第1節 長時間労働の削減等の働き方改革

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第2章 男性中心型労働慣行等の変革と女性の活躍

第1節 長時間労働の削減等の働き方改革

「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月閣議決定)では,一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジとして「働き方改革」が位置づけられ,仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし,少子化の原因や,女性のキャリア形成を阻む原因,男性の家庭参画を阻む原因である長時間労働を是正すること等が課題として挙げられた。さらに,今後の取組として,いわゆる36協定における時間外労働規制の在り方について再検討すること等が記載された。

この「働き方改革」の実現を目的として,平成29(2017)年3月に取りまとめられた実行計画においては,日本経済再生に向けて,最大のチャレンジは働き方改革と位置付けられ,働き方改革は,働く人の視点に立って,労働制度の抜本改革を行い,企業文化や風土を変えようとするものであり,改革の目指すところは,働く方一人ひとりが,より良い将来の展望を持ち得るようにすることである,とされた。また,雇用情勢が好転している今こそ,政労使が3本の矢となって一体となって取り組んでいくことが必要であり,働き方改革によって,人々が人生を豊かに生きていく,中間層が厚みを増し,消費を押し上げ,より多くの方が心豊かな家庭を持てるようになることを目指す,とされている。

実行計画では,時間外労働の上限規制の導入について,基本的考え方として「仕事と子育てや介護を無理なく両立させるためには,長時間労働を是正しなければならない。働く方の健康の確保を図ることを大前提に,それに加え,マンアワー当たりの生産性を上げつつ,ワーク・ライフ・バランスを改善し,女性や高齢者が働きやすい社会に変えていく。」としたうえで,日本労働組合総連合会と日本経済団体連合会による労使合意を踏まえて,法改正の方向性を明記した。

労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進することを目的とした働き方改革関連法が,第196回通常国会において,平成30(2018)年6月29日に成立し,同年7月6日に公布された。

長時間労働を防止するため,同法では,現行の時間外労働規制の仕組みを改め,1時間外労働の上限は原則として月45時間,かつ,年360時間とした上で,臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできないこととし,2臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも,年720時間以内,単月100時間未満(休日労働を含む),複数月平均80時間以内(休日労働を含む)を超えることはできないこととした。さらに,原則である月45時間を超えることができるのは,年6か月までとした。なお,これらに違反した場合には,罰則の対象となる。また,日本労働組合総連合会と日本経済団体連合会の労使が上限値までの協定締結を回避する努力が求められる点で合意したことに鑑み,さらに可能な限り労働時間の延長を短くするため,新たに労働基準法(昭和22年法律第49号)に指針を定める規定を設け,行政官庁が必要な助言・指導を行うこととしたほか,労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)を改正し,勤務間インターバル制度の導入,短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わないなど取引上の必要な配慮を努力義務とした。令和元(2019)年度には,法改正を踏まえて「労働時間等見直しガイドライン」(労働時間等設定改善指針)(平成20年厚生労働省告示第108号)を改正し,リーフレットによる周知・啓発を図っている。

内閣府及び関係省庁では,「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」に基づき,官民一体となり,仕事と生活の調和実現に向けた取組を行っている。仕事と生活の調和推進官民トップ会議(経済界,労働界,地方公共団体の代表者,関係閣僚などにより構成)の下に開催された仕事と生活の調和連携推進・評価部会において,仕事と生活の調和の実現状況について,最新の各種調査結果をもとに点検・評価を行っている。令和2(2020)年3月に公表された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2019」では,「仕事と生活の調和推進のための行動指針」で設定されている数値目標の目標年である令和2(2020)年に向けた進捗状況に遅れの見られる指標等について,その改善を図るため,労使等の各主体が仕事と生活の調和の実現に向けた取組を加速していくとしている。

また,社会全体で,女性活躍の前提となるワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取組を進めるため,女性活躍推進法及び「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針」(平成28年3月22日すべての女性が輝く社会づくり本部決定。以下「公共調達等取組指針」という。)に基づき,国等の総合評価落札方式又は企画競争方式による調達において,女性活躍推進法,次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号。以下「次世代法」という。),青少年の雇用の促進等に関する法律(昭和45年法律第98号)に基づく認定等を取得した企業を,ワーク・ライフ・バランス等推進企業として加点評価する取組を平成28(2016)年度から実施している。令和元(2019)年12月には,平成30(2018)年度の国及び独立行政法人等の取組状況を公表した。女性活躍推進法において努力義務となっている地方公共団体についても国に準じた取組が進められるよう働きかけを行うとともに,2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会2(以下「東京2020大会」という。)に関する調達や民間企業等における各種調達でも国と同様の取組が進むよう働きかけを行っている。

また,令和元(2019)年度は,企業におけるワーク・ライフ・バランスの取組を促進するため,関係団体と連携し,経営者及び管理職を対象としたセミナーを開催した。さらに,地方公共団体の担当者を対象としたセミナーを開催し,各地域の企業に対するワーク・ライフ・バランスの取組強化を図った。

加えて,夫婦間の育児分担等の考え方や介護と仕事の両立に対する考え方,分担の実状,職場や行政の支援制度の活用状況等を把握し,性別・年代別,就業形態別の傾向を明らかにするため,調査研究を実施した。

厚生労働省では,「労働時間等見直しガイドライン」(労働時間等設定改善指針)(平成20年厚生労働省告示第108号)について,働き方改革関連法の内容等を踏まえ,勤務間インターバルの導入を努力義務とすることや年次有給休暇の取得促進のために年次有給休暇管理簿を活用すること等を内容とする改正を行い,これらの改正内容をまとめたリーフレットによる周知・啓発を図ることで,時間外・休日労働時間の削減及び年次有給休暇の取得促進を始めとした労使の自主的な取組を促進している。

人事院では,公務における超過勤務について,人事院規則15-14(職員の勤務時間,休日及び休暇)において,超過勤務命令の上限を原則1月45時間・1年360時間等と設定するとともに,「計画表の活用による年次休暇及び夏季休暇の使用の促進について」(平成30年12月7日人事院職員福祉局長通知)において,各省各庁の長は,休暇の計画表の活用等により,一の年の年次休暇の日数が10日以上の職員が年次休暇を5日以上確実に使用することができるよう配慮することとしている。人事院では,制度の運用状況を把握し,必要に応じて各府省を指導するなど,各府省における取組を支援している。

地方公共団体においても,職員の時間外勤務縮減は経営上の重要な課題であることから,総務省では,各地方公共団体に対し,「令和元年度の「ゆう活(夏の生活スタイル変革)」の実施について」(令和元年5月総行女第3号総務省自治行政局公務員部長通知)を発出し,職員の時間外勤務のより一層の縮減や年次有給休暇の取得促進に取り組むよう要請するとともに,「地方公務員における女性活躍・働き方改革推進のためのガイドブック改訂版」(平成31年3月総務省自治行政局公務員部)に基づく取組の情報提供や地方公務員月報における取組事例の掲載を行った。また,民間労働法制における時間外労働の上限規制の導入等の法改正及び国家公務員における超過勤務命令の上限を設定する人事院規則の改正を踏まえ,各地方公共団体においても所要の措置を講じるよう要請した。

2令和2(2020)年3月30日に,東京オリンピックは令和3(2021)年7月23日から8月8日に,東京パラリンピックは同年8月24日から9月5日に開催されることが決定された。