「共同参画」2019年7月号

特集

多様な選択を可能にする学びの充実
−令和元年版男女共同参画白書から−
内閣府男女共同参画局調査課

6月14日に、「令和元年版男女共同参画白書」が閣議決定、公表されました。本白書は、男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)に基づいて毎年国会に報告するもので、今回が20回目になります。

今回の白書では、特集として、「多様な選択を可能にする学びの充実」を取り上げました。ここでは、特集のポイントをご紹介します。なお、図については備考を一部省略しております。詳細は内閣府男女共同参画局ホームページにてご確認ください。

 

1.女性の教育・学びの進展

■ 女子の高等教育は短期大学から大学へ

昭和35(1960)年度の時点では、女子の高等教育機関への進学率は、大学、短期大学ともに5%未満でしたが、高度経済成長期には短期大学を中心に進学率が大きく上昇し、昭和50(1975)年度の時点では、大学進学率は1割、短期大学進学率は2割を超えます。その後、バブル経済崩壊期までは高等教育機関への進学率がやや停滞しますが、バブル経済崩壊以降は再び上昇しています。

バブル経済崩壊以降の女子の高等教育機関への進学率では、高度経済成長期と異なり、大学への進学率が大きく上昇し、平成30(2018)年度現在で5割を超えていますが、依然として男子の大学進学率を下回っています(図1)。

図1 学校種類別進学率の推移

■ 大学における専攻分野に男女の偏り

薬学・看護学等や人文科学、教育等を専攻する学生は、昭和50(1975)年度時点で女子が過半数を占めており、その後も同様の傾向が続いています。一方、理学、医学・歯学、農学や社会科学においては、昭和50(1975)年度時点では女子の割合が1割前後でしたが、平成5(1993)年時点では農学、医学・歯学や理学において2割を超え、平成30(2018)年度時点では農学や社会科学、医学・歯学は3割を上回っています。

しかし、工学においては、女子の割合は昭和50(1975)年度の0.9%からは上昇しているものの、平成30(2018)年度時点においても15.0%にとどまっており、また理学においても3割に達していません。

■ 大卒者の仕事の男女差は縮小、高卒者の男女差はなお大

学校卒業後の就職先を、直近の平成29(2017)年度と昭和49(1974)年度で比較すると、大学卒業者では、全体として男女の相違が小さくなりつつありますが、高等学校卒業者の場合は、引き続き相違が大きくなっています。高等教育機関への進学の状況について男女の相違が小さくなると、学校を卒業して就く職業についても男女の相違が小さくなることが推察されます(図2、3)。

■ 女性の専門的・技術的職業従事者の就業分野は多様化

昭和49(1974)年度、平成29(2017)年度の大学卒業者の就職先を職業別に見ると、ともに女子は専門的・技術的職業従事者が最大となっています。しかしその内訳を見ると、昭和49(1974)年度は教員が7割を超えていたのに対して、平成29(2017)年度は保健医療従事者が4割強、技術者や教員各々約2割と、就業分野が多様化しています(図2、3)。

図2 大学等卒業者・高等学校卒業者の職業別就職者の構成比(昭和49(1974)年度)
図3 大学等卒業者・高等学校卒業者の職業別就職者の構成比(平成29(2017)年度)

2.進路選択に至る女性の多様な状況と多様な進路選択を可能とするための取組

■ 女子は男子よりは国語好きが多いが、小学生女子は国語より理科が好き

ベネッセ教育総合研究所「第5回学習基本調査」(平成28年)によると、小学生、中学生の好きな科目については、女子は男子に比べて国語が好きな割合が高く、男子は、女子に比べて社会や算数(数学)、理科が好きな割合が高くなっています。もっとも小学生女子は国語より理科が好きな者が多く、3位の国語と4位の算数も僅差です。しかし、中学生女子になると5科目中数学、理科は各々4位、5位に低下しています。

また、中学生を対象にした「女子生徒等の理工系進路選択支援に向けた生徒等の意識に関する調査研究」(平成29年度内閣府委託調査)によると、自身を「理系タイプである」もしくは「どちらかといえば理系タイプである」と回答した女子は27.1%、自身を「文系タイプである」もしくは「どちらかといえば文系タイプである」と回答した女子は41.0%であり、男子に比べて女子は自身について「文系タイプである」、「どちらかといえば文系タイプである」と回答した生徒が多くなっています。

■ 女子の理系回避の原因は成績ではなく、環境

OECD(経済協力開発機構)が平成27(2015)年に実施したPISA調査(生徒の学習到達度調査)によると、我が国の女子の科学的リテラシー及び数学的リテラシーの点数は、男子に比べると低くなってはいますが、諸外国の女子及び男子よりも高くなっています。

しかしながら、大学等における理工系分野の女子割合は低くなっています。これは、女子の理数系科目の学力不足ではなく、周囲の女子の進学動向、親の意向、ロールモデルの不在等の環境が影響していると考えられるため、生徒に学んだ知識と実社会のつながりを理解させるような環境を醸成することや、生徒だけでなくその家族や保護者に対しての支援も行うこと等が必要であると指摘されています。

■ 進路選択における教員の影響

教科別に女性教員の割合を見ると、中学校では国語や英語で女性教員が多くなっていますが、数学や理科、社会では男性教員が多くなっています。この傾向は、高等学校においても同様です。いわゆる文系科目に女性教員が多く、いわゆる理系科目及び社会科に男性教員が多いといえます。これは、好きな科目の男女の傾向と一致しています。

「女子生徒等の理工系進路選択支援に向けた生徒等の意識に関する調査研究」によると、自身を「理系タイプである」もしくは「どちらかといえば理系タイプである」と位置付けている割合を、中学校で理数科目(数学、理科)を1科目でも女性教員から教わっている女子と、2科目ともに男性教員から教わっている女子とで比較すると、それぞれ33.8%、22.5%と、前者が11.3%ポイント高くなっています。理数科目の女性教員の存在は、身近なロールモデルとして女子の目に映っているとも考えられます。

■ 進路選択における家族等の影響

「多様な選択を可能にする学びに関する調査」(平成30年度内閣府委託調査)によると、働く上でのイメージや進路選択において影響を受けた人や物事は、小学生の頃、中学生の頃、大学・短期大学・専門学校への進学時、就職時を通して女性は母親、男性は父親と、同性の親の影響を受けています。

満足できる進路選択ができなかった理由について見ると、「家族が進学先(学校・学科)について反対したから」や「経済力が十分でなかったから」はいずれも女性の方が高くなっていますが、若い世代ほどこれらを理由に挙げる割合が少なくなっています。

■ 進路選択のポイント「就職に有利」か「就職のための資格取得」か

「多様な選択を可能にする学びに関する調査」により、大学・短期大学・専門学校への進学時に重視したことについて見ると、男性は「進学または就職に有利であること」が22.9%、「自分のやりたいことを勉強できること」が22.1%と多くなっていますが、女性は「自分のやりたいことを勉強できること」が28.4%、「就職のための資格が取れること」が24.9%と多くなっています。

■ 女子の大学・大学院進学率は上昇したが、学部による偏りは大

大学学部専攻では、工学を専攻する女子が際立って少なくなっています。また、研究者のうち大多数を占める工学、理学分野において女性の割合が特に少なくなっています(図4)。

図4 専門分野別研究者数(平成30(2018)年)

■ 多様な進路選択のために

多様な進路選択のためには、学生・生徒が固定的性別役割分担意識等にとらわれず、主体的に進路選択するためのキャリア教育の充実や、女性研究者が働きやすくすることが大切になります。

3.社会人の学び

■ 企業における学びの状況

勤め先企業における研修は、どの程度実施されているか、正社員に限って見ても、全ての項目について女性が男性より低い水準となっています。さらに、企業における人材育成は、正社員・正職員が中心となっているところ、若い世代の女性の非正規雇用労働者の割合は男性より高く、多くの女性にとって初期の段階から企業における学びの機会が限られているという問題があります(図5)。

図5 勤め先企業における教育訓練の適用状況(正社員)

また、我が国の管理的職業従事者に占める女性の割合が低い現状において、男性と比較して管理職として育成される対象者の数がそもそも少ないという問題があります。これについては、管理職育成や中核的人材の育成を始めるタイミングが出産・子育てのピークに重なっており、育児や家事の負担が女性に偏在している我が国においては、女性が出産・子育て等による勤務形態の制約等により管理職に必要とされている経験を積めないといった本人の能力等に関わらない要因によるものもあるのではないかといった指摘もなされています。働き方の多様化に応じたきめ細かな雇用管理や研修・人材育成のためのマネジメントに着実に取り組んでいくことが重要です。

■ 再就職に当たっての学び直し

出産・育児等によって就業にブランクのある女性について見ると、働くこと自体に対する不安が大きく、就業を希望しながらも再就職活動になかなか踏み出せないという状況もあります。また、出産・育児等によるブランクのある女性は、離職中の子育て等の経験や地域活動はキャリアにつながらず仕事に役に立つことはないと考えてしまいがちであり、自尊感情が低いことが働くことに対する不安の強さにつながっていることも考えられます。

こうしたケースでは、仕事に直結するスキルアップのための学びの前に、不安を取り除き自己肯定感を高めて仕事に就くことを後押しする学びが必要です。

■ 起業のための学び

起業を希望する女性が具体的なイメージを持って起業に向けた行動を起こすことができるようになるためには、先輩起業家からの学び、やりたいことやアイデアを引きだす学びや事業化体験の場といった学びの機会が求められています。

地方自治体や男女共同参画センターなど生活に身近な場で、ライフプラン(生活設計)を考えながら起業を準備する学びを提供することも有益です。


カフェ開業のための実践的な学び(大阪市立男女共同参画センター中央館「クレオ大阪中央」)

■ 学び直しのために必要なこと

「多様な選択を可能にする学びに関する調査」により、仕事のための学びに必要なことについて見ると、女性は「経済的な支援があること」が最も多く、次いで、30代は「家事・育児・介護などにかかる負担が少なくなること」、それ以外の世代は「仕事にかかる負担が少なくなること」となっています。

末子が小学校就学前の場合、女性は「家事・育児・介護などにかかる負担が少なくなること」が48.4%で最も多く、同じく末子が小学校就学前の男性の約3倍です。家事・育児等の負担が女性に偏っていることが、特に小さい子供がいる女性にとっての学び直しのハードルになっていることが明らかです。

■ 学びを通じた多様な生き方の選択に向けて

男性が仕事以外の学び、とりわけ家事・育児・介護などの家庭生活のための学びを躊躇なく選択できるようにする環境も重要です。

これまで男性中心型労働慣行の下、家事・育児・介護などに慣れておらず、近所づきあいや地域活動も女性に任せてきた男性が、何らかの事情で家事・育児・介護などをせざるを得なくなることもあり得えます。

しかしながら、固定的な性別役割分担意識が強い場合には、家事・育児・介護などに関する学びの場への参加自体を躊躇しがちであり、普段から地域社会との関わりもない場合には、家事・育児・介護などに関する基礎的知識や初歩的スキルもないまま孤立し、家庭生活に支障をきたしてしまうおそれもあります。

このため、家庭生活のための基礎的知識や初歩的スキルを学ぶことができるだけでなく同じ境遇の者同士が悩みを共有するなどして孤立しがちな男性たちの「居場所」ともなるような工夫がなされた家庭生活のための学びの場が、身近にあることが求められます。


困りごとの共有から地域とつながる仕組み(男の介護教室)

4.学びの充実を通じた男女共同参画社会の実現に向けて

■ 学びの制約

仕事のための学びについては、女性は、ハードルとして家事や育児などの負担を挙げる人が多く、家事・育児等の負担が女性に偏っていることが、女性にとって、社会人の学びに当たって大きなハードルになっています。

女性は大学等への進学時に「就職のために資格が取れる」ことをより重視する傾向があります。これは、男性中心型労働慣行の中で第一子出産に際して女性の2人に1人は離職している現状を踏まえて、子供が小さいうちは仕事を継続することが困難であることを前提に、再就職に備えて資格取得を重視する進路選択をしていることも考えられます。

■ 多様化する女性のライフコースと学び

従来から、専門・技術職の女性は就業継続につながる場合が多いとされ、再就職も容易で女性にとって安定的就業である傾向があります。大学等で身に付けた専門性や技術を活かしてキャリアアップしたり、子育て等の事情に応じて働き方を変えつつ新たな専門性を身に付けたりしていくことは、今後も主要な就業パターンとなることが考えられます。また、同じ専門的・技術的職業であっても、昭和50(1975)年当時と比較すると就業分野が多様化しており、必要な学びの内容やタイミングが異なってくることから、自らの状況や将来設計を踏まえて主体的に専門性を高めていくことが重要になってきます。

必ずしも資格などによらない事務職においては、かつて女性はいわゆる「一般職」として長期に働くことを前提としていない仕事に就くことが多かったのですが、仕事と家庭の両立支援制度の充実などにより、長く就業を続ける事務職の女性が増えています。意欲や能力に応じて雇用管理をするとともに仕事を通じた学びを充実させていくことが求められます。

人生100年時代を見据え、働き方が多様化する現在においては、男女問わず学び直しの必要性が高まっています。固定的な性別役割分担意識や男性中心型労働慣行が進路選択の制約となったり、必要性が高まっている社会人の学び直しに当たって阻害要因となったりしていることを踏まえると、価値観や慣行の変革と軌を一にして多様な選択を可能にする学びを充実していくことが、女性の活躍を深化させる原動力となると考えられます。

■ 多様なライフイベントや学びに彩られた女性の人生グラフ

白書では、取材先の協力を得て、一部のコラムで取り上げた個人の方の事例を「人生グラフ」にして掲載しています。

様々な学びを通じて多様な人生を実現している事例が、女性達が固定的な性別役割分担意識等を乗り越えていく指針になることが期待されます。

【人生グラフ】人生における学び・充実度・収入充足度

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