平成19年版男女共同参画白書

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第1節 配偶者等からの暴力の実態

(配偶者からの暴力についての被害経験)

内閣府では,全国の20歳以上の男女4,500人を無作為に抽出し,「男女間における暴力に関する調査」(平成17年)を実施した。本調査によると,これまでに結婚したことのある人(2,328人)のうち,配偶者(事実婚や別居中の夫婦,元配偶者も含む)から“身体に対する暴行”“精神的な嫌がらせや恐怖を感じるような脅迫”“性的な行為の強要”のいずれかについて「何度もあった」という人は,女性10.6%,男性2.6%,「1,2度あった」という人は,女性22.6%,男性14.8%,1度でも受けたことがある人は,女性33.2%,男性17.4%となっている(第1-4-1図)。

第1-4-1図 配偶者からの被害経験 別ウインドウで開きます
第1-4-1図 配偶者からの被害経験

(様々な困難を抱える被害者)

内閣府は,配偶者等から暴力を受けた被害者を対象に,被害者の置かれている状況,自立や心身の健康回復のために望む支援等についてのアンケート調査を実施し(回答799人),その結果を平成19年1月に公表した。調査によると,配偶者等から暴力を受けた被害者が,相手と離れて生活を始めるに当たって困ったことは,「当面の生活をするために必要なお金がない」(54.9%)が最も多く,以下「自分の体調や気持ちが回復していない」(52.9%),「住所を知られないようにするため住民票を移せない」(52.6%)等となっており,多くの被害者が一人で複数の困難を抱えていた(第1-4-2図)。

第1-4-2図 離れて生活を始めるに当たっての困難 別ウインドウで開きます
第1-4-2図 離れて生活を始めるに当たっての困難

(配偶者間における暴力の被害者の多くは女性)

警察庁の統計によると,平成18年中に検挙した配偶者(内縁関係を含む)間における殺人,傷害,暴行は2,239件,そのうち2,082件(93.0%)は女性が被害者となった事件である。

女性が被害者となった割合は,殺人は179件中117件(65.4%)と,やや低くなっているが,傷害は1,353件中1,294件(95.6%),暴行は707件中671件(94.9%),とそれぞれ高い割合になっており,配偶者間における暴力の被害者は多くの場合女性であることが明らかになっている(第1-4-3図)。

第1-4-3図 配偶者間(内縁を含む)における犯罪(殺人,傷害,暴行)の被害者(検挙件数の割合)(平成18年) 別ウインドウで開きます
第1-4-3図 配偶者間(内縁を含む)における犯罪(殺人,傷害,暴行)の被害者(検挙件数の割合)(平成18年)

(増加傾向にある夫から妻への暴力の検挙件数)

配偶者間における犯罪のうち女性が被害者である場合の検挙件数の推移を罪種別にみると,暴行,傷害はそれぞれ平成12年以降,増加し,16年に傷害が前年比で減少したが,18年においては,暴行が671件で前年よりも312件(86.9%)の増加,傷害も1,294件で30件(2.4%)の増加となっている(第1-4-4図)。

第1-4-4図 夫から妻への犯罪の検挙状況 別ウインドウで開きます
第1-4-4図 夫から妻への犯罪の検挙状況

(増加傾向にある夫からの暴力を理由とする婚姻関係事件数)

平成17年における家庭裁判所における婚姻関係事件の既済総件数は6万5,340件,うち妻からの申立総数は4万6,441件,夫からの申立総数は1万8,899件となっている。

「暴力を振るう」を理由とする妻からの申立件数は,平成17年において1万3,781件,裁判所における既済総数の21.1%(妻からの申立件数の29.6%)となっており,妻からの申立ての中では,「性格が合わない」に次いで2番目に多い理由となっている(第1-4-5図)。

第1-4-5図 婚姻関係事件における申立ての動機別割合(平成17年) 別ウインドウで開きます
第1-4-5図 婚姻関係事件における申立ての動機別割合(平成17年)

(配偶者暴力相談支援センター等への相談件数)

平成13年10月,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成13年法律第31号。以下「配偶者暴力防止法」という。)が施行され(配偶者暴力相談支援センター等に係る規定については平成14年4月から施行), 平成14年4月から,各都道府県は,婦人相談所等その他の適切な施設において配偶者暴力相談支援センターの業務を開始した。16年12月の法改正により,市町村においても配偶者暴力相談支援センターの設置が可能となった。18年11月1日現在,全国171施設が配偶者暴力相談支援センターとして,相談,カウンセリング,被害者やその同伴家族の一時保護,各種情報提供等を行っている。14年4月から19年3月末までに,全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談は23万9,170件に上っている。18年度の相談件数は5万8,528件で毎年度増加している。また,法施行後18年12月末までの間に,警察に対し寄せられた配偶者からの暴力に関する相談等への対応件数は,7万9,850件(平成18年の対応件数は1万8,236件)でここ数年,毎年増加している。

(婦人相談所における一時保護並びに婦人保護施設及び母子生活支援施設の入所理由)

平成17年度中の,婦人相談所一時保護所への入所理由のうち,夫等の暴力は68.8%と全体の半分を超えている。婦人保護施設及び母子生活支援施設の入所理由をみると,「夫等の暴力」を挙げた割合はそれぞれ34.9%,48.7%となっている。いずれの施設においても暴力を理由とする入所は高い割合となっている(第1-4-6図)。

第1-4-6図 婦人相談所一時保護所並びに婦人保護施設及び母子生活支援施設への入所理由(平成17年度) 別ウインドウで開きます
第1-4-6図 婦人相談所一時保護所並びに婦人保護施設及び母子生活支援施設への入所理由(平成17年度)

(シェルター設置状況)

シェルター(配偶者からの暴力などから逃れてきた女性のための一時避難所)として利用できる施設で,法律に設置根拠があるものとしては,婦人相談所,婦人保護施設,母子生活支援施設がある。婦人相談所は売春防止法(昭和31年法律第118号)に基づき,各都道府県に1か所,婦人保護施設は同じく売春防止法に基づき,全国に50か所(公営23か所,民営27か所(平成18年4月1日現在)),母子生活支援施設は,児童福祉法(昭和22年法律第164号)に基づき,全国に285か所(公立174か所,私立111か所(平成18年3月末現在))がそれぞれ設置されている。

このほかに,民間の団体等が自主的に運営している「民間シェルター」がある。

平成18年11月現在,内閣府が把握している民間シェルター数は31都道府県102か所であり,特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という。)や社会福祉法人など法人格を有しているものもあるが,約44%(45施設)(平成17年調査では約44%)は法人格を有していない。

民間シェルターは,被害者の保護や自立支援をきめ細かく行うなど,配偶者からの暴力の被害者支援に関し,先駆的な取組を実施している。

(保護命令の申立て及び発令状況)

配偶者暴力防止法では,被害者の申立てにより,裁判所が加害者に対し接近禁止命令,退去命令を発する保護命令の制度を新設し,この命令違反に対して刑事罰を科すこととしている。

平成16年12月に,配偶者暴力防止法の改正法が施行され,被害者への接近禁止命令と併せて,被害者と同居する未成年の子への接近禁止命令も発令できるようになった。

保護命令の申立書に,配偶者暴力相談支援センターの職員または警察職員に相談等を求めた事実等の記載がある場合は,配偶者暴力防止法第14条第2項に基づき,裁判所は配偶者暴力相談支援センター又は警察に対し,被害者が相談等を求めた状況等を記載した書面の提出を求めることとなっている。申立書にこうした事実の記載がない場合は,公証人役場で認証を受けた宣誓供述書を申立書に添付しなければならない。法施行後から平成18年12月末までに終局した保護命令事件1万993件のうち,支援センターへの相談等の事実の記載のみがあったのは2,211件,警察への相談等の事実の記載のみがあったのは4,584件,双方への相談等の事実の記載があったのは3,615件となっている。また,申立書に宣誓供述書が添付されたのは543件となっている。

法施行後平成18年12月末までの間に,裁判所に申し立てられた保護命令事件の件数は1万1,055件で,そのうち裁判が終了したのは1万993件となっている。裁判が終了した事件のうち,保護命令が発令された件数は8,785件(80.0%),そのうち被害者に関する保護命令のみ発令されたのは6,184件(70.4%),子への接近禁止命令が発令されたのは2,601件(29.6%)となっている(第1-4-7図)。

第1-4-7図 配偶者暴力に関する保護命令事件の処理状況 別ウインドウで開きます
第1-4-7図 配偶者暴力に関する保護命令事件の処理状況

法施行後平成18年12月末までの間に保護命令が発令された事件の平均審理期間は12.3日となっている。

なお,法施行後から平成18年12月末までの間の保護命令違反の検挙件数は267件である。