「共同参画」2019年1月号

特集2

国連平和維持活動における女性の参画推進―アフリカ早期展開支援の現場から―

PKOに派遣される要員の能力向上を目的とし、施設機材の操作訓練を行うプロジェクトが平成30年もケニアで実施されました。本稿では連絡調整要員として派遣された筆者が、共同参画についての国連の政策に触れつつ、現場の様子をお伝えします。
内閣府国際平和協力本部事務局 研究員 今井ひなた

はじめに

近年の国連平和維持活動(Peace-keeping Operations:PKO)では、装備品(重機)、そしてそれらを操作可能な要員が不足していることが深刻な問題となってきていることに加え、現在展開している14のPKOミッションの4割をアフリカ、そして3割をアジア諸国から派遣されている要員が占めることから、特にこれらの国々の要員を対象とした能力構築支援が重視されています。このような状況を踏まえ、PKO要員の能力向上を目的とし設立された、国連PKOにおける三角パートナーシップ・プロジェクトの一環である早期展開支援 (Rapid Deployment of Enabling Capabilities:RDEC)が平成27年より開始され、平成30年にも第5回(第5次隊)、第6回(第6次隊)訓練がケニアで実施されました。第5次隊、6次隊共に自衛官20名(教官団)と内閣府国際平和協力本部事務局(以下、PKO事務局)より派遣される連絡調整要員1名で構成され、PKOに派遣される予定のガーナ国軍、シエラレオネ国軍、そしてナイジェリア国軍の施設要員40名(訓練生)を対象とした重機の操作教育を実施しました。

私は国際平和協力研究員として所属するPKO事務局より、第5次隊の連絡調整要員として派遣され、主に日本政府が拠出した資金を基に本事業の実施・管理を担う国連フィールド支援局、現地での物資の調達などを担当する国連プロジェクトサービス機関、そして訓練施設を運営するケニア軍や自衛官との調整及び現地の調査業務に携わっていました。

訓練中の様子
訓練中の様子


平成30年の事業での特筆すべき点として、初めて女性自衛官が教官要員として派遣されたことが挙げられるでしょう。本稿では現場での女性の活躍を紹介しながら、なぜPKOの分野で女性要員が必要とされているのかを考えていきます。

RDECにおける女性の活躍

私が派遣された第5次隊は陸上自衛隊第4施設群(座間駐屯地)基幹で構成されており、派遣前から綿密な訓練計画を練っていました。RDECの訓練が実施されている人道平和支援学校はケニア首都、ナイロビ市内の中心地から車で東に約30分の所に位置し、教官団と訓練生は毎日訓練に励むだけではなく、約3カ月間にわたり共同生活を営みます。

3カ月間の訓練の中で訓練生はブルドーザ、油圧ショベルなど、PKOの現場で主にインフラの整備に必要とされる重機の操作方法について学んでいきます。操作教育を実施する教官団は操作が比較的容易なものから難易度が高いものまで網羅するため、本訓練は初級・中級課程に分けられ、教官団が訓練生の能力を考慮しながら訓練を進めていきます。

コミュニケーションの促進を図る(筆者右前)
コミュニケーションの促進を図る(筆者右前)


派遣された女性自衛官と私は主に運営側に回り、円滑に訓練が実施されるよう国連や関係機関との調整やスケジュールの管理、また教官団や訓練生のニーズの聞き取り・対応などを連携しながら実施していました。何よりも重要なのが教官団と訓練生の間の信頼関係の醸成です。教官団が日々の訓練を通して信頼関係を築きあげる中、特に女性自衛官はコミュニケーションの促進を心掛け、訓練生のみならず本事業をサポートする重機の整備士たちや訓練施設を運営するケニア軍との関係構築に大きく貢献していました。それに並行して訓練生の練度、体調などを掌握し、それぞれのプロファイルを管理しながら細やかに対応をしていました。

また、今回は訓練生としてシエラレオネから女性PKO要員が1名派遣されていましたが、熱意をもって訓練に取り組み、訓練後や休日の時間を使い、予習・復習に明け暮れていました。教官がその理由を聞いたところ、自国のシエラレオネでは重機が不足しているため実際に操作をする機会が少なく、このような訓練を通じて操縦時間を確保できることが重要であるとのこと。それに加え、彼女の所属部隊には彼女を入れて2名しか女性がいないため、自国の代表者としての責任があるからと答えており、その意欲の背景にある各国の状況を垣間見る瞬間でした。

訓練中、ローラを操作する女性訓練生
訓練中、ローラを操作する女性訓練生


無論、本事業の成功には、訓練に関わる全ての人々の貢献が不可欠です。しかし本稿が特に女性にスポットライトを当てるのは、近年、国連PKOの分野における女性要員の役割がより注目されてきていることによります。次にグテーレス国連事務総長の提唱する方針に着目しながら、その背景を見ていきます。

女性PKO要員の必要性

「常に『予防』が最優先事項である」。これは平成29年1月に就任したグテーレス国連事務総長が一貫して述べていることです。平成30年の女性・平和・安全保障に関する事務総長の年次報告書(女性、平和、安全保障に関する事務総長報告書 S/2018/900)では優先すべき課題に
1)予防と平和のための有意義な男女共同参画の推進
2)平和と安全保障分野におけるジェンダー平等
3)国連PKO要員・国連職員による性的搾取・虐待(Sexual Exploitation and Abuse:SEA)及びハラスメントの撲滅
4)平和と安全保障分野におけるジェンダーの視点の主流化
が挙げられました。

では女性の参画は「予防」にいかに貢献していくのでしょうか。ここでは報告書内で提唱されている「予防」するべき事態のうちの3点に焦点をあてます。

先ずは、暴力激化の「予防」です。治安悪化の状況下で発生する深刻な性暴力被害に対して引き続き早急な対応が求められていますが、近年では女性に対する性暴力の増加を女性の保護といった文脈のみに限定するのではなく、暴力激化の予兆とみなし、より広範に、紛争の勃発を予防する上で対処するべき問題として捉え直すようになってきました。

次に、紛争再発の「予防」です。当事者間の和平合意をもって紛争は終結しますが、暴力の土壌に例えば人権侵害に対する不処罰や女性、もしくは特定のグループに対する排他的な政策があったとすれば、和平合意はこれらの問題に対する解決策を含めた内容でなければ紛争の要因は潜在化したままです。そのため和平合意には女性を含め、異なる立場の人々の声を草案に反映させ、その後も継続的に履行・モニタリングプロセスへの参画を支援する必要があります。

最後に、国連PKOの正統性を著しく損なうことになるSEA発生の『予防』です。これは前述の2点とは異なり、国連PKO内におけるオペレーション上の課題ですが、女性のPKO要員が増えることでSEAの抑止につながることが期待されます。

女性のPKO要員の増加は、女性でなければアクセスできない情報を収集し、性的被害を特定することに寄与します。特に文化的に女性が家族以外の異性と話すことが良しとされない、もしくは性的暴力を受けたことが「恥辱」とみなされるため、報告されないケースへの対処として、女性PKO要員による情報収集は効果的な手段とされています。また、和平合意における調停者、そして平和の担い手としての女性の役割が期待されている一方、女性が公的な場で意思を表明する機会が制限され、女性参画の手段が確立されていない社会では、女性のPKO要員は身近な「ロールモデル」ともなりえます。国家再建の主体となる現地の人々が、国際的な場で任務を全うする女性たちと触れ合うことで、女性が活躍する社会を具体的に思い描く基盤が作られていくことが期待されているのです。

RDECを通じて:「ロールモデル」としての意義・ケニア女性の働き

前述した背景を踏まえ、改めて視点を現場に戻してみます。

RDECにおける女性自衛官の参画を見てみると、彼女たちもまた、「ロールモデル」としての役割を担っていることに気づきます。共同生活の中で、各国の軍人たちが女性要員の活躍を身近に感じていくことは、実際にPKOに派遣された際に女性要員と連携していく上でも重要になってきます。

女性自衛官発案のチームエクササイズを実施
女性自衛官発案のチームエクササイズを実施


また、現実的な側面として、女性要員の増加により、女性に配慮した生活環境の整備が促進されるといった効果が期待されます。現場で行われた訓練実施後の評価ミーティングでは、例えば女性用の洗濯場の設置など、より女性に配慮した生活環境の整備が挙げられました。これは訓練であっても、もしくはPKOの現場であっても、男女の共同生活において要する施設の拡充には一定のコスト及び労力がかかることを示唆しています。女性要員数の増加はまた、こうしてコストをかけて整備した生活環境を、有効に活用できることにつながるでしょう。

最後に今回の事業を通じて垣間見たケニア人女性の働き方から、ケニア社会における共同参画の一端を紹介したいと思います。首都ナイロビは近年の高度経済成長と並行し、働く女性たちが数多く活躍しています。ケニア滞在中は、日常的に国連や訓練施設に務める女性職員と会話をする機会がありました。職員の中には子育てをしながら仕事をする方も多く、シングル・マザーも少なくありません。ここで、共通して出てくるキーワードが「ナニー」あるいは「ハウス・ガール、ボーイ」です。両親に代わり子守、家事を一手に引き受ける存在であるかれらを雇うことは一般的になりつつあり、「今日はうちのナニーが体調悪いから病院に連れて行ったわ」「ハウス・ボーイに我が家のレシピを教え込んだの」といった会話は日常茶飯事です。家事や子育てといった役割を他人に任せることに対する社会的障壁が比較的低いとも言えるでしょう。女性の社会進出や都市部への人口移動など急速な経済成長がもたらす影響は様々ですが、あらゆる社会変動を経験しているケニアの国民が、ニーズに応じて発展させたシステムの一つとも言えるのではないでしょうか。

職務に励む国連職員・ケイト女史
職務に励む国連職員・ケイト女史


終わりに

グテーレス国連事務総長は2017年より「ジェンダー平等戦略(Gender Parity Strategy)」の実施に乗り出し、国連の文民職員やジェンダー・アドバイザーの配置、そして幹部への女性の参画を推進させており、成果を上げています。しかし、PKO部隊における女性要員数は全体の4%にしか至っていません。そもそも治安部門における女性の数が各国総じて低いことがその主な理由ですが、この現状を受け、グテーレス国連事務総長は「ジェンダー平等」達成のために更なる国連加盟国によるコミットメントを要請しています。RDECを通じた女性要員の参画は、国際社会が現在一丸となって取り組んでいるPKOにおける女性要員の推進、という目標達成のためにとられる着実なステップの一端を物語っています。

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