「共同参画」2018年9月号

特集1

PKOで働く女性の活躍
〜南スーダン国際平和協力隊の勤務を通じて〜
国際平和協力本部事務局

私は、南スーダン国際平和協力隊日本隊の連絡調整要員として、南スーダン共和国の首都ジュバにおいて勤務しました。現地では平成29年7月5日~9月29日に1回目、平成30年1月23日~6月30日までが2回目の勤務となりました。この勤務の間、国際平和協力隊の隊長を拝命しました。今回は、この連絡調整要員の業務についてご紹介させて頂きながら、現在、日本が参加している唯一のPKOである国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)についても簡単に触れ、自己の勤務経験等に基づき、お話させて頂ければと考えます。

南スーダン国際平和協力隊日本隊と聞くと、日の丸を施した陸上自衛隊の迷彩服に身を包み、灼熱の日差しの中で汗をかきながら勤務する隊員というのが大半の方の思い描くイメージではないかと思います。昨年の5月末に撤収するまで、UNMISSの施設部隊として勤務していた陸上自衛隊員等の延べ約4,000名の方々、それから、現在もジュバでUNMISS司令部要員として勤務している4名の陸上自衛官は、実際にほぼ、前述のイメージ通りです。

私は、国際平和協力隊員ではありましたが、自衛隊の制服や迷彩服等を着用することなく、南スーダンにある日本国大使館において、これら現場での任務を行う方々のサポートを行うための連絡調整業務を実施しました。

現地で勤務をする方々の支援と一口に言っても、入国に関する手続き等のための南スーダン政府を始めとする現地政府関連機関等との連絡調整、日本からの支援のための内閣府国際平和協力本部事務局(PKO事務局)を始めとする日本政府関連機関との連絡調整、そして、現地での生活基盤を確立するための支援等、連絡調整業務は広範多岐に渡ります。また、私は航空自衛隊の幹部自衛官であり、防衛省統合幕僚監部に所属しながら、内閣府PKO事務局に出向し、在南スーダン大使館で外務省の方々と勤務を共にするという少々複雑な勤務形態となっており、このような業務があることは余り知られていないため、周囲の理解を頂くのに少々説明を要します。

先にUNMISSは、日本が参加している唯一のPKOと述べましたが、1992年に「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」が制定されてから、日本はこれまで18の国や地域に対して国際平和協力業務を実施してきました。

その国際平和協力業務を実施するために内閣府に内閣総理大臣を本部長とする国際平和協力本部が設置され、本部の事務を司るPKO事務局が置かれています。(参照:http://www.pko.go.jp/pko_j/cooperation.html PKO事務局HP)

実際に国際平和協力業務を実施するための組織として、実施計画ごとに期間を定めて国際平和協力隊が組織され、2018年8月現在では、UNMISSの司令部要員として陸上自衛官が4名と、現地における連絡調整要員としてPKO事務局から2名(いずれも防衛省からの出向自衛官)の計6名が内閣総理大臣の命を受けて、南スーダンにおいて日本の国際平和協力隊員として勤務しています。

自衛官には階級があり、南スーダンに派遣された隊員の中で私が先任者であったため、男女の別なく、国際平和協力隊の隊長として勤務を命ぜられました。隊員は私の派遣された時期には、たまたま女性が私1人という状況でした。

「司令部要員と連絡調整要員」(2018年6月)
「司令部要員と連絡調整要員」(2018年6月)


南スーダンと聞くと、色々な方から、「とても危険な国なのでしょう?」とか、「日本から女性が派遣されているのですか?」と驚かれることが多いのが事実です。実際に派遣施設隊は11次隊まで派遣されましたが、各派遣隊によっては数名~十数名の女性隊員も含まれていました。私の派遣以前の連絡調整要員にも女性が勤務し、連絡調整要員が2名とも女性という時もありました。つまり私が初の女性隊員ということではありませんでした。南スーダンでは、日本人の国連職員の方々とお話しさせて頂く機会もあり、正確な数字は分かりませんが、邦人男性職員よりも邦人女性職員の人数が多く、皆さん活き活きと勤務されていました。

といっても、南スーダンは、やはり日本とは、気候も生活環境も全く異なる国です。日本から約11,000㎞離れたアフリカ大陸に位置し、2011年7月にスーダンから独立して出来た世界で最も新しい国であり、インフラ等も日本に比べれば、まだまだ途上の段階です。雨季と乾季があり、乾季には毎日40度を超える暑さとなります。

「南スーダン共和国の位置」
「南スーダン共和国の位置」


南部スーダン(現在の南スーダン共和国)では、北部スーダン(現在のスーダン共和国)との内戦を経て、2011年1月に南部スーダンの独立の是非を問う住民投票が実施されました。投票では、約99%が南部スーダンのスーダンからの分離を支持する結果となり、同年7月8日、国連安保理は、平和と安全の定着及び南スーダンの発展のための環境の構築の支援等を任務とする国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)の設立を決定しました(決議第1996号)。翌9日、南部スーダンが「南スーダン共和国」として独立するとともに、UNMISSが設立されました。

UNMISS設立後、安保理決議第2155号(2014年5月27日)、同第2252号(2015年12月15日)、さらに同第2406号(2018年3月15日)により、UNMISS は主に以下4つの任務を実施しています。

(1)文民保護
(2)人道支援実施の環境作り
(3)人権状況の監視及び調査
(4)衝突解決合意及び和平プロセスの履行支援

これらの任務を達成するために、日本も2011年11月から、司令部要員及び連絡調整要員を派遣し現在も継続中です。首都ジュバのUNMISS司令部において、情報幕僚(データベースの管理)、兵站幕僚(軍事部門の兵站全般の需要に関する調整)、施設幕僚(施設業務に関する企画・調整)、航空運用幕僚(航空機の運航支援に関する企画・調整)の4名が他国の軍人と共に勤務しています。

日本は、2012年1月から、11次隊まで施設隊を派遣し、2017年5月末をもって活動を終えました。施設隊は、南スーダンではUNMISSの施設部隊として、道路や側溝等のインフラ整備等の活動を行いました。

UNMISSの規模は、2018年6月現在、約16,000名となり、ルワンダ、インド、ネパール等が主要派遣国です。派遣国数は、68か国となっています。

「UNMISSネパール軍の女性兵士と筆者(右)」(2017年8月)※左も連絡調整要員
「UNMISSネパール軍の女性兵士と筆者(右)」(2017年8月)
※左も連絡調整要員


私が1回目に派遣された昨年の7月は、首都ジュバから、施設隊が完全に撤収してから約1か月が経過した時期でした。ジュバ国際空港は、国際空港と名が付いているものの、テントで運営されており、床は土の地面がそのまま、という状況です。事前にそのような状況は聞いていたものの、暑さとテントでの運営という状況に到着と同時にカルチャーショックを受けました。入国管理の手続も、遅々として進まず、時間の流れや人々の考え方のおおらかさに日本との明確な違いを感じました。

「ジュバ市内の人の様子」
「ジュバ市内の人の様子」


現地は、日本で報道されているよりも平穏であり、2回の勤務を通じて、身の危険を感じるような経験はありませんでした。それでも、日本と比べれば治安は悪く、電車などもないため、外出する際は、用心のために防弾車に乗って移動をすることになっています。

防弾車は、ドアや窓ガラスが重厚な作りになっており、車体自体も非常に重く、舗装されていない道路でも走行できるような四駆となっています。日本の日常生活では、なかなか乗ることもない車両だと思いますが、このドアがかなり重く、一般の男性にとっても開閉が困難な仕様になっています。南スーダンの道は、舗装されていない道路が多いため、少し斜めになった場所に駐車すると、ドアを開けるのにひと苦労といったところでした。それでもやはり、2016年7月に衝突が生起したように、万が一の用心のためには、少々使い勝手の悪い車両もなくてはならない生活ツールの一部でした。2018年8月現在、首都周辺を除き日本政府の退避勧告が発出されている国であるため、南スーダンでの勤務は、私の人生の中でも非常に貴重な経験となりました。

「コニョコニョマーケットの様子」
「コニョコニョマーケットの様子」


市内を防弾車で移動しなければならないとは、どんな酷い所なのだろうと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、南スーダンの人々の暮らしは決して豊かではないものの、日本人に対する感情は非常に良いと感じました。生活用品等の購入のために、現地の市場に行ったりしますが、店先でデーツというナツメヤシの果実を売る女性たちに「買わなくても良いから食べてご覧なさい」と親切にして貰ったり、洋品店を営むご夫婦と仲良くなり、奥様の名前を覚えたら、とても喜んでくれたり、ごく短い滞在期間ではあったものの、現地の方々とも心を通わせるという経験も少し出来たと考えています。

私の名前が「樹理=じゅり」と言って海外の方々にとって、覚えやすい名前であることもあり、その洋品店を訪れる度に「じゅり、私の名前は?」と奥様から聞かれ、「アドゥイでしょ。」と答えるとニコニコとして、とても嬉しそうにしてくれるということが度々ありました。

路上で物売り等の商売をする女性が多いのですが、南スーダンには女性を軽視する面も残っており、名前を呼ばれるというだけで嬉しいのだろうか?と考えたりもしました。真偽は定かではありませんが、なんとなくそのように感じました。

日本では、余り報道等で目にすることもないのですが、国連平和維持活動に従事する者が支援をするべき対象国の女性や子ども、時には男性に対して、性的搾取・虐待を行い、大きな問題となることが残念ながら事実としてあります。

国連のホームページ等でもご確認頂けるのですが、国連では平和維持活動に従事する者があらゆる現金・物品・サービスと引き換えに性行為に及ぶことを明確に禁じ、軍事要員、警察官、文民を問わず、あらゆる平和維持要員が最高の行動基準を守り、常にプロとして、規律ある振る舞いをすることを期待し、派遣者に対する事前教育等も実施しています。しかし、様々な国から派遣された要員が活動する中で、このような問題があることも事実です。南スーダンも例外ではなく、UNMISSで事実関係の調査を行う等の事例がありました。

日本隊は、派遣された5年間で道路や側溝のインフラ整備など、高い技術力で能力を評価されることのみならず、規律正しく、礼儀正しく、このような問題とは無縁の存在として、南スーダンにおいて、高い信頼を得るとともに、大きな成果を挙げました。

「施設隊道路整備作業の様子」「ナバリ地区コミュニティ道路整備(H25.1-11(3次要員~4次要員))」
「施設隊道路整備作業の様子」
「ナバリ地区コミュニティ道路整備
(H25.1-11(3次要員~4次要員))」


施設隊撤収後、日本が参加している唯一のPKOの要員として、南スーダンで先人方の残した大きな功績、評価を聞く度に、それを誇りに思うと同時に、その成果に恥じぬように自分たちも働こうとする姿勢が相乗効果となって現在の司令部要員たちの高評価にも繋がっていると実感します。

実際に政府関係者やUNMISS関係者から話を聞く際、現在勤務する日本人司令部要員、そして、昨年に撤収した日本施設隊に対する評価は非常に高いものがありました。日本の代表として勤務していることを認識し、遠いアフリカの地でも我慢強く、規律正しく、日頃培った訓練等の成果を発揮すべく懸命に任務に当たった結果が現地関係者にも高く評価されたものと考えます。同じ日本人として、そのようなお褒めの言葉を聞く度に、自分も「日本人で良かった」と強く感じることが出来ました。

自分が司令部要員でも施設隊の隊員でもないものの、南スーダン国際平和協力隊の隊長として、そのような日本への良い評判を耳にする度に、有難く、また、自分も身を引き締めて勤務しようという気持ちになりました。

普段、日本に居ると当たり前過ぎてなかなか感じることが出来ない「日本人で良かった」と思える感覚を、南スーダンでは味わうことが出来ました。やはり、水や食べ物など、日本ではコンビニで購入出来る物もそこまで簡単には手に入らない環境、乾季の40度を超える暑さや言語の違いによるコミュニケーションの不安等、日本とは全く異なる環境での勤務も更に日本の素晴らしさを実感できる経験となりました。

このような日本とは全く異なる環境下であっても、健康で非常に充実した勤務をさせて頂きました。それもPKO事務局を始め、防衛省、そして現地の大使館員を始めとする外務省等、多くの方々に多大なご支援、ご協力を頂いたおかげであると心より感謝しています。

また、私の留守の間、帰りを待ってくれ、心の支えとなってくれた家族、特に理解ある夫の存在なくしては、私の勤務は成り立つものではなかったと思います。

日本の課題として、少子高齢化による人口減少に伴う労働力不足が顕現する前に、働き盛りの女性がより活躍できるような様々な方策が実施されてきています。

子供を産むことができるのは女性、そして、子育てやその前の妊活、結婚をするための婚活、介護など、仕事を継続しながら、女性を含む全社会人に望まれていることは多く、まるでスーパーマン・ウーマンの様でなければ、これからの社会ではやっていけないのでは?と考えることもあります。仕事を継続したくとも、厳しい労働条件から辞めざるを得ないということも過去に比べれば減ったものの、南スーダンの女性達よりも日本では恵まれた環境のはずなのに、心身の消耗を感じてしまう様な気持ちになるのはなぜでしょうか。

これから、否応なくやって来る少子高齢社会において、女性がより働きやすく、活躍できる環境整備には、家族や職場の理解は非常に重要であると感じます。

南スーダンでの勤務を通じて、様々な貴重な経験をさせて頂き、多くの方々のご理解とご協力に深く感謝しています。

これからも私が経験させて頂いた様な「日本人で良かった」と思える充実した経験をできる方が増え、日本の将来がより明るいものになることを信じたいです。このため、私の夫の様な理解者が日本の社会において、ごく一般的に見られる様になることを祈念しながら、自分が貢献できることに精一杯取り組み、国際社会の平和と日本のために邁進して参りたいと考えます。

内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
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