「共同参画」2019年10月号

特集1

理工系分野で活躍するSTEM Girls Ambassadors
内閣府男女共同参画局総務課

マダム、これが俺たちのメトロだ!

オリエンタルコンサルタンツ インド現地法人取締役会長
阿部 玲子氏

ある日曜日

私は日曜日にインドの庶民の足であるオートリキシャに乗って街に買い物に出かけた。道はメトロ工事のため渋滞しており、遅々として進まない。突然、オートリキシャのドライバーが建設現場を指さし「マダム、これが俺たちのメトロだ!」と、外国人である私に自国のメトロを自慢したのだ。その国の人に自慢してもらえる、自分はそんな仕事に携わっているという事が、今でも私のモチベーションとなっている。

四面楚歌

土木工学を学び、建設会社への就職を希望したのは30年前。当時の建設会社は女性の総合職に門戸が開かれておらず、女性であるという理由だけで面接さえ受けられない日々が続いた。紆余曲折ありながら、ようやく建設会社に就職できた。しかし入社してからも「女性がトンネルに入ると山の神様が怒って山が崩れる」との言い伝えもあり、建設現場に入れてもらえずデスクワークでの日々が続いた。男性社員は現場での経験を積み重ねていく。でも、私は現場経験もなく、なかなか将来図が描けない。何かを目指すと女性であることで阻まれる。そんなことの繰り返しだった。なかなか思うようにいかず、悔しくて落ち込んでいる私に、「四面楚歌って言うけど天井は開いてるよ」と母がささやいた。女性であることは変えられない。でも突破口はあるはずだ。土木エンジニアが苦手としている英語を武器にしよう。日本がダメなら海外でトンネルを掘ろう。四面楚歌、でもどこかは開いている!

海外への挑戦、そしてインドへ

私はノルウェーに留学し、留学後はノルウェーのトンネル現場で研修を重ね、ついに台湾新幹線のトンネルプロジェクトに参加できる機会を得た。4年間、新幹線プロジェクトに従事し、ようやく自信がつき始めた頃、海外事業の受注が少なくなり、同僚たちは次々と国内にシフトしていく。日本国内の現場経験のない私はリストラの対象となった。落ち込むより先に、「何か突破口はあるはずだ」と就職活動に着手し、海外建設コンサルタントに再就職が決まり、2007年からインドへの挑戦が始まった。

安全は日本から

インドの建設現場ではワーカーの多くはヘルメットなど被らないし、普段着のままで裸足で歩き回っている者も珍しくない。このような状態から、メトロ現場では安全3点セット(ヘルメット・安全チョッキ・安全靴)の着用を徹底した。

ここに至るまでには、多大な努力が必要だった。日本のゼネコンとコンサルタント、そしてメトロ公社が三位一体になって初めてこの安全管理の改善に着手できたといえる。まず安全3点セットの着用を徹底しようと、一括購入してワーカーに配布した。ところが、関係者全員に支給したにも関わらず、一向に着用しない。着用しない理由を聞いてみると、「新品なので家に保管してある」と答えたのだという。この事態を受けて、3点セットを着用していない者は現場に立ち入らせないという強硬策に出た。ワーカーは現場に入れなければ日当をもらえない。但し、地元の建設会社の雇用契約に関連するので、いくら日本の建設会社がリーダーでも、一存で決められるものではなく、3点セット着用の意義をメトロ公社に対し説明して同意を得て、新たなルールが導入され、安全3点セットの着用習慣が浸透していった。今ではインドにおいて、きちんとヘルメットをかぶっている工事現場を見かけたら、それはメトロの建設現場に間違いない。

メトロに乗ろう

メトロ完成前の主な交通手段はバスと車とオートバイだったが、現在はメトロが最多となっている。市民がメトロを使う理由に「時間の節約」「快適さ」を挙げている。現在、デリーメトロは1日当たり約470万人もの人々が利用していて、多くの市民にとって重要な交通手段となっているのは間違いない。

また、インドではメトロは女性が安心して利用できる初めての公共交通機関であると言われており、メトロ導入が女性の社会進出の後押しになっている。現在、インドのメトロの先頭車両が女性専用車両になっていて、各車両には防犯カメラと非常通報装置が設置されている。デリーメトロ公社自体も、女性の雇用推進に乗り出し、主要な駅には女性警備員と女性駅員が配置されている。メトロは女性の活動範囲を広げ、女性の移動の自由や社会進出に貢献している。

メトロ・マダムと呼ばれて

弊社では300名弱のインド人スタッフを雇用しており、日本人である私についてきてくれている。これは決して私個人の力ではなく、先人の日本人エンジニアの方々が、この異国の地で積み重ねてきた信頼があり、そして確かな技術力を示してきてくださったからこそ、人々がついてきてくれているのだと思う。

私は現場ではメトロ・マダムと呼ばれている。この名前に負けないように、先人達の経験を踏襲し、そして新しいことを加えて、インドの方々にお渡しする。そんなマダムになれるよう、今日もまた挑戦を続けていきたい。

 

願いを叶える力、新しいものを作る力が身につく工学系

H2L創業者/博士/JSTさきがけ研究員/早稲田大学准教授
玉城 絵美氏

現在の仕事は

H2Lの創業者として、また早稲田で准教授としても研究開発をしています。また、女性活躍を推進するためにSTEM Girls Ambassadorとしても活動しています。

研究開発では、自分の部屋にいながら、VRのキャラクタやロボットの体を通じてさまざまな体験を共有するBodySharingというビジョンを実現しようとしています。このビジョンを実現するため、様々なプロジェクトを実施しているため、「職業名は?」と言われると明言し辛い仕事でもあります。

一般に仕事とは会社に行くイメージがありますが、私はビジョンを実現するために、会社だけでなく大学や自宅で、様々なプロジェクトと関わりながら研究開発をしています。BodySharingを普及するために、プログラミングや精度実験だけでなく、認知心理学的な実験、回路設計、シミュレーション、マネージメント、マーケティングまで多岐にわたる研究開発をしています。

現在の仕事につかれるまでの経緯は

高校時代の入院生活がきっかけとなっています。入院生活、引きこもりの私は結構楽しかったのですが、外の体験はしたかったので、そのための研究をしようと思いました。

琉球大学へ行き、筑波大学 大学院で研究をしていく中で、研究だけでなくそれをビジネスとして世の中に普及していかなければと感じました。

東京大学の院に行き、同様の志を持った後輩の岩崎と出会い、東大のベンチャーキャピタルのインターンや、未踏の開発プロジェクトを実施し、研究だけでなく起業準備をしました。その後、BodySharingを実現するための研究成果PossessedHandを発表し、H2Lを創業しました。

仕事のやりがい

自分のやっている研究や、ビジョンが結果としてでてくることにやりがいを感じます。研究結果は、自分が思った通りに行けば嬉しいですが、結果が予想通りでなくても嬉しいです。その結果をなぜだろうと考えて、また次に繋げることができます。

また、自分が研究したものが会社で製品というかたちになり、世の中に出てたくさんの人に届くこともやりがいを感じます。

UnlimitedHandやFirstVRも、販売した当日に予約が殺到したり、そうして広がっていくということも嬉しいです。

ネットのおかげで、結構ユーザーさんの反応がうけとりやすくなっている。世に出ていく技術に対して、フィードバックはすぐに受け取れるようになってきた。製品なら、もっと小型にした方がよいのかな、とかを素早く次の製品に落とし込めるのが良いですね。

大変なこと

みんなが欲しいものと、自分がやりたいことをそこに加えていくといったバランスが難しいなと思っています。

たとえばPossessedHandを発表したときは、「きもちわるい」と言われ、あまり受け入れてもらえませんでした。そのとき自分のビジョンだけでは世の中に広がっていくのが難しいと感じ、起業をして、VRへ研究技術を応用し、技術の有用性も同時にアピールしていくようにしています。

理系に進もうかと悩んでいる後輩女子に

みなさん、自分の夢とか、自らの欲望があると思います。私の場合は、家から出ないで引きこもれる世の中にしたいと思っています。願いを叶える、新しいものを作る力が身につくのが、私のいる工学系です。工学系は男性が多いのですが、女性もすこしずつ増えています。

現在、今までのメジャーな視点ではなく、新しい視点で世の中をみれる人が求められています。工学系でいう女性は、そういった意味で今求められている存在だと感じます。

是非工学系で、自分の願いを叶えるため進んでみてください。

PossessedHandとは

PossessedHandは、使用者に手の動き(ハンドジェスチャー)で情報提示する装置です。腕に巻いた2枚のベルトから前腕の筋肉に電気刺激を与え、手指の動きを制御します。前腕の筋肉は手指の腱につながっており、その筋肉を収縮することにより、 手指を動作させることができます。

現在は、琴の演奏を支援するアプリケーションが開発されています。

PossessedHandが演奏時にどの指をどのタイミングで使うのかの情報を提示してくれます。


PHOTO BY KAORI NISHIDA


「PossessedHand」の実物の人間による実装風景

STEM Girls Ambassadors(理工系女子応援大使)

2018年6月、(当時)野田内閣府特命担当大臣(男女共同参画)から、理工系分野で活躍する女性が、「STEM Girls Ambassadors(理工系女子応援大使)」として委嘱されました。

理工系分野における女性活躍を目指し、女子生徒等の理工系分野への進路選択促進のためには、多様なロールモデルを示すとともに社会全体で応援する機運醸成を図る必要があります。STEM Girls Ambassadorsは、講演会等を通じて、このムーブメントを全国的に広げていきます。

※STEM = Science, Technology, Engineering and Mathematics

現在、寄稿していただいた渡辺美代子氏、阿部玲子氏、玉城絵美氏を含め7名のSTEM Girls Ambassadorsに活動をお願いしています。

内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
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