第4節 今後の展望

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第4節 今後の展望

(世帯構造の分散化)

第1節1で見たとおり,生産年齢人口及び高齢層 の両方において,単独世帯が増加しており(1-特-2図),今後もこの傾向は続くことが予測されている(第1節1)。

単独世帯の増加には,未婚者の増加が大きく関わっていることが考えられる。男女とも,生涯未婚率は上昇を続けており(1-特-2b図),独身に利点を感じる者の割合は高水準を維持している(第1節1)。若年層の男性における非正規雇用率 の上昇は,未婚率の増加傾向に影響を与える可能性 がある(1-特-3a図18図)。

ただし,未婚者が必ずしも一人で生活するとは限らない。夫婦と子供から成る世帯やひとり親世帯の中で,壮年の子供と高齢の親という組合せが増えていくことも考えられる。

このように,高度経済成長期に典型的な家族類型として語られることが多かった「核家族」(夫婦のみの世帯,夫婦と子供から成る世帯,ひとり親の世帯)は今や多数派ではなくなり,世帯構造の割合は様々な家族類型に分散している。独身者女性において,結婚に利点を感じる者の割合や希望する子ども数が微増に転じていることから(第1節1),単独世帯の増加に歯止めがかかる可能性もあるが,家族類型の分散傾向を大きく変えるだけの影響力を持ちえると断言することは,現時点では難しい。

(性別分業スタイルの非主流化)

平成9年に,共働き世帯数が男性雇用者の夫と無 業の妻世帯数を上回り,現在も増加し続けている(第1節11-2-8図)。このような性別分業スタイルの非主流化には,女性の就業や性別役割分担に関する男女の意識の変化(1-特-2526図)とともに,男性の就業を取り巻く状況の変化が大きく影響していると考えられる。

第一に,終身雇用が男性の就業における暗黙の前 提として考えにくくなりつつあることが指摘できる。59歳以下の男性就業者の平均勤続年数は減少している(1-特-21a図)。また,建設業,製造業といった従来の主力産業において,男性の就業者数が大きく減少し(1-特-15図),転職者が増えてきているものの(1-特-20図),成長産業への労働力人口の移動は,女性と比べると鈍い状況である(1-特-1516図)。雇用形態でも変化が生じており,男性の非正規雇用者が増加を続けている(1-特-18図)。

第二に,男性の賃金の減少傾向が挙げられる。雇用形態及び到達した教育段階にかかわらず平均所定内給与額が減少傾向にある(1-特-21b図)。男性雇用者が一人で家計を支えることは,以前と比べて難しくなりつつあると考えられる。男性の就業者に占める管理的職業従事者の割合は大きく減少しており(1-特-22図),昇進による昇給が以前より期待しにくい状況となっている。

このように,安定した終身雇用及び昇給という従来の雇用形態を暗黙の了解と考えることは難しくなっており,経済的な理由から女性が就業するというケースが,今後も増えていく可能性が考えられる。

(男性のワーク・ライフ・バランスの現実と男性の意識)

男性の就業を取り巻く状況が厳しくなりつつある中,男性の長時間労働や家事関連活動との関わり方に,劇的な変化は見られない。今のところ,年間就業日数が200日以上の男性の労働時間に顕著かつ持続的な減少傾向は見られず(1-特-6図),有業・有配偶男性の家事関連活動は,以前と比べて拡大しているものの,全般として女性より低い水準が続いている(1-特-7図)。また,男性の育児休業等制度の利用者も大きくは増加していない(1-特-8図)。ただし,有配偶の正規雇用者の女性において,夫が育児を手伝わないことが理想の子ども数を持たない理由であると考える割合が低下している(1-特-5b図)。

男性の長時間労働や家事関連活動への参加におい て大きな変化が見られないことには,主たる稼ぎ手としての男性の意識が背景にあると考えられる。男性の非正規雇用者が,非正規雇用を選んだ理由として「正規の職員・従業員の仕事がないから」を挙げる割合が高いことから,男性に正規雇用が標準的な雇用形態と考える傾向があると考えられる(第2節2)。

一方で,長時間労働や家事関連活動時間の短さといった現状に,必ずしも男性が満足しているわけではないこともうかがわれる。現状として仕事を優先している男性は,仕事を優先させたいと希望する男性の倍以上に達しており,現状として仕事と家庭生活をともに優先している男性は,ともに優先したいと希望する男性の3分の2にとどまっている(1-特-27図)。個人の意識だけではなく,企業や組織の労働慣行や経営・人事に関する方針が見直されなければ,男性の仕事と生活の調和に関する現実と理想のかい離を埋めることは難しいと考えられる。

(夫婦の役割に関する女性の意識)

男性の長時間労働や家事関連活動への関わり方は,男性の意識や企業・組織の労働慣行等だけで決まるものではない。男性の働き方や家事関連活動に関する女性の意識もまた,重要な決定要素である。独身女性の間で,結婚に経済的な利点を感じる割合が上昇している(第1節1)。また,大学卒の昭和38年以降生まれ世代の独身女性は,37年以前生まれ世代と比べて性別役割分担を肯定する割合が高くなっている(1-特-26図)。仕事と生活の調和については,女性の3分の1が家庭生活を優先したいと考えている(1-特-27図)。さらに,専業主婦の幸福度は,正規雇用者の有配偶女性と比べて高く,世帯収入が高いほど女性の幸福度は高い(1-特-29図)。このように,男性だけでなく,女性にも男性を主たる稼ぎ手として考える傾向があることがうかがわれる。

(到達した教育段階の関わり)

家族類型・形成,就業及び男女共同参画に関する意識は,個々人の到達した教育段階と密接に関わっている。男女を問わず,教育段階によって未婚率や雇用形態が大きく異なる(1-特-3b図19図)。また,男性の平均所定内給与額の減少幅は,雇用形態の如何にかかわらず教育段階によって異なる(1-特-21b図)。到達した教育段階が近い男女が結婚する割合が高く,共働き夫婦の所得の合計額は,夫婦の教育段階の組合せによって大きく異なる(1-特-24図)。さらに,男女を問わず,教育段階が高いほど女性の就業を肯定的に考え,性別役割分担を否定的に考える傾向が見られる(1-特-2526図)。

ただし,言うまでもないが,到達した教育段階が全てを説明するわけではない。例えば,大学を卒業することによって女性の就業についてより肯定的な考えを持つようになったり,性別役割分担についてより否定的な考えを持つようになったりする,ということを必ずしも意味するものではない。元々女性の就業に肯定的な考えを持つ人が高等教育を志向する傾向にある可能性もある。また,教育段階によって卒業後の就業経験が異なり,そうした就業経験を通じて意識が形成され変化することも考えられる。

(今後に向けて)

これまで見てきたように,男性の就業を取り巻く状況は大きく変化しており,経済的な理由から女性が就業するという例が増えていくことが考えられる。男女とも,女性の就業を肯定的に考える割合が増えており,特に若年層においては,性別役割分担に関する意識は男女でほとんど差が見られなくなっている。一方で,男女の両方において男性を主たる稼ぎ手であると考える傾向も見られ,特に若い世代の独身者女性においてその傾向が強い。また,昭和38年以降生まれ世代の大学卒の独身者女性において,37年以前生まれ世代よりも性別役割分担を肯定する割合が高くなっている。

到達した教育段階別に見ると,中学校・高等学校卒の男女は,大学卒の男女と比べて平均収入が低い一方で,女性の就業に否定的で性別役割分担に肯定的な考えを持つ割合が高い。

このような現状と意識のかい離は,必ずしも現状が正確に認識されておらず,意識の変化が現状の変化に追いついていない,ということを意味するわけではない。男女が,現状を踏まえた上で現状とは逆の理想や願望を抱いていることを表している可能性もある。確実に言えるのは,家族類型,産業,就業スタイル,個人・社会生活等あらゆる面において変化や多様化が進み,「主力」,「標準的」,「典型的」といった言葉で表せるような特定のモデルはもはや存在しない,ということである。個々の男女のみならず企業・組織や行政も,あらゆる面における変化をより迅速かつ的確に把握して,従来の考えに縛られることなく様々な施策や制度の検討・実施を行うことが求められる。