「共同参画」2016年1月号

「共同参画」2016年1月号

行政施策トピックス4

ワークショップ「明日からできる!男女共同参画の視点ですすめる復興」の開催
復興庁男女共同参画班

震災5年目を迎えようとする今、被災地のコミュニティ形成はいよいよ重要な課題となっています。

性別に縛られず、誰もが暮らしやすい地域として「よりよい復興」を成し遂げていくために、男女共同参画の視点を欠かすことはできません。

その一方で、「重要性は分かるが、目の前の事業に手いっぱいで改めて取り組む余裕がない」「復興に男女共同参画視点を活かすとはどういうことなのか分かりにくい」という声も聞かれるところです。

そこで復興庁男女共同参画班では、高橋聖子さん(ジェンダーアクション・プラットフォーム理事)にご協力いただき、復興の現場ですぐに役立つ、男女共同参画の具体的なノウハウを学ぶワークショップ「明日からできる!男女共同参画の視点ですすめる復興」を、岩手県と福島県で開催しました。


講師の高橋聖子さん


男女共同参画の視点を復興に活かす具体的な手法を学ぶプログラム

このワークショップは、性別によってさまざまな格差がある現状を確認することから始まります。所得、家事時間、また防災や復興計画に関わる委員の数など、身近なデータを見ていくと、男女がいまだ社会の対等な構成員とはなっていないことが分かります。

男女共同参画を進めるとはその「歪み」を直し、一人ひとりが個性と能力を十分に発揮できる社会をつくっていくことです。



取組で「歪み」を直す


次に、その男女共同参画推進の視点で現行の事業を改めて評価してみるワークに取り組みます。

地域再興のためにと始めたマラソン大会がだんだん衰退してきてしまった、という架空の事例を題材に、労働、時間、収入などの要素ごとに、性別、年代によって関係者にどのような変化がもたらされているかを検証しました。

多様な立場から事業を分析することで、実は一部の人々に負担がかかっていたり、その影響が他の人々にも波及していたり、といった「歪み」の実態把握が可能になります。その上で、この事業をそのまま継続するのか終了するのか、あるいはやり方を改善して続けていくかを話し合い、改善するのであれば「歪み」を解消していくにはどのような工夫があるかを皆で考えていきます。

さらにこのワークショップでは、地域の多様なニーズに寄り添う手法を学ぶ演習も取り入れています。復興には、女性や障害者など、普段声を上げることの少ない人々のニーズをいかにして把握し、地域に参画できるようにしていくかが重要です。今回は、災害復興住宅で入居者の孤立防止に効果のある取組を提案する、という設定の練習問題を用意。性別や年代だけでなく、異なる立場にある住民の現状を的確に把握する調査手法や、本音を引き出すにはどのようなアプローチが有効か、活用できる地域資源は何か、などを考えました。

今ある事業を工夫し、男女共同参画に関心のない人も巻き込んでいく

このプログラムのポイントは、新しく「男女共同参画の事業」を興したりしなくても、今ある事業に少し手を加えることで、一人ひとりの力が活かされるようにする秘訣を実践的に学べること。多様な立場の住民のニーズを想定して事業をアレンジすると、自然と男女共同参画の視点が組み込まれ、男女共同参画を意識していない人にもその効果を拡げていくことができます。

紹介される手法はどれも、震災直後から走り続けてきた支援者の方々が負担感なく取り入れやすく、また復興場面に限らず、平素からのまちづくりにも活用できる内容になっています。

被災地でのワークショップの模様

平成27年9月4日に岩手県男女共同参画センター「アイーナ」で行われた「男女共同参画サポーター養成講座」において、「復興・防災 あなたは何ができる?」と題して、このワークショップを提供しました。5か月全7回にわたる養成講座の終盤にあたり、県内各地からの参加者は4時間のプログラムを熱心に受講しました。

翌9月5日には、福島県男女共生センター「未来館フェスティバル」で、復興庁主催ワークショップとして2時間半の構成で実施しました。避難者と地元住民による新しいコミュニティづくりに取り組んでいるいわき市から多くの参加者を迎え、それぞれの経験を背景にした密度の濃いワークショップとなりました。

2日間とも、固定的性別役割分担の見直しや、単身者や様々な家族構成の世帯を前提とした地域の捉え方、企業や学校、行政機関等の地域の社会資源と連携する包括的なアプローチ方法など、参加者から活発に提案が出されました。



岩手県でのワークショップ


福島県でのワークショップ

講師を務めていただいた高橋さんからは、以下の総括がありました。

「男女共同参画に関心のない人を巻き込んでいくには、共通の課題を見出し、性別格差等による社会の『歪み』の認識と対処方法を、関係者全体で共有することが大切」「効果的な事業の実施は、対象者への丁寧な聞き取りが基本。その人が抱える困難さを把握し、軽減策を講じるのと同時に、得意分野で関わってもらうなど持っている力を引き出していくことが肝要だ」。

参加者からは、「『歪み』の共通認識について知らせていきたい」「実際に行っている事業の内容向上に活かそうと思う」「男女共同参画の考え方は全てのことに通じるので、今後の生活・仕事にその視点を取り入れたい」「男性の視点も取り入れられていて聞きやすかった」等の感想が寄せられました。

男女共同参画は「よりよい復興」の必須要素

このプログラムの原型は、国際支援の分野でも使われています。高橋さんによれば、地域の性別格差の実態を把握せずに災害や紛争からの復興支援を行ってもなかなか効果が上がらなかったことから、今や男女共同参画の視点を持つことが開発支援の大前提となっているそうです。

第3回国連防災世界会議で「よりよい復興」というスローガンを主導した日本。復興庁男女共同参画班では、復興における男女共同参画視点の拡がりを通じて、その理念が現実となっていくよう今後も努めてまいります。