「共同参画」2017年6月号

スペシャル・インタビュー/第42回

宣伝の仕事はゴールがない。だから、ゴールは自分でしか決められない、すごく高いところに目標を設けてそこを目指していく。

弭間 友子
東宝株式会社 映像本部 映像事業部宣伝グループシアトリカルチームリーダー
宣伝プロデューサー

聞き手 秋元 英一
あきもと・えいいち/内閣府男女共同参画局政策企画調査官

今回は、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」大賞に選ばれた弭間友子さんにお話をお伺いしました。

―『君の名は。』の興行成績はまだ伸びていますね。―

8月26日の公開から上映を続けてくれている劇場もあります。通常ですと、DVD、ブルーレイを発売するのが半年後くらいなので、ここまで長く上映されるのは久しぶりで、すごくヒットした代表作品になったと思っています。

―公開から半年以上経って、宣伝プロデューサーとしてのご自身を振り返っていかがですか。―

この作品が普通と違ったのは、私が映像事業部の宣伝というポジションながら、企画の立ち上がりから参加していたことです。例えば、キャスティングや音楽、誰を主役に据えるかについて、宣伝としてどう盛り上げられるかを、ずっとみんなと話していました。宣伝担当が最初から最後まで関わるというのは、業界としても多分ないと思うのですね。新海監督の思いを私が一番わかっているので、こう打ち出していくべき、ということを宣伝のメンバーで話していくときも、チームの気持ちを一つにしやすかったのだと思っています。

―普通と違うとなると、様々な障害もあったのではないですか。―

私が新海監督の前作の宣伝をさせていただいて、舞台挨拶で全国の劇場を2人で回ったことで信頼関係がつくられていたので、監督も会社も、この企画は私が宣伝を担当すると決めてくれたんです。ただ、長く一作品につきっきりになるということは、本来何作品も担当しなければならないのに、私が出来ない分を誰かがやらなければいけなくなる。それによって残業も増えるだろうし、人も雇わなければいけなくなる。そういうことを考えると、なかなかできることではないと思います。

―東宝という会社に、それを許容する社風があったのですか。―

いいえ、逆に東宝の宣伝部は、もっと公開に近い時期からしか参加しません。『君の名は。』の宣伝プロデューサーは私を含めて3人いるのですけれども、最初の1年は、私一人でした。多分、東宝の社風でもなく、珍しいケースだったのだろうなと思います。

今は残業に対してすごく厳しくて、仕事はできるだけ縦割りにして、ここは制作、宣伝、販促みたいに分業していかないといけないので、逆行していることをやったなという気はします。

―なるほど、仕事を進めていく上でのご苦労はなかったのですか。―

宣伝部はプライドを持って仕事をする人たちが多いので、他部署の担当は別に要らないという考えがあったのだろうと思います。でも、今回は企画の立ち上げが私が所属する映像事業部で、私が先行して関わっていた。その状況で協業していくとなると、誰が主導権を持って引っ張っていくのか、となります。

でも一緒に組んだ宣伝部のプロデューサーがアニメはやったことがなくて、いろいろと教えてもらいながら協力してやろうと言ってくれて、チーム全体も私を引き入れてくれました。結果的には、心配よりも、チームが強化されることになった。本当にみんなに感謝しています。

―まさに、イノベーションですね。―

はい。異なる部署の担当者同士で話し合いながらやってみて、すごく勉強になったと言って貰えました。東宝の宣伝部というのは看板部署で、そこにお邪魔したことで、私も、うちの部門や私自身に足りないものとかいろいろ見ることができました。今後もそういう人材交流ができると勉強になるね、とみんなで話しています。

―今回の成功を経て、変わったことはありますか。―

次も同じような形で、世の中にどんと打ち出せるようなクリエーターのいい作品をオリジナルで作っていきたいねと話しています。8月公開の作品も同じように宣伝部のメンバーと一緒にやります。部門ごとに役割を分けていたのを、連携してやっていくみたいな流れは会社全体で生まれてきている気がします。

―今回の大ヒットには宣伝が大きく貢献したと思うのですが。―

宣伝の中で、私がとてつもないアイデアを生み出せたと自信を持って言えればいいのですが、実際には、地道にみんながどの作品でもやっているようなことを片っ端から全部やって、それが結構できたという感じです。でも、どれもが初めて実現できたことではない。もしかするとそれらを全てやりきった作品も過去に絶対あったと思うのです。

宣伝の仕事はゴールがない。やり切ったといっても、それでもまだやっていないことはいっぱいあると思います。だから、ゴールは自分でしか決められない、すごく高いところに目標を設けてそこを目指していく。それが今回はすごくすがすがしくできたと思っています。

―仕事に対する、ご自身のこだわりやスタイルはあるのですか。―

こだわっているわけではないのですけれども、私は超ミーハーな一般人なんです。映画やアニメにすごく詳しいと思われるのですけれども、あまり見たことがなくて。ちょっとはやっていると言われたら、すぐそれに飛びつきたくなってしまう。その感覚知みたいなものは、自分が何かやるときの基準としては大事かなと思っています。

東宝に入ってアニメをやり始めて、新海監督も知らなかった。作品に初めて接して、こんなにきれいなアニメってあるんだ、これはアニメと言わないほうがいいのではないか。映画、芸術作品として打ち出していくのが正しいのではないかと。新海誠はとんでもなくすごい天才だという気持ちはあるけれども、一般人は誰も知らない、とみんなからすごく言われたのです。そこを全く否定しない。わかるわかるそうだよね、というふうに。でも見たらすごくびっくりしますとみんなに言えると思いますよ、というところからスタートできるのは、自分のいいところというか、特徴的なところなのではないかなと思います。詳しくないから、立ち位置が一般の人と一緒みたいな。家族とか友達と話していて、私が知っているものと常に同じレベルしか認知がないということを、逆に宣伝的にはこれはやばいなとか、そういうふうにフィードバックしている感じがします。

宣伝というのは、何か一個の成功で、同じことをずっと繰り返せばうまくいくわけではなくて、常に何かに作用されるし、お客さんも常に同じ状況ではない。情報源や興味があるものも変わるから難しいなと思います。

―クリエーティブな職場においては、男性と女性の共同作業も多いのではないですか。―

そうですね。でも、よく考えたら『君の名は。』のチームはほとんど男の人でした。東宝も女性の宣伝プロデューサーはいるのですけれど、女の人がたまたまいなくて。ただ、男の人とか女の人というよりは、年が近くて感覚知が近いメンバーで一緒に仕事ができたことがチームの強さに感じました。言いたいことも言えるし、みんなそれぞれを使い合う。これはこの人からこの人に話をさせるみたいな。

―まさに多様性のあるチームですね。―

宣伝部のみんなが私と一緒に仕事をしたことで、いろいろなことを学べたと言ってくれた。私はもともと20世紀フォックスで洋画をやっていて、東宝に入ってターゲットが異なるアニメを担当して、それが東宝という今まで邦画のトップを走っている会社の伝統みたいなものと一緒にうまくまざりあってすごくおもしろかった。みんな型にはまるのではなくて、純粋にこの作品のために何が有効なのかをフラットに考えられていたと思います。

―次のお仕事もスタートしていますが、今後の目標を教えて下さい。―

ここまでのヒット作を出せたから、これをもう一回繰り返したいというのが目標です。

自分として、すごく宣伝は頑張った、だけどヒットしない。それは何が原因なのかを検証して、また次に生かす。多分それをずっと繰り返して、もう一回『君の名は。』のようなヒットを出すというのが、仕事の中では一番の目標かなと思っています。もちろん全作品に全力で当たっていくのですけれど。


弭間 友子
東宝株式会社 映像本部
映像事業部宣伝グループシアトリカルチームリーダー
宣伝プロデューサー
はずま・ともこ/
明治大学商学卒業後、映画宣伝会社レオ・エンタープライズ に入社。その後、20世紀フォックス、共同ピーアール、マンハッタンピープルにて洋画・邦画・アニメ映画作品の宣伝を担当。 2012年より現職。2016年8月公開の映画『君の名は。』では、宣伝プロデューサーとして興行収入249億円(本年4月末時点)の大ヒットに導いた。2016年12月日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」大賞受賞。

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