「共同参画」2019年11月号

特集2

DVと児童虐待との関係

佐賀県DV総合対策センター所長、女性に対する暴力に関する専門調査会委員
原 健一氏

「佐賀県DV総合対策センター」とは、DV被害者支援機関や民間団体、弁護士会、医師会などが連携して、男女間のあらゆる暴力の根絶や被害者への支援、未然防止を行っている機関です。また、内閣府男女共同参画局の「女性に対する暴力に関する専門調査会」では、男女共同参画基本計画で取り上げている、配偶者等からの暴力、性犯罪、売買春、セクシュアル・ハラスメント、ストーカー行為等について、今後の施策を検討をしています。これらの機関で活躍されている原健一氏に、DVと児童虐待の関係について、お話をお伺いしました。

 

家庭内におきる暴力

平成30年度に全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は年間11万件を超えて過去最多、全国の児童相談所の相談対応件数も15万件を超えている。

家庭という閉鎖的関係において起こるこれらの暴力は外部から見えにくいものだが、昨今の痛ましい虐待死事件の報道等を通じて社会の関心は高まりつつある。

「虐待の背景にはDVの影響があった」と分析されることも少なくないが、重篤なケースでは、DVという「支配とコントロール」の構造の中で、自己に対する暴力を回避するために子どもが暴力を振るわれていても止めることすらできず、むしろ暴力に加担したり、または沈黙を強いられている場合も見られる。また、DVという強いストレスから被害者自身が子どもに強く当たったり、無理な要求を子どもに強いるケースも見られ、結果的にDV被害者が、虐待の当事者となってしまうこともある。

配偶者やパートナー間に生じる「身体的」「精神的」あるいは「性的」暴力の影響は、服従と同時に隠れた敵意や反発、あるいは無力感を相手に植え付けることとなり、緊張に満ちた関係を生み出す。子どもは直接的な暴力被害のみならず、日常的に暴力のある関係性を当たり前と認識し、日常的な対等性や相互への信頼、労り合いを学ぶ機会が奪われることにもなるのだ。

配偶者暴力相談支援センターの相談件数のグラフ

児童相談所での児童虐待相談対応件数のグラフ

 

難しい暴力の評価

DVや児童虐待という言葉の認知度が上がるにつれ、「DVはよくない」「児童虐待などもってのほか」と多くの人は認識するものの、自分が今行っている行為がそれらに該当するのかどうかを、過小評価せず、かといって過敏にもなりすぎず正確に省みることは難しい。

それは、一つには家庭内の「しつけと称した体罰」という考えがまだ世間的に残っており、当事者にとって、虐待は正当化されやすいこと。二つには報道等による極端なケースとの対比で「ウチはそこまでではない」など、当事者意識を持ちにくいこと。そして、三つめには「心理的虐待」や「ネグレクト」は、その中身や子どもに対する影響等に対する理解が十分ではないことが挙げられる。特に、子どもが見ている前でDVを行う「面前DV」は、心理的虐待の多くを占め、児童虐待の通告件数を押し上げており、子どもへの影響も深刻であることから、こうした現状への理解を求める取組が急務である。

必要となる国や地方自治体の取組

「面前DV」をはじめ、子どもを含めて暴力の被害に晒された人々に対しては、そこから抜け出すための支援情報の提供やその後の心身のケアのさらなる充実が必要である。その一つとして、母子の同時並行プログラムや回復につながるプログラムに長年取り組んでいる民間団体もあるが、当事者には、その情報が十分には行き届いておらず、地域によっても偏りがある。このようなプログラムへの理解が深まり、全国的な展開が求められるが、そのためには、民間団体による自主的な取組に加え、国や地方自治体における積極的な関与も検討する必要があろう。

当然ながら、若年婚、ステップファミリーや特別養子縁組等、さまざまな形態の家族が存在している。同時に、どのような家庭においても夫婦間や親子間で緊張をはらむ葛藤場面はあり、家族の形態にかかわらず、あらゆる家族関係において、DVと児童虐待が起きている可能性がある。大切なことは、幸せになりたいと望んだ家族のかたちを尊重し、お互い支えあい回復しようとしている人たちを支え、温かく見守ることや困った時に相談してもらえるような体制が整っていることである。

国は、痛ましい虐待死事件を受け、本年6月、児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律を成立させた。その中には、児童虐待対策とDV対策との連携強化を目的とする規定もあるが、理念のみならず、支援の実態として現場に浸透していけば、DVや児童虐待に苦しむ被害者や子どもの早期発見と早期対応につながるだろう。

近い将来、配偶者暴力相談支援センターと児童相談所を始めとする関係機関による見事なコラボレーションが生じていくことを期待したい。

DVと児童虐待のイメージ図
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