「共同参画」2015年 11月号

「共同参画」2015年 11月号

連載 その1

NATOでの勤務 (7)
NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官 栗田 千寿

今回は、「軍と女性」というテーマを取り上げます。まずは米陸軍で女性将校がレンジャーとなったという話題から。

米陸軍レンジャー課程に女性の参加が許されたのは今年が初めて。同課程には、当初女性19名と男性381名が参加。山岳、河川等を含む厳しい訓練を経て、最終的に修了したのは女性2名と男性94名。また、その後の課程で3人目となったジャスター少佐は、37歳の2児の母です。

米陸軍で最難関とされるレンジャー課程の合格率は約45%。修了者は「エリート(精鋭)」と呼ばれます。女性で最初のグリースト大尉(26歳)とハーバー中尉(25歳)は、「肉体面よりも精神面の挑戦が大」、「レンジャーは米陸軍における最良の課程だから挑戦した」とコメントしています。

米国では海軍においても特殊作戦訓練「SEAL(Sea, Air and Land)」に来年から女性の参加を認める方向です。

さて、続いての話題はノルウェー軍のユニセックス(男女共用)施策について。

ノルウェーでは、軍の全職域が女性に開放済み。女性配置が難しい職域かつ海軍の精鋭とされる潜水艦の艦長(大佐級)にも女性が就いた実績があり、また国連平和維持活動(PKO)初の女性の司令官(少将)を輩出したのも同国です。

男性のみの部隊等に女性を配置する際、支障となりやすいのは女性用施設の整備。ノルウェー軍の解決策が、ユニセックスでした。洗面所やシャワーを個室化し男女共用にすることで、プライバシーを保ちつつ、女性の配置を可能にするもの。さらに、男女共用居室も浸透しつつあります。これは、空間的に制約の多い艦艇内や基地外での訓練時・任務時のみならず、通常の基地内での生活にも適用されています。文字通り、男女が寝食を共にして対等に任務や訓練にあたる環境を作り上げました。

ここで懸念されるのはセクハラの増加でしょう。しかし、オスロ大学の研究によると、ユニセックスはセクハラ防止に効果あり、との結論。「まるで家族のような共同生活により、仲間意識やプロの軍人としての尊敬心の醸成が功を奏した」とされています。

もちろんこれは、社会一般においてジェンダー統合が進んでいるノルウェーならではとも言えます。それでもなお、「女性も一人前の国民として国防を担うべき」との理由で軍を志望する女性が多い同国が、物理的な施設面の課題をユニセックスという工夫で解決し、軍内のジェンダー統合を推進していることは、NATO加盟国の中でも異彩を放っており、注目されています。

NATOでは、「女性・平和・安全保障」に関する行動計画を整備しており、このNATOの行動計画には日本も協力を表明しています。その筆頭項目には「防衛・安全保障機構における女性の積極的かつ意義ある参加を阻む障壁撤廃に努める」とされています。米軍やノルウェー軍の例のように、女性という理由で参加を拒否されないこと(ジェンダー不平等の払拭)や、女性も勤務できる環境づくりは、まさしく「軍と女性」の課題を前進させる取組みといえるでしょう。

(本寄稿は個人の見解によるものです)


(男性とともに訓練に参加する女性(出展:NATOアーカイブ))



(国連キプロス平和維持軍司令官ルンド少将(出展:ノルウェー外務省ホームページ))



(「女性・平和・安全保障」に関するNATOの政策・行動計画・進捗報告の冊子)


執筆者写真
くりた・ちず/同志社大卒業後、平成9年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班等を経て、平成26年12月よりNATO勤務。