EU労働法の分野においても,指令は欧州加盟国の国内労働法に大きな影響を与えている。
EUでは,1980年代から,パートタイム労働等非典型労働の問題が政策的に議論されていた。パートタイム労働については,当初,基本的にフルタイム労働者と同様の権利と義務を付与するべきという非差別原則を目標に議論されてきたが,その後20年の間に,家庭責任を有する労働者の職業生活と家庭生活の両立を可能にする働き方が重要であるとう観点から,もう一つの論点である労働時間の柔軟性がむしろ強調されるようになった。このような議論の中,EUでの議論も,労働形態の柔軟化を推進するためにも,新しいタイプの柔軟な労働に従事する労働者の均等待遇が必要だという方向に変化していった。
1995年,EUはパートタイム労働の立法手続に入り,1997年12月,「UNICE,CRRP及びETUCによって締結されたパートタイム労働に関する枠組み協約に関する指令」が決定され,成立した。同指令の概要は以下のとおりである。
(1)適用対象と定義
ア. 「パートタイム労働者」とは,週労働時間又は年間労働時間が,比較可能なフルタイム労働者よりも短いものである。
イ. 「比較可能なフルタイム労働者」とは同一事業所内の労働者であって,同一類似の雇用契約又は雇用関係を有する者,同一又は類似の職務に従事する者である。年功や資格,技能等を考慮する。
(2)非差別原則
ア. 雇用条件に関しては,パートタイム労働者は,パートタイムで労働するというだけの理由で,比較可能なフルタイム労働者よりも不利益な取扱いを受けない。
イ.「時間比例の原則」の適用による均等待遇の実現
(3)フルタイム労働とパートタイム労働の相互転換
ア. 雇用対策及び職業生活と家庭生活の両立双方の観点から,パートタイム労働を促進する。
イ. 使用者は,労働者が,フルタイム労働からパートタイム労働,パートタイム労働からフルタイム労働への転換を希望した場合はできるだけそれをかなえるよう努力する。
ウ. 使用者側から労働者に対して転換を要求し,労働者がそれを拒否しても解雇することはできない。
EU労働指令の国内法制化の施行期日は指令の採択の日から2年後,労働協約による実施の場合は更に1年の猶予がある。
フルタイム労働とパートタイム労働の相互転換については,EU指令では努力義務規定とされているが,ドイツでは,国内法でフルタイム労働からパートタイム労働への転換を労働者の権利として規定され,パートタイム労働からフルタイム労働への転換についても使用者は被用者の希望を優先的に考慮しなければならないことが規定されている。
イギリスでも,「パートタイム労働者の不利益取扱いの防止に関する規則」が制定され,上記(2)ア,イについて,不利益取扱いを受けた者が,その理由についての回答を使用者から受ける権利及び雇用審判所に提訴する権利が担保された。
スウェーデンにおいては,パートタイム労働者とフルタイム労働者には,労働時間の長短という相違しかなく,いずれも正規雇用者であり,社会保障制度に関する権利もフルタイム労働者と同じである。賃金についても,仕事の内容が同じであれば,基本的に時間当たり賃金は同水準である。正社員の身分のまま,パートタイム労働とフルタイム労働の相互転換も可能である。