第4章 戦略目標及び行動 F 女性と経済

F 女性と経済

150.
女性及び男性の自らの社会の経済構造へのアクセス及びその構造に対して権力を行使する機会には,かなりの格差がある。世界の大半の地域で,財政,金融,商業その他の経済政策並びに税制及び賃金決定規則の策定を含む経済的な意思決定に,女性は参加していないも同然もしくは不十分な参加状況である。個々の女性及び男性が,なかでも自分の時間をどのように有償と無償の仕事に割り振りするかという点について決定を行うのは往々にしてこのような政策の枠組み内においてであるから,これらの経済構造及び政策の実際の進展状況が,個人及び家庭レベル並びに社会全体の中での,女性及び男性の経済資源へのアクセス,経済力,ひいては,彼らの間の平等の程度に直接の影響を与えている。
151.
多くの地域で,公式及び非公式の労働市場における有償労働への女性の参入が,過去10年の間にかなり増加し,変化した。女性は依然として農業及び漁業に従事する一方,零細及び中小企業に関わる女性も次第に増え,ある場合には,拡大しつつある非公式部門で,さらに支配的な存在になってきている。とりわけジェンダーに基づく不平等から生じる困難な経済状況と交渉力の欠如のために,多くの女性が,低賃金と悪い労働条件を受け入れてこざるを得ず,したがって,往々にしてより望まれる労働者になった。一方では,自らの権利に目覚めてそれを要求するようになるにつれ,自らの選択で労働力に参入してきた。首尾よく職場に進出して昇進を果たし,賃金と労働条件の改善に成功した女性たちもいる。しかし女性は,経済状況及び経済再編の過程によって特に影響を被ってきたが,それらは,雇用の性質を変え,場合によっては専門職及び熟練女性さえ職を失うという結果をもたらした。更に,多くの女性が他に機会がないために非公式部門に入ってきた。構造調整計画,融資及び補助金の条件を決定し,政府と協同してそれらの目標を設定する多国間機関の政策策定過程には,女性の参加やジェンダーへの関心は依然として大いに欠如しており,それらが組み入れられるべきである。
152.
教育及び訓練,雇用及び報酬,昇進及び配転の慣行における差別に加え,融通の効かない労働条件,生産資源へのアクセスの欠如,及び家族的責任の不十分な分担が,保育のようなサービスの欠如又は不足と相まって,女性の雇用,経済的,専門職業的その他の機会と女性の移動性を依然として制限し,それらへの女性の関与をきわめてストレスの多いものにしている。その上,意識上の障害が経済政策の開発への女性の参加を抑制し,一部の地域で経済運営のための教育及び訓練への女性及び少女のアクセスを制限している。
153.
労働力に占める女性の割合は増え続け,ほぼすべての地域で,家庭の外で働く女性が多くなっているが,家庭や地域社会における無償労働に対する責任の軽減は,それと並行してこなかった。あらゆるタイプの世帯にとって,女性の所得が次第に必要になりつつある。いくつかの地域では,女性の起業等自立した活動が,特に非公式部門で増加してきた。多くの国において,女性は,臨時雇用,不定期雇用,多様なパートタイム雇用,契約労働及び家庭を基盤とする労働等,標準的でない労働に従事する労働者の大多数を占めている。
154.
家事労働者を含む女性移住労働者は,送金を通じて送出し国の経済に寄与すると同時に,労働力への参加を通じて受入れ国の経済にも寄与している。しかし多くの受入れ国の場合,移住女性は,非移住労働者及び男性移住労働者の双方と比較して,より高い水準の失業の率を経験している。
155.
ジェンダー分析に十分な注意が払われてこなかったことが,金融市場及び機関,労働市場,学問としての経済学,経済的及び社会的基盤,徴税及び社会保障制度という経済構造において,また家庭及び世帯内において,女性の寄与及び関心事項があまりにもしばしばないがしろにされたままである事態をもたらした。その結果,多くの政策及び計画が女性及び男性の間の不平等を助長し続けている可能性がある。ジェンダーの視点を取り入れる上で進展があった場合には,計画及び政策の有効性も高まってきている。
156
多くの女性が経済機構の中で地位向上をなし遂げてきたとはいえ,大多数の女性,特に女性であるということ以外の障壁にも直面している人々にとって,持続する障害のために,彼らの経済的自立を達成し,自分自身と扶養家族のための持続可能な生計を確保する能力を妨げられてきた。女性はさまざまな経済分野で活躍しており,賃金労働や自営農業・漁業から非公式部門に至るまでのそれらの分野を,しばしば同時にこなす。しかし,土地,天然資源,資本,信用,技術その他の生産手段へのアクセス又は所有に対する法的及び慣行的な障害,並びに賃金格差が,女性の経済的発展を阻む働きをしている。女性は,有償労働ばかりでなく多大な無償労働をも通じて,開発に寄与している。女性は,一方で,農業,食糧生産又は家族経営の企業における市場向け及び自家消費用の物資及びサービスの生産に参加する。国連が各国に採用を勧告した国民経済計算体系(SNA)及びその結果,労働統計の国際基準に含まれてはいるものの,この無償労働 ― 特に農業に関連する ― はしばしば過小評価され,不十分な記録しかなされていない。女性は他方で,相変わらず,子どもや高齢者の世話,家族の食事の準備,環境の保護,並びに弱い立場や障害を持つ個人及びグループを支援するボランティア活動のような家庭内及び地域社会の無償労働の大部分を担っている。この労働は数量的に測定されないことが多く,国民経済計算の中で評価されない。開発への女性の寄与はきわめて過小評価され,したがって,その社会的認知は乏しい。この無償労働のタイプ,程度及び配分を完全に目に見える形で表すならば,責任分担の改善に寄与することにもなろう。
157.
経済の世界規模化の結果,女性にとって新たな雇用機会がいくつか創出されたものの,女性及び男性間の不平等を悪化させてきた傾向もある。同時に,経済統合を含む世界規模化は新たな環境に適応し,貿易のパターンが変化するに従って新たな雇用源を見つけるよう,女性の雇用状況に対する圧力を生み出す可能性がある。世界規模化が女性の経済的立場に及ぼす影響については,さらに分析を行う必要がある。
158.
これらの傾向は,公式部門及び非公式部門の双方において,低賃金,労働基準の保護がほとんど又は全くないこと,特に女性の職業上の健康及び安全の点で劣悪な労働条件,低い技能水準,並びに雇用保障及び社会保障の欠如を特徴としてきた。女性の失業は,多くの国及び部門で,深刻かつ増大傾向の問題になっている。非公式部門及び農村地域の若い労働者及び女性移住労働者は,依然として労働法や移民法による保護が最も薄い人々である。女性,特に幼い子どもを抱えた世帯主である人々は,融通性のない労働条件並びに男性や社会による家族的責任の不十分な分担などのために雇用機会が限られている。
159.
根本的な政治的,経済的及び社会的変容が進行中の国においては,もっとうまく活用されれば,女性の技能はそれぞれの国の経済生活に対して大きな寄与をもたらし得るはずである。彼らの寄与を今後とも発展させ,支援するとともに,その潜在能力をさらに発揮させるべきである。
160.
民間部門における雇用の不足と公共サービス及び公共サービス関連の職場の削減は,女性に不均衡に大きな影響を及ぼしてきた。いくつかの国では,特に公共サービスが利用できない場合,女性が,子どもや病人又は高齢者の世話のような無給労働をますます多く引き受けて逸した世帯所得を埋め合わせている。多くの場合,雇用創出戦略は,女性が支配的な職業や部門に十分な注意を払って来なかったし,伝統的に男性の職業や部門への女性のアクセスを十分促進することもしなかった。
161.
有給労働に従事する女性に関しては,多くが,潜在能力の発揮を阻む障害を経験している。比較的低レベルの管理職に女性が次第に見られるようになっているものの,意識上の差別がそれ以上の昇進を阻む場合が多い。セクシュアル・ハラスメントを受けることは労働者の尊厳にとって侮辱であるばかりか,女性がその能力に見合った寄与をなすことを妨げるものでもある。更に,適切で料金が手頃な保育制度の欠如や融通性のない労働時間を含む,家族に都合のよい労働環境の欠如が,女性の全潜在能力の開化を阻んでいる。
162.
多国籍企業及び国内企業を含む民間部門においては,経営及び政策レベルへの女性の参加は大幅に不足し,差別的な雇用・昇進政策及び慣行を示している。不利な労働環境と並んで,得られる雇用機会の数が限られていることが,多くの女性に別の道を求めさせる結果になった。自営業並びに零細及び中小企業の所有者や経営者になる女性が次第に増えてきた。多くの国における非公式部門及び自ら作る独立企業の拡大は,大部分が女性によるものであり,生産及び取引における女性の協力的,自助的,伝統的な慣行及び率先した行動は,きわめて重要な経済資源に相当する。資本,信用その他の資源,技術並びに訓練へのアクセスと管理権を獲得すれば,女性は持続的な開発のための生産,販売及び所得を増加することができるのである。
163.
相変わらずの不平等と顕著な進展が同時に存在するという事実を踏まえて,ジェンダーの視点を取り入れ,より広範な機会に注意を向けさせるとともに,現行の労働及び雇用パターンに含まれる,ジェンダーに関する何らかのマイナス面に対処するために,雇用政策の再考が必要である。経済への寄与における女性及び男性の平等を完全に実現するためには,女性及び男性双方の労働,経験,知識及び価値観が社会において発揮する影響力に対する平等な認識と評価を目指した積極的な取組みが求められる。
164.
女性の経済的な潜在能力及び自立への対処に当たり,政府その他の行為者は,決定が下される前に,それが女性及び男性それぞれに及ぼす影響の分析がなされるよう,あらゆる政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。

戦略目標F.1. 雇用,適切な労働条件及び経済資源の管理へのアクセスを含む,女性の経済的な権利及び自立を促進すること

取るべき行動

165.
政府,国際及び地域政府間機関により:
(a)
同一労働同一賃金又は同一価値労働同一賃金に対する女性及び男性の権利を保障するための法律を制定し施行すること。
(b)
特に高齢女性労働者,採用及び昇進,雇用上の給付及び社会保障の支給範囲,並びに労働条件に配慮した,労働市場における性差別を阻止する法律を制定し施行すること。
(c)
妊娠又は母乳哺育を理由にした雇用拒否若しくは解雇,又は避妊手段使用の証明の要求のような使用者による差別的慣行を撤廃し,女性の生殖の役割及び機能に配慮して適切な措置を講じること。また,妊娠中,出産休業中の女性又は出産後に労働市場に再参入する女性が差別されないよう保障するための効果的な措置を講じること。
(d)
女性が,大蔵省及び通商省,国家経済委員会,経済調査研究所その他の中枢省庁等の機関を通じて,また適切な国際機関への参加を通じて,政策の策定及び構造の決定における完全かつ平等な参加へのアクセスを獲得できるようにする仕組みを考案し,積極的措置(ポジティブ・アクション)を取ること。
(e)
土地その他の形態の財産の所有及び管理,信用,相続,天然資源及び適切な新技術へのアクセスを含む経済資源に対する男性と平等な権利を女性に与えるために,法律改正及び行政改革に着手すること。
(f)
女性に対する既存のいかなる偏向をも撤廃するために,国民所得,相続税及び社会保障制度の見直しを行うこと。
(g)
とりわけ無償労働,殊に扶養家族の世話における労働及び自営農業又は家業のための無償労働のタイプ,程度及び配分を調べ,よりよく理解するための取組みを通じて,労働と雇用に関する,より包括的な知識の開発に努めること。また,その労働の価値を数量的に評価し,中核的な国民経済計算とは別に作成されるであろうがそれに矛盾しない計算に反映できるようにする方法の開発に関するものを含む,この分野の研究及び経験に関する情報の共有及び普及を奨励すること。
(h)
金融機関の運営を規制している法律を見直し,女性及び男性に平等にサービスを提供するように改正すること。
(i)
適切なレベルにおいて,より開かれた透明な予算決定過程を促進すること。
(j)
国家政策を改正し,女性のための伝統的な貯蓄,信用及び貸付の仕組みを支援する政策を実施すること。
(k)
国際及び地域貿易協定に関連した国家政策が,女性の新規及び伝統的な経済活動に悪影響を及ぼさないよう保障することに努めること。
(l)
多国籍企業を含むすべての企業が国内の法律及び規則,社会保障規定,環境関連のものを含む,適用可能な国際協定,文書及び条約,並びにその他の関係法規に従うよう保障すること。
(m)
家族的責任の分担を促進するために,労働パターンの再編成を助長するよう雇用政策を調整すること。
(n)
経済省庁及び金融機関によって開発中の政策及び計画の策定に女性起業家及び女性労働者が貢献できるようにするための仕組み及びその他のフォーラム(公開討論会)を設置すること。
(o)
機会均等法規を制定及び施行し,積極的措置(ポジティブ・アクション)をとり,さまざまな手段を通じて,公共・民間部門による遵守を確保すること。
(p)
マクロ及びミクロ経済政策及び社会政策の開発に際し,男女(ジェンダー)それぞれへの影響を監視し,有害な影響が生起した場合には政策を再構築するために,ジェンダー影響分析を用いること。
(q)
技術,管理及び起業の分野において男性と平等なパートナーとしての力を女性に与えるために,ジェンダーに配慮した政策及び施策を促進すること。
(r)
安全な労働慣行,団結権及び裁判へのアクセスを含む,すべての女性労働者の保護を確保するため法律を改正するか,労働法の制定を支持する国家政策を策定すること。

戦略目標F.2. 資源,雇用,市場及び取引への女性の平等なアクセスを促進すること

取るべき行動

166.
政府により:
(a)
女性の自営及び小企業の開発を促進し,支援し,適当な場合,非伝統的かつ相互的な信用の仕組み及び金融機関との革新的な連携を含む,女性の起業の促進に尽力する機関の増加を通じて,男性と平等な適切な条件に基づく信用及び資本への女性のアクセスを強化すること。
(b)
女性及び男性の機会均等政策の開発を促す,雇用主としての国家の奨励的役割を強化すること。
(c)
国内及び地方レベルにおいて,生産資源,土地,信用,資本,財産権,開発プログラム及び協同組合組織への農村女性の平等なアクセス及び管理を促進することによって,彼らの所得創出能力を高めること。
(d)
特に農村地域において,零細企業,新たな小規模事業,協同組合企業,拡大市場その他の雇用機会を促進・強化し,適当な場合,非公式部門から公式部門への移行を促進すること。
(e)
食糧安定における女性のきわめて重要な役割を認識し,強化し,有給及び無給の女性生産者,都市部の企業とともに,特に,農業,漁業及び養殖漁業などの食糧生産に携わる女性に対し,適切な技術,輸送,普及サービス,販売及び信用便宜への平等なアクセスを地方及び地域社会レベルで提供するプログラム及び政策を創設し,及び修正すること。
(f)
女性の協同組合が必要なサービスへのアクセスを最大限に活用できるようにする,適切な仕組みを設置するとともに,そのような部門間機関を奨励すること。
(g)
技術的な支援の提供又は経済プログラムの管理を行う女性の普及員その他の政府職員の比率を増すこと。
(h)
農村地域及び都市地域の女性が所有する零細・中小企業を差別しないように,企業法,商法及び契約法並びに政府の規制を含む政策を見直し,必要な場合は策定し直し,かつ実施すること。
(i)
被雇用,自営業及び起業女性のニーズ及び関心事項を部門別及び省庁間の政策,計画及び予算に取り入れる政策を分析し,助言を与え,調整,実施すること。
(j)
伝統的な雇用分野に限定しない,効果的な職業訓練,再訓練,カウンセリング及び職業紹介サービスへの平等なアクセスを女性に保障すること。
(k)
社会プログラム及び開発プログラムにおいて女性が直面する,民間及び個人の率先行動をくじく,政策及び規制上の障害を除去すること。
(l)
強制労働及び児童労働の禁止,結社の自由,団結権及び団体交渉権,男女の同一価値労働同一賃金,並びに雇用における非差別を含む,労働者の基本的権利の尊重を守り,促進するとともに,真に持続的な経済成長及び持続可能な開発の達成のために,ILO諸条約の締結国は同条約を完全に実施し,非締結国は同条約に具体化された諸原則を考慮すること。
167.
政府,中央銀行及び国家開発銀行,並びに適当な場合,民間金融機関により:
(a)
経済省庁及び金融機関によって開発中の政策及び計画の策定及び見直しに,あらゆる部門の女性起業家及びその組織が寄与できるようにするために,諮問委員会その他の討論の場(フォーラム)への,起業家を含む女性の参加を増やすこと。
(b)
農村・都市両地域の女性起業家及び生産者のニーズに応える,報奨提供,仲介機関の開発を通じて金融部門を動員し,貸出及び資金補充を増加させ,また,その指導,立案及び意思決定に女性を加えること。
(c)
資本及び資産へのアクセスを持たない,若い女性,低所得の女性,少数民族・人種に属する女性及び先住民女性に特別の注意を払いつつ,零細及び中小企業に関わる農村地域及び都市部の女性に及ぶようなサービスを体系化すること。また,女性の零細及び中小企業の信用その他の金融ニーズによりよく応えようとする金融機関の直接・間接の取組みを支援する,金融管理及び規制の改革を認識し,奨励することによって,金融市場への女性のアクセスを拡大すること。
(d)
上下水道,電化及び省エネルギー,輸送及び道路建設等の経済的基盤設備に対する公共投資計画に,女性の優先事項が加えられるよう保障すること。仕事及び契約へのアクセスを保障するために,プロジェクトの立案及び実施段階における女性受益者の関与の増大を促進すること。
168.
政府及び非政府機関により:
(a)
市場,交易及び資源に関する情報を普及する際には,女性のニーズに特別の注意を払い,これらの分野における適切な訓練を提供すること。
(b)
政府間の提携に基づいて作り上げる,地域社会の経済開発戦略を助長し,市民社会の成員に対し,雇用を創出し,個人,家族及び地域社会の社会的環境に対処するよう奨励すること。
169.
国際,地域,小地域レベルにおける多国間資金供与機関,地域開発銀行,並びに二国間及び民間資金供与機関により:
(a)
より高い比率の資源が農村地域及び僻地の女性に及ぶよう,政策,計画及びプロジェクトを見直し,必要な場合は策定し直し,実施すること。
(b)
女性の経済活動を対象にし,女性の営利企業における自足,能力向上,及び利益性を促進する仲介機関に資金を提供するための柔軟な資金供給の手順を開発すること。
(c)
女性が完全かつ平等に参加し,自らの組織内に加え二国間機関,政府及び非政府機関からの専門知識及び財源を利用しつつ,零細及び中小企業部門の有効性を調整し強化する協力機会を増大するために,この部門への各機関の支援を統合・強化する戦略を開発すること。
170.
国際,多国間及び二国間開発協力機関により:
公式,非公式両部門における所得の低い小規模及び零細規模の女性起業家及び生産者に役立つ金融機関を,資本及び/又は資源の提供を通じて支援すること。
171.
政府及び/又は多国間金融機関により:
農村女性に信用の便宜を提供するグラミン銀行型を複製する妨げになる,公式な国内及び国際金融機関の規定及び手続きを見直すこと。
172.
国際機関により:
女性,特に,不利な立場の女性の間に持続可能で生産的な起業活動を促進するために計画されたプログラム及びプロジェクトに対して,十分な支援を提供すること。

戦略目標F.3. 殊に低所得の女性に対し業務サービス,訓練並びに市場,情報及び技術へのアクセスを提供すること

取るべき行動

173.
非政府機関及び民間部門との協力の下に,政府により:
(a)
女性及び男性の起業家の平等な市場アクセスを確保するために,公共基盤設備を提供すること。
(b)
事業経営,生産開発,資金調達,生産及び品質管理,販売,並びに事業の法務面において,特に新技術の訓練及び再訓練並びに手頃な料金のサービスを女性に提供するプログラムを開発すること。
(c)
特に農村地域及び僻地の低所得の貧困女性に,市場及び技術へのアクセスの機会について知らせる普及プログラムを提供するとともに,これらの機会の利用への支援を提供すること。
(d)
女性の企業のための投資基金を含む非差別的な支援サービスを創設し,商工業振興プログラムにおいて女性,特に低所得の女性を対象にすること。
(e)
伝統的・非伝統的両分野の経済活動で成功した女性起業家と,成功に必要な技能に関する情報を普及するとともに,ネットワーク作り及び情報交換を促進すること。
(f)
失業女性,ひとり親,家族的責任その他の理由により長期の一時的引退後に労働市場へ再参入する女性,及び新たな生産形態又は経費節減のあおりで職場を追われた女性を含め,職場内で継続中の訓練への女性の平等なアクセスを保障する措置を講じるとともに,非伝統的分野の訓練を女性に提供する職業・訓練センターの数を増やすため,企業への報奨を増大させること。
(g)
働く男女のニーズを考慮した,質がよく,融通性に富み,料金の手頃な保育サービス等,手頃な料金の支援サービスを提供すること。
174.
地方,国内,地域及び国際企業組織,並びに女性問題に関わる非政府機関により:
非公式部門におけるものを含む女性の事業及び企業の促進と支援,並びに生産資源への女性の平等なアクセスを,あらゆるレベルで唱えること。

戦略目標F.4. 女性の経済能力及び商業ネットワークを強化すること

取るべき行動

175.
政府により:
(a)
農村地域及び都市の女性起業家にサービスを提供するために,企業組織,非政府機関,協同組合,回転貸付資金,信用組合,草の根組織,女性の自助グループその他の団体を支援する政策を採用すること。
(b)
あらゆる経済再編及び構造調整政策にジェンダーの視点を取り入れ,構造調整計画を含む経済再編の影響を被っている女性,及び非公式部門で働く女性のためのプログラムを計画すること。
(c)
従来にない形の支援を通じ,また結社の自由及び団結権を認識することによって,女性の自助グループ,労働者団体及び協同組合に対して制約のない環境を作る政策を採用すること。
(d)
若い女性,障害を持つ女性,高齢女性及び人種的・民族的少数グループに属する女性等,特定グループの女性の自立を高めるプログラムを支援すること。
(e)
女性学の促進を通じ,また,経済・科学・技術分野を含むあらゆる分野における諸研究及びジェンダー研究の成果の利用を通じて,男女平等を促進すること。
(f)
先住民女性の状況及び開発の改善のために,その伝統的知識を考慮に入れつつ,彼らの経済活動を支援すること。
(g)
家内で有給労働を行っている人々のために,労働法及び社会保障規定の保護を拡大又は維持する政策を採用すること。
(h)
女性の科学者及び科学技術者による研究の寄与を認め,奨励すること。
(i)
政策及び規制が,女性の経営する零細及び中小企業を差別しないよう保障すること。
176.
適当な場合,金融仲介機関,国内訓練研修所,信用組合,非政府機関,女性団体,職業団体及び民間部門により:
(a)
女性,特に若い女性が国内,地域及び国際レベルにおいて経済政策策定に参加できるように,それらのレベルにおいて,さまざまな事業関連及び財政管理並びに専門技能の訓練を提供すること。
(b)
経済組織の輸出部門におけるものを含む女性の企業に,販売及び貿易の情報,製品設計及び技術革新,技術移転,並びに品質管理を含む業務サービスを提供すること。
(c)
地域社会に基盤を置く独創力(イニシアティヴ)を支援するために,国内,地域及び国際レベルで,女性起業家間の技術及び商業提携を促進し,合弁事業を創設すること。
(d)
特に農村地域及び僻地において,販売及び財政面の支援を提供することにより,社会から疎外された女性を含む,女性の生産・販売協同組合への参加を強化すること。
(e)
農村地域及び都市地域において,女性の零細企業,新たな小規模事業,協同組合企業,拡大市場その他の雇用機会を促進・強化し,適当な場合には非公式部門から公式部門への移行を促進すること。
(f)
女性の企業に融資するために,資本を投下し,資産運用投資を開発すること。
(g)
市場経済への参加に関連した,女性のための技術支援,助言サービス,訓練及び再訓練の提供に十分な注意を向けること。
(h)
伝統的な貯蓄の仕組みを含む,信用ネットワーク及び革新的事業を支援すること。
(i)
経験を積んだ女性による未経験な女性への指導(メンタリング)の機会を含む,女性起業家のネットワーク機構を提供すること。
(j)
地域社会の諸組織及び公共機関に対し,成功を収めた小規模の協同組合のモデルを参考にして,女性起業家に対する融資のための共同出資制を設けるよう奨励すること。
177.
多国籍及び国内企業を含む民間部門により:
(a)
差別なく契約を与える方針を採用し,その仕組みを確立すること。
(b)
すべて男性と平等な基準で,指導,意思決定及び管理に向けて女性を採用し,訓練プログラムを提供すること。
(c)
国内の労働法,環境法,消費者法,衛生・安全法など,特に女性に影響を与える法律を遵守すること。

戦略目標F.5. 職業差別及びあらゆる形態の雇用差別を撤廃すること

取るべき行動

178.
政府,使用者,被雇用者,労働組合及び女性団体により:
(a)
平等な賃金及び労働者の権利に関するILO100号条約などの国際労働基準が,女性及び男性労働者に平等に適用されるよう保障する法律及び規則を実施並びに施行し,また,そのような自主的行動規範を奨励すること。
(b)
雇用へのアクセス,訓練,昇進,衛生及び安全を含む労働条件,雇用の終了,並びにセクシュアル・ハラスメント及び人種ハラスメントに対する法的保護を含む労働者の社会保障に関して,結婚や家族の状況の照会を含め,性を根拠にした直接・間接の差別を禁ずる法律を制定・施行し,守られない場合に備えた補償手段及び裁判へのアクセスを含む実施策を導入すること。
(c)
特に高齢女性労働者を考慮して,採用及び昇進,雇用上の給付及び社会保障の適用範囲において,並びに差別的な労働条件とセクシュアル・ハラスメントに関して,労働市場における性差別を禁じる法律を制定・施行し,また,そのような職場政策を開発すること。そのような法律の定期的な見直しと監視のための仕組みが開発されるべきである。
(d)
妊娠及び母乳哺育の責任を理由にした女性の雇用拒否や解雇を含む,女性の生殖の役割と機能を根拠にした,使用者による差別慣行を撤廃すること。
(e)
労働市場に参入及び/又は再参入する女性,特に貧しい都市部の女性,農村女性及び若い女性,並びに自営業の女性,及び構造調整計画によりマイナスの影響を被った女性のための雇用プログラム及びサービスを開発し,促進すること。
(f)
あらゆる部門において,採用,雇用維持及び昇進並びに職業訓練に関し,労働力における女性,特に障害を持つ女性その他の不利な立場のグループに属する女性に対する体系的な差別に対処するための,公共・民間部門における積極的な雇用,公平及び積極措置プログラムを実施し,監視すること。
(g)
特に,高度な技能を要する職種及び上級管理職への女性の平等な参加の促進,並びに業務を通じたキャリア開発や労働市場における上向きの流動性を促すカウンセリング及び職業紹介などのその他の措置によって,また,女性及び男性による職業選択の多様化を促すことによって,職業上の分離を撤廃すること。女性に,特に科学技術分野における非伝統的な仕事を選ぶよう奨励するとともに,男性に対し社会部門の雇用を求めるよう奨励すること。
(h)
団体交渉は権利であると同時に,女性に対する賃金の不平等を撤廃し,労働条件を改善するための重要な仕組みであると認識すること。
(i)
女性の労働組合役員の選出を促進し,女性を代表して選ばれた組合役員が,その機能の遂行に関して雇用の保護及び身体的安全を与えられるよう保障すること。
(j)
障害を持つ女性の雇用の獲得及び維持を可能にする特別なプログラムを開発し,「障害を持つ人々のための機会の平等化に関する国連基準規定」(注30)に従って,すべての適切なレベルにおける教育及び訓練へのアクセスを確保すること。障害による不当な失職に対して法的保護を保障されるべき,障害を持つ女性のニーズにかなうように,可能な限り労働条件を調整すること。
(k)
女性及び男性の賃金格差を解消するための取組みを強め,国際労働法及び基準の遵守を含む法律の強化によって,同一価値労働同一賃金の原則を実施する対策を講じ,ジェンダーに関して中立の基準を持つ職務評価の仕組みを奨励すること。
(l)
賃金差別に関する事柄を裁定する機構を設置及び/又は強化すること。
(m)
承認された国際基準に違反するあらゆる形態の児童労働を撤廃するための明確な目標年限を設定し,現行の関連法規の完全な施行を保障するとともに,適当な場合,「児童の権利に関する条約」及びILOの基準の実施に必要な法律を制定し,適切な保健,教育その他の社会サービスの提供を通じて,働く子ども,特に浮浪児(ストリート・チルドレン)の保護を確保すること。
(n)
児童労働を撤廃するための戦略が実施されている場合は,それらが一部の少女に課されている,自分や他人の家庭における無給労働への過度な要求にも対処するものであるよう保障すること。
(o)
教職,看護及び保育等,女性が大勢を占める職業における女性の低い地位と所得を向上させるために,その賃金構造を見直し,分析し,適当な場合,作り直すこと。
(p)
外国での教育及び資格証書をより広く認知し,並びに言語訓練を盛り込んだ労働市場訓練への組織立ったアプローチを採ることによって,合法的移住女性(1951年の「難民の地位に関する条約」に従って難民と認定された女性を含む。)の生産的雇用を促進すること。

戦略目標F.6. 女性及び男性のための職業及び家族的責任の両立を促進すること

取るべき行動

179.
政府により:
(a)
パートタイム労働者,臨時労働者,季節労働者及び在宅就労者に対して,適切に労働法の保護及び社会保障給付を保障する政策を採用すること。職業及び家族的責任を調和させる労働条件に基づいたキャリア開発を促進すること。
(b)
女性及び男性が平等に,フルタイムの仕事でもパートタイムの仕事でも自由に選択できるよう保障し,定型的でない形の労働者のために,雇用へのアクセス,労働条件及び社会保障に関して適切な保護を考慮すること。
(c)
法律,報奨及び/又は奨励を通じて,女性と男性の双方が職を保護されて親休業をとり,また,親給付を得る機会を保障すること。適切な法律,報奨及び/又は奨励を用いる施策等により,女性及び男性による家族的責任の平等な分担を促進するとともに,働く母親の母乳哺育の便宜を促進すること。
(d)
殊に子どもや高齢者の世話に関わる家庭内の仕事の家族的責任の分担という考え方を促進するために,ジェンダーに基づく仕事の分業を強いる姿勢を変えるための,わけても,教育における政策を開発すること。
(e)
家事労働とともに職業労働を促進し,自立を奨励し,所得を創出し,生産過程内部でジェンダーに基づいて規定された役割を変え,女性が低所得の職種から抜け出すことを可能にする技術の開発及びそれらへのアクセスを増進すること。
(f)
男女の平等,並びに人々の,教育及び訓練,有給雇用,家族的責任,ボランティア活動その他の社会的に有益な形態の仕事,休息及びレジャーへの時間の割り振り方とそこからの利益の受け方における柔軟性を促進する方法を決定するために,社会保障法規及び租税制度を含む,国の優先事項及び政策に沿って一連の政策及び計画を検討すること。
180.
適当な場合,政府,民間部門及び非政府機関,労働組合並びに国連により:
(a)
女性及び男性が雇用先から一時休業をとることができ,譲渡可能な雇用上の給付及び退職手当を受けるとともに,仕事やキャリアにおける開発及び昇進の展望を犠牲にすることなく勤務時間を変更するための手配ができるよう,関係の政府機関,使用者団体及び労働者団体を巻き込んだ適切な施策を採用すること。
(b)
家庭内における女性と男性の,男女平等及び固定観念にとらわれない役割に関する意識を高めるために,革新的なメディア・キャンペーンと学校及び地域社会教育プログラムを通じた教育プログラムを計画し,提供すること。事業所内における現場保育及び柔軟な勤務取決めのような支援サービス及び便宜を提供すること。
(c)
すべての職場における性的その他の形の嫌がらせを防止する法律を制定,施行すること。
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