「共同参画」2019年1月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(9)~グローバルな枠組みの基本原則に~
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

「ジェンダー主流化」がジェンダー平等と女性のエンパワーメントを実現するためのアプローチとなってから約20年。途上国の開発支援やジェンダー・女性に特化した取組みから、実践・普及に向けた歩みが始まりましたが、今では、持続可能な地球環境、経済成長、社会発展を実現するための普遍的アプローチとなりました。それは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、以下、SDGs)をはじめ、パリ協定、G7サミット、G20サミットのような国際協調枠組みでも、ジェンダー主流化が「基本原則」として位置付けられるようになったことにも現れています。近年の動きを見てみましょう。

2015年9月の国連サミットで、加盟国193カ国は全会一致で「持続可能な開発目標」(SDGs)を採択しました。将来世代に持続可能な地球環境と経済・社会を残して行くために、2030年までに全ての国が取り組むべき17のゴールから成るロードマップです。貧困、教育、ジェンダー、健康、労働、環境など、私たちの暮らしと切り離せないテーマが網羅されています。

SDGsは「誰一人、取り残さない」をスローガンに、国と国の間、国の中、男女間など、あらゆる格差と不平等を解消して行くことを根本理念としています。また、「社会変革」(Social Transformation)もSDGsの重要なキーワードです。資源・エネルギーの消費の仕方や、格差と不平等を助長してきた経済・社会の仕組みなど、「今までのやり方や考え方」を見直し、公正・包摂的で持続可能な社会に変革していこうという理念です。固定的な性別役割分担、家父長制的な規範、男性中心の経済・政治の構造・慣行は、まさに「変革」の対象です。SDGsの前文には、全てのゴールに「ジェンダー主流化」を行うことが基本原則として明記されました。

2015年に採択された気候変動対策の法的枠組である「パリ協定」も、前文でジェンダー主流化の必要性を謳い、2017年には、「パリ協定」の実施のための資金メカニズム「緑の気候基金」(Green Climate Fund、以下、GCF)が、資金申請の際に「ジェンダー評価」と「ジェンダー行動計画」の提出を義務付けると発表しました。

2018年6月には、カナダで開催されたG7シャルルボワサミットの首脳宣言の前文に「ジェンダー主流化」が明記され、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに特化した項目も打ち出されました。11月に開催されたG20ブエノスアイレスサミットの首脳宣言も、同じように「ジェンダー主流化」を明言し、ジェンダー・女性に関する項目にもこれまで以上に多くの政策目標が盛り込まれました。

このように、世界の主要な多国間プロセスにおいて、「ジェンダー主流化」が包摂的で持続可能な経済および地球環境の実現に向けた必須戦略であるという考え方が共有され、各国の首脳がコミットしています。これは、「公約」です。公約が実行に移されるかどうかは、各国の政府がどれだけ真摯に取り組むかということもありますが、一人一人の市民が公約の存在と中身を理解し、国のリーダーや政府に対して責任を持って実現するよう求めて行くこと(=アカウンタビリティを求めていくこと)が何よりも重要です。また、GCFが画期的なのは、ジェンダー主流化を資金供与の要件とした点です。やらなければ、お金が来ない。これは、大きな動機付けになるでしょう。次回、詳しく見ていきましょう。


SDGs:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)
SDGs:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)

ゴール5「ジェンダー平等と女性・ガールズのエンパワーメント」
ゴール5「ジェンダー平等と女性・ガールズのエンパワーメント」

G7シャルルボワサミット
G7シャルルボワサミット
ジェンダー平等アドバイザリー評議会との朝食会(写真提供:内閣広報室)

G20ブエノスアイレスサミット
G20ブエノスアイレスサミット
首脳宣言にも「ジェンダー主流化」が明記された(写真提供:内閣広報室)


執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
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