「共同参画」2018年7月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(3)~UNDPの経験②~
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

1997年に経済社会理事会(ECOSOC)で採択された「ジェンダー主流化」というアプローチ。女性やジェンダー平等に特化した事業や活動だけではなく、UNDPが行う全ての事業やプロセスにジェンダーの視点を主流化するにはどうすれば良いのか。実践方法の模索が始まりました。

アジア太平洋、アラブ諸国、アフリカ、東欧・CIS(独立国家共同体)諸国、ラテンアメリカ・カリブの4つの地域で行われていたジェンダー研修で、組織のジェンダー主流化を進めるにあたり、どのような課題やニーズがあるのかを聞き取りました。「トップの理解とコミットメントがない」「ジェンダー=女性の問題と誤解されている」「女性や若い職員が担当するものだという思い込みがある」「ジェンダー主流化には専門的な知見やスキルが必要なのだということが理解されていない」「優先順位が低い」といった声が出てきました。

そこで、次のステップとして、ニューヨークでジェンダー主流化の戦略立案を目的としたワークショップが開催されました。現場から上がってきた声をどのように戦略に落とし込んで行くか、数日間に渡って白熱した議論が交わされました。

「そもそも、『主流』とは何か?」という議論も行いました。開発支援における主流とは、「最も有力な考え方(理論・仮説)、最も有力なプロセス(意思決定・アクション)」であり、「誰が何を得るか」、つまり、予算や人材や知見などのあらゆる「資源の分配の仕方」を方向づける力を持つ考え方・プロセスであるという認識が共有されました。そして、ジェンダー主流化とは、優先順位の設定や資源分配に力を持つ主体や人(例えば財務省や、組織のトップ・幹部など)に働きかけること、そして、経済やインフラやガバナンスなど、開発支援の「有力な」分野にジェンダー視点を統合していくことだと確認したのです。この20年間で、経済合理性の観点からの調査や議論、男女別データとジェンダー分析の拡充、ジェンダー予算の手法の開発が進んだ背景には、「有力な考え方・やり方」を変えるためのアプローチやツールが必要とされていたという事情もあります。

また、ワークショップには、貿易自由化や、市民社会との連携を担当しているような若手の男性職員も出席していました。率直に「男性職員の間には、ジェンダーを『ソフトなテーマ』と捉え、軽視する傾向がある」「男性である自分が批判されるのではないか、女性のグループに入っている特異な男性という目で見られるのではないかという『恐れ』がある」と指摘。組織自体の文化や風土を変えなければならないと主張しました。この若手グループは、Men for Gender Equality(ジェンダー平等を達成するための男性グループ)を結成し、あらゆる会議でジェンダーについて積極的に言及し始めました。余談ですが、メンバーの一人は、のちに、ジェンダー平等推進や女性に対する暴力撲滅における男性の役割や男性の巻き込み方に関する世界的な専門家になりました。

こうして、様々な声を集約し、分析し、ジェンダー主流化の取り組みが始まりました。主な柱となったのは、「政策立案」「キャパシティ・ビルディング(制度構築・能力強化)」「ナレッジ・マネジメント(知見の蓄積・分析・共有)」「アドボカシー」の4つです。次回、詳しくご紹介します。

執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
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