巻頭言
適切な男性育休推進で日本社会の変革へ
私が父親支援事業を行うNPOファザーリング・ジャパンで男性育休推進事業「さんきゅーパパプロジェクト」を立ち上げた2010年3月9日時点では、日本の男性育休取得率は1.23%でした。それが2025年7月末の公表値では40.5%に達しています。この急上昇は2022年改正育児・介護休業法で個別の制度周知と意向確認が企業に義務化されたことによるものですが、やっと潮目が変わったものの課題は多いと認識しています。
男性育休取得率は人的資本開示項目となり、男女共同参画基本計画のKPIの1つでもあります。男性育休の進展を測る指標として、①取得率上昇、②取得日数伸長、③当事者の希望に沿った取得期間、④取得日数の中央値が増加方向にバラつき取得期間が多様化すること、⑤現場への負担を軽減しつつ多様な取得事例を増やすこと、⑥有給休暇など育休以外の取得率・取得期間も向上させ、管理職の休暇取得率を上昇すること、⑦組織の成果を下げることなく総労働時間を減少すること、が挙げられます。①~④は当事者の満足度向上に、⑤~⑦は組織の学習能力向上に寄与すると考えられますが、私の肌感覚では①②に留まっている企業が多いです。このままでは、「社会全体の仕組みや意識を変える(少子化対策加速化プラン)」、「職場での業務見直し、効率的な業務配分を行う(令和5年版男女共同参画白書特集記事)」という国の目的も達成できず、職場に与える変革の効果や社会的意義も小さいままになってしまいます。
父親のニーズは変化してきており、育児・子育てを積極的に行う男性を指す「イクメン」は、時代に合わなくなってきているため、厚労省「共育(トモイク)プロジェクト」の創設は的を射たのものといえます。トモイクの第一歩は、育休の「ヘルプ」から「シェア」への転換です。母親の育休1年間はそのままで父親が1ヵ月程度取るのは、「ヘルプ」です。理想は、父親の取得期間が延び、母親の取得期間が短くなり、夫婦で取得期間をシェアすることです。なぜなら、ジェンダー平等上位3か国のアイスランド、フィンランド、ノルウェーは育休を夫婦でシェアするクオータ制を採用しており、女性が単独で1年間も取得することができない仕組みがポイントだからです。日本ではそれぞれ1年間取得できるので制度は充実していますが、個別取得を認めると女性のみが取得してしまう傾向は、上記3か国でも同じでした。育児家事を極端に女性に偏らせないためには、男性がワンオペで育児家事を訓練する期間が不可欠です。
男女賃金格差、女性役員・管理職比率の低さ、統計的差別※、児童虐待、ひとり親の貧困、過労の健康阻害など、日本の社会課題がボーリングのピンのように並ぶ中で、男性育休は一番ピンだと思います。ここを適切に倒すことで日本社会がポジティブに向かうと信じています。
※統計的差別とは、企業が採用段階において労働者ひとり一人の能力や努力、あるいは長期勤続志向の有無などを学歴や性といった労働者の属性ごとの平均値に基づいて推測することによって処遇することをいう。(厚生労働省「男女間の賃金格差問題に関する研究会報告」より)
塚越 学
Tsukagoshi Manabu
株式会社 日本ギャップ解決研究所 代表取締役 所長