「共同参画」2017年8月号

連載

女性活躍の視点からみた企業のあり方(4) 女性社員の育成
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

「女性管理職の登用」において、女性の昇進意欲が男性と比べ消極的な理由として、採用後の「育成」課題が大きいことは前に述べました。「育成」課題としては、主に「(1)配置・仕事の配分」、「(2)研修機会」、「(3)公正な評価」、「(4)キャリア形成支援」があり、それぞれ「A.若年・未婚女性」に関する課題と「B.時間制約女性」に関する課題に分かれます(図参照)。Aに関しては、性別により(1)~(4)について異なった対応がなされるという問題です。男女異なる対応が行われる理由としては、一つには、性別役割分担意識により、男女それぞれに向く仕事、向かない仕事があるという考えが根強くあります。平均的にみた女性の特性(重いものが持てない、厳しい環境が苦手等)に基づき、決めつけてしまうことによって、配置や仕事の配分に男女の差が出てきます。こうした運用をすれば、一部の部署や業務に女性をつけられないということになり、個々の社員の特性に基づき適材適所の人材活用をした場合に比べ、自社の人材を有効に生かせないことになるのは容易にわかるでしょう。かつてに比べれば、未婚で時間制約のない若年女性については、男女で差の無いマネジメントが行われている企業や職場も増えてきていますが、管理職候補となる中堅層あたりになると、依然として上司による仕事の与え方が男性とは異なってきます。これまで女性社員が妊娠・出産で離職してしまう可能性が高かったため、長期的に育成する視点を管理職が持っていないことが原因でもあります。しかし、前にご紹介しましたように、正社員については、女性の就業継続が進んできていることから、こうした管理職の見方は変えることが合理的です。管理職が、長期的視点で育成・登用する対象として女性の部下をみるようになれば(1)~(4)における男女差も解消されていくことが期待されます。

「次にBに関しては、時間制約のある社員のマネジメントが適切にできるかという問題です。時間制約社員のマネジメントに関しては、第一に、短時間勤務制度等の運用に関する会社の方針や運用ルールが明示されているかという問題と、第二に、その方針やルールが現場の管理職に周知徹底されているかという問題があります。方針や運用ルールというのは、例えば、短時間勤務制度を利用した場合、基本給は就労時間に比例した控除があることが決まっていても、目標設定や評価はどのように行われるのか、賞与や昇進・昇格はどのように決定するのかということで、こうした運用ルールが決まっていない企業も少なくありません。時間制約のある女性に積極的に管理職を目指してと言っても、当の女性たちは、制度を利用しながらどう努力をしたら評価されるのか、キャリア形成がはかれるのか、道筋が見えないということになります。管理職も、短時間勤務者と周囲の通常勤務者との公平なマネジメントとは?の答えが見いだせず悩んでいますし、時間制約のある部下に過剰な配慮をし、本人の意に沿わず仕事を軽減する対応をしてしまえばマタハラで訴えられる危険性もあります。一方、時間制約のある社員を活かし、成長を促すマネジメントができるようになれば、今後、介護や病気療養等様々な理由で多様な働き方を選択したい社員を受け入れることが可能にもなるのではないでしょうか。

図 男女差の要因となり得る主な育成課題


執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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