特集1
スペシャルインタビュー
男女共同参画推進連携会議座談会
日本の男女共同参画推進:現状と今後の打ち手
内閣府男女共同参画局総務課
男女共同参画社会づくりに関し、広く各界各層との情報・意見交換や必要な連携を図り、国民的な取組を推進している男女共同参画推進連携会議の有識者議員がアキレス議長の進行により、多様な視点から日本における今後の男女共同参画推進を展望する意見交換を行いました。
登壇者:(写真左から)
・只松美智子氏
(株式会社Think Impacts代表取締役)
・勝木敦志氏
(アサヒグループホールディングス株式会社 取締役 兼 代表執行役社長 Group CEO)
・アキレス美知子氏
(議長/三井住友信託銀行株式会社取締役監査等委員)
・山田久氏(法政大学教授)
アキレス議長:皆さま、本日はご多忙の中お集まりいただきありがとうございます。ご承知のとおり、日本で女性活躍推進法が施行されて約10年が経過しました。制度面では進展が見られますが、2025年6月に発表された世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数では、日本は148カ国中118位と、残念ながら前年と同じ順位にとどまっています。また、米国ではDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)への逆風が報じられており、日本企業も今後、海外拠点や取引でその影響を受ける可能性があります。本日は、こうした現状を踏まえつつ、皆さまのお立場から今気になっていること、問題意識、そして今後の打ち手について自由に語っていただきたいと思います。まず、只松さんからお願いします。
只松氏:ありがとうございます。私は最近、改めて「ビジネスと人権」対する企業の対応に注目しています。2022年に経済産業省がガイドライン(「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」)を発表しましたが、昨今の企業における不祥事などを踏まえると、その重要性がまだ十分認識されているとは言いがたいと感じています。ビジネスと人権というと、サプライチェーンの労働環境などに注目が集まりがちですが、本来は自社の従業員や直接的な取引先も含めて考えるべきです。「これまでは問題にならなかった」という過去の慣習にとらわれず、企業としての人権に対する明確な姿勢を打ち出し、トップダウンで対応していくことが求められると思います。
勝木氏:人権は重要なキーワードですね。私は今年6月に「Tokyo Pride 2025 Pride Parade」に参加しました。LGBTQ+をはじめとするセクシュアル・マイノリティの社会認知を広めるために世界各地で開催されているイベントですが、今年は60団体、約1万5000人が行進し、沿道やイベントにも2万人以上が集まる盛況ぶりでした。ニューヨークでは一部企業スポンサーが撤退するなどの動きもあるようですが、“横並び意識”が強い日本ではこれをポジティブに活かせば、企業の取組が一気に加速する可能性もあると感じました。希望が持てる体験でしたね。
山田氏:私は大学教員になって2年になりますが、今年から学部生も担当するようになり、20歳前後の学生と話す機会が増えました。その中で、若い人の男女観が我々の世代とは大きく異なることを強く感じています。数年前、内閣府の調査で「若年層ほど“無意識のバイアス”が強い」と指摘されていましたが、実際には社会に出ることで影響され、変化していく部分があるのだと思います。そして近年私が最も関心を持っているのは、「男性の働き方や生き方の改革」です。労働市場では深刻な人手不足が続いていますが、男性の労働時間を長くして解決しようとすると、家庭内の性別役割分担が加速して逆に問題が深まってしまう。むしろ男性の労働時間を短くし、すべての人が制約のある中でも働ける環境を整えていくことが、真の解決につながるのではと考えています。
アキレス議長:ありがとうございます。お三方からビジネスと人権、企業からみた機会、若年層の意識、男性の働き方など、重要な視点をいただきました。次に、連携会議の取組についてお聞きします。賃金格差チームの活動状況はいかがでしょうか。
只松氏:はい。私たちは大企業、中小企業、業界団体、大学関係者などへのヒアリングを重ね、格差の要因分析を進めてきました。大企業においては、いわゆる“垂直分離”——つまり職位によるジェンダーの偏りが主な要因で、勤続年数や職位などの条件が同じであれば、男女間の賃金差はほとんど解消することが分かりました。したがって、大企業の場合は、管理職や役員層に女性を登用していくことが重要です。そのための有効な施策の一つとして、ライフイベントを考慮しつつ、時間をかけてでも上がれる「多様なキャリアパス」の設計が挙げられます。一方、中小企業は規模や文化が多様であるため、画一的な施策は難しいのですが、業界団体が就業規則のひな形提供や研修を行うなどの中小企業への支援はとても有効な取組だと感じました。
アキレス議長:ありがとうございます。勝木さんの会社は、男女間賃金格差の是正や女性の登用を含め、様々な取組を進めていらっしゃいますよね。
勝木氏:はい。当社では取締役13人中6人が女性、CEOの諮問答申機関Executive Committeeメンバー11人中3人が女性、そのうち2人は外国籍です。制度整備や環境構築は進んできたと思いますが、さらに進めるには「なぜ?」を繰り返す対話が不可欠だと痛感しています。管理職登用の場面で「大変そうだから」と女性が辞退すると、「では次の人を」となりがちですが、「なぜ大変と感じるのか?」を掘り下げることで、解決策が見えてきます。人事評価も従来の実績偏重から、ポテンシャルを重視した評価制度に移行しつつあります。
アキレス議長:真因を見つけ出し、解決策を講じるとともに、人事評価制度の変革を行なうと、結果に繋がりやすくなりますね。
山田氏:中小企業の話で言えば、人手不足が深刻な中で、女性の活躍が企業存続に直結するという事情から、積極的に女性登用を進めてきた中小企業も少なくありません。最終的にはトップの意識次第。そこに合理性があると信じて取り組むことで、変化は起きると感じます。
アキレス議長:トップの意識は大中小問わず、どの企業でも重要ですね。ご指摘の通り、人口減少が進む日本では女性登用は必然です。若年層の調査結果についてもご紹介いただけますか。
山田氏:はい。18歳から24歳を対象に家事・育児や世帯収入の分担についてアンケートを取りました。「家事・育児」「世帯収入」ともに5対5が最も多く、男女平等の意識がかなり高いことが分かりました。ただし、会社に入った後の世代では、女性のほうが「収入は男性が多め」「家事は女性が多め」と答える傾向が強まり、現実適応が影響していると思われます。また、影響を受ける情報源として、男性はアニメや漫画、都市部の女性はSNS、有名人、地方では学校の先生の影響が相対的に強いという傾向も見えました。これは今後の打ち手を考える上で興味深いデータです。
アキレス議長:意識に影響を与える情報源がわかると打ち手も見えてきますね。特に地方に関しては意識や慣習にギャップがあると言われますが、只松さん、そのあたりいかがでしょうか。
只松氏:地方のジェンダー平等を進めるためには、自治体、大学、商工会議所、金融機関など、複数のステークホルダーが連携する「コレクティブ・インパクト・アプローチ」が有効だと考えています。連携会議としても、そうした取組を広げていきたいです。
勝木氏:海外の状況と比較すると、当社では、女性経営層の登用について、日本は他の地域よりも課題が残っており、さらなる取組が求められています。例えばイタリアでは、STEM教育の提供や育児制度の整備により、2年で女性管理職比率を27%から33%に引き上げたという事例があります。チェコでは工場の更衣室・トイレの整備といったファシリティ改善が、女性の定着率向上に大きく寄与していました。これらの事例を参考に、日本も地道に事実を積み上げていくことが必要だと感じています。同時に、レポートを公表するなど、取組を可視化する努力も続けていきたいと思っています。
アキレス議長:事実の積み上げと可視化、まさにその通りですね。日本では進んでいる方だと思っても、海外との比較ではまだギャップが大きいのも事実です。また、せっかく抜擢された女性が「能力ではなく女性だからでは?」と見られてしまうことへの懸念も聞かれます。この点についてはいかがですか。
勝木氏:私は「女性である」ということ自体が一つの能力だと捉えています。特に我々のような消費財を扱う企業では顧客の半数が女性であり、女性の視点を持つことは大きな価値です。「下駄を履かせる」という表現がありますが、むしろ今まで履いていたのは男性のほうかもしれません。
山田氏:そもそも昇進は「社内で上に行くこと」だけに価値を置きすぎているのではと思います。他の会社に移る、自分で事業をするという選択肢もある。多様なキャリアパスが広がり、もっとフラットに考える社会になってほしいですね。
只松氏:実績と能力で選んだ結果、役職者の男女比が半々になるのが理想でしょう。現状がそこに至っていないのであれば、何かしらの不平等が存在すると考えるべきです。したがって一定期間はアファーマティブ・アクションのような積極的施策も必要だと考えます。
アキレス議長:皆さまの明快なご意見、取組や調査から、多くの示唆をいただきました。連携会議では今後も実効的な打ち手を模索し、社会全体の変化につなげていけたらと思います。本日はありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
構成/宮本恵理子 撮影/竹井俊晴
実施日:2025年6月13日