「共同参画」2016年 5月号

「共同参画」2016年 5月号

スペシャル・インタビュー/第41回

いろいろな地域を回って、いろいろな職員さんと出会い、徹底的に話してきました。

須永 珠代
株式会社トラストバンク 代表取締役社長

聞き手 神尾 雅子
かみお・まさこ/前内閣府男女共同参画局政策企画調査官


今回は、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」大賞に選ばれた須永珠代さんにお話を伺いました。

―ふるさと納税がたいへん盛んになってきていますね。多くのかたが利用しているサイト「ふるさとチョイス」について御紹介いただけますか。―

ふるさと納税は恐らく2015年度1,500億円ぐらいの金額になる見込みですが、まだまだ伸びると思います。

ふるさとチョイスと他との違いは、まず弊社は2012年9月からいち早く運営を開始しているという点が大きいです。その間、ただ単にサイトを開設しただけではなく、日本中を回って各地の自治体職員や生産者、事業者と、どうしたら町をPRできるか、地場産業が発展できるか、あるいはいかに地域の課題解決をするか等、話し合い、一緒に行動して成功事例を作ってきました。

―もともと須永さんはこの分野に関心が高かったのでしょうか―

いえ、もともと興味があった訳ではありません。弊社は、ICTを通じて地域とシニアを元気にすることをミッションに2012年4月に設立しました。その頃はまだ大震災の影響を引きずっていて、思い返すと東京も本当に重い雰囲気でした。何か全部が固まってしまっているような。そこで、ヒト、モノ、カネ、情報と言いますが、これらをどうにか流通させないと元気にならないのではないか、無いわけではなくてあるのだけれどもそれがうまく流通できていないな、という感じがしていました。

そのとき、ふるさと納税という制度がすごい制度ではないかということに気づいたのです。でも、この制度がうまく活用されていない。端的に言うと、情報が足りないのが原因だなと思ったのですね。そこでふるさとチョイスを立ち上げました。

ICTというのはあくまでただのツールでありそれで何をするかというのが一番重要ですが、この場合は情報が回り始めたことをきっかけにお金が首都圏から地方に行き、地方から物が首都圏に動き、そして最近では観光や移住、定住にまでつながっていき、人も地域に流れるという循環が生まれてきました。

―具体的にはどのような道のりでしたか―

まず、私の友人が自治体職員を紹介できるというので実績も何もないままに行って、「ふるさとチョイス」に情報を出しませんか、無料でもPRしますと初めての営業をしました。その当時は、ふるさとチョイス自体も力がなかったですし、無料でもいいから、とにかく実績をつくりたかったのです。クレジット決済もない、ただのリンク集で1788の自治体名があり、そこからリンクが張られているというものでした。そこに大きくPRのページを作りませんかと提案したのです。少しでもふるさと納税を集める役に立ちますよと可能性をとにかく熱意を持って伝えました。そうしたら、1か月か2か月経ってから倉吉市さんからお願いしますと返事が来ました。それが2013年の初め、最初のお客様でした。それから経済誌に記事が出たりしたこともあり、倉吉市へのふるさと納税がすごく増えたのです。そこからまた別の自治体が反応してきてくれるようになりました。

ふるさと納税の優れた点は、地場産業のすごさを地域の人自身が気づくきっかけを与えたことだと思います。自分たちで情報をまとめ、自治体職員、生産者、事業者が一丸となって頑張ろうという決起集会を行った自治体もありました。それをふるさとチョイス上で自分たちでPRしたのですね。

そしてこれが全国に波及することになるのです。日本中でそのうねりが起こっていることをその頃私はひしひしと感じました。小さな自治体が町全体を売り込む力と、インターネットを使う力を身につけたのです。まさにシティプロモーションです。

次に、肝心のクレジット決済の実現に取り組みました。法律や、自治体への寄附という点で参入は非常に厳しいものでした。そこでいわゆる公金のクレジット決済をやっている会社に協力を求め、提携がなんとか実現し、クレジット決済ができるようになりました。ふるさとチョイスがここまで伸びた非常に大きな要因です。

―多くの壁を越えて大きな成功を実現させた、その原動力は何でしょうか―

私に何かの力があったというよりは、いろいろな地域を回って、いろいろな職員さんたちと出会ったことだと思います。本当にどうにかしなければと思っている人たちが、どうにもできないという歯がゆさを抱えている。この人たちと徹底的に話し、考えてきました。

また、昨年4月の税制改正で控除額が2倍になったり、ワンストップ特例制度が導入されたりしたことも、後押しとなりました。

―今、正社員、アルバイト含めて30名もの従業員を抱えるまでになられましたが、働き方についての考えを聞かせてください―

私自身は、特に正社員とかアルバイトとか、全然気にしていないですね。アルバイトでもやる気があって優秀な人は、どんどん仕事を任せます。

今からの時代、どの会社へ入っても安泰ということはありません。大きな会社でもベンチャーでも、一人一人が力をつけることが必要です。今後は組織に縛られることは少なくなるのではないかと思います。こんなことをやりたいね、となった時点でわっとそれに必要なチームが集まって事業をやり遂げる。そうしたらまた違う事業をやって、という風に既存の組織とは違う関係で活躍できるような社会に、今後なっていくのではないかと思っています。

そうすると、必然的にワーク・ライフ・バランスも取りやすくなりますし、アルバイトか正社員かという分け方ではなく、いろいろな多様性が出てくるでしょう。

―今後の目標をお聞かせいただけますか―

最終的には日本発の何かをやりたいと考えています。今、ITはほとんどアメリカにプラットホームを取られてしまっています。マイクロソフト然り、マッキントッシュ、グーグル、ツイッターやフェイスブックも全部そうですね。日本国内ではそのプラットホームを使っていろんなことをしている状態です。私は日本発のITプラットホームが作れるといいなと思っています。柔軟な発想とか、いろいろな情報をもとに常にいろいろアイデアを練って常に考えないといけないと思っています。

インタビューで質問に答える須永さん



須永 珠代
株式会社トラストバンク代表
取締役社長
すなが・たまよ/
2012年4月にトラストバンクを設立し、同年9月、ふるさと納税ポータルサイトのメディアを立ち上げる。
ふるさと納税を活用した地域支援を行うため、全国の自治体を訪問しコンサルを行い、2013年1月に日本初となるふるさと納税全国セミナーを開始。自治体職員延べ2000名以上がセミナー参加。寄附者向けセミナーでは延べ5000名以上が参加。
2015年12月日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」大賞受賞。