平成19年版男女共同参画白書

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第2節 地球社会の「平等・開発・平和」への貢献

1 「GADイニシアティブ」に基づく取組の推進

(1)基本的な考え方

世界の人口の約半分は女性であり,均衡のとれた持続的な経済・社会開発を実現するためには,女性が男性とともに経済・社会開発に参加し,同時に開発からの公平な受益が可能でなくてはならない。

開発における男女の平等な参加と公平な受益に向けて努力することは,一義的にはその国自身の課題である。しかし,先進国が開発における女性の参加と受益にも配慮した開発援助を実施することを通じて,開発途上国の努力を支援することは可能であり,この実施に際しては社会的性別(ジェンダー)を正しく捉えておく必要がある。このような社会的性別に配慮した開発援助は,均衡のとれた持続的な開発に貢献し,開発途上国の女性のエンパワーメントなどを促進することになる。

我が国は,これまで,北京宣言・行動綱領,国連ミレニアム宣言等,女性のエンパワーメントと「ジェンダー平等」の達成を目指す国際的な誓約を支持してきた。政府開発援助(ODA)政策に関しては,平成15年8月に改定されたODA大綱において基本方針の1つに公平性の確保を定め,また,17年2月に改定されたODA中期政策においても社会的性別の視点を含めた公平性の確保を明記するなど,政策・実施・評価とODA全般にわたって社会的性別の視点を重視している。それを受け,17年3月に,開発における「ジェンダー平等」推進に対して一層効果的に取り組むために,「途上国の女性支援(WID)イニシアティブ」を抜本的に見直し,新たに「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」を策定した。これにより,従来の女性を対象として教育・保健・経済社会活動への参加の3分野を中心に実施してきた支援に留まらず,開発途上国のオーナーシップを尊重しつつ,当該国におけるジェンダー平等と女性の地位向上を目的とする取組に対しても支援を強化している。

(2)推進のための取組

GADイニシアティブをODA実施に着実に反映させるためには,経済協力に携わる職員全員が社会的性別の視点を踏まえて業務に取り組むことが重要である。そうした取組を一層促進するために,平成18年6月,東京とタイ,パキスタン,ケニアの3か国の現地ODAタスクフォースをテレビ回線でつないだ遠隔セミナーを実施し,GADイニシアティブに対する理解向上と取組意識の一層の向上を図った。また,援助対象国87公館に配置している「ODAジェンダー担当官」を活用し,17年度より社会的性別の視点に配慮した好事例及び配慮が十分でなかったことによる教訓等を集め,その情報を共有するなど「ジェンダー主流化」に向けた活動を実施している。

さらに,平成18年7月31日及び8月1日には東京において,内閣府,外務省及び国連開発計画(UNDP)の共催にて「UNDP・日本WID基金シンポジウム及びワークショップ」を開催した。本シンポジウムは,ミレニアム開発目標(MDGs)にも掲げられたジェンダー平等を実現するためのツールである社会的性別に配慮した予算(GSB)について検証し,その推進に向けた取組について情報共有を図ることを目的に行われた。具体的には,国際的に著名な専門家による基調講演や開発実務者による報告等が行われた。

実施機関の取組として,JICA(独立行政法人国際協力機構)では実際の開発援助事業において社会的性別の視点を組み込むことで効果をあげた成功例や,各開発セクター・課題と社会的性別との関係を分かりやすく説明する具体例を数多く収集し,職員その他援助関係者が共有すべき知識情報として整理した。また同知識情報を活用し,職員その他援助関係者に対する研修の実質的充実を図った。社会的性別の視点を開発援助事業の評価実施サイクルに組み込むため,簡易ジェンダー評価の手法の検討を行い,実際の開発援助案件において試行した。16年度に導入した「ジェンダー主流化」推進体制をさらに機能化するため,各部署に男女各1名配置しているジェンダー担当者の業務改善を進めるとともに,ジェンダー担当者の能力向上と知識水準の確認を目的とする「ジェンダー担当者」電子試験を開発した。

また,JBIC(国際協力銀行)では,17年度から19年度を対象とした海外経済協力業務実施方針にて業務運営における男女共同参画の視点の重視を掲げ,好事例の収集や他の援助機関との積極的な連携・意見交換を通じ,インフラ案件における社会的性別の視点の強化のための事例研究・手法研究を行うとともに,個別の円借款事業における社会的性別の視点の導入・強化を図っている。

(3)様々な枠組みを活用した援助案件の実施

我が国は,無償資金協力事業(草の根・人間の安全保障無償資金協力及び日本NGO支援無償資金協力を含む。),NGO事業補助金,有償資金協力事業,専門家等の派遣等の技術協力事業を通じて,開発途上国におけるジェンダー平等と女性の地位向上に向けた取組を支援している。さらに,これら事業の評価を行うことで,より効果的な事業の実施を図っている(第2-12-1表)。

第2-12-1表 様々な枠組みを活用した援助案件の実施 別ウインドウで開きます

第2-12-1表 様々な枠組みを活用した援助案件の実施 第2-12-1表 様々な枠組みを活用した援助案件の実施

2 国連の諸活動への協力

(1)会議・委員会等への協力

ア ESCAP男女共同参画促進を担う国内機構のためのセミナー―移住政策形成と女性移民保護のための地域セミナー―

2006(平成18)年11月,バンコクにおいて,日本エスカップ協力基金を通じて開催され,我が国を含めて16か国が参加した。会合では,複数テーマ(女性移住労働者の健康,人身取引,子どもの移住における問題等)毎のセッション,男女共同参画促進を担う国内機構が社会的性別の視点を取り入れた移住政策形成を実現させるための提言採択等が行われた。

イ 国連婦人の地位委員会

2007(平成19)年2~3月,第51回国連婦人の地位委員会が開催され,「女児に対するあらゆる形態の差別及び暴力の撤廃」等につき議論が行われた。我が国からは,目黒依子日本政府代表(上智大学教授)等が出席した。

ウ 国連総会第3委員会「女性の地位向上」審議

2006(平成18)年秋に開催された第61回国連総会において,「女性の地位向上」に関する議論が行われた。我が国からは,大谷美紀子弁護士(日本政府代表代理)等が出席した。

(2)国連機関・基金等への協力

平成18年度には,国連婦人開発基金(UNIFEM)に対して,70.66万ドルの拠出を行った。

また,我が国は,平成15年より国連開発計画(UNDP)の下に社会的性別(ジェンダー)関連案件を対象分野のひとつとする「パートナーシップ基金」を設置し,平成18年度は266万ドルの拠出を行った。

さらに,我が国は,国連教育科学文化機関(UNESCO)に信託基金を設置し,アジア,アフリカを中心に世界各地において教師教育や識字教育など途上国における人材育成事業に協力しているほか,財団法人ユネスコ・アジア文化センター及び社団法人日本ユネスコ協会連盟においても,成人非識字者の約3分の2を占めるアジア・太平洋地域の女性に対する教育の普及に積極的に協力している。

3 女性の平和への貢献

我が国は,平和を推進する国際機関の役割の重要性を認識し,また,紛争時において最も支援を必要とする人々は女性や子どもであることを考慮し,これら女性や子どもを含む人間一人ひとりの保護・能力を強化することにより人づくり・社会づくりを通じて国づくりを進める「人間の安全保障」の考え方を推進している。この観点より,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR),国連児童基金(UNICEF)等の人道支援国際機関に対し積極的な協力を行っているほか,我が国が国連に設置した人間の安全保障基金を通じて国連婦人開発基金(UNIFEM)がアフガニスタンにおいて実施する国内避難民及び難民女性の社会参加を推進するプロジェクトを支援している。

4 国際分野における政策・方針決定過程への女性の参画の促進

我が国では,近年,国際会議への政府代表団への女性メンバーの参加が漸次増加しており,2006(平成18)年秋の第61回国連総会においても,民間女性を「政府代表代理」の資格で派遣した。2006(平成18)年6月に実施された女子差別撤廃委員会委員選挙では,我が国より立候補した齋賀富美子駐ノルウェー兼アイスランド大使人権担当大使が再選を果たし,2010(平成22)年まで任期を務めることとなっている。

また,日本人女性の国際機関への参画も進んでおり,国連を含む国際機関における日本人の女性職員数(専門職以上)は,1975(昭和50)年の19人から2006(平成18)年には430人と大幅に増加している。

5 あらゆるレベルにおける国際交流・協力の推進

(1)あらゆるレベルにおける国際交流・協力の推進

外務省では,平成7年度より日本・ヨルダン・エジプト・パレスチナ自治区女性交流プログラムを実施しており,18年度は,「女性の経済的活動を通じた社会貢献;現状分析及び対応策」をテーマとして,ヨルダン,エジプト,パレスチナ自治区より経済分野で活躍する女性を我が国に招へいするとともに,我が国からも各分野で働く女性からなる代表団がパレスチナ自治区,ヨルダン,エジプトを訪問し,関係者と意見交換を行った。

また,国連婦人の地位委員会(2006(平成18)年2~3月)などの国際会議において社会的性別(ジェンダー)と開発に関わる討議に積極的に参加し,国際社会の知見を共有するとともに,我が国がODAにおいて社会的性別の視点を重視して取り組む姿勢をアピールした。

内閣府では,2006(平成18)年6月30日~7月1日,東京において「東アジア男女共同参画担当大臣会合」を開催した。本会合は,東アジアの男女共同参画に関する初の担当大臣会合であり,日本が主導し,議長国を務めたものである。参加全16カ国(中国,韓国,ASEAN10か国(インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ,ブルネイ,ベトナム,ラオス,ミャンマー,カンボジア),オーストラリア,ニュージーランド,インド,日本),2国際機関(ESCAP,UNDP)のうち14の国・国際機関から大臣クラスの参加を得,有意義な討議が行われた。今回の会合が成功したことから,本閣僚会合を年次開催とする決定を含む「東京閣僚共同コミュニケ」が全会一致で採択された。

また,国際的協調をより深めるべく,我が国とノルウェー王国との共催により,東京で「男女共同参画ジョイントセミナー:2006年のノーラ~女性がいかに社会を変えられるか」を開催したほか,男女共同参画に向けて特に早くから取組が行われている欧州諸国での男女共同参画の動きや変化について情報を得るとともに,政策担当者との意見・情報交換ネットワークづくり等を目的として,欧州評議会第35回男女平等運営委員会(2006(平成18)年11月)に,オブザーバーとして参加した。

厚生労働省では,女性と仕事の未来館において,我が国の女性労働関係者と開発途上国の女性労働関係者との相互交流を行い,我が国のこれまでの女性労働の経験,就労支援策に関する情報提供を実施した。

また,2000(平成12)年の国連特別総会(女性2000年会議)のフォローアップ活動の一環として,国際労働機関(ILO)に任意拠出を行うことにより実施しているマルチ・バイ・プログラムの「女性のための雇用とエンパワーメントプロジェクト」では,平成13年度から5年計画でカンボジアとベトナムにおける地方の低所得女性を対象にして,社会的性別(ジェンダー)の意識啓発に係るワークショップの実施,起業訓練等による女性の社会経済的地位の向上を図る取組を行っている。

(2)女性の教育分野における国際交流・協力の支援

独立行政法人国立女性教育会館では,アジア太平洋地域における男女共同参画を推進する女性教育の人材育成を目指してアジア太平洋地域の女性リーダーエンパワーメントセミナーを実施するなど,途上国における女性教育の推進の支援等を実施している。また,海外の関係機関との連携協力関係を構築するために,韓国両性平等教育振興院,韓国女性開発院と協定を締結した。

このほか,独立行政法人国立女性教育会館の活動や最新の日本女性の現状について,英文で海外に紹介する「NWEC Newsletter」を年2回発行するとともに,各種団体に対して国際交流機会を提供している。

(3)経済分野における国際協力

APEC(アジア太平洋経済協力)においては,2002(平成14)年に行われた第2回APEC女性問題担当大臣会合での合意に基づき設置されたAPEC女性問題担当組織ネットワーク(GFPN)の第4回会合が2006(平成18)年9月にベトナム(ホイアン)で開催された。この会合では,この先3年間の方向性について合意がなされた。なお,次回会合は,2007(平成19)年に豪州で開催される予定となった。