男女共同参画社会基本法逐条解説

基本理念(第3条から第7条まで)

第1条(目的)において、「男女共同参画社会の形成に関し、基本理念を定め」と規定されているのを受けて、第3条か ら第7条までにおいて、男女共同参画社会の形成について5つの基本理念が規定されている。

これらの基本理念は、国、地方公共団体、国民が第8条から第10条までに定められている責務を果たす上で、基本となる 考えである。

なお、これら基本理念においても、前述したとおり、「男女」と規定されており、男女とも対象としているものである。

1 趣旨

男女共同参画社会は、日本国憲法にうたわれている個人の尊重、男女平等の理念の実現を前提に、性別による差別 的取扱いや性に起因する暴力が根絶され、男女が、社会のあらゆる分野で自立し、自分の存在に誇りを持つことができ ると同時に、一人の人間として敬意が払われる社会である。基本法では第1条(目的)は、男女の人権が尊重される社会 を実現することが緊急かつ重要であることを考慮して、男女共同参画社会の形成を総合的かつ計画的に推進することを 目的としている。このように、「男女の人権の尊重」は、男女共同参画社会を形成する上でその根底を成す基本理念であ ることから、5つある基本理念の最初のものとして第3条において掲げられているところである。


2 用語解説

(1)「男女の人権」

本条において、単に「人権」とせず、「男女の人権」と規定したのは、人権について、性別に起因する問題という観点に 着目し、その観点から人権を尊重することを強調したものである。

(2)「男女の個人としての尊厳が重んぜられること」

例えば、性別に起因する暴力(注)がないこと、男女の個人の人格が尊重されることなどがその意味として考えられ る。

また、個人としての尊厳にはいわゆるリプロダクティブ・ヘルス/ライツの問題も含まれている。

(注)性別に起因する暴力には、夫・妻/パートナーからの暴力、性犯罪、売買春、セクシュアル・ハラスメント、ストーカー 行為等が含まれる。

(3)「男女が性別による差別的取扱いを受けないこと」

男女平等の理念は憲法第14条にも規定されているところであり、男女差別をなくしていくことは重要な理念である。ここ でいう「差別的取扱い」という用語については、平成10年11月4日に男女共同参画審議会が提出した「男女共同参画社 会基本法について」で示されている考え方を踏まえ、直接差別、間接差別という切り口では整理されていない。これは、い わゆる間接差別の概念自体について、何をもって間接差別というのか社会的コンセンサスが得られておらず、問題として いる範囲も人によって異なっており、間接差別、直接差別という概念で整理することは適当ではないとの考えによるもの である。

また、現実の判例において、明確な差別的意図がはっきりしない場合に種々の状況から女子従業員への差別を容認し たとの推認が行われた例もある(三陽物産事件 東京地判平6.6.16)。

このため、本条においては、行為者に着目した「差別をしないこと」という文言ではなく、「差別的取扱いを受けない」と、 行為の受け手に着目した規定としている。すなわち、差別の意図の有無に係わらず、性別による差別的取扱いを受けな いことを基本理念として規定されている。

(4)「男女が個人として能力を発揮する機会が確保されること」

男女共同参画社会は、男女が自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保される社 会である。男女があらゆる分野における活動に参画するに当たっては、社会的・文化的に形成された性別による固定的 な役割分担意識にとらわれることなく、男女が個人としての能力を発揮する機会が確保されることを規定している。

(5)「その他の男女の人権」

「男女の人権」は意味内容の広い用語であり、「男女の個人としての尊厳が重んぜられること」、「男女が性別による差 別的取扱いを受けないこと」及び「男女が個人として能力を発揮する機会が確保されること」を例示した上で、さらに「その 他の男女の人権」を規定している。

「その他の男女の人権」は、具体的には、生命、自由、幸福追求に対する権利や奴隷的拘束がなく政治信条の自由が 確保されることなどが考えられる。


<参考1>基本理念の位置付け

第3条から第7条までにおいて5つの基本理念を定められている。これらの規定は第8条(国の責務)、第9条(地方公共団 体の責務)、第10条(国民の責務)及び第16条(国民の理解を深めるための措置)において国、地方公共団体、国民の責 務に反映されており、国、地方公共団体、国民が共通の基本理念に従って男女共同参画社会の形成に一体となって取り 組んでいく体制が整えられることとなる。

<参考2>機会の確保

機会の確保だけで、第2条に規定されているように男女が均等に利益を享受できるのかとの懸念が指摘されるが、第 2条で男女が共に機会を確保され、男女がそれぞれに能力を発揮すれば、本条の「男女が性別による差別的取扱いを受 けないこと」との規定により、男女という性別の違いにかかわらずその能力(成果)が適切に評価されることになる。これ により、男女は性別によらず能力(成果)に応じて均等に利益を享受できることになる。なお、この趣旨での国会答弁(平成11年5 月13日)もある。

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