「共同参画」2018年12月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(8)~ジェンダー予算の例2
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

先進国での「ジェンダー予算」の動向を見ていきましょう。OECD(経済開発協力機構)が2017年に発表した『OECD諸国におけるジェンダー予算』1という報告書から抜粋して、先進国におけるジェンダー予算の導入状況を「法的位置付け」「実施体制」「分析ツール」の3つの観点から紹介します。

調査対象の34カ国中、12カ国(オーストリア、ベルギー、フィンランド、アイスランド、イスラエル、日本、韓国、メキシコ、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン)が「導入済み」と回答し、1カ国(イタリア)が「導入を計画中」、2カ国(トルコ、チェコ)が「前向きに検討中」と回答しています。

まずは、「法的な位置付け」です。オーストリアは、憲法で、予算管理における男女平等の推進を連邦政府、州、自治体の責務として規定しています。予算に関する基本法に位置付けているのは、オーストリア、アイスランド、韓国、メキシコ、オランダ、スペインです。例えば、アイスランドでは、全ての省庁に予算案と法案のジェンダー分析を義務付けています。スペインでは、各省庁が事業支出のジェンダー・インパクトを分析し、財務担当閣僚に提出することを義務付けています。イタリアは、会計・財政法を改正し、財政政策の男女別インパクト評価を試験的に導入しようとしています。

「実施体制」としては、中央省庁が中心的な役割を担っています。オーストリア、ノルウェー、オランダは、ジェンダー予算の担当部署を設置しています。予算権限を持つ財務省と、ジェンダー平等担当を含む各省庁の連携も多く報告されています。オランダでは、独立機関が国と省庁の予算書に記載された政策のジェンダー平等への影響をモニタリングし、年次レポートを作成・発表しています。

最後に「分析ツールの活用状況」です。多い順に「(予算策定の)事前段階でのジェンダー影響評価」(実施国の75%)、「成果設定(パフォーマンス・セッティング)におけるジェンダー視点の統合」「資源配分におけるジェンダー視点の統合」(それぞれ67%)が上がっています。オーストリアでは、全ての法令・規制に関して、ジェンダー視点からの事前評価と事後評価の実施が義務付けられています。スウェーデンでは、予算案に「男女間の経済的平等」という文書が添付され、教育、雇用、家事労働、資本所得、可処分所得などの「経済資源の配分」を男女別に記載しています。

オーストリア、ベルギー、フィンランド、アイスランド、イスラエル、韓国、ノルウェー、スペインでは、予算権限を持つ財務省などがジェンダー予算のための実施ガイドラインを策定しており、行政官のための研修を拡充しています。

OECD報告書では言及されていませんが、歳入サイドでは、生理用品を非課税にする動きが加速しています。生理用品への課税は女性の税負担を重くし、特に貧困層の女性や少女たちの生計、健康、就学への打撃が大きいからです。英国では、2000年に付加価値税20%の税率から5%に軽減されました。(EUの規定により、非課税には至っていません。)カナダでは2015年に、オーストラリアでは2018年に、生理用品は非課税になりました。日本の消費税をめぐる政策議論においても、「ジェンダー予算」の視点が必要なのではないでしょうか。

1 Ronnie Downes, Lisa von Trapp and Scherie Nicol, OECD(2017)Gender budgeting in OECD countries


『OECD諸国におけるジェンダー予算』
『OECD諸国におけるジェンダー予算』OECD(経済開発協力機構)
出典:http://www.oecd.org/gender/Gender-Budgeting-in-OECD-countries.pdf


執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
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