「共同参画」2017年3・4月号

連載 その1

女性の経済的エンパワメント・各国の取組(11) よりよい社会への変革
立命館大学法学部 教授 大西 祥世

月日の経つのは早く、この連載は東京2020大会のエンブレム決定のニュースの余韻が残っていた頃に始まりました。梅桃桜が美しい1年後に、同大会の会場候補であるゴルフ場の正会員資格が女性差別でオリンピック憲章違反かという議論が起こるとは想像できませんでした。

この間に、女性の活躍促進に向けた世界の状況はめまぐるしく変わりました。国連や外国の仲間と話すときも、その変化を実感しました。最終回に、これまでにご紹介した世界各地の最先端の取組の特徴を次の3点に整理したいと思います。

第一に、目的です。企業も政府も、女性が活躍して経済力をつけることで企業力や地域力、社会の活力をアップさせようとしています。

第二に、効果です。これまでの女性の活躍推進の実践がどのくらいの利益となったのか、具体的な金額は実は明らかになっていません。しかし、人的および物的資源はますます限られてきます。これからは女性も男性も新たな分野で活躍してこそ、企業も国も成長し続けられるという考え方は、各国共通になりました。

新しい製品やサービスが生まれたり、取引先が開拓できたり、事務や生産現場で整理整頓が進み無意味な残業も減少して効率や安全性が上がったり、性別や年齢・国籍が異なってもいやがらせを受けない職場でのびのびと働けたり、貧困層の所得が増えることで社会の格差が縮まり安定した消費者やマーケットが形成されたり、そうした効果が積み重なった成長効果を実感しているからこそ、世界中の企業や国で取り組まれているのです。

第三に、手法です。女性活躍推進の目標値を定めて、CSR報告書でその取組の進捗状況を自主的に公表してきた企業の実績や効果に着目した各国の政府は、一定規模以上の企業に対して一律に同様の情報公開を求めました。政府はウェブサイトにより情報公開を支援するツールを提供するなど、ICTの発展により企業も政府も莫大なコストをかけずに、画期的な手法が導入できるようになりました。

こうした取組は、20世紀では、政府が企業の活動の自由を制約してしまうのではないかとの懸念の方が優っていたかもしれません。しかし、21世紀になり、企業も社会の担い手の一つとして重要な位置を占めることが明確になり、その役割が大きく変化しています。むしろ、国境を軽々と超える企業は、政府が思いつかないような斬新な取組を世界中で展開しています。世界には、女性が活躍したくても法律上制限される国がいくつかあります(注1)が、企業進出の際に率先してその国の女性の権利に関する法整備を促そうとする例もあります。

(注1)World Bank Group, Women, Business and the Law, 2015.

才能や属性、経験が異なる人々がともに活躍できることが、スポーツでもビジネスや社会でも発展の原動力になる──日本ではこうした考え方は70年前に芽生えました。女性の政治的・経済的なエンパワメントをてこに、新しい民主化された日本社会をつくることがめざされました。70年かかりましたが、この考え方はきちんと評価されるようになりました。女性の活躍推進は、よりよい社会へ変革するエンジンであり、未来への希望です。

冬が厳しくても、百花繚乱の春と豊かな実りの秋を経て、2020年には日本でも多様性に富んだ豊かで活力ある社会が実現するよう期待します。お読みくださりありがとうございました。

執筆者写真
おおにし・さちよ/立命館大学法学部教授。博士(法学)。専門:憲法、ジェンダーと法・政策、議会法。国連「女性のエンパワメント原則」リーダーシップグループメンバーとして活動。主著:『女性と憲法の構造』(信山社、2006年)、「国連・企業・政府の協働による国際人権保障」国際人権27号(2016年)、「『政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない』の保障」立命館法学355号(2015年)等。
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