巻頭言
女性のチャレンジにみる社会イノベーション
内閣府が実施する「女性のチャレンジ賞」の対象者には、20年以上、中には半世紀近くにわたって介護・医療、環境、防災など社会問題に取り組む人々が散見されます。その方法は、例えば、自然科学の研究活動や市民活動、あるいは継承した事業に現代的意味を付加する、またはソーシャルビジネスを起業するなど多岐にわたります。社会問題へのチャレンジとともに、この賞の背景には、それに向き合うワーク&ライフスタイルへのチャレンジがあることに気付かされました。
近年,社会課題は複雑化しています。いくつか例を上げてみます。こどもや若者に限らず生きづらさを抱えた人々は多世代に広がり顕在化しています。認知症を患う高齢者を包摂する地域社会のデザインは未だ途上にあるといえます。各地で空き家が広がり、地域のアイデンティティが危惧される実態があります。人口減少は地域の豊かさの再定義を促しました。人と自然との共生やエネルギー問題は特定の地域だけの問題ではありません。また、マイクロプラスチックにみる環境問題への影響は次世代に続きます。もはや社会課題は他人事ではなく身近なものという認識は定着しているのではないでしょうか。しかし、どうすればいいのか、人々の意識が次のアクションにつながるとは限りません。よって解決の担い手が広がることが望まれてきました。
目の前にある社会問題をどのように捉えるかは、基本的な物の見方や考え方、感性、そして何を目指すのかといった価値観が影響すると考えられます。社会の諸問題を根底から考え、自らが思う善きことへ一歩ずつ歩み、社会をより良いものにしようとしているチャレンジは、自己の行動変容にとどまらず、他者やさらには他地域に変化が波及していく可能性があります。これは、社会イノベーションと呼ぶことのできるプロセスです。
他方、「女性のチャレンジ賞」では、全国的に若手の候補者が目に留まるようになりました。これは、女性のロールモデルが一律ではなくなってきたといえるのかもしれません。チャレンジする土壌、つまりエコシステムが醸成されてきたと感じました。社会イノベーションは、社会の課題、そしてその解決のための政策を考え、その過程を中長期にわたって実践研究する中で新たなシステムが導出され普及することです。「女性のチャレンジ賞」とは一人一人の行動が社会の変容につながること、そして未来デザインの道標であると思料しました。

服部 篤子
HATTORI Atsuko
大和大学教授